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映画『ひかりのおと』は労働を見つめる
           本田孝義(映画監督)


 2月9日(土)から『ひかりのおと』という日本の劇映画が東京で公開される。本作は
岡山県真庭市で製作されたインディペンデント映画だ。真庭市は山々に囲まれた岡山県の
県北にある。まず、こういう「地方発」の映画が映画館で公開されることが喜ばしい。近
年、「地方発」を売りにした映画が多数公開されているが、往々にして実は東京のプロダク
ションが「地方」で撮影した作品が多いのも事実。本作は監督本人や主役の役者も真庭市
在住であり、スタッフの多くも岡山県の人間だ。そういう意味でも正真正銘「地方発」の
映画なのだ。岡山県ではすでに昨年、50ヶ所以上で上映されている。

 映画の主人公、雄介は酪農家。音楽を志し東京で暮らしていたが父の怪我をきっかけに
家業の酪農を手伝うために故郷に帰って来たのだった。「地方発」と書くと、何やら地域に
根差した物語を想像しがちだが、本作は地に足をつけようともがいている青年の話だ。酪
農も決して楽ではなく、グローバル経済の荒波にもさらされている。家族や恋人との関係
もぎくしゃくしている。本作は実際に真庭市の酪農家で撮影されており、高速道路沿いに
立つ牛舎の佇まいが非常にリアルだ。

 いつ頃からか分からないが、近年特に若手の監督が作る映画の登場人物が何で飯を食っ
ているのか分からない映画が増えた。現実の労働環境を反映していることもあるが、監督
本人がそのことをあまり重視していない表れでもあるだろう。本作が貴重なのは、酪農と
言う労働を丁寧に描きつつ、その葛藤まで掘り下げている点だ。監督の山崎樹一郎は若き
トマト農家でもあり、酪農家の様々なエピソードも身近で見聞きしたことがベースにある。
だからそこには単純な田舎賛美の視点はない。また、主役を演ずる藤久善友は農協職員で
あるという。正直に言えば彼の演技はうまくない。セリフも棒読みだ。しかしながら、彼
がのそりのそり牛舎を歩く姿は酪農と言う労働をリアルに体現しているようにも思えるの
だ。

 映画全般の演出も奇をてらったところがなく、むしろオーソドックスですらある。しか
しながら画面の隅々からは確かに都会とは違った時間の重みのようなものが滲みだしてい
る。あえて極端な書き方をすれば、日本の片田舎で撮られた映画を今私たちは見なければ
ならない。そういう映画が生まれていることを目撃することこそ、本当に日本の映画が豊
かになる道なのだと私は信じている。

『ひかりのおと』http://hikarinooto.jp/
(2011年/日本映画/カラー/16:9/HDV/89分/ステレオ)
監督:山崎樹一郎
2月9日(土)〜3月1日(金) オーディトリウム渋谷 http://a-shibuya.jp/ 
にて公開。(期間中、上映時間が変わりますのでご確認ください。)


Created by staff01. Last modified on 2013-02-08 20:00:24 Copyright: Default

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