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    第39回 2017年2月4日

『命どう宝』を見る−むかし阿波根・亀次郎、いま山城ヒロジの闘い

 かつて築地小劇場で小林多喜二などのプロレタリア演劇が全盛のころ、悪徳地主や横暴な資本家が登場すると、観客が総立ちになって叫び野次りたおして、芝居がつづけられなくなったという。舞台監督が出て来て、これはあくまでもお芝居ですから、と観衆をなだめてやっと続行するのだが、それもつかの間クライマックスに達すると、また泣いたりわめいたりで興奮のるつぼに化したという証言がある。当時の熱気が伝わってくるような話である。

 2月2日池袋東京芸術劇場で文化座公演の「命どう宝」の初演を見た。今日の芝居慣れした観客はまさか役者にむかって叫んだり、怒ったりはしない。しかし、ひさしぶりに、共に怒り、笑い、涙して、舞台と観客が一体感に包まれた芝居を見た。

 話は戦後10年。沖縄伊江島での米軍爆撃演習地をめぐる土地闘争に立ち上がる阿波根昌鴻と沖縄人民党書記長として奮闘する瀬長亀次郎の二人を中心に展開する。あくまでもキリスト者として、伊江島の問題に限定する阿波根と、人民党員として沖縄全島の米軍支配と闘う亀次郎は、平行線をたどったまま交わることはない。しかし、沖縄の過酷な現実が二人を握手させるのである。これはまた沖縄の戦後民衆史としてもすぐれた記録にもなっている。

 その歴史を芝居はていねいに描き、役者は熱演している。阿波根を演じた白幡大介さんは正直一途の性格と高い倫理感をゆったりとよどみのない長台詞で見事に表現している。難問にぶつかって、意見を求められると、何か指導者めいたことでも言うのかと思いきや「わたしにもわかりません。とにかく今やれることをやりましょう」と答えるだけ。それが胃の腑に落ちるのである。

 もうひとり、瀬長を演じた藤原章寛さんはその表情に不敵さと優しさが交じって、亀次郎の反骨・不屈の面構えと民衆への深い愛が表現されていた。そして、なんと言っても、オバー役の佐々木愛さん。このひとが出ると舞台が華やぐ。ヤマトの言葉で、オバーのことを「ババー」と言うんだといって、「このババーめ」と言うシーンがある。芝居とはいえ、この大女優にむかって、それはないだろうと、急に現実に戻ったりしたが、つくづく「オバー、オジー」という言葉に優しさを感じた。ヤマトは沖縄に汚い言葉を今も投げかけている。この土人が、シナ人が、と。

 また、もうひとりの重要な登場人物に屋良朝苗がいるが、演じた青木和宣さんは教育者・人格者の風格がにじみ出ていて、ちょっと翁長さんを思い浮かべたりもした。

 この劇団の演技力の素晴らしいところは、何といってもその発声である。腹の底から声を出している。ずいぶん、稽古もし、鍛えられているのだろう。みなさん滑舌がよく、それが台詞まわしを活かし、役者が演じる農民の悲しみ、悔しさ、怒りがよく伝わってくる。まさに観客が固唾をのんでが見守る芝居を作り上げているのだ。

 私はまた原作者杉浦久幸が高橋省二らとともに憲法寄席や本郷文化フォーラムで、小粒ながらきらりと光る社会派劇をこつこつと書き演出してきたこと知る者として、今回の伝統ある文化座での作品公演を喜ぶものである。この作家はまた役者としても面白い味のある演技をする人で、端役でもいいから出演して貰いたかったと思ったのだが。例えばカービン銃を抱えてふんぞり返るヤンキー兵士役なんか、どうだろ。(怒られるかな!?)

 私はこの作品に注文もある。ひとつは笑いである。小さな笑いはいくつかある。だが、米軍を笑い飛ばすような沖縄民衆の黒い哄笑もあったはずである。それをぜひお願いしたい。観客の重い緊張を一度ときほぐすためにも。二つめは、一幕目のラストシーンの感動を、二幕目にも欲しい。葬儀シーンなどないわけではないが、個人的感想としてはやや弱い感じがした。これはどんな芝居もそうだが、休憩が入った二幕目中盤のダレをどう引き締めるかという課題でもある。三つ目はラストシーンに現在の辺野古・高江で闘っている民衆の姿をバックに映し出してもいいのではないか。屋良・阿波根・亀次郎の闘いはこうして継承されているという提起に。もちろん、過剰なプロパガンダにならぬ程度にである。

 この作品にはまだまだ伸びしろがあると思う。多くの討議をへて、名作の域にまで高めてほしい。あれこれ素人ながら注文をつけた所以である。

 演出した鵜山仁氏が、現在、都合の悪いことは切り捨てる「見て見ぬふりをするという自己保存の精神構造がはびこっている」とパンフで指摘されているが、まさに至言である。そのためにも、この公演をまず東京で成功させて、全国各地に巡演してほしいものである。沖縄に心をよせる人はきっとふえるだろう。

 今大事なことはこの芝居を見て、感動した、良かったねで終わらせないことだろう。この感動をどう沖縄の闘いに結びつけるかだ。むかし、阿波根・亀次郎、いま山城ヒロジ。その山城さんをどう民衆の手に奪還するかだ。座り込み・デモ・署名・カンパなどできることはいろいろある。でも、まずこの芝居を見た人は周りの人に勧めよう。

 今まさに、アメリカの民主主義をアメリカ大統領自身が破壊しようとしているとき、それをアベは何の批判もなく日本をますます対米追従・従属させようとしているとき、これほど時宜にかなった芝居があろうか。これこそ闘う民衆を鼓舞し励ます必見のドラマである。


Created by staff01. Last modified on 2017-02-04 12:25:19 Copyright: Default

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