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LNJ Logo 飛幡祐規のパリの窓から〜失望を越えて
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 第22回・2013年1月1日掲載  

失望を越えて

 フランスで社会党を中心とする左翼が10年ぶりに政権に返り咲いてから、半年以上が過ぎた。ずっとコラムをお休みしてしまったのは懸念していたように、経済政策や原発政策をはじめ、エロー政府にはがっかりさせられることばかりつづいてるから……だけではない。夏のあいだ海外でも行われた大飯原発再稼働への抗議アクションをきっかけに、海外に住む日本人の脱原発ネットワーク「よそものネット」を有志で立ち上げた。パリのグループ「よそものフランス」(写真)では10月から毎月1度、地元の脱原発市民団体SNPといっしょに集会やイベントを始めたので、なにかと忙しくなってしまったのだ。

 もっとも、原発大国のフランスではもうメディアがほとんどフクシマのことを語らず、選挙の重要な争点にもならなかったほど(あっ、どこかの国と似ている)だから、月例集会といっても今のところ「手づくり」の小イベントである。雨に降られ、厳寒にみまわれながらも、スピーチやかんしょ踊り、国会議事堂ミニチュア神輿行列などを毎回行い、福島の状況やフランスの原発の危険性をアピールしている。メディアの反応は予想どおり冷たく、これまで報道してくれたのは東京新聞、西日本新聞、北海道新聞と、パリの地方紙ひとつだけだ。

 一方、独立メディアIWJは最初から関心をもってくれた。初回はヨーロッパ通信員でもあるオランダのメンバーがアムステルダムから駆けつけて、wifi環境のよくないバスティーユ広場からの実況中継に挑戦した。第3回の12月には、現地フランスとアムスのよそものメンバーが抜群のチームワークを発揮して、ほとんどトラブルなしで発信できるようになった。

 わたしたちのねらいの一つは、国境を越えたつながりを広げ、深めることだ。初回のバスティーユ広場での集会には、マンチェスターから「子ども福島」の世界ネットワークのスタッフ、第3回の12月8日にはロンドンのグループJANのメンバーが参加した。11月11日は「首都占拠」などのアクションに呼応し、イタリア(フィレンツェ)、スイス(ベルン)、イギリス(ロンドン)、ドイツ(ベルリン)とフランス(パリ)で同時アクションが行われた。

 12月15、16日の郡山と東京のアクションのときは、「世界脱原発会議2」にイタリアとイギリスのメンバーがよそものネットの支援メッセージを届けた。同時にドイツでは15日にデュッセルドルフで、ベルリンでは選挙後の17日に日本大使館への抗議アクションが行われた。ひとつひとつは小さな催しでも、その土地の脱原発団体や市民とのつながりができてくる。また、メールをとおして情報や意見・提案などを交換するだけでなく、ときに電話やスカイプによって、そしてたまに別の土地に住むメンバーと実際に会って話すことができると、新たな発想や視点を発見できるし、励みになる。

 日本の衆議院選挙にあたっては、よそものネットでも「脱原発に1票を」と投票を促し、在外選挙の方法を提示した。あまり知られていないが、1998年の公職選挙法改正まで海外に住む日本人には一切選挙権がなかった。最初は比例代表しか選挙できなかったのを、在外邦人の権利の制限は違憲だと訴訟を起こした市民のおかげで、最高裁が2005年、それまでの公職選挙法を違憲と判定し(地裁と高裁では却下されていた)、2007年からようやく選挙区の投票もできるようになった。わたしは成人する前からフランスに住み始め、長年のあいだ選挙権がないことを疑問に思っていた。

 選挙ができるようになってからは、手続きや実施方法の煩雑さに驚いている。在外選挙人証申請の手続きには住民票を抜かなくてはならず、2か月近くもかかる。今回も、突然の解散から公示まで1か月もない(そして海外では公示後すぐに投票)状況のもと、選挙人証をもっていなかった人は手続きが間に合わずに投票できなかった。大使館など公館で投票できない場合の郵便投票も、タイミングが難しい。投票用紙請求書と選挙人証を各自、日本の選挙管理委員会に郵送し、それらが公示までに送り返されてくるのを待ち、公示後に今度は投票日までに日本の選管に到着するように投函する)。投票用紙請求書が大使館や総領事館に置いていないというのも不親切だし、発送は自費である。よほど「さあ、投票するぞ!」と意欲に燃えた人でなければタイミングを逃してしまうこのシステムはいったい何なのか? 

 選挙権は特権ではなく国民の基本的な権利のはずだ。ちなみにフランスの場合は、海外の自国大使館に在留登録すれば自動的に選挙人リストに加えられる(1913年から選挙権あり)。在外フランス人議会があって被選挙権も有する。民主主義憲法ができてから50年以上たってようやく海外居住者に参政権(被選挙権はない)が与えられたほど、日本の国にとって外に出た者は「よそもの」なのである。

 さて、脱原発が争点にならず(というか、二大政党とマスメディアが争点にせず)、前回惨敗したときより220万票も少ない得票数で自民党が圧勝した選挙結果については、小選挙区制の弊害をはじめ、理由はいくつもあげられる。しかし、首相官邸前集会をはじめ、脱原発を求める市民による前代未聞の動き(直接民主主義)にもかかわらず、その声が選挙に反映されていなかったことを市民は直視し、今後の活動のしかたや戦略を考えなくてはならないだろう。

 脱原発法制定全国ネットワークが8月末にできていたが、脱原発を明確に打ち出した候補者は少数派だった。選挙直前に結成された「日本未来の党」は投票後わずか10日で分裂し、山本太郎氏はじめ、真剣に脱原発派市民の代弁者になろうとした候補の多くが敗れた。しかし、こんなどさくさ選挙と現行の選挙制度のもとでは、これは予測される結果だったといえる。

 原子力基本法の設立とほぼ同時に結成され、原発を導入して何十年も推進しつづけた自民党の政権復帰を許してしまった陰には、収束にほど遠い福島第一原発の事故が緊急かつ長期的な一大事であるという認識が多くの人々に欠けている(あるいはそんなことは認めたくない)、という現実があるのだろう。そして、脱原発をより政治的なヴィジョンに結びつけ、人々に示していく作業はまだじゅうぶんに進んでいない。そのヴィジョンとは経済面でいえば、自民党が推進するような貧富の差をさらに広げる金融緩和の成長策ではなく、地域に新たな雇用を生み出し、イノヴェーションを促進する再生可能エネルギーへの転換を経済立て直しの軸にすることだろう。大量生産と過剰消費にもとづく環境と人間に有害なシステムから脱却し、より多くの人が人間性を損なわない環境で働ける社会、自然との共生や人間らしい暮らしができて、若い世代や子どもに希望を与えられるような社会をめざすことではないだろうか。

 新安倍政権について最も厳しい論評を発表したのは、ドイツのメディアだ。原発政策のみならず、右傾化が顕著な政府として外交政策や経済政策に対しても、保守・左派双方の有力メディアが危機感を表明しているという。原発事故と日本の現状についてかなりきちんと報道し、脱原発運動のもりあがりもちゃんと取材していたドイツのメディアは、政権と国民とのあいだの乖離を指摘している。http://tkajimura.blogspot.fr/

 原発事故によって故郷を失い移住をよぎなくされた人々、いまだ放射線量の高い地区で住みつづける人々、苛酷な条件のもとで働く作業員などについて、海外のみならず日本国内でもあまり話題にならなくなっているようだ。わたしたちは、福島からフランスに移住した人や日本で福島の諸問題にとりくむ人たちとのつながりをとおして、小出裕章氏が戦争にたとえるこのカタストロフィーについて考え、海外で行動しつづけていくつもりだ。避難と放射線防護の問題、福島原発告訴団などと共に、わたしたちが注目しつづけているもののひとつに双葉町の井戸川町長の闘いがある。

 原発立地自治体の双葉町は、事故後すぐ埼玉県に集団避難し、現在でも160人が避難所の騎西高校に住みつづけている。双葉町民の避難生活は二つのドキュメンタリー映画ーー舩橋淳監督の「Nuclear Nation フタバから遠く離れて」(2012年ベルリン映画祭などに出品)、レイバーネットの会員もある堀切さとみさんの「原発の町を追われて〜避難民・双葉町の記録」に描かれている。いずれも避難・移住生活をつづける双葉町民の困難と心の襞をとらえた貴重な作品であり、ぜひ多くの人に観てもらいたい。

 井戸川町長は10月末、ジュネーヴで行われた国連人権理事会UPR(普遍的定期的審査)のNGO情報会議で、ふくしま集団疎開裁判の代理人柳原弁護士と共に、福島の状況を国際社会に訴えた。よそものネットのメンバーも彼らに同行して通訳やIWJ中継を行ったため、国連での審査の様子が見られて興味深かったが、「福島の住民を放射能の危険から守るためのすべての方策をとる」ように勧告したのはオーストリア(脱原発大先輩の国)のみだった。

 双葉町議会は12月20日に井戸川町長の不信任案を可決し、町長は納得できないとして議会を解散した。この件については町民と町長をずっと取材しつづけている両監督が意見を述べている。町民の生命と財産、権利を守るために奮闘する町長を見てきたふたりは、責任をとらない東電や国・県に対する彼の闘いを評価している。
 http://nuclearnation.jp/jp/?p=724
 http://www.labornetjp.org/news/2012/1225idogawa

 よそものネットのMLでもこの件をとりあげ、海外から支援メッセージを送った。井戸川町長の考え方や人となりはドキュメンタリーや記者会見、インタビューからうかがえる。わたしがめざましいと思うのは、彼が町民の現在の苦悩だけでなく、子どもたちの未来や将来の世代までを思いやっている視野の広さだ。「町の形を守るより、子どもたちの生命健康を第一に考えました」。チェルノブイリ事故後の健康被害について学習し、放射能防護について国や福島県の基準と措置に反対する井戸川町長は、この問題で孤立している。目先の利害しか考えない大多数の為政者のなかで、「将来の世代のために」という視点をもった為政者が存在することは、一筋の希望であり救いである。今年2月の選挙の結果がどうなるかは双葉町民が決めることだが、今後も町長の健闘を祈っている。

http://yosomononet.blog.fc2.com/
http://yosomono-net.jimdo.com/

   2013.1.1 飛幡祐規(たかはたゆうき)


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