〔週刊 本の発見〕『新聞記者』/当たり前のことをしているだけ | |
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当たり前のことをしているだけ●『新聞記者』(望月衣塑子 角川新書)/評者=渡辺照子
行動的で演劇好きな母親に影響されて子どもの頃から演劇のレッスンをしていたこと、その母親に勧められて吉田ルイ子の本を読み、アパルトヘイトの過酷な現実を伝えることの大切さに感激したこと、父親の記者時代の経験談から現場の人たちの話を聞くことの楽しさを感じたこと。望月記者のルーツが示される。 新人記者時代はサツ回り。まさに夜討ち朝駆けの日々。警察幹部が早朝マラソンを日課とすると知るとシューズを自分も買い、伴走するというド根性ぶり。終いには幹部の夫人から朝食を用意されるまでになった。所属の先輩記者だけでなく、他社の記者の人間像も魅力的に描かれる。鑑識のベテラン捜査官の言葉が彼女の記者魂の原点だ。「頭がいいとかどこの社とかじゃない。自分が新聞記者に情報を話すかどうかは、その記者がどれだけの情熱を持って本気で考えているかどうかだ。」 彼女は出会う人たちから多くを学び、育ってきたのだ。2004年には日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑をスクープ。その後、森友学園問題、前川前事務次官による加計学園問題、詩織さんによるレイプ被害告発と、今年、多くの耳目を集めた話題には必ず係わっている。官邸勢力、警察、検察、他社の記者、記者クラブと、取り巻くアクターに不足はない。 それでも彼女も生身の人間。育児との両立、病気、母の死と、プライベートでの困難、コンフリクトに悩み格闘してきた。官房長長官への質問におけるプレッシャーを、精神的には乗り越えても体が悲鳴をあげ、入院を余儀なくされたとの一節には読むこちらも胸が締め付けられるようだった。
日本の報道の自由度は安倍政権になってから益々順位を落とし、180カ国の中で72位という低さだ。(最下位は北朝鮮。お隣の韓国は63位。上位は北欧が占める。)それに抗うように「私は政権や官邸へとつながる、唯一のドアをノックできる。このことを幸せに感じ、やらねばならないという思いは強まっている」との力強い意思表明も最後には書かれている。彼女は盟友たるべき同業者も多く登場させ、自分の取り組みは自分だけではできないこと、多くの者も闘っていることを私たちに示しているようだ。彼女のようなジャーナリストをひとりでも多く活躍させることができるように押し上げるのは私たちだと感じた。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2017-11-09 12:49:49 Copyright: Default |