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    第45回 2017年10月1日

女城主おいけものがたり

 むかし、女ありけり。小さき池のほとりに生まれたので、おいけ姫と呼ばれたり。幼きころより、蝶よ花よとかしづかれ、なんでも「妾(わらわ)がいちばん」かんでも「妾が最初じゃ」と育てり。この女、日が当たるところを大いに好みて、少しでも人の陰に隠れるのを忌み嫌いたり。

 あるとき、国の司にならんとして、さまざまに手づるをもとめ、渡り歩いて、なりたり。兵部省の長になりて、鎧甲(よろいかぶと)など着てはしゃぎけり。やがて、時は過ぎ、日はうつろいて、人も変わり、世も変わりして、女かげうすくなりけり。

 女これにがまんならず、都の城主にならんとす。このとき、若狭から白ひげの男馳せ参じたり。元奉行とかいう、うさんくさき人相の男なり。女これを使い、みごと城主になりけり。このとき、都の有象無象(うぞうむぞう)我も我もと駆けつけ、にわかの味方になりたり。しばらく、都に出仕しけるが、魚市場をあちにするか、こちにするかで評定かしましくて定まらず、どちでもよいわと、女むくれけり。

 このとき、国の宰相は阿部の臣左衛門なり。まわりに悪党あつまれり。浪花や伊予でさんざん悪事をしけり。やがて、人びとの知れるところとなりて、さまざまに噂たちたり。これが露見するのを怖れて、浪花の寺子屋のあるじ籠の池なにがしなどは、夫婦で牢に入れられたり。宰相の女房から百両貰いうけたと話したがためなり、という。この女房、尻も口も軽き女なりと悪しき噂絶えず。

 宰相の評判いよいよよろしからず、進退窮するにいたる。その座も危うきちょうどそのおり、加羅国より火だま矢玉が飛びかひけり。宰相これを大いに騒ぎ立て、心のうちでは大喜びしながら、国難、国難とわめきけり。人びと、おのれこそが国難なりとあざけ評せり。

 この天下の形勢を見て、女城主、国の宰相になるもこのときぞと思い決めたり。ついに手を挙げて、われに味方するものはこの指にとまれと呼びかけり。細野村のひとりの郷士応じたり。かつて夜道で浮かれ女とたわむれしことある男なり。また中山村から爺婆(じじばば)いさんで駆けつけたり。つねづね、大和のこころを大切にせよ。そのこころとは、人に謙譲、誠を尽くせと説きしが、自らは露ほどの徳もない欲深き卑しき爺婆なり。

 そのほか、野心・得心・欲心・思惑・下心あるもの駆けつけ、集えり。さながら、百鬼夜行の図とはこのことなり。この威勢に押されて、前の原誠之輔という一族郎党の頭などは、女城主との野合はめいめい勝手放題たるべしとまで言う始末なり。天下一の大裏切り者なり。

 天下の民百姓、これらの醜き争いを見て、大いに怒り嘆きたり。が、それではならじと、いくさなき世をもとめ、安き暮らしを願いて立ち上がりたり。そは全国津々浦々にまで及びて、固く結びて闘へり。さて、この闘いのゆくえと女城主おいけの運命は、いかに。つ、づ、く。

イラスト付き(作成=壱花花


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