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在日コリアン朝鮮籍者に対する出国時の誓約書署名要請に抗議する

   カナダに住む日系市民

 4月13日付東京新聞朝刊によると、法務省入国管理局は現在、在日コリアンの内、朝鮮籍者に限って、日本から出国する時、北朝鮮に渡航しないことと、もし、渡航した場合は再入国が出来ないことを承知で出国すると書いてある誓約書に署名を要請している。そして、署名なしの出国は原則認めないとも言っている。これは北朝鮮への独自制裁の一環として始められたそうだが、朝鮮籍の在日コリアンのみに出国、再入国に制限をつけるのは法的にも、人権上でも大いに問題があるのではないか。

 まず第一に「朝鮮籍」とは「北朝鮮籍」を意味しない。1947年5月に出された、天皇最後の勅令「外国人登録令」によって、当時は日本国籍を有していた日本国内の朝鮮人は外国人登録された。つまり、日本国籍を有しながら、外国人登録もされるという二重政策が適用された。この外国人登録の国籍欄に記されたのが「朝鮮」である。1952年サンフランシスコ講和条約発効と同時に在日朝鮮人は全て、日本国籍を無効にされて、出入国管理令、外国人登録法の対象となった。この時、朝鮮籍を韓国籍に変えた人もいたが、韓国籍に変える人が急増したのは1965年の日韓条約締結後である。韓国籍であれば通常の旅券を持ち、永住権も取れるから、現在は韓国籍の人が圧倒的に多いが、朝鮮籍を変えずに持ち続ける人も勿論いる。そして、朝鮮籍の元はこの1947年の外国人登録令に記載されたもので、現在の朝鮮民主主義人民共和国(1948年9月建国。以後、北朝鮮と略す)ではない。「朝鮮半島出身」を意味するのが朝鮮籍だ。

 1910年の強制併合で朝鮮人は、否応も無く日本人とされ、日本の敗戦で独立した祖国は大国の思惑で分断され、1952年に自分達の意向に関わりなくその日本籍を剥奪され(他国を植民地支配した国で支配が終わった段階で国籍選択の権利を認めたところは多い)、日本籍なら当然受けられる諸権利を奪われ、その後も指紋押捺等々、政治で自らのアイデンティティーを翻弄され続けた人たちにとって、国籍は簡単な選択ではない。

 東京新聞の記事にもある通り、家族の中で韓国籍、朝鮮籍が混在している家庭も多い。日本人の多くはそういう背景を知らない。しかし、日本政府は勿論、朝鮮籍の背景を良く知っている。本来ならば、政府が説明して、人々の誤解を解く責任があるのに、現政府のやっていることは、政府によるヘイトクライムではないのか。公権力が理屈に合わない差別を始めた時、どんな残虐なことが起こるかは歴史が証明している。ナチスが国内のユダヤ人の権利を制限し始めた時、民衆による、ユダヤ人の店の打ちこわしなどが頻発したことは良く知られている。1923年の関東大震災では植民地からの安い労働力として、日本に住んでいた数多の朝鮮人を官憲と民衆がいっしょになって虐殺したことを決して忘れてはいけない。21世紀の今まさかとは思うが、昨今のヘイトデモなどを見ると、それが杞憂とは言い切れない。

 国の政策は社会の空気に大きな影響を与える。私たちの住むカナダも第二次大戦中は日系カナダ人を強制収容所に入れるという無茶なことをした。カナダの先住民の子どもたちを親元から離して、寄宿学校に入れるなどという酷い強制同化政策が1870年代から一世紀以上も続いて、先住民社会に今も癒えぬ傷を残している。しかし、このような差別政策に対する深い反省から、カナダは多民族、多文化主義を国是として、多くの移民、難民を受け入れて来た。勿論、問題も失敗も多々あるし、これからも失敗はあるだろう。しかし、人種も、文化も、背負っている歴史も違う人たちがお互いの違いを認めながら、共存することは可能だし、人種差別は許容しないという価値観は多くのカナダ人に共有されていると思う。

 日本政府に朝鮮籍在日コリアンに対する出国時の誓約書署名、その他の差別政策を即時中止することを強く求める。そして、多くの日本人が在日コリアンといっしょに立ち上がって、政府の差別政策を撤回させることを希望する。マイノリティーの人権を守れない社会は誰の人権も守れないのだから。

モントリオール在住 長谷川澄 (連絡先:sumi.hasegawa@mcgill.ca)

バンクーバー在住 乗松聡子


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