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LNJ Logo 木下昌明の映画批評〜『おだやかな日常』
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●内田伸輝監督『おだやかな日常』
災後の“危機的な現実”に焦点――ありふれた「日常」の再生は……

「日常」とは咋日のように今日があり、今日のように明日が続くことを意味する。だが、それも原発事故以来危うくなった。先日、官邸前の抗議行動で30歳前後の女性がこんなスピーチをしていた。

「子どもにかかわる仕事をしていて、子どもから『どうせ私たちの未来はないんでしょ』と言われ、なんて答えていいかわかりませんでした。わたし自身も子どもがほしいのですが、こんな世の中で生んでいいのか、すごく迷っています。また原発事故が起きたら『なんで自分を生んだ』と責められるんじゃないか」と。

 内田伸輝監督の『おだやかな日常』は、スピーチの女性と同じ年ごろの主婦二人が主人公、震災直後から見えない放射能の恐怖に二人の心が蝕まれていく様子を描いている。トップシーンから緊急地震速報のアラームが鳴って、観客の脳裏にも、あの悪夢の日々が蘇ってこよう。

 映画の舞台は、福島から遠く離れた東京の郊外。安全なはずなのに安全ではない微妙な距離感ゆえに、人々の間に疑心暗鬼が生まれ葛藤がはじまる。主婦のサエコとユカコはアパートの隣同士だが、言葉を交わしたことがない。そんな二人の家庭をカメラは交互にとらえ、地震によって生活が一変していくさまを浮かび上がらせる。

 幼い娘がいるサエコは、震災翌日に帰宅した夫から突然離婚を切り出され、唖然とする。彼女は娘の幼稚園の線量をはかり、「線量が高い」と先生に訴えると、他の母親から「不安を煽っている」と怒鳴られ、口論となり、嫌がらせを受けるようになる。

 ユカコは子どもはいないが、放射能に脅え、夫に引っ越そうと訴えるが取りあってくれない。穏やかな日々の中に、以前とはどこか違った日常が忍びこんでくる。果たして再生への道はあるのか――。

 女優の杉野希妃と篠原友希子の熱演がいい。劇映画も日本の危機的な現実(いま)に光を当てはじめた。

(木下昌明/『サンデー毎日』 2013年1月6・13日号)

*12月22日より東京・渋谷「ユーロスペース」にてロードショー


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