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LNJ Logo 木下昌明の映画批評 : 3・11を問う2本のドキュメント〜『日本と再生』『新地町の漁師たち』
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<木下昌明の映画の部屋 第226回>

3・11を問う2本のドキュメント〜『日本と再生』『新地町の漁師たち』

●河合弘之監督『日本と再生』

 映画は誰でも作れる時代になった――といえば極論か。

 最近ではドキュメンタリーが多くつくられているが、その中で弁護士が本業の河合弘之が監督した『日本と原発』、その改訂版『日本と原発 4年後』を、すでに10万人がみているというからすごい。

 河合はこれまで企業弁護士として活躍していたが、福島の原発事故から、これは経済活動以前の人間の〈いのち〉の問題だと電力会社を相手に多くの脱原発の裁判などに関わってきた。その一方で、裁判官に原発被災の実態を示す証拠としては映像が一番と考えるとともに、一般の人々にも原発の実態とその危険性を知ってもらうのに格好の素材が映画と考えたといえよう。

 実際、この2本をみると、原発の歴史と、日本を支配する“原子力ムラ”の仕組みがよくわかり、人の住めない福島県浪江町の窮状を語る町長の話に胸打たれる。日本中の54基の原発をとらえるラストでは、原発の建物が骨壺のように見えてくる。

 この河合が、今度『日本と再生』という3本目の映画をつくった。副題に「光と風のギガワット作戦」とあるように、原発に代わるクリーンな自然エネルギーの可能性を追求したものだ。それは電力問題だけでなく、安全で住みよい社会をつくるという構想に満ちているから明るい。

 映画は環境学者の飯田哲也が企画・監修し、2人で世界を飛び回り、自然エネルギーの現場に立ち、関係者に夢のような話をきく。ドイツでは風車のシーンが壮観。閉鎖した原発周辺でも風車が林立している。フランスからの電力輪入は嘘で逆に輸出しているのだと。石油など地下資源争奪の戦争もなくなるという。

 日本でも、各地で自然(再生)エネルギー産業が盛んだが、大手電力会社が妨害している。熊本地震の折、送電線が倒れたのにテレビをみているシーンが興味深かった。つまり、政府が発想の転換さえすれば可能なのである。

 この映画をみると希望がわいてくる。もう原発の時代ではないのだ。(『サンデー毎日』2017年3月5日号)

*『日本と再生』は、2月25日より渋谷ユーロスペースほかで公開。

●山田徹監督『新地町の漁師たち』

 3・11から6年がたつ。福島の漁師たちはどうしているだろう。原発事故直後は、テレビでよく海中のがれき撤去や魚のモニタリング調査で働いている姿を見かけたが、それも見られなくなった。

 そんな中、一人の映像作家が2011年6月から3年半かけて撮り続けたドキュメンタリー『新地町の漁師たち』が公開される。監督は1983年生まれの山田徹で、その第一作。記録映画作家で有名な羽田澄子に師事し、一人で撮影から編集までこなし、昨年のグリーンイメージ大賞を受賞。

 所は、福島県北端の新地町の漁港。そこで漁を営もうとして営めない漁民の日々を追ったもの。トップシーンは、津波で根こそぎ押し流された漁港に監督がやってくると、日に焼けた漁師たちが所在なげにたむろしていて「カメラマンはどっからきたの? 東京から自転車でか?」と尋ねる。漁港には41隻の船があったが、津波がくる前に沖に船を出し34隻が助かったという。

 監督が調査の船に乗せてもらうと、さまざまな魚がとれ、甲板でピチピチはねている。一人がホヤの身をむいて「これが一番うめえ、胃がんの薬だ」と食べてみせる。水銀汚染の高い魚を「おいしい、おいしい」と漁師が食べていた、水俣病を告発した土本典昭監督の『不知火海』(75年)を彷彿させた。

 映画は、毎年11月3日に漁の安全祈願をする安波祭(あんばまつり)を中心に、小女子(こうなご)の試験操業に出て、次第に活気づく漁師たちの姿を描いていく。彼らは賠償金をもらっても「働かないと、人間がダメになっちまう」と異口同音に語る。

 圧巻は、漁民と国・東京電力とが地下水のバイパス計画をめぐって議論する息づまるような集会場面。漁連幹部が東電の意向に沿った要望案を手渡そうとして、それに新地町の漁師が抗議し、「海が汚されないと誰が保証するんだ」と紛叫する。にっちもさっちもいかない現場の臨場感が迫ってくる。(『サンデー毎日』2017年3月19日号)

*『新地町の漁師たち』は、3月11〜24日まで、ポレポレ東中野にて19時から公開。


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