本文の先頭へ
LNJ Logo 緊急集会「私たちは人質事件をどう考えるか」〜ジャーナリストら6氏が語る
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item 0204kasa
Status: published
View


緊急集会「私たちは人質事件をどう考えるか」〜ジャーナリストら6氏が語る

             笠原 眞弓

 日に日に動いているISISによる人質事件。今日(2月4日)もヨルダンの空軍パイロット、モアズ・カサスベ中尉が殺害されたと新聞にあった。それに対しヨルダンは「報復」するという。そんなニュースを聞きながら、重い気持ちで参議院会館の「緊急集会」へ行く。この集会は福島みずほさんの主催で、この事件はなんだったのか、私たちはどう受け止め、次の行動をしたらいいのか考えるために集まった。

 ◆ISISはイスラムの教えに反している〈志葉玲〉

 最初に話したのが戦場ジャーナリストの志葉玲さん(写真上)。「後藤健二さんを助けられなくて残念だ。このような形で話すことになって悔やんでいる」と語り始め、「イスラム国」と言うけど、あれはイスラムではない。だから自分はISISと呼ぶと。「政府は全力を尽くすと言ったが、全力を尽くして“尽くすふり”をしていだけ」と二人の拉致が分かってからの政府の無対応を鋭く批判した。

 また、中東情勢が、非常に複雑で、善悪がつけがたいことも話してくれた。ISISの前身は9.11以降にアメリカによって作られた「聖戦アルカイダ」で、徐々に様々な国にまたがる過激派武装集団になっていった。では、イラク政府はというと、警察権を持ったシーア派は、理由もなくスンニ派を次々逮捕し、むごたらしい方法で殺してきた。日本は、そういう政府をODA活動として「人道」支援してきたのである。彼らのしていることに日本政府は鈍感で、マスコミも知らん顔をしてきた。

 「後藤さんが訴えたかったのは、戦地で苦しむ人々の姿だった。テロに屈するなという感情論に流されずに、彼が危険を冒してまで伝えたかった遺志を大切にしていかなければならない」と結んだ。

 ◆武力を持って武力を制するのではなく〈杉浦ひとみ〉

 次に立った弁護士の杉浦ひとみさんは、子どもたちや障害者などの問題を中心に取り組んでいる。そこにも後藤さんは、現地から駆けつけてくれたこともあると偲び、安倍首相は、「国民を守る責任者」とカッコつけながら、次の失敗をするのではないかと危惧している。後藤さんがやってきたように、武力を持って武力を制するのではなく、笑顔を広げていってほしいと話した。

 ◆微力だけど、無力ではない〈佐藤真紀〉

 日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET)の佐藤真紀さんは、紛争国またその周辺で支援活動をしていると、大きく助けるには、時間もお金もかかるが、その隙間を埋めるように、目の前のこの人を助けることが重要になってくるといい、その役割をJIM-NETとともに、後藤さんが果たしたと、2004年に関わったイラク人の白血病の妊婦とその家族とのいきさつを話し、彼の行いが夫を人道支援の仕事に導いたという。団子(大きな支援)をつなぐ串(NGOや個人など)が大事で、それが平和をもたらす。今度の事件は、イスラム教ではしてはいけないことと強調した。

 そして、ほとんど報道さていないが、福島の事故の後、これまで支援を受けていたヨルダンから、医師2名を派遣してくれた。微力だけと無力ではないことを信じて、それぞれの人が、後藤さんの遺志を継いで大きな絵巻に絵を加えるつもりで、何かして欲しいとのメッセージをいただいた。

 ◆向こうで起こったことは、明日ここでも起り得る〈豊田直巳〉

 報道も何も「後藤さんの死」しかないことに違和感を覚えると、開口一番激しく迫る。ご自身が、ある新聞のインタビューを受けたときの気持ちだという。自分は、報道でしか湯川遙菜さんを知らない。戦争を止めたいと思っている僕のような人間が、鉄砲を撃ちたいとか、民間の軍事会社を創るような人を助けてと言えるのか。火炙りよりはいいと言えるのか。「この一連の殺害には、正当性がないことに怒りを感じる。裁判なしで殺していいのか」と怒りを吐露し、ジャーナリズムはどちらの側にも立たないと。

 パイロットは、後藤さんより早く殺されていたようだということに対して「騙していた」というが戦争は騙し合い。湾岸戦争時の海鳥の油まみれもアメリカの嘘、あれも嘘、これも嘘。さらに、「だれが彼らに石油を売っているのか、だれが弾を売っているのか。資金源はどこだ?その糾明は?」「我々には、イラクでもシリア、ヨルダンでも1票がない。私たちの出来ることは、1票のあるこの足元で、変えていくしかない。1億3000万の人の足元が大事。向こうで起こったことは、明日ここでも起り得る」と締めた。

 ◆「人間の楯」から取材して書く記事〈新崎盛吾〉

 新崎盛吾新聞労連委員長は、この度は新聞労連として「殺害を糾弾する」というメッセージを出したと報告。そして、イラク戦争の時も新聞社社員は取材に現地に入っていないこと、ご自身も「入りたければ、帰ってから辞表を出せ」といわれてやめた。当時、自分は現場近くのアンマンにいて、「人間の楯」と言われたフリーランスのジャーナリストやNGOの人たちに電話などで話を聞き、日本に送り続けたが、やり方は今も変わらない。

 高遠さんたちが、拉致され解放されたのは当時の情勢も大きい。家族が自衛隊の撤退を望むのは当然の感情だが、政府に利用されて「自己責任」とした。それでも解放されたのは、当時はまだとても親日的だったこと、アメリカに恨みを持っていたことが大きかった。日本の平和憲法は日本を守る。最近のタカ派の台頭で、安倍は自衛隊が人質の救出に出動出来るようにしたいという危険な発言をしているが、この空気を変えていかなけばならないということだった。

 ◆憎悪と報復の砂漠〈伊藤和子〉

 国際人権NGOヒューマンライツナウの伊藤和子さんは、2004年のイラク戦争の時に起きた高遠さんたちの人質事件は、彼らは、あのような行動をとってでも、自分たちの置かている苦境を世界に知らせたいと思っていたという。それに対し、高遠さん自身が彼らに「暴力では問題は解決しない。自分たちの活動は、政府の方針とは違う」と話し続けたという。それに加え、宗教指導者の解放するようにという説得も大きかった。つまり、「自己努力」で解放された部分も大きいと言えるのか。

 あれから10年、イラクで何人の人が戦争で命を失ったか。その憎しみがISISになった。そして今年の1月21日から27日までの1週間で、794人のイラク人が“戦争”で死んでいることに、人々は無関心と私たちに迫る。「9.11以降、アメリカは何万人もの人を殺したが、責任を追及されない。今のイラクでは、スンニ派に対しての虐殺もひどく、宗教指導者も慘殺されているし、平和デモをすると、参加者が殺される。イスラムに対する構造的な問題を解決しなければ、この殺し合いは止まらない」と。

 彼女自身、あと数年で日本も戦争する国になるのではないかと危惧している。しかし、今は、平和憲法を持って国際活動が出来るのは誇りだから、最大限に生かして、架け橋外交をしていきたいと決意を述べた。

 その後のフロアーからの発言も活発で、自分は脱北者で、あとから脱北した家族が、日本の敏捷な行動によって、北の兵隊の追跡から逃れられた。国が「一人の国民の命を守る」という言葉を実感し感謝しているが、今回のことはどう考えていいか分からないという発言が印象的だった。


Created by staff01. Last modified on 2015-02-05 14:28:39 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について