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牧子嘉丸のショート・ワールド(8)〜夢二と雨情―微小なるものへの関心 | ||||||
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夢二と雨情―微小なるものへの関心竹久夢二といえばすぐあの独特な美人画を誰しも思いうかべるだろうが、では野口雨情はどうだろうか。「青い眼の人形」や「赤い靴」を書いた詩人といえば、すぐわかるだろう。「しゃぼん玉」や「証城寺の狸囃子」を子どもの時歌わなかった人はいないし、なんといってもあの「船頭小唄」のもの哀しい歌詞とメロディーを聞いたことがない人はいないだろう。雨情はつねづね作者など忘れ去られて、その詩だけが残ったとき、はじめて本物になるのだと言っていたそうだから、それで本望だろう。
この夢二(左)と雨情(右)はいくつかの点でよく似ている。どちらもお坊ちゃん育ちであることや、長じて早稲田で学んだこと、放浪癖がつよく、また女性遍歴も盛んであったことなどである。そして、なによりも子どもや女という当時の社会的弱者をその作品のテーマにしていることだ。ふたりとも決して富者や軍人・政治家など権力者として威を張るものは描かなかった。
ともにその出発点には明治のキリスト教的社会主義の思想や運動の影響が認められるのも特徴だ。夢二は「平民社」の機関誌に盛んに挿絵を描いていたことは知られている。大逆事件で幸徳秋水らが処刑されたとき、ショックを隠せず仲間とともにお通夜をしたことを当時女学生であった神近市子が後に伝えている。
雨情もまた片山潜の「労働世界」などに児玉花外ばりの社会主義詩を発表している。同じく大逆事件の反映として、子息の野口存弥(のぶや)氏は「人買船」について言及しておられる。 この二人は決して社会運動の実践家ではなかったし、またそのイデオロギーを説く人でもなかった。夢二と同居したこともある荒畑寒村などは、絵で盛名を得るとともに平民社から離れていったと不甲斐ない先輩竹久に対して手厳しい。 また、雨情と親しかった作家の住井すゑは「私はものかきのはしくれとして戦時中、そのような命令を受けた。あまりにバカバカしくて抵抗し、ケンカした。けれど多くの作家は“君国のために“とてか命に服した」と書き、雨情もそうであったと記している。 私はこの雨情全集の解説を読んで、それこそバカバカしくなった。桜本富雄によって、戦中に書いた戦争協力の数々の作品を指摘・追及された住井は、そんなことみんな忘れましたねととぼけているのだ。夢二や雨情の弱さについては言うまい。むしろ自分の屈服や弱さを隠して、抵抗者面する厚顔無恥にただ驚くばかりである。人はどうしてこう自分を飾らなければ気が済まぬのだろう。弱者であることはそんなに恥ずかしいことだろうか。 夢二の絵を見、雨情の歌を聞いてもさほど関心をもたぬ人も多いだろう。かくいう私自身もあの甘ったるい女の絵ばかり書いている夢二にも、退嬰的なムードの雨情の歌にも心動かされるものはなかった。しかし、その人生を知り、その時代を知るにつれ、作品の底に流れるヒューマンな心情にふれて、見る目も聞く耳も違ってきたのである。 歌謡でいえば、船頭小唄を「おれは、いつでも金がなーい。おなじお前も金がない」と替え歌で庶民の貧しい暮らしを歌った演歌師の添田唖然坊や戦後労働歌の雄である荒木栄、また絵画でいえば大杉栄の不敵な面構えを描いた林倭衛(しずえ)やプロレタリアを鼓舞する絵を書いて「ねじ釘の画家」と呼ばれた柳瀬正夢(まさむ)などの力強い存在を忘れてはならないのは当然だ。 ただ両者を比較して、いたずらに軟弱・怯懦、また退廃的・敗北主義的などと決めつけるのではなく、日本の庶民のなかに深く根付いたこの二人の作家を革命的に止揚してこそ、明日の絵画や歌が生まれるだろう。 庶民感情の微小なるもの、弱々しいもの、哀切なもの、はかないものは決して否定されるべきではない。むしろ、それらを女々しいものとして踏みにじろうとするものこそ敵なのだ。まさにその正体は安倍反動政権がすすめる凶悪な富国強兵策なのである。 *写真=夢二の作品 Created by staff01. Last modified on 2014-05-05 15:30:56 Copyright: Default |