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LNJ Logo レイバーネット例会講演録「労働組合に何ができるかー恐慌下、大量解雇と貧困のなかで」
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以下は、4月20日行われたレイバーネット例会の講演内容です。五十嵐仁さんのご厚意で、全文紹介がOKになりました。学習会などにご活用ください。(レイバーネット編集部)

―レイバーネット日本4月例会・講演録― 09年4月20日

「労働組合に何ができるかー恐慌下、大量解雇と貧困のなかで」

講師 法政大学大原社会問題研究所教授 五十嵐仁

<はじめに>

本日のテーマは「労働組合に何ができるか」というものですが、そう言われましても、私は一介の研究者にすぎず、現場のことはよく知りません。「何をなすべきか」という論稿がレーニンにありますが、これに倣って、現在のような状況の下で組合がどういう可能性・課題をもっているのか、何をすべきなのかを中心にお話をし、何ができるかについては、それを参考に皆さんでお考えいただく、発見していただくということにしたいと思います。そのために、今日の私の話がお役にたてば幸いです。

人間というのは、見たくないものは見えません。見ようとする時、初めて見えるという場合が多いわけでして、発見というのは状況をただ漠然と眺めているだけではできない。新しい運動の芽や可能性を発見するような“目”を養っていただきたいと思います。そのために参考になるような話ができれば、と思っています。

写真=五十嵐仁さんと会場風景

機〜幅された日本の危機―金融危機+構造改革

1、小泉構造改革の罪

 さて、現在、国際的な金融・経済危機が大問題になっています。それが日本に波及するという形で、昨年の秋から大きな経済問題、雇用問題が発生しました。これには、大きな二つの背景があるのではないでしょうか。日本の場合、それが特に大きな問題を抱えることになった原因であると思います。

昨年第四四半期のGDP成長率は年率換算ですが、日本はマイナス12・1パーセント、アメリカがマイナス6・2パーセント、ユーロ圏がマイナス5・7パーセントです。おかしいじゃありませんか。発生源はアメリカのリーマン・ショックです。リーマン・ブラザースという証券業界第四位の会社が破綻したことから始まった。昨年の9月15日です。震源地がアメリカなのに、そのマイナスが6・2パーセントで、波及した日本が2倍近くもマイナスだというのは、一体どういうことなのでしょうか。ここから、話をはじめたいと思います。

日本の第四四半期のGDP成長率がアメリカ以上の落ち込みとなったのは、経済危機が増幅されたからです。アメリカから危機がやってくる前に、すでに日本は危機にさらされていました。内なる危機が日本経済や産業社会を蝕んでいたからです。すでに病気になって体力が弱っていた時に、外から猛烈な嵐が吹き付けてきた。だから、日本経済はひとたまりもなくひっくりかえってしまいました。回復も、アメリカやユーロ圏よりも遅いと見られています。IMFの今年の経済成長、GDPの予測では、日本は主な先進国の中では一番遅い、落ち込みが大きいとされています。なぜそうなのでしょうか。内なる危機とは、いったい何だったのでしょうか。

 それは、小泉構造改革です。金融危機が発生する前に、構造改革という病気によって日本の経済や産業社会、日本人の生活が蝕まれ、ガタがきていたと思います。これを生みだしたのが、小泉さんの大きな罪です。

その罪の一つは、「自己責任」に基づく「痛みの受容」です。「公(おおやけ)」がどんどん後景に退いていく。むき出しの私利私欲で、規範やルール、法律などが無視され、経営者としての矜持や信頼、信用がどんどん無視されるようになっていってしまった。法律が変えられ、規則や規制が緩和されていっただけでなく、金儲けが最善なのだと、お金があれば何でもできるんだという、そういう哲学・イデオロギーが広範囲いきわたっていきました。それに対して、公的なルールや規範が弱まっていった。いってみれば、金融や経済の論理が前面に出て、政治の論理が後景に退いてしまったということだろうと思います。

二つ目は、「官から民へ」という民営化による「新得権益」の発生です。「新得権益」というのは私の作った言葉ですが、よく言われるのが「既得権益」ですよね。規制緩和や「官から民へ」に反対する官僚は既得権益を守ろうとしているのではないかと言われます。既に持っている権益のことを「既得権益」という。これに対して「新得権益」というのは、あらたに発生した権益のことです。 規制緩和し民営化することによって様々な新しい権益が発生した。それはどういうものかというと、最近知られるようになったのが、「かんぽの宿」問題。郵政民営化によって生じた「新得権益」です。安く手に入れて高く売り払う、オリックスが問題になっていますが、それ以前にも1万円で買った宿を6千万円で売る。めちゃくちゃな利益じゃありませんか。オリックスの宮内さんは、こういう規制緩和をすすめるために旗をふってきたわけですが、抜け目なくちゃんと儲けている。様々なビジネス・チャンスを生み出し、それを自らが利用する。一つの例がいま言った「かんぽの宿」問題。すでにかなり儲けたのが、自動車のリース業。タクシーの規制緩和でどんどん参入される。車が足りなくなる。足りないなら、こっちにあるよと車を貸す。それで儲けました。宮内さんは十年間ほど、総合規制改革会議などの規制緩和を推進する会議のトップであり続けた。そういう中で新しい権益を発生させ、ビジネス・チャンスをつかむことで急成長した。「平成の政商」といわれています。政治を利用しながら、規制緩和や民営化の波にのってビジネス・チャンスを拡大し、企業を急成長させました。「ホリエモン」や村上ファンドなども新自由主義的な構造改革の申し子といえるかもしれません。新自由主義政策とマネーゲームによって大きな利益を得たといえるでしょう。

第三に、こういうなかでコミュニティーにおける「ヘソ」の喪失が生じました。地方や地域社会の核が解体していく。地方におけるコミュニティーの中心がなくなり、より大きなところに集中するという傾向があります。村がなくなり、役場がなくなって出張所になる。本庁に行かなければならない。鉄道の駅が廃止されて停留所になってしまった。郵便局がなくなり学校も少子化で廃校になる。昔の村の中心だった所がだんだんさびれていく。

さらに、小泉さんが進めた「三位一体改革」によって地方財政が弱体化する。地方が衰退する。昨日、市長選挙がありまして、現職が敗れるという形でかなり番狂わせがおきています。今日の『朝日新聞』には、「地方選、にじむ党勢」ということで、「合併で組織ゆるみ苦戦」と報道されています。自民党の地方組織が弱体化してきているというのです。07年の参議院選挙で、自民党が選挙区でかなり負けました。地方の衰退が背景にあるのではないかということで、危機感をもったわけですが、その傾向は今も続いています。こういう形で、構造改革によって様々な問題が生じていた。日本の経済と社会が壊れつつあったということです。

2、規制緩和による労働の破壊

同時に、雇用と労働の破壊も進みました。規制緩和は労働市場政策と労働時間政策の二つの分野で具体化されましたが、着実に進んだのは労働市場の規制緩和です。労働者派遣法の制定から始まり、99年に質的な転換、ポジティブリストからネガティブリストへという形で、基本的に禁止し例外として認めるというやり方から、基本的に解禁し例外として禁止するやり方に変わりました。こういう形で、労働市場の規制緩和は着実に進み、非正規化が進行した。今日では雇用者の三分の一を超えています。パートタイム労働者が一番多いですが、特に製造業への派遣が解禁された2004年以降、派遣労働者も非常に増えてきました。

他方で、労働時間管理の規制緩和も、制度的にはある程度進みました。裁量労働制だとか、みなし労働時間などの新しい制度ができて、労働時間の規制、管理がゆるくなった。ゆるくなったけれど、裁量労働制などは、労働組合の抵抗や野党の反対で使いにくい制度にすることに成功した。そのために、新たに正面突破が考えられた。これがホワイトカラー・エグゼンプション制度の導入問題です。管理職手前の、責任があって比較的収入が高い中堅ホワイトカラーを時間管理からはずそう(エグゼンプション)というわけです。年収700万円とかいっていましたが、日本経団連の提案では年収400万円です。中堅の人たちはみんな労働時間管理から外す。こういうことを狙ったのですが、失敗しました。2007年1月の「労働国会」に出そうとしたのですが、その前の12月に労働政策審議会のなかで労働側が反対し、両論併記になった。最終的に安倍首相がこのまま出したらまずいと、夏に参議院選挙がありましたから、選挙に負けるんじゃないかと。公明党も選挙になったら批判されるだろうと懸念した。それで、これを提案するのをやめたわけです。

このように、労働の規制緩和はずっとやられっぱなしだったのではないかと思われていますが、必ずしもそうではありません。労働時間の緩和に対してはかなり抵抗しましたし、最後はホワイトカラー・エグゼンプションの導入を阻止した。たとえば、解雇規制の問題でも、解雇規制を緩和しようという動きがあり、整理解雇四要件がきつすぎるから、労働基準法に「経営者は解雇する権利がある」と書き込もうとした。しかし、これも反対運動でふっとばしました。

労働時間規制の問題では、確かに、ホワイトカラー・エグゼンプションという正面突破の攻撃は跳ね返しましたが、いろんな抜け道を経営側が編み出してきたということも事実です。「名ばかり管理職」や「名ばかり店長」とかの問題です。管理職手当てなどお金を上乗せするから残業代をかんべんしてくれということで、残業代を払うかわりに管理職手当てを出した。しかし、これは引き合わないほどの低額でした。

まだ、これは少額でも払っているからましだと言えるかもしれません。もっとひどいのは「サービス残業」(不払い残業)です。07年のサービス残業は、合計100万円以上で問題とされ摘発された企業が1728社もある。対象労働者数は約18万人。支払われた合計額は272億円で、これだけちょろまかしたというわけです。これは100万円以上の数字で、100万円以下は入っていません。だから、もっと幅広く多くの企業の多くの労働者がちょろまかされ、多額の残業代が未払いになっています。企業平均で1577万円、労働者平均で15万円です。07年度は前年度より49社増えました。サービス残業は問題だと、これだけ報道され批判されているにもかかわらず、企業の側は性懲りも無く続けているというわけです。厳しく批判されなければなりません。

このサービス残業というのは、外国から労働問題の研究者が来ると困ります。説明しても理解してもらえない。お金を払ってもらえないのに、なぜ働くのか。強制された自発性というか、内なる強制力といいますか、そういうものでマインド・コントロールされてしまう労働者がいるということだと思うのでが、それが理解不能なのです。日本における企業社会としての規範力、働かなくちゃならないという力がものすごく強い。逆に言えば、労働者はまじめに働いているということかもしれない。働かせる構造があり、働いてしまう心理があるということです。しかし、それが外国人にはわからない。そういう点では、プライベートな生活をどう考えるか、生活のあり方に対する意識ですね、その考え方が違うのかもしれない。 もっと外国人に理解されないのは、過労死です。何で死ぬまで働くのだと。過労死する方は、今でも一万人くらいいると推定されています。最近、労災としての認定率は上がっていますが、しかし、これもある種のワーカホリック状態になってしまうのかもしれません。本人にはストップできない、まわりの人が止めてあげなければなりません。これは問題になってから、もう20年以上になります。過労死弁護団全国連絡会議がありますが、できたのは1988年でした。21年目に入っています。問題になった88年にオギャーと生まれてお父さんが過労死した子どもが、いまや成人になって働きに出て過労死するかという年齢になっている。それだけの時間が経っているにもかかわらず、この問題は未だに解決されていません。

今、職場で大きな問題になっているのは、メンタルヘルス不全の問題です。精神疾患、過労自殺もある。心が病んで自ら死を選んでしまう。働き方が厳しくなって、ゆとりがなくなり、成果・業績が要求される。しかも短期間で。アメリカ方式が導入され、それが労働者をしばり、同時に経営者もしばったということでしょう。経営者がこのようなアメリカ仕込みの経営方式にしばられた結果、雇用削減を優先してしまったということです。失われた10年の中で、リストラした企業の方が評価が高いとか、株価を下げて配当金が少なくなると企業の評価が下がって経営者としての能力が問われるとかという形になりました。90年代の後半から今世紀にかけて、アメリカ的な経営スタイルが入るなかで、そういう形になってしまった。そういう点では、日本の経営者の考え方も大きく変化してきました。

3、貧困化と格差の拡大

サービス残業と過労に続いて、三つ目の問題があります。外国から来た人、特にヨーロッパから来た人には理解できないのが、ワーキングプアの問題でしょう。働いているのに生活できないとはどういうことか。だって、生活するために働いているのじゃないか、どうして働いているのに生活できないんだ、と。逆に、EU諸国の場合には、働いていないのに生活できる。雇用保険、失業手当がきちっと出るからです。

ヨーロッパには、失業する自由がある。日本には失業する自由がない。失業すると路頭に迷ってしまうからです。貯金できるほど給料をもらっていない。クビになったら家を追い出される。クビになっても家を追い出されなければ問題は発生しません。家を出されても貯金があれば問題は発生しません。貯金がなくても失業手当がもらえれば問題は発生しません。失業手当がなくてもすぐに新しい仕事があれば問題は発生しません。そのすべてがないのです、この日本には。特に非正規の人には。これが日本の現実なのです。このような劣悪な労働環境の問題が、誰にでも分かるような明瞭な形で、今回、表に出てしまいました。

失業率で比較すると、日本は改善されてきたといわれます。労働者派遣の拡大で仕事ができたじゃないかというわけです。日本の失業率は低下して4パーセント前後なのに、ヨーロッパは10パーセントを超えていると。しかし、そこには裏があります。その4パーセントの失業率で、働いている人の多くがワーキングプアなのです。年収200万以下が1030万人もいる。働いても食えない、生活できない人々です。ヨーロッパの場合、たしかに失業率は高いかもしれない。しかし、失業手当が長期に出て、その間に職業訓練を受けて新しい仕事につくことができる。だから、職を失うことが恐くない。職を失っても生活できるし、別のもっといい仕事につくことができる。こういう国では、労働条件を低下させることはできません。給料が低い、労働条件が悪いということであれば、すぐにやめて別の仕事に就いてしまうからです。

土曜日に「フェミニスト経済学会」という学会の大会に行きまして、報告を聞いて目からうろこが落ちた気がしました。日本は離婚できない社会だというのです。母子家庭になったら生活できないから、どんなに暴力をふるわれても、どんなにひどい父親でも母子家庭になるのが恐くて離婚できないというわけです。家庭内で暴力をふるわれたら離婚すればいいじゃないか、何で暴力をふるわれてまで一緒に生活しているのだと思うかもしれないが、そうしないと食っていけない。ひどいダンナでも稼いで多少生活費を入れてくれれば、なんとかなると。

でも、十分な生活費を入れないという場合もあります。しかたなく、サラ金に手を出す。サラ金は、最後の生活保障の手段だというのです。だけどそのことは、ダンナに言えない。そういう奥さんたちをサラ金は食い物にする。そういう人たちを、サラ金業者は「DN層」と呼ぶんだそうです。「ダンナに内緒」でお金を借りる人々。こういう人は絶対に返そうとするから、取りっぱぐれはない。ばれたらたいへんなことになるから。

このような事情で離婚できない。それは、失業できないのと同じことです。失業できない社会は労働者にとってたいへんつらい社会です。同じように、配偶者から暴力をふるわれても離婚できないような社会もとってもつらい社会だと言うべきでしょう。

こういう形で貧困化が進んでいる。今の格差の拡大は、下が落ちることで拡大している点に問題があります。貧しいものが富むというのであれば結構です。それ以上に富める者が富むという形での格差拡大であれば問題は多くない。しかし、貧しいものがさらに貧しくなるという形で格差が拡大しているところに問題があります。

この問題を一挙に解決するには、下層の所得を上げる以外にない。貧困化の解決で格差を解消することが求められているということです。それは同時に、可処分所得の減少による内需の停滞を逆転させる道でもあります。貧困化が内需の停滞を招き、ものが売れないからますます貧困化が進むという負のスパイラルから脱却しなければなりません。日本がこれだけ急速に落ち込んだのは、外需依存だったからです。特に自動車は典型的で、北米市場に依存していました。これが一挙にアウトとなり、業績が悪化しました。これからの回復が課題ですが、その場合でも、いかに内需の拡大を伴う形で回復するかがひとつのポイントでしょう。

このように、日本の経済、産業社会がずたずたになっている時に、リーマン・ショックで外から大嵐が吹きつけてきた。したがって、今解決すべきことは二つあります。当面の課題と中・長期的な課題です。当面は、金融・経済政策を通じて、世界恐慌とも言われるような問題を解決しなければなりません。そして、そのことを通じて、中・長期的な日本経済の底上げを図っていくことが必要です。不況を克服して内需を建て直し、負のスパイラルを逆転させることによって、構造改革で痛めつけられた経済や産業社会を再建していく。これらが、これからの大きな課題になるだろうと思います。

供.團鵐舛魯船礇鵐后歙こΧ温臆爾離▲瓮螢の経験に学ぶ

1、ニューディール政策とオバマ政策の類似点

ここから少し話を変えて、アメリカのニューディール政策とオバマ新大統領の国内政策についてお話しすることにします。皆さん、あまりご存じないと思うのですが、私もある研究会で篠田徹早稲田大学教授の話を聞くまでは良く知りませんでした。彼の話を聞き、今回の講演を準備する過程で、これは重要だということ気づいた次第です。

まず最初に指摘すべきことは、今のアメリカのオバマ新政権の政策がルーズベルトのニューディール政策とよく似ているということです。オバマ大統領が今やろうとしている政策は、ニューディールとオーバーラップしている。

そのひとつは、産業復興法(NIRA)と中産階級対策本部の設置です。産業復興法第7条A項は、産業規約の締結を産業界に求め、その中に団体交渉権の承認を盛り込むこと、最低賃金と最高労働時間についての規定を入れることを要求しました。それまではこういうものは全くなかった。労働組合は完全に敵視され、労働組合も政府に頼ろうとはしませんでした。労働運動は通商に対する妨害だとして刑事罰を問われ、裁判になればだいたい負ける。それで、政治や行政は信用ならないもの、運動は独自に自主的に展開しなければならないものだとされ、政府は口を出すなというのが当時の労働組合の言い分で、できるだけ政治的行政的関与を避けようとしていたのです。

ところが、経済危機のもとで、労働組合を強化することによってなんとか危機を乗り越えようとルーズベルト大統領は考え、そのための対策として産業復興法第7条A項を定めたのです。同じようにオバマ大統領は、1月30日に中産階級の生活向上のための対策本部を立ち上げ、労働組合を強化する大統領令に署名しています。ここで言う中産階級とは、基本的には白人労働者のことです。「強い中間層は、強い労働運動なしには生まれない」というわけです。

二つ目は、社会保障法と医療保険法の類似性です。ニューディールでは、連邦社会保障法を制定して、老齢年金、失業保険、障害者扶助、母子衛生および児童福祉事業等を定めました。同じように、オバマ大統領は公的な医療保険制度の導入をめざしています。アメリカは公的な医療保障がないのはよく知られていますが、2月4日にオバマ大統領は低所得家庭の児童向け公的医療保険制度の導入を発表し、これに350万人の無保険児童を含める改正法案に署名しました。その財源はタバコ税だそうです。

しかも、3月4日には医療保険改革に関する諮問会議を開催し、オバマ大統領は「包括的な医療保険改革を今年末までに成立させることが目標だ」と演説しています。実は、クリントン大統領のときにヒラリー夫人がやろうとして失敗した前例があります。今度、オバマ大統領がこれに取り組もうというわけで、それが成功するかどうかが注目されます。

三点目がニューディールの労働関係法、ワグナー法として日本でもよく知られていますが、これとオバマの従業員自由選択法の類似性です。ワグナー法は、団結権、団体交渉権、スト権の再確認をしただけでなく、不当労働行為を列挙して禁止し、不当労働行為があった場合は全国労働関係委員会による行政救済を定めました。

同じように、3月10日にオバマ大統領は従業員自由選択法を上程しています。カードチェック法ともいいます。アメリカの場合、労働組合を結成する時には交渉単位の過半数の賛成がなければ結成することができない。この過半数の賛成を、一人ひとりの賛成をカードでチェックすることによってできるようにする。そういう方式をとっていいか悪いかは、経営者が認めなければできないというのが今までのやり方でした。これに対して、組合側はカードチェックで組合を結成できるようにしたいと長い間要求してきましたが、これを認める法案が上程されました。これから審議されます。

もし、これが認められれば、労働組合の結成が今までより容易になります。トム・ハーキンという民主党の上院議員は、「週40時間労働・最低賃金の米国労働関係法が大恐慌を抜け出し空前の繁栄期を迎える助けになったように、従業員自由選択法もわが国経済を再活性化する助けとなろう。今日こそ、新法を導入し、真にわが国経済の背骨である人々の手に力をとりもどすべき、歴史的転換点だ」と言っています。

ということはつまり、オバマ大統領は、その内容からして、ニューディールの時のルーズベルト大統領と似たようなことをやろうとしているということです。しかし、第2次世界大戦後、ニューディールで認められた諸権利が逆転し、タフト・ハートレー法のような形で労働組合の活動に対する規制が強化されました。その後、新自由主義的な政策のもとで反労働組合的な姿勢や政策が強められていきます。南部の州では労働組合を結成すること自体が、商業の自由を阻害するということでほとんど禁止されるような状況になりました。いわば、労働組合への敵意をもった仕組みができてしまったわけです。こうして、資本家・経営者の側の自由裁量権を拡大し続けた結果、今日の事態が生み出されました。いわば、資本の大暴走です。

労働にかかわるルール、労働政策などや労働組合は資本主義システムにおいてはハンドルとブレーキのようなものです。ハンドルをよくきかないようにし、ブレーキをゆるくしてきたのが新自由主義でした。その結果、マネーゲームにひた走ることになり、資本主義が暴走してしまった。当然の結果です。これを防ぎ是正するためには何が必要か。ハンドルを良く効くようにし、ブレーキを強めて、必要な時にはちゃんと止まれるようにしなければなりません。そうすれば、衝突や暴走を防ぐことができます。従って、労働に関するルールを再建し、規制力を復活させることが必要です。また、労働組合が資本の暴走を阻止する、是正することができるような牽制力を持たなければなりません。

2、ルーズベルト時代との相違点

ただし、ルーズベルトの時代と今日ではいくつかの相違点もあります。世界がグローバル化した後の危機であるということが一つです。事実として、すでに国際的なネットワークが形成されている。従って、保護貿易や地域的ブロック化は、多少そういう動きも生まれていますが、多分、そうならないと思います。グローバル化には二つの側面があって、一つはこのような事実としての国際的ネットワークの形成、あるいは国際化の浸透ですが、もう一つは、グローバル化という名のものとに押し付けられたアメリカニゼーションでした。これはすでに破綻しました。それからの反転が、今始まっていると言ってよいでしょう。

二つ目が中国や新興国の存在です。社会主義国というのは資本の暴走を国家として牽制しているわけですから、公的介入は絶えずなされていて、ある程度公的な力によって資本の暴走を制御できます。29年の世界大恐慌の時にもソ連が一定の役割を果たしました。しかし、今日の中国は当時のソ連以上に世界経済内での比重は高く役割は大きくなっています。3月の全人代では2年間で57兆円の経済対策を打ち出しました。GDPが6パーセント成長に低下したと最近話題になりましたが、6パーセントというのはマイナスではなくてプラスです。一時10パーセント前後、二桁成長でしたから、それに比べれば落ちはしましたがマイナスになったわけではない。中国の役割は大きい。最近言われているのはG2ですね。アメリカと中国です。また、新興国の役割も大きい。世界経済の回復に向けて、G8からG20へという形に変わってきているのが象徴的です。

三つ目は、経済危機に対応しているのが、フーヴァーではなくオバマであるということです。1929年10月24日の「暗黒の日曜日」で世界恐慌が始まりましたが、ルーズベルトが当選して就任したのは34年3月です。5年近くもかかっています。リーマン・ショックは去年の9月15日で、11月にオバマ候補が当選し、今年の1月に大統領に就任している。この間、たったの4ヵ月です。このタイムラグの違いは大きい。ルーズベルトの前任者であったフーヴァーは全く無能で、経済は自由にすべきだとして全く手を打たなかった。そのために、事態をますます悪化させてしまいました。

3、オバマ政権に対する評価

オバマ政権に対する評価では、二つの側面を見ておく必要があります。可能性と制約です。何でもできると思っている方がおられれば、それは過大評価です。何にもできないだろうというのは過小評価です。真理は、その中間にあるということです。所詮、アメリカの大統領ですから、できることに制約や限界があるのは当然です。でも、このような制約の枠内では、かなりまともな政権ではないかと思います。

すでに紹介した国内政策をみてもそうですし、イラクからの撤兵、グァンタナモ収容所の閉鎖、キューバ制裁の緩和、イランとの接触、核廃絶の呼びかけなどは、歴代大統領の中ではピカ一でしょう。アフガンへの重点介入、イラクからアフガンへ力を移すという点では問題がありますが、同時に、非軍事的解決の模索ということも言っていますので、これからに注目したいところです。

歴史の継承ということでは、緑のニューディールではルーズベルト政権、政権スタッフではクリントン政権を、オバマ政権は継承しています。労働者の力の回復による経済の再建が内政のポイントで、労働者を勇気づける、製造業への重点的投資を行う、中産階級(白人労働者)を重視するという面があります。そういう点では、これからのアメリカ労働運動は政府の後押しを受けてかなり復活するのではないかと思います。そのことを、オバマ大統領も期待しているように見えます。

というようなことが、アメリカにおける「恐慌」からの脱出路として模索されているとすれば、この日本でも同じことがあってしかるべきではないか。アメリカは中産階級を再建しようとしているではないかと、労働者を元気づけようとしているではないかと、労働組合を後押ししようとしているではないかと、労働運動の側が意識的に政府に求めていく、行政側に問題を提起することが必要なのではないかと思います。

 経済危機はピンチではありますが、労働運動の側からすれば大きなチャンスでもあります。働く人々は現状に甘んずることはできず、変革に向けての大きなエネルギーが生まれるからです。そのようなエネルギーは、産業と経済の復興のためにも必要とされるものです。労働者が元気にならなければ経済を立て直すことはできません。不況からの脱出のために、為政者は労働者の協力を求めるということ、それは労働運動にとって有利な条件を生み出す可能性があるのだということ、つまり、労働運動にとっては勃興と発展のチャンスでもあるのだということを強調しておきたいと思います。

掘06年以降の反転を生み出した力に学ぶ

1、反転を生み出した力

このようなアメリカの経験に学ぶと共に、06年以降の反転を生み出した力にも学ぶことが必要です。私は「06年転換説」を唱えていますが、マスコミと労働運動の役割が非常に大きかったということは、拙著『労働再規制』で書きましたのでここではふれません。ただし、支配層内部の分岐について一言付け加えておきたい。支配層の中にもいろんな人がいるということなのです、私が言いたいのは。十把一からげで敵にするのは如何なものかと。

支配層内部の分岐では、例えば政界では、小泉構造改革に対する反省があります。最近、加藤紘一さんは『劇場政治の誤算』という本を角川書店から出しましたが、その前から加藤さんは小泉さんを批判していました。最近、「小泉チルドレン」との会合を開いて、小泉チルドレン側が加藤さんに擦り寄ってきた。小泉構造改革には問題があったと彼らが言い出した。このままじゃ選挙で危ないということで近寄ってきている。尾辻秀久さんなどは、代表質問で経済財政諮問会議と規制改革会議は廃止するべきだと言いました。

最近、「安心社会実現会議」というものができました。今は安心できる社会ではないということを首相自身が認めたようなものですが、「骨太の方針」に政策を反映させるための会議です。もともとは経済財政諮問会議がそのためにできていたはずですが、もうこれはダメと麻生さんが見限ったということでしょう。別の会議を作ってそちらで検討するというのですから。この会議には、高木連合会長とか宮本太郎北大教授などが入っている。宮本さんは宮本顕治の息子さんだということで話題になりましたが、彼は本来EUの社会保障、特にスウエーデンの社会保障の専門家です。

官僚でも厚生労働省による「逆襲」がありました。規制改革会議に対して厚労省は二度にわたって反論している。第二次答申に対する反論と第三次答申に対する反論です。一昨年の暮れと去年の暮れにやっています。官僚というのは、二律背反的で両義的な反応を示します。問題が起こると混乱しますから“困ったな”と思う。同時に、問題が起きて混乱が生じると対策をたてなければならないから、“予算がとれる”と考える。だから皆さん、どんどん厚労省に要求を出していいんです。

要求を元にして、彼らがいろいろな政策を作る、予算請求をする。すると予算がついて人員が増える。厚労省の権限が拡大する。官僚の皆さんにとっては、“良かった、良かった”となるわけです。だから、どんどん要求していけばいいんです。要求されている時は困ったような顔をしていますが、部屋に帰ったらニッコリしているにちがいありません。自分たちで考えなくても労働組合が考えて要求してくれるわけですから。

こういう風にやってもらったら助かるということをどんどん出していく、行政に突きつけていく。行政の側では、そういう運動がないと対応しにくいという面がある。ですから、遠慮することはないんです。運動を強めて要求を突きつけるのは、彼らにとっても好都合なのですから。

財界にも「株主価値論」と「ステークホルダー論」の二つの考え方がありました。「株主価値論」は、とにかく配当金を上げればいいという。アメリカのCEOは凄まじい給料をとっている。07年の年間報酬で見ると、住宅ローン最大手のカントリーワイドのCEOは、1億284万法複隠娃臆8400万円)を得ていました。日本はせいぜい2億か3億です。日本の場合、日産自動車の役員報酬が1人当たりの平均額で3億円というのがこれまでの最高水準でした。

しかし、株式配当はすごい。トヨタの創業者の子どもと孫の株式配当は、1年間で2人合わせて22億円だそうです。22億円もの配当をもらっていれば、給料はただでもいいんじゃないですか。年越し派遣村に1000万円寄付したって痛くもかゆくもない。しかし、「株主価値論」はなかなか否定しにくい。というのは、従業員持ち株制というのがあって、株価が上がると助かる人が正規労働者の中にもいるからです。

「ステークホルダー論」というのは、“株主だけではないですよ”という論。日本的経営に近い考え方です。ステークホルダーというのは利害関係者ということで、株主もそうだが、働いている従業員、顧客も利害関係者、会社のある地域社会も利害関係を持っている。このように会社・企業にさまざまな利害をもっている人すべてに対して企業は責任を負わなければならないという考え方です。これは、日本の伝統的な発想だと思います。一時「株主価値論」が一世を風靡しましたが、最近「ステークホルダー論」が徐々に復活しつつある。ドナルド・ドーアさんが『会社は誰のものか』という本を岩波新書から出していますが、彼はステークホルダー論を強く主張しています。

2「年越し派遣村」の教訓

労働運動のあり方を考えるうえでは、「年越し派遣村」の実例が大いに参考になります。その教訓はたくさんあると思いますが、何よりも重要だったのは、問題を突きつける攻勢的な姿勢です。貧困の「可視化」ということを、湯浅さんは著書『反貧困』の中でも書いていますし、強調されています。「派遣切り」で困っている人を一箇所に集めて、誰にでも見えるようにしました。独創的で効果的な行動提起です。日比谷公園に集めたというのは、うまいやり方だったと思います。東京のど真ん中。日比谷公園は、道路を隔てて反対側に厚労省がある。このロケーションがたいへんに良かった。厚労省に突きつけるということから言っても行政側の対応をすぐに求めることができるということから言っても。

厚労省には全労働という労働組合がありますが、対応しやすかったと全労働の人は言っていました。すぐ近くにありますから。たとえば、生活保護の手続きをする時に写真を撮らなければならない。デジカメ、プリンターを持ち込めた。こういうことにも容易に対応できたのは、場所の問題があったと思います。

また、草の根の力も大きかったと思います。1692人のボランティアが集まったというのですからすごいことです。いろいろなルートを通じて、情報が比較的早く流れたということではないかと思います。行政や政治が対応できない中で、社会の底力が発揮された。日本人も見捨てたものではないと思いました。

さらに、共同の追及という問題大きかった。様々な潮流の労働組合、政治勢力の協力がありました。民主党から共産党まで、自民党議員も行った。厚生労働副大臣の大村さんも行って、彼が仲介して厚労省の講堂を開けることをやったらしい。このような運動の中で、志のある労働記者、マスコミ人が生まれてきたことも注目されます。これは、たいへんうれしいことであり、心強い限りです。数年前から新聞なども労働関係記事に力を入れている。世論へのアピールもなされるようになった。政党や行政への圧力が効果的になされたということも、学ぶべき教訓でしょう。

3、いくつかの提言

最後に、労働運動へのいくつかの提言を述べて、終わりということにさせていただきます。

そのひとつは、運動の「可視化」です。誰にでも良く見えるような運動を展開する。この講演会が始まる前の映写会のように、映像で示すというのは運動の「可視化」にとってはぴったりです。さまざまな手段や様々な行動を通じて、運動がなされているということがわかるようにしていくことが重要です。貧困の「可視化」と同様に、運動の「可視化」がこれから大事なのではないでしょうか。

二つ目は新しい情報手段の活用です。携帯、メール、ネットなどの活用ということですが、レイバーネットの皆さんに言うのは、“釈迦に説法”でしょう。皆さんがやられていることは、たいへん重要な活動だと思います。日雇い派遣は携帯電話やメールが無ければできないような派遣の形態なのですね。運動の側もそれに負けないように、新しいICT手段を活用しなければなりません。

加えて、世論重視の運動を展開しなければならない。マスコミとの協働の意識的な追求です。企業を世論で包囲する。個人加盟で新しいユニオン運動を作ることも大切ですが、量的な限界もあるし時間もかかる。既存の企業別組合をどう変えるかを同時に考えていかなければなりません。組織論の上からはいろいろ大きな問題もあり困難もありますが、組合員の意識を変えることが、まず必要でしょう。世論を変え、それが企業内部に浸透していく。そういうことで、組合員の意識を変え、企業別組合のあり方を変えていく。これが、さしあたりの可能性としてはあるのではないでしょうか。

運動の側から「労働国会」「福祉国会」を実現することも重要です。2007年1月に「労働国会」ということで労働関連法案が6本出されたわけですが、こういう形で集中的に労働関係の法制度を変えていく、作っていくということを、今度は運動の側から要求する、実現していくことが必要でしょう。

派遣法改正問題が当面の焦点ですが、これは問題を解決するよりも、さらに悪化させる可能性があります。“薬”より“毒”が多い。「腹痛」は治まるかもしれないが、「肝硬変」になる。もっと大きな内臓疾患になって命を失う可能性があります。

“毒”を取り除いて、“薬”の部分を多くしなければならない。こういう既存の、問題のある労働関係の法律や制度をどう変えていくかということだけでなく、たとえば労働者保護法のような新しい法律の制定を求めるべきです。同時に、「福祉国会」を実現して、社会保障基本法のようなものを制定しなければならない。

そのためには、国会の中の勢力関係を変えなければなりません。自民党や公明党が多数では“毒が”入ってくるのは当たり前で、“薬”だけだったら国会を通らない。薬だけでも通るような国会内での力関係を作らなければなりません。そういう点でも、今年はチャンスです。9月までには必ず選挙がありますから。いま、衆議院は自公が多い。参議院は自公が少なくてねじれています。衆議院も自公を少なくすれば「ねじれ」はなくなります。政権交代を実現して国会のねじれ状況を解消することが必要です。

ただし、この点でも非自民連立政権の教訓を学ぶ必要があります。せっかく政権交代を実現したのに、そのチャンスを生かさずに終わってしまった。とくに、村山政権の時、なぜもっと労働者のための政策実現をやらなかったのかということです。準備していなかったということがあるかもしれません。何をやったらいいかわからなかった。もったいなかった。もっと自民党が受け入れられない労働者のための法律を出せば良かったんです。そうすれば自民党が分裂したかもしれません。

しかし、自民党に受け入れられる範囲のものしか出さなかった。ここに大きな問題があります。自民党の中に手を突っ込んでかき回せばよかった。そうすればズタズタになっていたはずです。今度、自民党が少数になったら、ぜひ手を打ってズタズタにしてもらいたい。

少なくても、村山政権の時、夏休みを増やすくらいのことはやってほしかった。フランスのバカンスは1936年の人民戦線政権が実現したものです。あの時の成果なのです。その後、親ファシスト政権ができたけれど逆転できなかった。村山さんの時に2週間の夏休みを作っていたら、その後、自民党政権が復活しても2週間くらいのバカンスが実現したかもしれない。今度は、そういうことも忘れずに実行してもらいたい。新しい労働者寄りの国会を作って実現するチャンスなのです。

<むすび>

最後に結びです。恐慌を乗り切り持続可能性を回復するために、労働組合の役割は極めて重要です。恐慌を乗り切るというのは、当面の課題です。持続可能性の回復は中・長期的な課題です。この両者を結合しなければなりません。

というのは、今の日本の社会はもはや持続できない社会になっているからです。縮小再生産が始まっています。2005年に日本の人口は自然減になりました。戦後初めてです。2006年に回復し、2007年と2008年、2年連続で自然減になっている。これはおそらく、ずっと続くでしょう。減少していくに違いありません。 働いても、自分ひとりの生活も成り立たないのに、結婚して子どもを作って拡大再生産するなどということができるわけがない。一人の子どもを生むというのでは縮小です。子ども二人でやっと単純再生産、二人の親で三人以上つくらないと社会は拡大しない。でも、子どもが三人できたら親は生きていけないというのが、今の日本の社会でしょう。こういう状況では、日本人の社会は持続できません。

政府は、ワークライフバランスということで少子化に取り組もうとしていますが、問題は対象になっているのが正社員だけだという点です。本当の問題は非正規労働者の方にある。結婚する割合を見れば、非正規の方が圧倒的に低い。こういう状況を逆転させるというのが中・長期的課題であって、それに役立つような政策、将来への道筋を展望しながら、当面の対策を考えなければなりません。両方の課題をつらぬくような形で対応することが必要です。労働組合はそういう点でも非常に大きな役割を担っていると思います。

100年に一度の危機には、100年に一度の取り組みが求められています。従来の枠組みに捉えられてはなりません。何ができるかは、皆さんが探して発見してもらいたい。その新しい芽を見つけることができるような感受性をぜひ身につけてもらいたいと思います。現実の中から見出した経験を交流し、情報を共有化するなかで運動の水準を引き上げていくことが必要です。戦後日本の労働運動が歴史的な勃興を実現した1950年代と同じような客観的条件が、いま生まれているのではないでしょうか。それを生かして、もう一度歴史的勃興を労働運動の面で実現していただきたいとの期待を表明致しまして、私の話を終わらせていただきます。


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