本文の先頭へ
LNJ Logo 「正しいことしてるから叩かれる」〜双葉町・井戸川町長を応援してください!
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item 1225idogawa
Status: published
View


12月20日、双葉町議会の最終日。井戸川克隆町長の不信任案が、可決成立した。議会を傍聴した私は、その瞬間を呆然とした思いで見つめていた。自分はただ傍聴しているだけで、何もできなかった痛恨の念があり、この数日間、ただただ呆然としていた。しかし、多くの人から「双葉町長を励ましたい」「議会に抗議したい」という声が寄せられた。ある友人は「正しいことしてるから叩かれるんだよ」と言った。そして「双葉町はこんなことでは終わらない」という町民の言葉も聞いた。井戸川町長にもその声は届いているだろうし、思いに揺るぎはないことを願いつつ。(堀切さとみ・映画『原発の町を追われて〜避難民・双葉町の記録』制作者)

****************

双葉町議会のリポートをします。前町長の息子である(こんなレッテルを貼りたくもないのだが)岩本久人議員(写真下)が、不信任の理由を次のように述べた。

「町長は町民の声をきく努力をせず、町民との考え方にかい離があり、自分の考えに固執している。・・・それに比べて議会は、多くの町民の声をきいてきた」
「復興のためには福島県の汚染から出る放射炎汚染土壌やがれきの処分問題は避けてはとおれない。それなのに十一月二十八日の中間貯蔵施設の現地調査を議論する会議に、町長だけが欠席し、福島県や町を落胆させた」

これを受けて、井戸川町長(写真上)は「町民の不満が解消されないのは、事故責任者が我々を放置していたからに他ならない。健康問題、賠償問題など、町民に損をしてほしくないという思いで精いっぱい尽くしてきた。まだまだやるべき仕事が多くある中で、不信任は残念でならない。町民どおしがいがみあうことなく、一丸となって戦えるような仕組みづくりに、議会の皆さんは力を尽くしてほしい」と反論した。

この町長発言の後、岩本町議ないし他の議員からの意見があるのかと思ったが「質疑なし」「討論なし」で、本当にあっけなく採決になってしまった。私は議会の傍聴は初めてだったのだが、このやり取りをみていて、何か仕組まれたものを感じた。なぜ今、不信任なんだろう・・・。

井戸川町長を解任しようという動きは、これまでに二回あった。 理由は「町長は独断的だ」「役場が県外にあることで、県内に避難している町民は不利益を被っている」というものだ。町長は、双葉町民は県内・県外避難者の対立を深刻化させないために苦渋の決断として、役場の福島県内移転や、旧騎西高校の弁当の有料化などを決めた。にもかかわらず、三度目の不信任案が十二月二十日に出され、あっという間に八人の議員全員の賛成によって、可決成立してしまったのだ。誰かに頼まれたかのように、何の迷いもなく。

3・11の直後。井戸川町長は、町民を内部被ばくのリスクから遠ざけるため、役場を福島県外に移し、埼玉県の旧騎西高校に多くの町民を避難させた。私はそんな双葉町に共感し、握手したい気持ちで取材を始めた。

騎西高校は唯一残った避難所として、今も160人の町民が暮らしている。一方、福島県内では佐藤雄平知事、福島県立医大を中心に事故の被害を最小化するためのキャンペーンが張られ、「除染をするから帰還せよ」という政策がとられ続けてきた。井戸川町長はこの安易な帰還政策に反対し「チェルノブイリ基準」を示しながら「福島県内の多くの場所は、今なお人が住んではいけない汚染状況にある」と訴え続けた。すべては、目に見えない放射能から、子どもたちの未来を奪ってはならないという思いからだ。

十月にはジュネーブで、放射能汚染による内部被ばくから町民を守ろうとしない国の無策ぶり、無責任さを訴えたが、本来これは福島県知事がやるべきことだ。しかし実際にはそうはならず、小さな町の首長がたった一人で告発しに行くしかないということが、この国の惨状を示してあまりあると思う。

福島県内の自治体の多くが、帰還政策に追従していく中で、井戸川町長は、町民の命と権利を守るために孤立無援で闘ってきた。そんな町長の存在は「福島は安全だ」といって事故の責任をうやむやにする国、県、東電にとって、目の上のたんこぶだったに違いない。だからといって、国や東電が井戸川おろしをするわけにはいかなかったのだ。

岩本議員は「町長は町民の声を聴く努力をしていない」という。 こんな言葉が、双葉町民から出てくることに愕然とする。何を根拠にそう言うのか。町長は福島県内の仮設を回って懇談会をしてきた。仮設を回る回数が足りないというなら、もっと回ればよかったのか? そして、そういう町議こそどれだけ町民と向き合ったのか。

3・11直後の福島第一原発の爆発のとき、避難できず町にとり残された三百人の無念さを背負い続け、町民すべての被ばく検査が終わるまで、自分は検査をしないと言いはる町長を、私はとても暖かい人だと感じるのだが。よその人間が双葉町のことを見つめているのに、双葉の議会が町長のしてきたことを認めないというのは、・・・ちょっと度量の狭さを感じてしまう。

中間貯蔵施設の会議に出なかった町長のことを「自分の町、自分の考えだけでコトにあたろうとした」と岩本議員はいうが、自分の町のことを考えることがなぜ悪いのか。岩本議員は誰と向き合っているのだろう。町民感情の頭越しに着工を急ぐ、県と向き合ってるのかな。また町議たちは、町長が主張している「町民の健康問題」については、何も見解を言わない。私は町議ひとりひとりにそれを聞きたいと思う。井戸川町長にインタビューしたとき、「私は反原発ではない。ただ、日本を滅ぼしたくないだけだ。健康な子孫を残すということが大事で・・・・」と語った。そのことに対して、どうして誰も共感しないのだろうか。反論でもいい。なぜかかわろうとしないのか。

佐々木清一議長に至っては、議会の後の記者会見で「国とけんかするのも、放射能について言及するのもいいが、町民を一つにすることを考えるべき。自分ひとりの考えでなく、町長としてやるべきことは双葉郡をひとつにすることだ」と言った。自分の考えもなしに県のいいなりになることが、町民に向き合うこととどう結びつくのか。町民の頭越しに中間貯蔵施設を作ることを前提とする会議に対し「自分は反対だ」と表明することも許されない。・・・原発事故の最大の被害者である町の議長が、それを許さないのだ。とにかく歩調を合わせることが大事なのだ。こんな議会がどうして、町民のやるせなさに向き合えるんだろう? 前代未聞の世界的な原子力災害に対し、本気になって向き合う井戸川町長に、追いつける人は双葉町議会にはいない。

不信任が決まったことを知った、旧騎西高校の避難所の町民たちは「あんなに頑張ってくれてる町長なのに、本当に許せない」と、悔しさを隠せない様子だった。泣き出す人もいて、つらかった。傍聴席から「町長は町民思いだ!」と叫べばよかったのに、できなかった自分を苛んだ。しかしこの不信任決議は、マスコミの報道とは別にどんどん広がり、多くの人が井戸川町長にエールを送っている。そして今、町長不信任に抗議する、双葉町民の署名活動が始まった。「双葉の人間はおとなしい」と言ってきた人たちが、動き始めているのだ。日本社会はちょっとだけ成熟している・・と思う。

井戸川町長は、自分のしていることがすぐには理解されないことを知っている。そして、個人が自分の考えを表明することが、民主主義の基礎だということも。こんな人が、双葉町の中から登場してくることが、未来を作ることになる気がしてならない。


Created by staff01. Last modified on 2013-01-09 18:03:02 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について