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批判的メディアをいかに再生するか?〜フランスのネット新聞「メディアパート」の編集長に聞く

エドウィー・プレネル編集長(写真) 聞き手:菊池恵介・後藤由耶

インターネットの情報の氾濫により、新聞の発行部数が世界的に減少傾向をたどり、新聞社の倒 産や買収が相次ぐなか、いまフランスで急速に売り上げを延ばしているネット新聞がある。広告 収入に一切たよらず、読者の購読料のみで運営される「メディアパート(Mediapart)」という 独立メディアだ。2008年に設立されて以来、いくつもの政治スキャンダルをスクープし、いまや 「ルモンド」と「フィガロ」に次ぐ、フランス三位の全国紙に成長している。なぜいま独立メデ ィアなのか。昨年の秋、パリのバスチーユ広場の近くにあるメディアパート本社を訪ね、代表の エドウィー・プレネル氏に話を聞いた。

Q:フランスでも、活字メディアは読者離れと広告収入の減少に直面していると聞きます。この 厳しい経営環境のなかで、新たにメディアパートを創刊した理由を、まずお聞かせください。

A:その理由は、大きく分けて二つあります。一つはフランスの国内事情。フランスの「民主主 義の危機」と言えるでしょうか。これを最も顕著に現しているのが、一連の経済危機を背景とす る極右勢力の台頭です(今年5月に実施されたEU議会選挙では、移民排斥を唱える「国民戦線」 が25%の投票率を獲得し、フランス第一党に上り詰めた)。一方、左右の既成政党は支持率の低 迷や派閥争いなどで混乱を極め、国民の多くも自信を喪失しています。そんななかで、いまジャ ーナリズムの世界も深刻な危機に直面しています。メディアの独立性が低下し、読者の信頼を失 いかけているのです。その原因の一つとなってきたのが、この間の一連の買収劇です。近年フラ ンスでは、ほとんどの新聞社が、経営難から、大資本に買収されてしまいました(たとえば、フ ランスの三大全国紙に関しては、「フィガロ」が2004年に軍需会社のダッソー社に、「リベラシ オン」が2005年にロスチャイルド財閥に、そして「ルモンド」が2010年にイブ・サンローラン の創立者らの実業家グループに、それぞれ買収された)。こうしてマスメディアの大半が、軍需産 業やブランド産業など、本来ジャーナリズムとは無関係の実業家たちの手に落ちてしまったので す。その結果、紙面の娯楽傾向が強まる一方、新自由主義政策に対する批判が封印されるなど、深刻な利益相反が生じるようになりました。もう一つの問題として上げられるのが、政府の補助 金などへの過度な依存体質です。フランスでは、もともとメディアの多様性を確保するため、政 府から補助金が支給されてきました。ところが、近年、新聞の発行部数が低下し、会社の収益に 占める補助金の割合が高まるに連れて、しだいに政府批判を自重する傾向が現れてきたのです。 メディアパートを創刊した第一の目的は、このような状況のなかで、メディアの独立性を回復す ることでした。

第二の目的は、いわゆるデジタル革命がもたらした地殻変動に対応することです。インターネ ット上の無料ニュースの氾濫は、活字メディアで働く人々にとって大きな衝撃でした。それは職 業ジャーナリズムの死を意味する出来事として受け止められたのです。しかし、インターネット の普及は後戻りできない流れです。そこで、私たちは状況を悲観するのではなく、そこに新たな 可能性を探ろうとしました。一般に紙媒体の新聞の場合、単価の60%から65%を、紙と印刷費、 そして配達費が占めています。ところが、インターネット上での配信になると、これらの一切が 必要なくなります。これはじつに画期的なことです。またデジタル化により、情報発信のあり方 も大きく変化しました。かつて新聞社と読者の関係は、ニュースの作り手と受け手という一方通 行の関係でしたが、いまはだれもが情報を発信できます。情報のプロとアマチュアが共存する時 代となったのです。この未曾有の状況のなかで、私たちは職業ジャーナリズムの最良の部分を再 生したいと考えています。

Q:有料のネット新聞という形態を選択した理由は、何でしょうか?

A:2008年にメディアパートを設立してから、来年で6年目になります。この新しいメディアを 立ち上げたとき、周囲のだれもが懐疑的でした。その理由は、大きく言えば三つあります。一つ は、インターネット上の情報は「無料」が原則であること。だから、有料化すれば、たちまち読 者が離れてしまうと言われていました。第二は、人々がインターネットに求めているのは「速報 性」であること。したがって、ネット上の記事は短く、表面的で、クオリティー・ペーパーには なじまないと思われていました。第三に、インターネットの利用者は、一つの新聞を通しては読 まず、クリック一つで別なページに飛んでしまうこと。その結果、新聞の継続的な読者ができに くいということです。私たちは、メディアパートを設立するにあたって、この三つの偏見を打ち 破る必要がありました。

私たちの第一の信念は、質の高い情報には「価値」があり、無料で提供するべきではないとい うものです。無料で提供するということは、裏を返せば、企業の広告収入に依存することを意味 します。したがって、視聴率を稼ぐため、どうしても娯楽性や大衆性に流されざるをえません。 これに対して、私たちは一貫して次のことを主張してきました。質が高く、公的利益となる情報 には価値があり、しかるべき対価を求めるべきである、と。これは世界中のあらゆる新聞に言え ることではないでしょうか。タダで質の高い報道を維持することはできません。逆に、いま独立 したメディアを再建すれば、必ず読者が現れるはずだと信じていたのです。質が高く、独創性が あり、しかも裏付けのしっかりした情報を配信し続ければ、きっと読者も購読料を収めてくれる はずだ、と。実際そのとおりになりました。メディアパートを設立してから二年半で、なんとか 採算ラインにこぎ着けました。そして三年目からは黒字に転じています。日本のマンモス新聞に 比べれば、たしかに小さな額かもしれません。でも毎年10%から11%の利益をだしていますから、 ちょっとしたヘッジファンド並の勢いだといえるでしょう(笑)。

第二の課題は、インターネットの情報は表面的で、クオリティー・ペーパーには馴染まないと いう偏見を打ち破ることでした。私たちの考えでは、テクノロジーは使い方しだいで、あらかじ め内容まで規定するものではありません。したがって、この新しい媒体の上で、従来の紙媒体以 上に質の高い報道を目指す必要がありました。メディアパートのニュースは、一日三回(朝8時、 昼1時、夜7時)定期的に更新されます。また、記事のフォーマットも極めて多様です。短い記 事もあれば、長いものある。ときには10ページ以上に及ぶこともありますが、それでも多くの読 者に読まれているのです。さらに、メディアパートでは関連記事のリンクを付けることにより、 通常の紙媒体よりも充実した情報提供を心がけています。読者は、出来事を過去の記事を含めて 系統的にたどれると同時に、その歴史的背景に関する識者の解説に触れたり、フォト・ルポルタ ージュを見たりすることもできる。このようにデジタル媒体ならではの機能をフル活用すること で、従来の紙媒体よりも深く、充実した報道を目指しているのです。

第三の課題は、インターネット上でいかに読者層を形成するかということでした。現在メディ アパートには、8万人以上の定期購読者がいるわけですから、この点でも私たちは成功している といえるでしょう。その秘訣の一つは「参加型新聞」を作った点にあります。メディアパートの 本誌は、もちろんプロの記者によって書かれていますが、サイト上には読者のブログ・コーナー (LE CLUB)が設置されています。このコーナーを開設した背景には、意見を表明する権利は、 記者の特権ではなく、だれにでも与えられるべきだという私たちの信念があります。職業ジャー ナリズムの本来の仕事は、厳密でオリジナルな情報を読者に提供することですが、事実の解釈に 関しては、一般市民に対して優位な立場にあるわけではありません。そこで、新聞のサイト上に 民主的な議論の空間を設けることにしたのです。私たちは、ジャーナリズムのプロとアマチュア、 新聞と読者の間の新しい関係性を作ろうとしています。

Q:多くの老舗の新聞社が倒産または買収されていく時代に、新しいメディアを立ち上げるのは、 非常に勇気のいることだと思いますが、どのような試算をして出発されたのでしょうか? また、 現在の編集部の体制についても、お聞かせください。

A:メディアパートを設立するにあたって、私たちはスタートアップ企業のスタイルを取りませ んでした。少人数で起業し、利益が上がり始めるのに応じて、少しずつ人員を増やしていくとい うやり方です。私たちが目指す質の高いジャーナリズムを実現するには、最初から本格的な体制 が必要でした。こうしてジャーナリスト25人、そしてネットや会員管理の職員2人という体制で スタートしました。また当面の運転資金に関しては、発起人が中心となって、なんとか500万ユ ーロ(約7億円)を集めました。立ち上げにあたって、私たちはスタッフ全員に対し、給与を保 障できるのは三年だけだと宣言しました。この三年間のうちに、この賭けに成功する必要がある、 と。そして二年半で採算ラインにこぎ着けたのです。採算ラインに関しては、さまざまなシミュ レーションを事前に行いましたが、有料のネット新聞はフランスで初めての試みでしたので、あ まり参考になりませんでした。結局やっていくうちに、購読者数4万人から4万5千人くらいが 採算ラインであることが見えてきました。

もう一つのこだわりは、記者たちに正当な給与を支給するということです。上質のジャーナリ ズムを実現するには、仕事のクオリティーに見合った給与が支払われなければなりません。ネッ ト新聞だからと言って、低賃金・不安定雇用であってはならないのです。メディアパートの平均 給与は、月4000〜4500ユーロで、フランスの新聞社の平均を若干上回っています。また、社内 の給与格差は、職種や経験に応じて、1倍から3.5倍の間です。これも他社の平均よりも低い数 値です。創業5年目を迎えたいま、社員の数は、当初の27人から49人に増えました(ジャーナ リストは31人、他は技術スタッフや営業)。このほかに外部協力の記者が19人います。彼らを 合わせると、総勢約70名の体制です。

Q:メディアパートは、新聞社としては小規模なため、すべてのニュースをカバーすることはで きません。だとすれば、どのように守備範囲を定めていらっしゃるのでしょうか?

A:私たちはメディアパートをローカル紙ではなく、全国紙として位置づけています。したがっ て守備範囲は、まず全国ニュースと国際ニュースに絞られます。この点が日本の大手新聞と少し 違う点かもしれません。日本の大手新聞は全国紙であっても地方版があるなど、ローカルな色彩 を併せ持っています。ところが、フランスの全国紙は、お茶の間のニュースやありふれた事件な どを対象としません。ここに最初の取捨選択が行われています。次に、私たちの読者は、本誌を 唯一の情報源にしているわけではなく、他の媒体からも、すでに多くの情報を取り入れています。 ですから、私たちの役割は、すべてのニュースを網羅することではなく、とくに重要だと思われ る出来事を取捨選択し、伝えることなのです。現代の問題は、情報が足りないことではなく、む しろ溢れかえっていることではないでしょうか。すべての情報に振り回されていれば、かえって 本質的な問題を見失ってしまうでしょう。だからこそ、取捨選択し、優先順位をつけ、掘り下げ るという、職業ジャーナリズム本来の仕事が重要になってくるのです。

今日の状況を説明する際に、私は「未開の森」という比喩を好んで使っています。インターネ ットの世界は、情報が繁茂する「未開の森」なのです。そこでは、草木が生い茂り、空まで覆い 隠されている。もはや時間もわからなければ、過去や未来の感覚もない。そんな鬱蒼とした情報 の森のなかで、私たちはジャングルを照らす光であろうとしているのです。メディアパートのサ イトを開けば、情報が整頓されており、全体を見渡すことができる。そして社会の行方をめぐっ て、他の読者と冷静に議論できる。今日のジャーナリズムの悲劇は、インターネットの情報に圧 倒されてしまい、みずからの使命を見失っていることです。

Q:それでは、情報を取捨選択する基準は何でしょうか ?

A:一番重要なのは、「公の利益」という視点です。人々が自由で自立的な市民 となるために不可欠な情報といえるでしょうか。メディアパートの紙面は、国際、政治、経済、 文化の四つの面から成り立っています。その各項目において、私たちは最も重要と思われる問題 を取り上げていきます。次に大切なのが、記事のオリジナリティ。その「付加価値」と言っても よいかもしれません。ですから、他社と横並び式に報道するのではなく、ルポや調査、深い分析、 独特のアングル、厳密な裏付け調査などによって、内容を掘り下げていく必要があります。この 点は、いま若い記者にとって、とくに重要です。「一体、君の記事にどんなオリジナリティがある のか。これまで知られていないどんな要素をもたらしてくれるのか」。それを絶えず自問し、格闘 してもらう必要があります。無料ニュースが氾濫する時代に、ジャーナリズムの存在理由を私た ちが守らなければ、この職業に未来はありません。第三に重要な視点は、民主主義と社会正義と いう価値に根ざすことです。「ラディカル」という言葉の語源を遡ると、「物事を根っこからつか む」ことを意味していますが、現代の私たちの危機的状況は、そのようなラディカリズムを要請 しているように思います。経済危機を背景に移民排斥や排外主義がふたたび台頭する時代に、も う一度、民主主義や社会正義といった価値に立ち返ることが、いまジャーナリズムに求められて いるのです。

Q:メディアパートの記者についても、お聞かせください。

A:記者たちは、フランスのさまざまな新聞社から移籍してきました。平均年齢は30代です。 採用に際して重視したのは、メディアパートの理念に賛同し、一緒にやりたいという強い意思を 持っていることです。この会社が三年以上存続できるか、まったく保障がないわけですから、そ れまでの仕事を捨てて、うちに転職してくるには、それなりの覚悟が必要でした。もう一つのポ イントは、記者としての高い自立心と責任感があることです。メディアパートにも編集部があり ますが、他社のような複雑なヒエラルキーはありません。したがって、記者一人一人の裁量の余 地が大きく、それゆえに責任も重い。デスクの指示を待つのではなく、自主性をもって行動して もらう必要があるのです。編集会議は、毎朝10時に開催されます。そこになるべく記者全員が出 席し、皆で議論して方針を決めていきます。ご覧のとおり、メディアパートの社内は垣根のない オープン・スペースになっています。私たちの職場は、アトリエ形式になっていて、ここで話し 合いながら仕事をすすめていきます。一緒に働き、一緒に学ぶという姿勢を大切にしているので す。

Q:メディアパートは、サイト上にブログ欄を設けていますが、ネットの書き込みは、ときに誹 謗中傷の場になるなど、必ずしもうまく機能しません。ブログの質を高めるために、どのような 工夫をされていますか?

A:最初に確認しておきたいのは、メディアパートのブログは匿名ではないということです。ペ ンネームを使用することはできますが、定期購読者でなければブログを開設できません。したが って、編集部はブログの投稿者の氏名やメール・アドレスなどを把握しているのです。この点で、 通常のネットにおける無責任な書き込みとは区別されます。

次に強調したいのは、私たちは市民の自由に賭けていることです。私たちはデジタル革命が引 き起こした地殻変動を(民主主義にとって)好機だと捉えているのです。ご存知のとおり、フラ ンス革命は「新聞革命」だとも言われています。当時、印刷所が発行する正式な新聞から素人に よる手書きのビラまで、無数の新しいメディアが誕生しました。そのクオリティーはじつに多様 で、「性悪王妃」のマリー・アントワネットを中傷したり、ただの噂を吹聴したりするものもあれ ば、民主的討論の土台となった最良の新聞までありました。現代も同じような現象が起きている のです。私たちはこれを職業ジャーナリズムに対する脅威というよりも、民主主義にとっての好 機と捉えた上で、フリー・スピーチの伝統を積極的に擁護しているのです。もちろん差別発言な ど、メディアパートの憲章に違反する行為があれば介入しますが、あらかじめ発言を規制するこ とはありません。

第三点は、ブログの質をどのように向上させるかということですね。現在メディアパートのサ イトで常時更新されているブログは、だいたい二千件です。膨大な数の記事が日々アップされる わけですが、もしヒット件数が上がらなければ、埋もれていきますし、多くの人々に読まれてい れば、上位に浮上してきます。また、編集部の方で優れた記事をピックアップしたり、読者の推 薦によってブログ欄の一面に取り上げられることもあります。メディアパートのブログ・コーナ ーは、私たちのアゴラ(古代ギリシア語で「広場」の意。自由な市民による民主的討論が繰り広 げられた空間)なのです。つまらない投稿記事もあるかもしれませんが、新聞のクオリティーが 高ければ、おのずと水準は上がっていきます。もし自分の記事を多くの人々に読んでもらいたい と思うなら、説得力のある議論を展開せざるをえないからです。さらにメディアパートのブログ には、多くの知識人が参加してくれています。彼らはもはや編集部に論説を寄稿し、掲載を待つ 必要はありません。状況に対して発言したければ、どんどん自分で記事をアップできるのです。 これらの知識人の積極的な参加・協力も、新聞のクオリティーを向上させる上で、貴重な支えと なっています。

Q:メディアパートは、数多くの政治疑惑をスクープすることで、一躍有名になりました。とく に2010年には、ベタンクール事件(サルコジ大統領がらみの不正献金疑惑)を暴露し、定期購 読者数を一挙に倍増させました。なぜ他社が報じようとしなかったこの事件を、メディアパート がスクープできたのでしょうか?

A:他社がベタンクール事件を報道しなかった背景には、現代のジャーナリズムの危機的状況が あるように思います。一般に新聞記者にとって最も重要な資質は、何よりも好奇心に溢れている ことです。もし大統領がらみの不正献金疑惑の証拠テープがある日、編集部に送られてきたら、 私でしたら好奇心を抱いたことでしょう。その内容をどうするかは、聞いてから判断すればよい のです。ところが、私たちのライバル社はテープを聞こうともしなかった。ジャーナリズムの命 ともいえる好奇心を持たなかったのです。しかし、これは個人の怠慢に帰せることではなく、い まのジャーナリズム文化の問題でもあると私は考えています。近年ジャーナリズムは、発行部数 が低下の一途をたどり、リストラ計画が相次ぐなど、厳しい状況にたたされてきました。大資本 に買収され、株主の意向に沿わない報道をすれば、編集長の首が簡単に飛ぶような状態です。そ んな状況が続くと、しだいに新聞社全体が萎縮してしまい、業界のダイナミズムが失われていき ます。政治権力の腐敗を示唆する情報が舞い込んできても、まず保身を考えてしまうのです。メ ディアパートは、このような圧力に耐えるための体制を固めてきました。独立こそ、最大の防御 なのです。私たちは、政府の補助金にも、企業からの広告費にもいっさい依存していません。だ から、だれも恐れることなく、何でも報道できる。船に例えるならば、私たちはいかにも小舟で すが、巨大タンカーの間を小気味よく走り抜けることができる。小さな船でも大きな波紋を引き 起こせるのです(笑)。

この点に関連して、もう一つ強調したいのは、私たちが民衆のメディアであろうとしているこ とです。私は25年間「ルモンド」で働いてきましたが(1996〜2004年は編集長)、その間たえ ず既成秩序と衝突してきました。ジャーナリズムの本来の使命は、政治 や権力に仕えることで はなく、権力の濫用を監視することです。したがって、権力の側ではなく、市民の側にたつ必要 があります。大手新聞社でこの姿勢を貫くことがいかに困難であるかは、私も長年の勤務を通じ て苦いほど経験していますが、簡単に妥協するわけにはいきません。これはジャーナリズムとい う職業内部の終わりなき闘いなのです。メディアパートは、対抗権力 を目指して出発しました。 いわばジャーナリズムの原点に立ち返ることにより、この職業が失ってしまった若さとバイタリ ティーを取り戻そうとしているのです。

Q:権力を絶えず批判することで、記者のボイコットや取材拒否などはないのでしょうか?

A:新聞社にとって一番大事なことは、つねに不偏不党であることです。私たちはだれの味方で もなく、公の利益と判断すれば、何でも報道する。その姿勢を貫き通せば、人々に信頼されるよ うになるでしょう。そのいい例の一つが、ベタンクール事件に続く、カユザック事件(予算担当 大臣の隠し口座疑惑)の報道です。メディアパートは、設立以来、サルコジ大統領の仮借なき批 判者として知られてきました。したがって、2012年の大統領選挙でフランソワ・オランド氏が当 選し、社会党政権が誕生することで、私たちの姿勢がどのように変化するのか注目されました。 ところが、政権発足後まもなく、予算担当相の脱税疑惑をスクープし、辞任に追い込んだのです。 私たちは左派ではあるものの、いかなる党派にも組みしないことが、はっきりしたのではないで しょうか。もちろん、権力の批判を続ければ、政党や警察組織などに嫌われるかもしれません。 しかし、これらの組織も一枚岩ではなく、疑問を持っている人々が必ず内部に存在します。アメ リカ国家安全保障局(NSA)のプリズム計画を暴露したスノーデン氏などは、その代表的な例で す。これらの内部告発者にとって、私たちは貴重な媒体なのです。最後に、優れたジャーナリス トの条件とは、いったい何でしょうか。それは充実したアドレス帳を持っていることなのです。 つまり、どれだけ多様な人々と知り合い、信頼関係を築けるかということですね。この記者に話 せば、決して裏切られることはない。彼なら決して情報を握りつぶさず、最後まで事件を追及し てくれる。そんな信頼関係を築いていけば、おのずと情報は集まってきます。反権力を貫き通す のは、ときには困難ですが、それが自由の代償ではないでしょうか。市民の「知る権利」を守る こと。それは民主主義を守る闘いなのです。

■エドウィー・プレネル(Edwy Plenel)の略歴

1952年生まれ。フランスのジャーナリスト。週刊誌「ルージュ」などを経て、1980年から日刊 紙「ルモンド」に移籍し、1996年から2004年にかけては編集長を務める。同紙を退社後、2008 年にメディアパートを立ち上げる。

■基本情報

メディアパートの購読者数は、8万1000人(2013年11月現在)。「リベラシオン」(発行部数 7万2000部)を抜き、「ルモンド」と「フィガロ」に次ぐ、フランス三位の全国紙となっている。 目標は、この1〜2年以内に、定期購読者数10万人を超えること。これは全国のキオスクでのル モンドとフィガロの販売部数を超えることを意味する(ネット会員、定期購読者を除く)。購読料 は月額9ユーロ(約1300円)。収入の95%を定期購読料が占める。広告収入は一切なし、国から の補助金も拒んでいる。オンラインでニュースを配信するほか、eブックや書籍の出版も手がけ ている。

メディアパートには、有料サイトのため、記事にアクセスするには、まず15日間で1ユーロの お試し期間に申し込む必要がある。その後、定期購読者になると、IDとパスワードが発行され、 ブログの開設を含めて、すべてのコンテンツにアクセス可能となる。ただし、ブログ欄(LE CLUB) は、定期購読者でなくても無料で閲覧できる。また、メディアパートが配信する月例ライブ討論 会も無料で視聴できる。

■ベタンクール事件とカユザック事件

2008年に発足して以来、メディアパートは次々と政界のスキャンダルを暴くことで有名になっ た。最も著名なのが、2010年の「ベタンクール事件」の報道だ。大手化粧品会社「ロレアル」創 業者の娘、リリアンヌ・ベタンクール氏からサルコジ大統領の側近が違法な選挙資金を受け取っ ていたことを、メディアパートがスクープし、その記事を受けて、捜査当局の本格捜査が行われ た。2012年の大統領選挙で再選を目指していたサルコジ大統領にとっては、まさに致命的な報道 となった。

メディアパートが報じた、もう一つの大きな事件が、いわゆる「カユザック事件」だ。2012年 5月にフランソワ・オランド大統領が当選し、10年ぶりに社会党政権が誕生したが、その予算担 当大臣に就任したジェローム・カユザック氏がスイスに隠し口座を保有している事実をメディア パートが暴露した。カユザック大臣は、当初、国会の答弁などで繰り返し事実を否認したが、そ の後、2013年3月にフランスの裁判所が60万ユーロ(8000万円超)の口座の存在を確認し、パ リ検査当局が脱税隠匿・虚偽の資産報告などの疑いで捜査に乗り出したことから、一転して事実 を認め、辞任を余儀なくされた。

*このインタビューは2013年11月12日に行われたものです。「毎日新聞」には2014年1月に後藤記者による関連記事が掲載されました。このほど菊池さんのご厚意でインタビュー全文を「レイバーネット」に紹介できることになりました。(ウェブ編集部)


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