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6月2日のレイバーネットTV第14回放送のテキストによる紙上紹介です。テキスト化は、ゆかさんです。
放送は午後8時〜9時30分の90分、市民メディアセンターMediRの協力で、新宿三丁目の「バンブー」からお送りしました。なお、アーカイブは以下のurlでご覧いただけます。(レイバーネットTVプロジェクト)
http://www.ustream.tv/recorded/15113111
右:土屋トカチさん
左:松元ちえさん

土屋:今日は被ばく労働者を追い続けて40年以上のフォトジャーナリスト、樋口健一さんをお招きしております。

【ニュースダイジェスト】

尾澤邦子さん

・セクハラ労災
5月22日、東京千代田区で「セクハラで労災認定を! 〜被害実態にそくした認定基準見直しを求めて〜」の集会がありました。
セクハラ被害によって、退職に追い込まれ、その後も、精神科への通院を余儀なくされた被害者から訴えがありました。
再就職もままならない状況が続き、労基署に労災の申請をしても不認定となり、行政訴訟をおこし、上司のセクハラが主要な原因で発症したとして、業務に起因した労災と認められました。
被害者のSさんは、「どれほど多くの女性が声を出せずにきたか。セクハラ被害に対しての理解が必要」と訴えました。
パネルディスカッションで、元朝日新聞編集委員の竹信三恵子さんは、
「セクハラは、権力や強みを利用して、立場の弱い労働者の弱みにつけ込んでくる。被害者は働けなくなり、貧困の温床となる」と話しました。
現在、厚生労働省の分科会で、セクハラ労災についての認定基準や運用についての見直しが検討されています。
セクハラ被害の実態にそくして、広く労災認定がなされるような基準や運用指針を求めて、集会アピールが採択されました。

・「君が代不起立」不当処分
4月の入学式で、根津公子さんと同じ職場のあきる野学園教諭の田中聡史さんは、自らの信条に従い「君が代不起立」を行いました。

<田中さんの処分するな!都庁前ビラまき>

これに対し、東京都教育委員会は5月26日、田中さんへの処分、戒告を強行しました。
この日は朝から支援の仲間約20人が都庁前でチラシを撒き、処分をしないように訴えました。
根津さんはマイクを握り、
「歌の意味も教えないでただ従えということは、子どもから考える力を奪うこと。
今回の原発事故も、考えない・疑問をもたない大人ばかりになったことが遠因で、多くの人が原発安全神話に乗せられた。
君が代問題と原発問題はつながっている」と訴えました。

<処分決定した都教委に講義 傍聴から出てきた根津さんら>

田中さんの不起立は、抵抗の火が消えていないことを強く示すことになりました。
一方大阪では、橋下知事を中心に、「大阪維新の会」が府議会に大阪府立学校教職員への、卒業式等の君が代起立の義務化条例案を提出しました。
それに対し5月26日、抗議集会が開かれ、雨の中300人の教職員や保護者たちが集まりました。
橋下知事を支援する在特会は、街宣車で軍歌と君が代を大音響で流し、集会を妨害しようとしましたが、参加者たちは、君が代義務化絶対反対のシュプレヒコールではね返しました。
6月1日、大阪教育合同労働組合は、「条例で起立を強制しても、組合の不起立方針は変わらない」と声明を発表しました。

・名ばかり管理職裁判で勝利判決
大手コンビニSHOP99(=株式会社九九プラス)で勤務していた清水文美さんの残業代未払いならびに長時間労働による過労で労災になった件の損害賠償裁判の判決が5月31日、東京地裁立川支部でありました。
報告集会の映像がありますので、ご覧ください。

<報告映像>
清水:毎日毎日、薬を飲んだ。飲み続けた。良くなるようにと薬を飲んだ。でも未だに体が戻らない。私はやっぱり働きたい。そのことをこの場で訴えて、今後とも皆様と一緒に戦っていきたいを思っております。

清水さんはSHOP99店長として勤務していましたが、2006年8月7日から10日にかけて、タイムカード上で合計80時間以上の勤務をしていました。
また37日間連続勤務し、その結果うつ状態になり休職しました。
清水さんは、労働組合「首都圏青年ユニオン」に加入し、会社に対し、残業代の支払いを求めたところ、会社は、
「店長は労基法41条の管理監督者である」として、支払いを拒否しました。
そのため、会社を提訴しました。
判決では、会社に対して残業代の支払いと、長時間労働による過労への損害賠償を命じました。
約164万円の支払いです。
SHOP99は現在、ローソン株式会社の完全子会社になり、ますます規模が拡大しています。
どこの町にもあるコンビニの店長の働き方を変え、人間らしい労働を作っていきましょう。

【木下昌明の 今月の一本】

木下昌明さん

今月の一本「青空どろぼう」

<公害>

木下:あえて書いたんですが、皆さん公害というものはもう死語と化してしまったんじゃないかと思われてるんじゃないかと思うんですけども、しかし厳然と存在しているわけですね。
それが「青空どろぼう」なんですけども。
日本では、公害問題といえば、1970年代に起こった水俣病ですね。
それから新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市のぜんそく公害病。
この4つが主な公害病とされているんですけども、その一つを扱った映画が「青空どろぼう」という映画。
制作は東海テレビ放送というテレビ局なんです。
地元のテレビ局ですから、非常に興味深いのは、古い映像資料をふんだんに使って、四日市公害問題を歴史的に捉えている所。

予告映像
今から55年前、三重県と四日市市は石油化学工場を誘致します。
1960年代 三重県 四日市市
高度経済成長へと向かう、国策でした。
高度経済成長期 国策が生み出した あやまち
「助けてくれ」
「悪いこともせん人間が『助けてくれ』ゆうて死んでいったがな」
「一体誰が我々をこんなに苦しめとるんじゃ」
30代でぜんそくに蝕まれた漁師
原告患者の1人 野田之一(当時41歳)
「今から誤審ありがとうという言葉は少し差し控えさせてもらいます」
原告患者の1人 野田之一(現在78歳)
「あの工場から煙が消えた時にね、初めて『ありがとう』と言いますわ」
公害裁判を支えた男
40年以上現場に通い 公害問題を記録し続けた
公害記録人 澤井余志郎(現在84歳)
「だからもしあの公害裁判を野田さんたちがやってくれなかったら、あるいは負けとったら、四日市の人たちはひどい目にあったんだと思う」
判決から38年
「四日市公害裁判は日本の公害裁判の根幹をなす改革をしたんだからそれを関係者が知らないというのは危険ですよ」
忘れ去られてゆく「公害」
「よく言われる。『あんたらコンビナート憎くないのか』って。コンビナートで働いとる従業員はね、これっぽっちも憎く(?)ない」
たゆみなく、続く
「今は敵対関係でどうこうっていうんじゃなくて、お互いにやっぱり、四日市をよくするために、どうするか」
事実の記録と、真実の究明
( 「青空どろぼう」公式サイト )

木下:宮本信子さんがナレーションなんですけども、これがすごくいいんですよね。
落ち着いていて、温かみがあって。
ナレーションから言うのも変なんですけどね(笑)。

土屋:そうですよね(笑)。ナレーションから褒めるって。他に褒めるとこあっただろうっていう。

松元:「あのもくもくした煙を見てください」とか(笑)。

木下:予告編を観ると、患者さんはこの裁判で勝ったんですからね。
「もう公害は終わっただろう」というふうに皆さんも思ってるだろうし、音沙汰も聞かなくなっている。
しかし実際にはあのもくもくした煙、あれは現在なんですね。
それだけじゃなくてあの煙突が300本もある。
それを聞いただけでも驚く。
実際、どうして立ち消えのようになったかというと、1988年に「公害認定制度」というのがあったが、それが財界の圧力によって潰されてしまった。
そのため、公害患者がいても公害患者とならず、障害者みたいな扱いにされてるわけなんです。
だから実際には公害患者はいるんですけども、それでこの東海テレビのスタッフが磯津っていう地区を1件1件訪ねると、10世帯中1世帯が公害患者なんですね。
それからこの映画に出てくる2人の老人ですけども、(チラシの)右側が先ほど出てきた澤井余志郎さんですね。もう一人は原告の漁師の人で、野田一之さんですね。
非常に活動家で、地道に活動している人たちなんですけども、中でも澤井余志郎さんはずっと若い昔から公害問題反対の活動されてるわけなんです。
非常に地道に活動されていて、僕は当時の活動の記録を読んですっかり忘れてたんですけど、この映画を観て、「いやあ今もやっているのか」というこの驚きですね。
そういう、地道に活動されてる方がこの世の中にいるということは非常に勇気づけられますよね。
そういう人が中心に描かれています。
この人の半生もわりと丹念に捉えられていて、色々考えさせられます。
勉強になります。
活動家の人たちは是非観てほしいと思います。
この映画の中で、スタッフがコンビナート周辺の海に潜るシーンがあるんです。
海に潜ると、海底は真っ黒なヘドロなんですね。
魚1匹いないんです。
以前は豊富な漁場だったんですね。
その真っ黒な海を今はどうしてるかというと、観光船が走ってるんです。
若い人が夜ナイトクルーズで回ってるんです。
それで若い女の子たちが歓声を上げてるんですけども、それを見てゾッとさせられる。

松元:もくもく煙が出てる所を観光する?

木下:かなり距離を置いてます。川崎と同じなんですね。
工場外を、華やかな光を求めて、きれいだからって行く。
そういう意味では、この映画は今の東京電力の問題、そういうところと色々重なるところがあるんですよ。
だから、いかに日本の社会の縮図がここに現れてるかということを見るためにも是非観てほしいと思います。
ただ、福島で起こっていることは公害というより僕は

<国害>

「国害」と言ってるんですけど。
この大きな問題で、その原型みたいなものが、この映画で描かれてますから。
そういう意味でも是非観てください。

【特集 隠された被ばく労働を追って 〜日本の原発労働者〜】

樋口健二さん

松元:フォトジャーナリスト樋口さんは40年以上被ばく労働を追いかけてこられていて、以前イギリスのチャンネル4で取り上げられたことがあります。
その時のビデオを是非ご覧ください。

映像「NUCLEAR GINZA(隠された被曝労働〜日本の原発労働者)」

樋口「伸之さんは、どこで働いたんですか?」
嶋橋美智子さん「原発で働いてました」
樋口「おいくつの時から?」
嶋橋美智子さん「高校出て…だから18ですね」
樋口「おいくつだったですか亡くなった時」
嶋橋美智子さん「29歳です」
私は樋口健二。
20年前に出くわしたこういう話が
私の人生を変えた。
見聞きした事が、初めは信じられなかった。
労働者が炉心近くまで入って被曝し
放射線障害で病気になったり死ぬ人もいるなんて。
彼らは農民や漁民であり、大都市の『寄せ場』の労働者たちだ。
調べてみると
皆、自分自身に何が起きたのかわかっていなかった。
わかっていても、怖くて話せなかっただろう。
おどろいたのは、皆が同じ体験を語った事だ。
20年間ずっと私は
人々が気づかない日本社会の裏側の真実を暴いてきた。

松元:チャンネル4のビデオを観ていただきましたが、あれは何年前?

樋口:16年前ですね。髪の毛がもう少し黒かった(笑)。

松元:今の複雑な労働関係を説明していただけますか?

土屋:樋口さんお手製の

松元:図を書いていただきました。

樋口:本題に入る前に、労働形態とか、原発が何故入ってきたのか、この辺から話を進めたら非常にわかりやすくなるだろうと思います。
図を見てください。
まず労働形態ですね。
一番上に原発ですね。これは9電力。
その下に元請け。
ここが大きな問題を持ってるんですね。
実は元請けというのは、原発本体を作ってる会社。
三井グループの東芝、三菱重工、日立。
この3社が今日本の原発を作ってるから、これを国策にして、そしてこれを売り込もうという段取りができていたわけですね。
ここで見ていかなきゃならないのは、労働組合をここで見てください。
これは連合です。
連合は電気労連、電労連、を含めて、この労組が労使一体で原発を勧めていると。

松元:こないだ電力総連に行ってきましたけどそういうふうに言ってましたよ。

樋口:そうですね。
これが民主党の選挙母体になってるわけですね。
だから選挙で少し変わるかなと思ったんですが、変わるわけがなかったですね。
9電力、元請けは絶対に原発に入らない部類。
その下を見てください。
下請け、孫請け、ひ孫請け、更に人出業。
ここであなたが言ったように協力企業という呼び方は一切しないでくださいと。
下請け、孫請け、ひ孫請け、人出業、これをマスコミは仲介業と言ってますけど、これは言葉をやわらげたんですよ。
協力企業ではありません。
未組織労働者の部類を見ていただければわかるように、ここに差別の実態がある。
この労働形態は石炭産業時代から続いてる。
人出業の中には親方制度、ここに暴力団が食い込んできましたね。
「仲介業」なんて名前をつけちゃいけない。
これはマスコミに電力会社が言わせたことなんだよね。
つまりどういうことかというと、私が今まで本を書いたり、写真展をやってる中で、差別構造ができてんだってことを明確に言ってきたもんだから、電力会社が困ったんだろうね。
そういうことで協力企業という呼び方をさせたんです。
ついこないだ東京新聞が、僕にインタビューをしてきましたけども、「この言葉は使わないでください」と。
あくまでも「下請け労働者」という言葉を使ってくださいと言ったらちゃんと書きましたね。
これが実態としては一番正しいと。
人出業の下に無数の日雇い労働者ね。
これに農・漁民、あるいは被差別部落民、元炭鉱労働者、あるいは寄せ場ね。
その他は都市労働者がだいぶあぶれだしちゃった、この人たちも入ってますね。
さらには黒人がかつてはたくさんきてたんですよ。
僕の本の中にもある。
差別構造、ついでに日当も見てくださいね。
原発からは大体日当7万くらい出てる。
これは危険手当も含めてね。
人出業の辺りで大体3万円どまりだと思ってください。
親方が大体2万円をピンハネしておりました。
これは僕が取材をして明確にわかったことですね。
最近は「FLASH」って雑誌の記者が、僕んとこ一番最初に来ましたね。
被曝問題やりたいって。
その時に、ハローワークで資料とってきたら、9000円〜11000円だった。
ということは40年前から変わってないということ。
むしろ僕に言わせると仕事がなくて、9000円ってのはまだいいお値段ですよ。
下請け、孫請け、ひ孫受け、ここには絶対組合ありません。
ここだと18万ぐらいですよ。
本題に入りますけど、29歳で亡くなった、慢性骨髄性で亡くなった嶋橋伸之君の場合は、18万9000円くらいの給料しかもらってませんから、1万円もらってないということだね。
こういう実態がありました。
だからもっと安いんだというふうに思ってください。

松元:毎日行くわけですよね?

樋口:そうです。
これ70年〜09年だから原発に関わった総数は200万は越してますね。
その4分の1の50万人が被曝労働者だというふうに考えてもらわなくてはいけませんね。
原発に入るということが前提になりますから、1回入っても、たとえ1ミリレム=1ミリシーベルトでも、被曝したと考えてもらいたい。
そういうことを考えると50万人以上なんだと。
さてもう一つ説明させてください。
原発労働者を150人ぐらい取材しましたけど、作業内容を聞くと、人体だけしっかりしてりゃいいわけで、色んな技術もいりません。
放射能除線作業ってのは、ぼろ雑巾で床を拭いてる、そういう作業が圧倒的でしてね、床拭き、パイプ掃除、ランドリー。
ちょっとここで写真を。

<写真:オレンジ色の防護服を着た作業員>

原発ってのは僕も最初は、コンピュータで動いてると思っていたんですよ。
ところが被曝労働者を追ってくと、宇宙人とか、途方もない話がでてくるじゃないですか。
毎日マスクをしたとか。
そういう話を聞いて、原発に入らざるをえなかったわけですが、この写真の通り、見てください。
これが敦賀原発の定期検査中で、重装備。
おそらく世界で誰も撮ってないんだよね。
これは欧米で写真展をやって、うれしいことに日本では疎外されました私は。
反国家的写真家ですから。(笑)
マスコミとも戦ってきたわけですけど。
欧米で私を評価してくれましてね。
「核のない未来賞」をくれた時に、たくさんの欧米の人たちと話しましたけど、定期検査中の写真ってこれしかないんだそうですよ。
だから非常に貴重な。たった2点ですが。
もう1点。
この労働服を、汚れたからっていって、捨てるわけにいかないんです。
とても高いものだそうですから。
(図に書いてある「仕事内容」の中の)ランドリー、洗濯ね。
(この仕事で労働服を)洗うんですよ。
大きな洗濯機があって、(大量に写真の)服を洗うわけですよ。
途方もない被曝をするんだそうですよ。

<写真:労働服を洗濯のために脱いで裸の労働者たち>

松元:洗うことで被曝する?

樋口:そうです。
乾燥させたりする時に被曝する。
ランドリー、この仕事も非常に多いですね。
それからパイプの補修。

<写真:原発内部の膨大なパイプ>

樋口:原発の中は皆さんこの通り。
パイプの森ですね。
これが炉心部へ直結してます。
これが稼動してる時は振動が非常に激しい。
これがひび割れを起こしたりするようになりますね。
パイプの補修、掃除、こういう仕事も非常に多い。

松元:パイプの表面を拭いたりするんですか?

樋口:もちろん、それから中も。
点検しなきゃなりませんね。
パイプ補修、点検も大変な仕事です。
さあそして(図に書いてある「仕事内容」の中の)スラッジね。
これは放射能ヘドロですから。
どこの原発いった連中にも聞いてみましたが、これは大体地下1階ぐらいの所に(ある)、スラッジタンクに入って(作業する)。
凄まじい放射能なんだって。
もう何十ミリレムなん数字じゃない。
何万レムという。
そういう放射能が溜まってるんですね。

土屋:想像できないですね。

樋口:想像できない。
今回の東電でもそうでしたね。
酸素ボンベをしょっていきましたね。
いわゆる宇宙人だよね。
あの格好で、数分でアラームが鳴りっぱなしだと。
ピンホールを見つけるために(ヘドロを全部)かい出して、更にこすって、そして水を入れて、そしてピンホールを見なきゃならない。
こんな仕事の時には、「死の労働」だと思ってください。
さて次は(図に書いてある「仕事内容」の中の)廃棄物処理。
単純な作業なんですけどね、処理だとか運搬ね。
更に機械類の運搬。
それに配電盤の点検、補修ね。
それから溶接作業、サンダーがけ。
他、聞くと300種以上の手作業やって原発は動いてるんだという話が聞けました。

土屋:これ全然専門職じゃないですね。

樋口:ええ。
これは専門職じゃないです。
要するに肉体がやる仕事なんです。
誰でもできる。
これ本当は女性は入っちゃいけないんだけど、もし女性も入っていいっていったら、女性も入るでしょうね。

松元:女性は入ったことがないんですか?

樋口:女性は入れないようにしてありましたけど、今回は入ったじゃないですか。
ああいうデタラメが出てくるわけね。
さあそして、被曝線量は年間50ミリシーベルトですね。
(1ミリシーベルト=100ミリレム)
これはあくまで国際放射線防護委員会が決めたもんなんですよ。
5年間で100ミリシーベルトを超えてはならないんだけど、今回は途方もないこと言ってますね。
緊急時だということで、100ミリシーベルトを超えて、250ミリシーベルト。
おそらく今回これに行った人たちはこの10年間の間に僕はほとんど死んでいくと思いますね。

土屋:単純にこれ5倍ですよね。

樋口:凄まじい。
これをなんて言うかというと、これあくまでも労働者に課せられた「我慢線量」と。
勝手に原発をすすめる各国の偉いさんたちが決めたことなんですよ。
そういうふうに考えていかなきゃいけません。
大変な放射線量ですよ。

土屋:あいつらこれくらいでも大丈夫だろうというのは適当な数値?

樋口:僕はそう思いますね。
だって50ミリシーベルトを超えてれば功労賞で、認定することになってるじゃないですか。
認定をするっていうことは途方もない放射線量ですよ。
それを今回は9ヶ月くらいで終息をさせるっていう意味は、僕は250ミリシーベルトでは間に合わないと思いますね。
ソビエトのチェルノブイリ、あの時緊急時に500ミリシーベルトになってますから。
僕はこれに上げると思いますね、最終的に。
そうでなかったら9ヶ月くらいで終息できるわけがありません。
1基じゃありませんよ。
殆ど(福島原発は)ダメですから。
ましてメルトダウンを起こしましたね。
僕は最初からメルトダウンを起こしてると言ってたんですけど、嘘ばっかり言ってきましたね。

<写真:左から2ミリシーベルトポケット線量計、熱蛍光線量計(TLD)、アラームメーター>

樋口:こういうのを持って行くんですけど、労働者が(持って行く)被曝計器と内部被曝計器について話しましょうね。
原発というのは中に入ればまず放射能を受ける。
放射能を受けちゃいけないから先ほどのようにマスクをしましたね。
僕の写真ではマスク、半面マスクでしたね。
労働現場では全面マスクね。
さらにもっとひどい労働現場では酸素ボンベを背負うか、あるいは酸素ボンベを現場に置いといて、そこからホースを出して。
3人が入った話を聞きましたけど、酸素ボンベを持ち込んで、そこから10メートルくらいのホースを3つ出して、それで仕事をやったと。
アラームメーターは鳴りっぱなしだったっていうね。
これを3つの神器、神の器と書きます。
右がアラームメーターですね。
セットした線量の放射線にあたるとアラームが鳴る。
これはかつてのナショナル製。今パナソニック。
これが危険のしるし。
これが生命線ですよ。
ところが今回の東電にいたっては、この数が足りなかったとかね。
途中で壊れたとかね。
僕に言わせると危機管理のなさったら。
この会社はもうダメですね。
僕に言わせると「殺人企業」と言ってもいい。

土屋:人の命何とも思ってない。

樋口:下請け以下の人たちは、機械以下のものと考えてきたんじゃないかと僕は思ってる。
だから僕は許せないし、40年近くこの人たちを表に出さなきゃいけない、それで僕は追及してきましたから。
さて次は、アラームメーターの横は熱蛍光線量計、TLD。
これがフィルムバッヂです。
この中にモノクロームのフィルムを入れてあるんですよ。
放射線があたることで感光しますね。
感光したものを現像。
現像所は1ヶ所しかないですよ。
それをコンピュータではじきだして、何ミリシーベルトっていうのを放射線管理手帳に記録していく。
写真左がポケット線量計。
2ミリシーベルトを超えると針が飛んで見えなくなる。
これだけの計器を持ってなきゃいけない。
アラームメーターが足りなかったっていうのはどういうことなんでしょうね。
命綱。
潜水夫でいえば、酸素が途中で切れたのと同じじゃないですか。
写真3つは外部被曝計器です。

松元:次に内部被ばく。

<写真:ホールボディーカウンター測定中の労働者>

樋口:全面マスクやエアラインマスクなどをして(作業現場に)入る。
ところが電力会社は格好いいことを言いますよ。
「マスクは外してはならない」と。
だけど皆さん想像してください。
原発の中で定期検査や、事故故障の時は原発止まりますよ。
そしたら30度から50度の温度があるわけね。
おそらく全面マスクに至っては、自分の息と外の湿気で殆ど見えなくなる。
労働者の宿命は、賃金をもらうために、下請け以下の仕事はノルマ仕事なんですよ。
ノルマをこなさない限りはお金がもらえないというシステムね。
賃金のために、どうしても仕事をこなさなきゃいけない。
アラームが鳴ってるからといって外に出ていいってんじゃない。
そうすると嫌でもマスクを外すんだそうですよ。
多少はいいだろうって。
仕事にならないから。
それを慣れてくると順に繰り返す。
そうすると内部被曝を起こしますね。
(ホールボディーカウンターに入るということは、内部被曝を起こしている可能性があるということ)
各電力会社にホールボディーカウンターが置いてあります。

松元:MRIみたいな。
ここを通るんですよね?

樋口:ええ。
ここに人間が乗って通る。

松元:これ頭ですね。

樋口:でも亡くなった高木仁三郎さんに「みんな置いてありますね」と言ったら、
「これはγ線のみしか計測できない」って言ってました。
相当β線も確かありますね。
そういうものをキャッチできない。
今はどうか知りませんよ。
多少改良されたものが置いてあるかもわかりません。
労働者がどうしても(ホールボディーカウンターに)入らなきゃならないわけですね。
当時は大体3ヶ月に1回、あるいは事故故障の時は請負仕事ですから、1週間2週間と早く帰る人たちがありますね。
それは仕事が終わった段階で入っていく。
内部被曝ということがあまり言われませんね。
先ほどの図に書いてある、50ミリシーベルトの中に内部被曝は入ってません。
そういうことを考えると抜け穴がいっぱいあってこれはもうザル法なんだというふうに考えましょう。

松元:40年前からの原発労働者の装備や働き方を今までお聞きしてきましたが、今のお話だと殆ど変わってないということ?

樋口:変わってるどころじゃない。
変わる余地がないじゃないですか。
労働の形態は全く同じだしね。
それから原発そのものが。
新しくなったのは新しい機械。
それはたくさんないですよ。
日本の和製原発はまだね。
ところがアメリカから入ってきた機械は54基のうちおそらく半分くらいあるんですよ。
これが古い。
っていうのは放射能がワンサカ出てるわけじゃないですか。
ということは40年前も現在も全く変わってない。

松元:それは何故か?

樋口:機械そのものが変わってないからですよ。
古い機械だから。

松元:それも勿論そうですが、会社や政府の対応とか、人々が声をあげてきたのか?
それはこちらの本「これが原発だ」に触れられてるんですけども、今の東電の態度、それから政府の態度、そうったことは40年前と比べてどうですか?

樋口:全く変わっておりません。
むしろ悪質になりました。
下請け以下に緘口令をしきましたね。
特に僕が写真を撮って、スクープになって、これは電力会社にとってマイナスでしか出なかったね。
こんな不都合なかったもんだから、相当の締め付けを会社にしたわけだね。
今も東電は緘口令でしょ。
全然話してないじゃないですか。
時々NHKが言いますが、あんなの本質は何も話させてない。
地震の時どうだったとか、この程度ですね。

松元:著作「これが原発だ」にも触れられてますが、樋口さんはすごく苦労されて取材なさっている。
私が原発労働者に取材しようとしても、一言も話さなかった。

樋口:労働者に話を聞くっていうことは、プラスになることは1つもありませんね。
おそらく本当のことを労働者は話しますよ。
僕は電力会社の話を聞いて、そして労働者や潰された労働者、病気になってる人たちの話を聞くと、もうまるっきり、地球の裏側の話になるわけ。
これくらいの違いがあるってこと。
電力会社にとって決してプラスになることを言ってくれない。
当たり前のことですね。
本当のことを人間言うわけです。
そうすると緘口令をしくしかない。
緘口令を何故したかというと、こういう小さい会社、彼らは協力企業と言ってますけど、ここをおさえないと大変なんだよね。
全部本当のことが出ちゃったら。
原発止めなきゃならなくなっちゃう。
だから今も同じように、何もしゃべらせない。
今もしゃべらないですよ。
みんな福島の小名浜に原発労働者来てんだけど、誰一人。
僕んところにも数人の記者たちも来ました。
「喋ってくれません」って。

松元:樋口さんは福島に行ってらっしゃるんですか?

樋口:僕は実はJCOの翌日に無防備で入ったもんだから、今、体がおかしくなっちゃってるの。
鼻血が出て、白血球が下がったまんまで、いっこうに上がりません。
医者に今「樋口さん、今回だけはやめなさい」って止められてるの。

松元:JCOにはいつ行かれたんですか?

樋口:1999年の9月30日にJCOの臨界事故が起きたよね。
翌日、ひどいところに入っちゃってたんだよ僕が。
無防備だった。
何故って、3人の労働者が凄まじい被曝を受けて、僕は行く予定なかったんだけど、労働被曝、これ撮らなきゃいけないと。
あの人たちは撮れないだろうけど、村がどうなってるかという思いで入って、一日取材したことが僕に被曝をさせちゃったんだよね。
だけどそのおかげで、7月には素晴らしい写真集を出すつもりです。
今回入れますから。
その理由も書きます。
7日、8日には福島の南相馬だけは回ってきます。
今度は、いくつかの例を挙げたいじゃないですか。

松元:その前に、これを見せたいんですが。
これは元請けの、管制塔みたいな所ですかね?

<写真:コントロールセンター内部>

樋口:そうです。
これがいわゆる電力会社ですよ。

土屋:日当7万。

樋口:これがコントロールセンターという呼び方をしておりまして、最初の頃マスコミはここへ行ってここの映像を流したわけですよ。
左からパーンして、「現代の粋を集めた科学の結晶だ!」と。

松元:スターウォーズみたい。

土屋:すごいハイテク!みたいな感じしますよね。

樋口:この映像を流したばっかりに下請け労働者たちの被曝の実態が出なかったわけですよ。
僕は犯罪的行為をしたな、と思ってます。

松元:ところが、私たちが話している作業員はこのような。

<写真:原発で働く労働者たち>

樋口:渡り労働者たち、結構若い人たちおりますね。
20代30代ですよ圧倒的に。
今だって、地方へ行けば、仕事がないのよ。
20代の若者に「行くな!」って僕しょっちゅう声をかけるんですけど。
辻々にいるバスが送り迎えするわけ。
本当に気の毒だね。
このような人たちが先ほどの嶋橋君のようになっていくわけですから。
嶋橋君がこの写真の10年後20年後だと思ってください。

松元:行くなと言っても食わなきゃいけない。

樋口:生活もある。
日本の場合、原発管理社会を作って、こういう社会構造を作られてるわけでしょ今。
行かざるをえないようになっているわけですよ。
こういう人たちが原発の中に入って手作業をやって原発を支えてると思っていただかなきゃいけませんね。
コンピュータで動かしてるってわけじゃない。
コンピュータはありますよ。
事故故障の時には赤ランプがつくようになってるんですけど、それを見ている人たちがエリートなんです。
原発を止める時にはこの写真の人たちを使うってことね。
これを知っていただきたい。

松元:本にも書かれておりますが、下請けの労働者の中で組合を作った方がいると。
今それがあるんだったら是非。

樋口:今もうないんだけどね。
この写真は敦賀原発の定期検査中、今はもう廃炉になってる1号炉です。
35万7000キロワットで非常に小さい原子炉でしたが、1日1500人入ってましたよ。
今おそらくそんなもんじゃないね。
100万キロワット級になると2000人くらい入らないととても定期検査できません。
今だって1000人くらい入ってるでしょ。
この写真の原子炉で1980年、連続事故隠しが内部告発によって出た。
敦賀原発ってのは事故の象徴的な会社ですから。
連続隠しが出た時、下請け労働者を500人クビにしたわけですよ。
一挙に何の理由もなく。
ひどいことをするじゃないですか。
そしてその中から「許せない」という人たちが出た。
大阪の運輸一般の人たちがバックアップして、日本で初めての原発労働者、原発をクビになった人たちが(組合を)作った。
そこで委員長になったのが僕と長いつきあいをしている斉藤せいじさんね。
それから書記長がながみちおさん。
この方は早く亡くなりましたね。
相当な被曝をしたと思いますけどね。
その人たちが一生懸命日本の原発を渡り歩いて、とにかく組合に入らないから渡り歩いて。

松元:渡り歩いたんですか。

樋口:車でね。
オルグをして歩いたんだけど、130人ぐらいしか入らなかったのかな。

松元:すごいじゃないですか、130人。

樋口:でも当時(にしては)。
それは敦賀で入っただけなんですよ。
他の原発では誰も入らなかった。
それはやっぱり抑えられてたんだよね。
とんでもない、組合を作るなんてもってのほか、ってことよ。
敦賀の人たちは138人ぐらい。
ところが斉藤さんの家にはものすごい嫌がらせがあって、石を投げ込まれたり、もうめちゃくちゃにされて、奥さんも彼も住めなくなってどっか引っ越すような状況もありましたけどね。
たまたま小さい呑み屋なんかやってたでしょ。
そういうことで暫く閉店するようなこともやってました。
彼も一生懸命動いたんですが、結局労働者が入ってこなかったんだよね。
下請け孫請けなどの上層部が一切労働組合に入れさせないようにしたってことよ。

松元:電力総連もそうですが、全部電力会社ってユニオンショップになってるんですよね。
そこの会社の人たちも一応は組合員ということになってますけど。

樋口:それは僕に言わせりゃ、組合って自分たちだけは、こういうことね。
日立の当時委員長だった、今は違うけど、鈴木さんて人に会いまして。
その時に、「私の所には原発による被曝は1人もおりません。いたら私の前へ連れてきなさい」と。

松元:この写真だと被曝のしようがないですもんね。

樋口:「自分のとこの労働者は絶対に入れません」って言ってました。
つまり誰を入れるかってことになるわけよね。
下請け以下、電力労連、電気労連、つまり連合組合って人たちは危険な所へは入らないから、我々は大丈夫よと。
俺らは入らないけど、下請けがいるんだよと。
こういう差別的な発言があった。

松元:今現在、下請け労働者をオルグして回るようなことは可能なんでしょうか?

樋口:いや、おそらく今の段階じゃ無理だろうね。
今の段階じゃ無理だろうけど、この機会を捉えて、いい意味のオルグをしていく人たちが出てこなきゃいけませんね。
レイバーネットもそうでしょう。
こういう人たちが、どんどん行って根気よくやるしかないね。
こういう小さい会社へ。
おそらく認識は、この(下請け以下の)労働者たちもしたはずですから今回。
それから東電の組合には入りたくないって部分もあると思いますよ。

松元:樋口さんが個人的に下請け労働者とおつきあいしていて、組合の話は出たことあるんですか?

樋口:ないね。

松元:中に入りたくない、とかは?

樋口:そりゃありましたよ。
入りたくないけど、生活がある、このジレンマですよね。
僕は「入らなくたって人間は知恵のある動物じゃないか。この仕事辞めたってなんか他でないの?」とよく言いました。
だけどそれには出稼ぎをしなくちゃいけない。
こういう社会構造。
原発があるからこそ食えるんだとか、これは作り上げたことだから、国が。
だから簡単じゃなかったよね。
出稼ぎはみんなしたくなかったから、福島辺りの人たち見てごらんなさいよ。
皆口コミで原発に入って、被曝をして、亡くなって、病気になって、苦しんだわけでしょ。

松元:私もこないだ南相馬、双葉、浪江の方たちとお話してるんですけど、原発関連の仕事をされてる方たちが多くて、中で仕事をされてるんじゃなくて、例えば事務用品、左官、など、とにかく原発と繋がった仕事をされてる方が本当に多いんですよね。
原発がなくなったら、そこに関連する方たちが殆ど仕事を失う、または自営業の方とか。

土屋:深く根付いちゃってるよね。

松元:原発で生活が回ってる感じですもんね。

樋口:でもね、それを壊さなきゃいけないんですよ。
人間は他の動物と違って知恵があるわけでしょ。
原発がなくなったら食えなくなるみたいなこと言ってますけどね、また新しいことを考えればいいんですよ。
考えなきゃいけないんですよ。

松元:代替の事業を。

樋口:人間は生きてるわけでしょ。
ただ何が必要だってことわかってくるわけじゃないですか。
今原発を主にしているから、皆そこへ集中しているわけだからさ。
これが変わらなかったら体制も変わらない、と私は思いますけどね。

松元:原発の建つ地域は過疎化が進んでいたり、農業しかなかったりなどそういう所ですが、代替としては何が?

樋口:具体的に何をやったらいいって?
そこまでは僕自身は考えなかったけど、これからは皆生きていくためってのがあるわけでしょ。
生きていくために原発労働に入っていった、これを変えるシステムってのがあるだろうと思ってますよ。
人間がいるっていうことは、色んなものを買ったりしなきゃならない。
そういうことを考えるしかないじゃないですか。
だから原発のない地域はどういう生活をしているかっていうことをまず考えてみりゃ。
色んなもの必要じゃないですか。
食べるものだって。
そういうふうに考えていきゃいいわけでさ。
原発に集中しなきゃまんま食えないって、その発想を捨ててかなきゃ変わらないですよ。
僕はそういうこと以前に、(図を指して)こういうことをなくさないと人間生きられないってことよ。
だから生活とか何とか言うんだけど、生活のためだったら仕方ないじゃないかていう発想になるとね、この問題もなくならない。
原発も必要になってくる。
これじゃダメ。
だから原発をまず止める。
止めることでどうしたらいいかってことは人間考えますよ。
原発のない岩手とか、ここの人たちの生き方見てりゃわかるでしょ。
あのスタイルで生きていくんですよ。
必ず経済を発展させる力が出てくる。
具体的に、労働者が潰された話をしたいじゃないですか。
具体例を話させてください。
僕の意識を大きく動かしてくれたのは、福島第一原発で働いていた1人のおじいさんの話をしましょう。
佐藤茂さんていう方。
この方は毎日、彼の言葉を借りると「毎日宇宙人のような格好をした」と。
仕事は床拭きみたいなことをやったわけだね。
熱くて苦しくて、面=マスクなんかしてられない。
音の出るもの=アラームメーターのことね。
これに出てこないかな。

<写真:病床に臥す原発労働者>

みんな倒れていきゃ寝るしかないんだよね。
双葉厚生病院、今回の事故で院長が逃げ出したっていうとんでもない病院がありましたね。
あそこも交付金でできた病院ですよ。
相当いい加減な病院ですよ。
僕も(双葉厚生病院に)佐藤さんの病名を聞きに行きました。
そしたら、骨転移癌って言ったよね。
本人は黒点癌って言ってたから、黒点癌って聞いたことないなって。
それを調べに行って院長に会いましたら、骨転移だと。
骨に転移していると。
それだけわかりましたから、医者にも見離されて、自宅へ帰って。

<写真:自宅療養中の佐藤茂さん>

このおじいさんが、既に黄疸になっておりましてね。
おばあさんが疲れきってね。
これ隠居部屋ですけども。
最初、東電の人間と僕を間違えたらしくてね。
何か調べに来たんだろうと、息子さんがなかなか入れてくれなかった。
ところがお嫁さんが横のほうにいるんですけど、僕が「たくさんの被曝労働者を取材して歩いてるんですよ」と話したら、おかみさんが息子さんを説得してくれた。
「この人の言ってることは東電(側)じゃない」と。
そしてこの隠居部屋にあげてくれました。
このおじいさんが先ほど言った、「毎日宇宙人のような格好をした」と。
それまであまり聞いてなかったんだよね。
原発の中で宇宙人みたいな格好するって。
だってコンピュータで動いてると思ってるんですから。
僕も最初の頃は相当能天気だったんですよ。
国の言うことを信じていたんだ。
その信じていたのを労働者たちによって覆してきたわけですけども。
このおじいさんが「熱くて苦しくて、面(=マスク)なんか外して」
「音の出るもの=アラームメーターがうるさくてしょうがないから床に叩きつけて、そうして働いて今この有様だ」
って言って涙を流した。
これは中に入らないことにはどうにもならんなと。
だからこのおじいさんの言ったことは、私の背中を押してくれたんですよ。
お前は原発に入らなきゃ何もわからんぞ、と。
そして先ほどお見せした写真に繋がってくわけですね。
「この次にはまた写真を持ってきますね」と3ヶ月後に伺った時、既に遺影になりました。
これはショックでしたね。
1人原発労働者を追うと、芋づる式に上がってくんですよ。
あそこでも行った、ここでも行った、って。
福島の人はだいぶ取材しました。

<写真:原発内部作業風景>

松元:これが世界で有名になった写真ですね。

樋口:おじいさんもこれと同じように全面マスクと。
東電は白い服ですからね。
だから各原発によって服装が違うと思ってください。
当時赤服が危険な印だったの。
管理区域ぐらいだったら黄服。

土屋:場所で色が違うんですね。

樋口:それで僕が写真展や写真集などで「赤服は危険な印」と書いたから、この敦賀原発の、日本原電は次に何を考えたと思いますか。
服装を青にしたそうです。

(一同笑い)

土屋:(笑)腹立ちますね。

樋口:その辺のレベルなんだよね。
改良つったら。
青くすればブルーだから、綺麗になったと思い込んだんでしょうね。
それを付け加えときますが。
こういう所でおそらく働いたわけです。もっと炉心部ね。
丸い中の奥、あの先が炉心部です。
あの中に格納容器、圧力容器が入ってる。
これに先ほどのパイプがみんなくっついてる。
人間の手作業なくして原発は動かないと立証したと思ってください。

<ツイッターより>

KuraYashikiYukiさんから。
内部被曝が怖い。現時点でどの位被曝しているのか私もホールボディーカウンターを利用したい。
一般人がホールボディカウンターでの測定を希望する場合、どこを受診したら良いですか。

樋口:可能。
国に要求するべきだね。
国策ですから、国に要求してください。
各病院にはホールボディーカウンターがあるんじゃないか。
まず県に交渉して、これは1人じゃなくてみんなでやればいい。
周りの人たちみんなで行って、県に「内部被曝の検査をしてくれないか」と言うと、じゃあどこでやってると。
一番いいのが長崎の医学部にホールボディーカウンターがあるんですよ。
広島にもありますね。
東大にもあるはずですよ。
あと千葉の放医研ね。
ただ放医研は国の機関のものだから、僕はあまり薦めたくないですね。
国ってのは今まで全部嘘を言ってきたじゃないですか。
放医研ってところはそういう所なんですよ。

nandemoya8783さん。
「鼻血が出て」・・関東の子どもたち、お医者さんで血液検査して白血球数を調べてもらわないと。

樋口:当然です。
僕と同じなんです。
東海村のJCO臨界事故の翌日に入って、僕も殆ど無防備でした。
とにかく写真を撮って、歴史を今のうちに作らなきゃいかんと。
一日、夜までいましたからね。
それが後で響いて。
僕の場合は6〜7年目だったと思います。
まず鼻血が出ましたね。
何回も出たからおかしいなと医者に行ったら、「樋口さん、これは血液検査しよう」と。
「あなた一体何したんだ」と言うから、こういうわけでしたと言うと、「うーん、今頃言っちゃ困る」って言われた。
大きい病院で見てください。
かつて都立府中病院が今多摩医療センターになりましたね。
ここに血液内科があるから、ここに行って調べてくれと。
そして、まず血液検査をする、月々やるのが一番いいと思いますけどね。
そうするとどういう状況になるか。
これはなにも東京へ来なくたって、県立病院があるでしょ。
福島大学の病院もあるでしょ。
そういうところへ行って血液検査。
僕の場合は、もう一度調べようということで骨髄液もとりました。
そうしたら、再生不良性貧血というとんでもない病気を背負ってますから。
これは自分でやったことだから、誰にも文句言えないんですが。
そういう結果が出ない前に、早く白血球の検査をしてください。

松元:早めにやったら結果は違うんですか?

樋口:違いますよ。
原発から帰ってきてすぐ血液検査をしておけばよかったじゃないですか。
そしたらこういう所に行ってきたという医者の証明があればよかったの。
そういうことをしなかったの。
是非とも近くのお医者さんをまず訪ねる。
あるいはもう少し大きい病院に行く。
場合によっては骨髄液も取らなきゃいけないかもしれませんよ。
早いほうがいいですよ。
自分で勝手な判断をしないこと。
早く病院へ行ってください。
大きいとこね。

nandemoya8783さん。
・・定期点検がいちばんきつい労働でいちばんたくさん被曝するって、誰か書いてたなあ・・。

樋口:その通りです。
つまりかつては3ないし4ヶ月かけて定期検診行ってました。
1基の原発。
ところがこれだと効率が悪いと。
必ずこれですね大会社ってのは。
こうやって労働者を潰すわけですよ。
最近は、40日〜60日でやるわけですよ。
地上6〜7階あるわけでしょ。
相当なもんですよ原発は。
そんなに大きいんですよ。
そうしたらたくさんの労働者が徹夜でやるんだから。
徹夜じゃ絶対やってませんって言ってましたよ、敦賀原発では。
ところが僕が朝早く入り口で待ってたら、たくさんの労働者が出てきて眠そうじゃない。
「あなたたち、もう出るんですか?」と言ったら、
「いや夕べ徹夜なんだよ、これから帰って寝るんだよ」って。
そのことを電力会社に言ったら、「絶対そんなことはさせてません」って。
だって今の東電を見りゃわかるでしょ。
全部嘘じゃない。
嘘を言って当たり前だったの、電力ってのは。
これは国策っていうバックがあったってことだね。
信用しないこと。
質問者さん、40日〜60日であの巨大な原発の中を全部やるとしたら、相当の人が入らなきゃいけないし、時間も相当かけるよね。
被曝が一番増えていくわけ、特に。
そう思ってください。

akiaki51さん。
原発を支える社会構造を変えなくちゃ駄目なのだ

樋口:その通りだね。
だからやっぱり、食う食えないの問題じゃなくて、まず命の問題ですから、この社会の構造を変えるってことはまず原発を止めるってこと。
止めなきゃダメですよ皆さん。
僕は今だって日本潰れてるって思ってますよ。
空気も、空も、水も、みんな汚れちゃったですよ。
この東京だってたった220キロですよ。
相当なもの飛んできてるでしょ。
新宿だってすごいじゃん。
相当考えなきゃいけませんね。
学者が放射線量が少なければ大丈夫だって言ってるけど、あれは真っ赤な嘘だと思ってください。

土屋:ああいう学者は平気なんですかね。人間の良心とかないのか。

樋口:良心はありません。

(一同笑い)

樋口:どういうことかというと、今回TVに出てきた人たちはお金をがっぽりもらったわけよね。
もう虜になってるの。
悪いけど。
お金の虜と、巨大原子力産業、国家プロジェクトですよ。
そこの圧力の中で、恐らく放り出されてきたようなもんだよ。
そう考えなきゃいけませんよ皆さん。

土屋:安全だと言い続けることしか彼らも生きる道がない。

樋口:そうなんです。
だからこれからまともにあの人たち出てこれるのかなと僕は思ってますけどね。
だって国民に嘘を言ったわけですから。
そう思いませんか?
そういう人たちを糾弾することもとても重要だと思ってます。

<スタジオより>

会場:樋口さんは大変な中、何故弱い立場の人たちを何十年も取材するのか?
その精神はどこにあるんですか?

樋口:実は私も(図の中にある下請け以下=)ここの人たちと同じです。
僕自身が日雇い労働者になる寸前だったと思ってくださいね。
私も長野県の寒村の生まれで、僕で8代目の農民です。
つまり百姓だよね。
僕は「百姓」という言葉はとってもいい言葉だと思って、使います。
皆さん百姓という言葉を嫌がる人がいますけど。
農民は100以上の仕事があるから「百姓」って言ったんです。
勘違いしないでくださいね。
だから僕は胸を張って百姓と自分で言いますけど。
この、農業をやる宿命がありました。
しかし食えないから僕自身が出稼ぎで、東京へね。
そしてやがて農業を捨てたわけです。
そして労働者になりました。
その体験から、労働者と農民と、自分が体験する中で、社会を見てみたら、やっぱり僕と同じ人たちが社会を支えてるんだと。
それでこの人たちは常に、日本社会では差別を受けてるんじゃないかと。
口ではみんな言いませんけど。
具体的には、底辺労働者です。
これ(図の下請け労働者を)見てください。
僕と全く同じ人たち。
この人たちのせめて代弁をしてあげたいなと。
これが僕を支えてくれました。
そして、今まで取材をした人たちが、みんなつらい思いを。
中には、訴えてくださいって言ったんですよ。
150人の中には、いざ本になると言ったら、「それはやめてください」と。
親戚が(原発に)行ってるとか、兄弟が行ってるとか、この地縁血縁ね。
これで殆ど本にならない。
出しちゃってもいいんだけど、訴えられでもしたら大変だからやめたんですけどね。
さあ、地縁血縁という、日本には悲しい文化があります。
しかしこれは、地方だけじゃございませんよ。
エリートの世界だってもっとありますよ。
今回、ワシントンポスト紙が、私を取材してくれて、
「日本人はどうして大会社の人たちが、これだけの事故を起こして内部告発をしないんだ?」
と言うから、これは地縁血縁ていうのがあってね、大企業や、高学歴社会を出れば出るほど、皆親戚だとか、兄弟だとか、皆大会社行ってんだよ。
それでこれ(図を)見ると、三井、三菱、日立、住友、こういう大会社行ってるわけです。
これがまた地縁血縁なんだよね。
だから、エリート社会も、最下層の社会も、皆構造は同じですよ、って言ったら、「…ああ」って言いました。

(一同笑い)

樋口:つまり日本人は、どうしてそこまで遠慮するんだ、って。

土屋:いつまでたっても変わりませんねそんなことじゃね。

樋口:うん。
だから、こういう所を変えていかなきゃ本当の民主主義って生まれないんですよ。

松元:お時間が来てしまいました。
レイバーネットTVではここまでですが、6月4日、アジア太平洋資料センター(PARC)でシンポジウムで、樋口さんも発言されますね。
蓮池さんは柏崎刈羽原発と福島第一原発で働いていたと。

樋口:本当はもっとたくさんの具体例をあげたかったんだけど、残念ながら今日はおしまいです。

土屋:樋口さんの著書、たくさんありますけどオススメなのは、
「これが原発だ―カメラがとらえた被曝者 」(岩波ジュニア新書)
これ素晴らしい本。

樋口:もう一つお願いをしておきます。
6月中旬には、皆さんに一番読んでいただきたい、
「闇に消される原発被爆者 改訂版」
これが八月書館から出ます。
それから1996年に出して絶版になっていた写真集「原発 1973〜1995年」、今回の福島関連のものを最終章にし、改訂版で合同出版から7月中旬ぐらいに出す予定です。
三一書房で品切れになってた、「原発被曝列島」が7月下旬に出ます。
それで今紹介された「これが原発だ―カメラがとらえた被曝者 」は2刷されております。
皆さんどうか、売れない写真家を助けてください。

(一同笑い)

松元:先ほどのイベントについて補足。
「そこで働いているのは誰か?原発労働の実態」
会場は在日本韓国YMCAで行われますので皆さん是非いらしてください。
樋口さん、お忙しいところありがとうございました。

【ジョニーHの反原発ソング】

右:ジョニーHさん
左:乱鬼龍さん

反原発ソングシリーズ。
野菜デモのテーマ曲。
デモしてる気持ちで。


放射 能 ! 原発 NO ! 野菜の気持ち
放射 能 ! 原発 NO ! 野菜デモ

反対する人にも 推進する人にも
どっちでもいい人にも
放射能は降り注ぐ ウー ベクレル

デモ行進する人にも デモを見てる人にも
デモを邪魔する警官にも
放射能はつきささる ウー カウンター・パー・ミニッツ

デモデモデモデモデモデモデモデモ 野菜の気持ち
デモデモデモデモデモデモデモデモ 野菜デモ
こだまでしょうか いいえ 誰にでも

放射 能 ! 原発 NO ! 野菜の気持ち
放射 能 ! 原発 NO ! 野菜デモ

おびえていても がまんしていても
ひらきなおっても
放射能は溜まってく ウー ミリシーベルト

野菜になって 動物になって 魚になって
みんなで歩こう

デモデモデモデモデモデモデモデモ 野菜の気持ち
デモデモデモデモデモデモデモデモ 野菜デモ
野菜の気持ちでしょうか いいえ 私の気持ち

放射 能 ! 原発 NO ! 野菜の気持ち
放射 能 ! 原発 NO ! 野菜デモ

放射 能 ! 原発 NO ! 野菜の気持ち
放射 能 ! 原発 NO ! 野菜デモ

放射 能 ! 原発 NO ! 野菜の気持ち
放射 能 ! 原発 NO ! 野菜デモ

乱:6・11は川柳デモで行こう!
皆さんの一句を募集しています。
テーマは原発震災を広く扱い、5・7・5形式でなくても形式はこだわりません。
なるべく目立つように、デカいやつで。
新宿コースに合流予定です。

ジョニー:6月11日は別のイベントもあります。
そちらに出演します。
「どうする原発!? 歌と笑いの寄席芝居」
( http://www.labornetjp.org/EventItem/1306580014385staff01 )
是非私もお客さんも、デモにカウントしてください。
10日は前夜祭というとこで、中野に来ていただければありがたいです。

松元:次回は6月16日(木)の夜の放送予定です。
次回はなんと、その原発施設を造ってきた仲間に出演していただきます。
原発をめぐる労働について真髄に迫ります。

土屋:その前に、11日は反原発100万人デモですね。
日本全国、どこかでデモやってます。
「犬も歩けばデモにあたる」みたいなかんじですね。
レイバーネットTVでも中継する予定です。
こちらでもお楽しみください。

松元:海外にも繋げます。
レイバーネットTVでは、これからも大手メディアが報道できないようなニュースをどんどんご紹介していきます。
今日の番組、次回へのご意見、なんでもいいのでお寄せください。
(メールアドレス: labor-staff@labornetjp.org )

土屋:レイバーネットTVはみなさまからの寄付で運営されています。
最近ご無沙汰なので(笑)、投げ銭の感覚で寄付していただけるとありがたいです。

松元:今年からレイバーネットTVでは、インターネットTVの中継がしたいという団体をお手伝いする事業を始めました。
イベント中継のご相談お寄せください。

土屋::ネット環境がなくてこの番組が見られない、というジレンマを感じている方は、
数人で家に集まって、みんなで見る宴会などやっていただければうれしいです


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