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                2012年12月5日
笹子トンネル事故と道路公団民営化

      海渡 雄一

1 笹子トンネル事故の事故原因は打音検査の省略

 12月2日午前八時頃、中央道の笹子トンネルの上り車線で、突然天井が崩落し、数台の車両が巻き込まれ、9名が犠牲となった。
 この事故で中央道は上り・下り共に大月?勝沼・一宮の間が通行止めになっており、再開までには時間がかかる見通しだ。
 トンネル最上部の天井と天井板をつなぐつり金具を固定するボルトが、天井板が崩落した約130メートルの区間で脱落していた。金具を固定するため、天井のコンクリートに埋め込まれていた直径1・6センチ、長さ23センチのアンカーボルトが、この内壁に13センチ埋め込まれていたが、これが抜け落ちていたという。
 中日本高速によると、トンネル最上部のコンクリートの内壁には、T字形鋼材(長さ6メートル、幅40センチ)が1本につき16本のボルト(長さ230ミリ、直径16ミリ)で固定され、この鋼材1本につき、つり金具(2.8トン)5本の上端が1.2メートル間隔でつないであった。脱落していたことが判明した。ボルト固定には接着剤も使われていたという。
 脱落の原因はさびやコンクリート部分の経年劣化などが原因だった可能性があるとされているが、トンネル最上部の打音検査はしていれば、劣化を発見できた可能性がある。

2 他の高速会社では打音検査をしていた

 毎日つり天井式のトンネルを持つ高速道路会社はいずれも、中日本高速道路が行っていなかった内壁とつり金具のボルト接合部の打音検査をしていたことが3日、毎日新聞の調べで分かった。すなわち、同様のつり天井式のトンネルを持つ高速道路会社(4社)に聞いたところ、東日本高速、西日本高速、首都高速道路はいずれもボルト接合部や周辺の打音検査を実施していたという。阪神高速道路は目視後必要と判断した場合に実施していると回答しているという。
 各社は作業用の脚立を設置するなどし、高所の点検にも対応し、東日本でも天井板から最上部まで約2?3メートルのトンネルがあるが、同社の担当者は「打音は必要な検査だ」と話す。
 既に山梨県警大月署捜査本部は4日、業務上過失致死傷容疑で中日本高速道路(名古屋市)の本社や事務所などの家宅捜索を行った。山梨県警による中日本高速本社への家宅捜索が行われた。

3 小泉構造改革路線が進めた道路公団民営化

 日本の高速道路に関しては、自民党主導でハイペースで建設がされた。運営事業者である道路公団と道路公団の運用資金である特別会計については黒字経営が続いていた。
 しかし、小泉首相による新自由主義改革路線の中で、「幻の財務諸表事件」(巨額の赤字を隠しているという内部告発がされるも、公団当局はその存在を否定)や「国策逮捕」(05年7月に官製談合事件で副総裁が東京地検に逮捕)などがあり、05年10月に道路公団が廃止され、NEXCO各社に分割民営化がなされた。
 この民営化を推進したのが小泉内閣下での民営化推進委員会である。猪瀬直樹氏はこの委員会で舌鋒鋭くマスコミを巻き込んで民営化を主導した。今も、民営化を成し遂げたことを自らの功績としている。

4 民営化と安全コストの削減は表裏

 公共事業の民営化は国鉄の分割民営化などを見てもわかるとおり、赤字対策として提起される。他方で、民営化に際しては「政治主導」で決定された事業への投資が押し付けられる場合も多い。高速道路についても、儲からない新たな高速道路の建設が押しつけられた。経営収支や財務状況が悪化した民営企業は民営化のメリットを社会的に示すために、設備の改装など目に見えるところには投資を迫られ、目立たないところには投資が控えられる。目立たないところの最たるものが、安全のための投資である。設備のメンテナンス予算が削減される。
 中日本によると、点検は各社ごとに要領を定めて実施。同社は民営化後の06年4月に点検マニュアル「保全点検要領」を策定したが、天井板の点検について「目視による確認をするなどの配慮が必要」としただけで、打音検査は定めなかったとされる。
 中日本高速は今年9月を含む過去の点検で、トンネル最上部の内壁とつり金具のボルト接合部については双眼鏡による目視にとどめ、打音検査は「一度もした記録がない」ことを明らかにしている。同社幹部は「笹子トンネルの場合は(足場となる)天井板から最上部まで高さ5メートルもあり、打音が困難だった」と釈明している。
 しかし、同じ道路公団を分割して民営化された他の各社では打音検査がなされていたことからすると、このような説明には疑問がある。道路公団時代の点検要領を明らかにし、民営化後に検査が省略された可能性の有無を含めて、徹底した捜査がなされるべきである。
 国交省道路局の幹部は「元は旧道路公団の同一組織なのに、中日本が他社同様の点検をしていなかったことは驚きだ。インフラの安全確認は常に強化すべきで、問題を精査する必要がある」と話していたという。

5 民営化政策の是非も都知事選の争点に

 東京都知事選の争点は命を大切にする政治かどうかである。脱原発も福祉も命の問題である。
 猪瀬候補は、都営地下鉄と東京メトロの一元化」=「都営地下鉄の民営化」を政策として掲げている。民営化された高速道路で、このような大きな犠牲が生じたことについて、民営化を推し進めた政治家や都知事候補はどのように考えているのだろうか、説明する責任があるだろう。
 



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