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不条理で理不尽な現実に声を上げる人たち〜レイバー映画祭2014


                  秋沢陽吉(福島から参加)

 初めて参加全5作を観た。364分9時間通して映画を観たのは人生初体験。 全く退屈することはなかった。作品の選択の良さとプログラム構成がすばらしい からだと思う。企画者に心から感謝を!    重苦しさに立ち上がれないほどの暗い感情にとらわれた。どの作品も現実の 記録。日本と韓国で今起きている、人間が追い込まれて対面し対決している現 実そのものだからだろう。当事者はたやすく解決できない問題に直面し、うちひ しがれることなく、何とか声を上げている。その声に敵は耳を貸さず、はねのけ 黙殺する。不条理で理不尽な現実は続く。だが、当事者は声を上げる、  『A2ーBーC』原発大事故後、避難区域を20キロ、30キロと思いつきの同心 円で引きその内部にしか被曝被害はないとした。1ミリシーベルトの被曝限度を 20倍にし20ミリシーベルトの避難基準にして、安全だとうそぶいて汚染地帯 に住ませ、危険だと考える者の避難の権利を施策として認めない。放射性物質 を取り除いて閉じ込める完全なものとは程遠い除染。映画は原発から50キロ 以上離れた伊達市の2,011年の現実だ。胸がつまり涙が出て仕方がなかった。

  今なおこの現実は変わらない。登場し発言した人々はフクシマではごく少数派 に過ぎない。しかし、主張は正しく人権と自由を渇望して、絶望的な現実に勇気 をもって発言した。私も当時者として理解されない苦しみを共有できた。この 具体的な課題をひとつひとつ解かなければ、あの子供たちの未来はどうなるの か。

  再稼働反対、日本の全原発廃炉は当然の主張だ。だが、この映画の現実を どう解決するか。その世論形成こそが大事だ。道は遠い。

  低い目線で当事者の声を描く映画は優れている。だが、だが、この現実を生み 出した本当の敵を浮かび上がらせないことが何より不満だ。政権が変わっても 事故後のフクシマの住民に対する施策は変えない敵は誰か。東電ではない、 地震でもない。敵は経産省だと叫んだ佐藤栄佐久元知事の言葉が耳をよぎる。 『60万回のトライ』  朝鮮の植民地支配と戦後の悪質な対応に、日本国籍を持つ日本人には責 任がある。今生まれたばかりの赤ん坊もやがてその責任を負わねばならない。  高校無償化から外す政府の制裁を橋下が率先して実施。ラグビーの健闘 を讃えた同じ顔と口が権力の行使と居直る。祖国の統一、母国への思慕。 一方日本人として生きる人たち。彼らの痛みを感じることは容易ではないが、 まず理解することが出発点だ。日本人がそれぞれ責任を果たすための、 必見の映画のひとつではないか。 『あしたが消える どうして原発?』  あなたは昭和天皇が逝去した年どこで何をしていましたか。1989年のその 頃、映画の主人公は原発で働いていた父の死を調べ、原発について考えを 深めていく。被曝と原発労働の因果関係を断言する医師がいて、4号機の 炉の歪みを暴露する元設計者がいたことに驚く。原発は労働者を犠牲にして、 誰かが莫大な金儲けをする。例えば福島の東電原発で東京が生活を享受す る。労働者を犠牲にして病に追いやっても因果関係を認めない冷酷な犠牲の システム原発。古ぼけた映画にみえるが、どうして原発なのか、あしたが消え ると予言と警告を発し、今なお新しい。住民までを平然と犠牲にする 『A2−BーC』を並べると、犠牲のシステム原発の恐怖はさらに増幅する。 『貪欲の帝国』  半導体工場で働いた人々が次々に亡くなっていく。被害者とその家族が サムソンの工場の実態を暴き、結託する工場と政治権力という敵に迫ってい く3年間の過程を描く。虫けらのように扱われる被害者と家族のしぶとい闘い は胸を打つ。白い包帯で全身をおおったような不気味な働く姿。映像、音楽 構成など技術的にも尖端的で非常に優れた重量級の作品と思う。だが、問題 は解決には程遠い。日本の半導体工場はどうか、背筋が寒くなった。 『続・メトロレディーブルース』制作ビデオプレス  非正規の労働者が正規労働者と同じように働いていながらなぜ差別する  のか。人間としての尊厳を賭けて闘う。自分のためだけではなく、多くの  正規労働者の生活と人権を守る闘いなのだ。委員長の涙という真情あふ  れる迫力の演説、心のこもった蘭の花の贈呈。親の介護、子供の問題、  自らの人生を生きたいという願いなど、組合員の様々な姿にカメラは迫り  寄り添う。数が少なくてもひとりでも、たくましく激しく生きる姿に心打たれ、  敬意をもった。ああ、手縫いの名刺入れ!そして、ビデオプレスの制作姿勢  と高い技術にも感心した。     どの映画もすばらしく、闘う人の声が響いてくる。だが、2千万人という非正 規労働者を当然のように増やし続ける政策は滔々と驀進する。フクシマの現 在は忘れ去られようとし、朝鮮学校にまたもや冷たい蔑視が投げつけられる。 サムスンは巨大で歯が立たないほどだ。  重苦しさに立ち上がれないほどの暗い感情にとらわれたのは、映画が終わ り明るい空の下に出て気分が変わっても、現実は変わらないからだ。問題は 連関しているとはいえ、反原発やカクメイと声をあげても、一遍に社会は変わ らない。大衆、メディアにたやすく操作される人々がどう変わっていくのかこそが、 我が国の行方を決めよう。では、どうすればよいのか。祭りの後にこそ考えた い。  自分の問題とともに、他者の問題にせめて耳を傾け、その重さを知ろうとする こと。2014年レイバー映画祭はそのための貴重な種子となった。  最後に、映画制作者と映画祭企画者とスタッフ、参加者に大きな拍手を!

Created by staff01. Last modified on 2014-07-31 15:05:15 Copyright: Default

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