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セウォル号を沈めた「真犯人」を照らすキャンドル

                       レイバーネット日本国際部・安田幸弘

去る4月16日、韓国の仁川から済州島に向かっていた旅客船セウォル号が西海(黄海)の珍島の近海で沈没、300人近くの犠牲者・行方不明者を出したという痛ましいニュースは、日本でも大きく報じられた。事故発生から一か月経とうとする今も不明者の捜索は続いており、事故をめぐる新しい問題が毎日のように伝えられている。

この一か月、韓国の社会はセウォル号の話題一色だった。多くの犠牲者を出したこともさることながら、乗客を捨てて真っ先に逃げ出した船長、違法な船体の改造、沈む船を傍観して被害を拡大した当局…。これまでにも三豊百貨店の崩壊、聖水大橋の崩落といった多くの災害を経験し、車両に閉じ込められた多くの人々が死んだ大邱地下鉄の火災、今回の事故とよく似た西海フェリー沈没事故、そしてつい数か月前、やはり多くの若者が雪の重さで崩れた屋根の下敷きになったマウナオーシャンリゾート事故などが発生するたびに、韓国の社会は事故の原因になった無責任な工事や管理に怒り、当局は「二度とこんな事故を起こさないようにする」と言い続けてきた。

「21世紀の韓国でこんな事故が起きるとは」、「後進国型の事故だ」、「安全不感症」といった言葉がテレビや新聞に溢れた。高い人気を誇っていた朴槿恵政権の支持率は急落し、生存者救出の期待が小さくなるにつれて韓国全体が服喪の雰囲気に包まれた。テレビは特別番組を放送し続け、コンサートは中止、地方選挙の季節にもかかわらず派手な選挙運動は自粛され、労働運動の世界でも韓国労総はメーデー大会を中止、民主労総のメーデーは追慕大会に変更された。ひとことで言って、今、韓国のすべての人々は最低の気分だ。

そのようにして一か月が過ぎ、今では追慕のキャンドルを持った多くの人々が街頭に集まっている。あの誇り高い韓国の人々に「今回ばかりは自分が韓国人であることを恥じる」と言わせるほどの衝撃を韓国社会に与えたセウォル号事件の悲しみは、今、少しずつ静かな怒りに変わり、その怒りの切っ先は政権に向けられようとしている。

●次々に判明する不手際

今までに判明している情報でセウォル号事件を簡単に整理すれば、まず船会社の清海鎮海運は、李明博政権時の船舶使用年数に関する規制緩和で日本から中古船を買い、安全性を損なう不法な改造を加えた。しかし船舶の安全検査を行う海運組合などの機関は不法な改造を見逃したまま就航させた。さらに輸送収入を上げるために貨物の過積載を行い、運行中に姿勢を崩して横転してしまった。船が異常に傾き始めた時の船員の対応も問題だった。非正規職の「名ばかり船長」は実質的な権限がなく、社員の一等航海士は会社側と連絡しながら損害を最小化するための方策を取るばかりで、早期の救難手続きや乗客の安全に関する配慮をしなかった疑いが持たれている。そのことが結果的に事故を決定的なものにし転覆・沈没に至ったが、救助の過程でも不手際が重なった。連絡を受けた海洋警察側は十分な装備もマニュアルもなく、自力で脱出した乗客を収容した以外に何の手立ても取ることができず、沈没する船に閉じ込められた乗客を救助するために動員された海軍や警察の部隊もなぜか迅速に動かず、民間のサルベージ会社が現場を仕切ったことで、生存者の救出に失敗した。この間、政府は事故対応に失敗して情報や命令系統が混乱し、救出作業の遅れを決定的なものにしてしまった。

実際にはさらに多くの信じられないようなミスが、まるでドラマか映画のように次々と重なっているのだが、とにかく最初から最後まで、あらゆる関係者が無能と無責任をさらけ出してしまった。当初は、乗客を捨てて真っ先に逃げ出した無責任な船長に批判の刃が向いていたが、こうした事実が続々と判明するにつれ、安全無視の業界の慣行、まともに業界を監督できない監督官庁、政府レベルでの危機管理体制の不在などへの批判が高まっている。こうした批判は結局、政権に向かっている。

韓国社会でセウォル号事故が政権を脅かすほどの大きな悲しみと怒りを呼んでいるのは、ただ単に事故の規模だけではない。韓国社会に内在するさまざまな問題、つまり収益優先、安全や人命の軽視、効率追求、縄張り意識、その場限りの対応など、これまで何度も繰り返されながら、いつの間にかうやむやになってしまった数々の問題が最悪の形で表れたことだろう。毎日のように明らかになるセウォル号の「新しい事実」は、実は韓国の人々は誰もがその問題を十分に知っていた「古くからの問題」と言えるかもしれない。

前述のように、民主労総は今年のメーデーは、当初のテーマを変更してセウォル号犠牲者をはじめ、韓国の社会が殺してきた多くの人々を追慕した。これらの犠牲者の中には、今回のセウォル号事故のように安全意識の欠如による事故で死んでいった多くの市民ばかりでなく、十分な安全保護措置がないまま、危険な作業環境での労災で死んでいく多くの労働者、社会安全網からこぼれ落ち、福祉の死角地帯で死んでいく貧民や障害者、過酷な労働条件や労組弾圧などで自ら死を選ぶ労働者などが含まれていた。まばゆいばかりのネオンが輝き、高層ビルが林立するソウルの繁栄は、安全コストを切り捨てたことで発生した多くの犠牲の上にある。

セウォル号については、その安定性に問題があると現場の乗組員が何度も指摘していたというが、果たして労組は何をしていたのだろう。民主労総傘下の労働組合は日頃から安全問題について警鐘を鳴らし続けてきたが、残念ながら御用組合の船員組合は今回の件に沈黙を続けている。労働運動が反省すべき点も決して少なくない。

●追慕の波のゆくえ

5月に入り、セウォル号の犠牲者を追慕するキャンドル集会が韓国の各地に広がっている。13日には労働、市民社会、人権団体などすべての分野の団体が集まるセウォル号惨事汎国民対策委が発足した。政権が今回の事件に対する対応を間違えれば、2008年に起きた米国産牛肉輸入反対キャンドルのように、追慕のキャンドルは手が付けられない規模の大衆的な抗議運動に拡大するかもしれない。

批判の拡大を防ぐため、政権はマスコミやインターネットの情報を統制したり、学校・公務員への集会参加禁止令を出すなどの対応に躍起になっているという。御用マスコミは、今回の事件の「主犯」を不道徳なオーナーや船長の責任だとし、抗議の声を上げる多くの人々はアカに扇動されているといった荒唐無稽なキャンペーンを繰り広げている。

しかし、政権が300人の命を見殺しにした社会への怒り、安全な社会を要求する人々の切実な叫びを無視し、不満を封じ込めるだけでこの事件の幕引きを計れば、これからも第二、第三の「セウォル号」が発生するだろう。また、日本の安倍政権が企む規制緩和や原発再稼働、アベノミクスといった政策を見ていると、「セウォル号」は韓国だけの問題とは思えない。セウォル号を沈めた「真犯人」は、今、世界のあちこちで静かに次のターゲットを狙っているのではないだろうか。

貪欲な資本の犠牲者を追慕するキャンドルの小さな火が韓国を超え、日本にも、そして世界に広がればと思う。

*『労働情報』888号 6月1日号「韓国労働運動の新たな息吹き 第18回 “セウォル号事故が問いかけるもの”」より転載

『労働情報』HP

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