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LNJ Logo 飛幡祐規 パリの窓から・第24回
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第24回・2013年4月28日掲載

同性婚を認める法律可決と反対勢力の過激化


   *写真=4月23日、同性婚法案の批准を祝う人々の笑顔。ホモセクシュアルのドラノエ社会党市長のおひざもと、パリ市庁舎裏の広場。

 フランスでは同性カップルの結婚と養子縁組を認める法律が4月23日に可決され、世界で14番目に同性どうしが結婚できる国になった。2月のコラムで紹介したオランダ、ベルギー、カナダ、スペイン、南アフリカ共和国、スウェーデン、ノルウェー、アイスランド、ポルトガル、アルゼンチン、デンマークの11カ国に加え、この春にウルグアイとニュージーランドで同性婚が法制化され、イギリスとルクセンブルクでも近い将来にそうなることが予想される。さらにアメリカ合衆国、メキシコ、ブラジルのいくつかの州がすでに同性婚を法制化している。

 前回、同性婚と養子縁組に対して強い反対運動が起きたことを書いたが、その後反対陣営は過激化した。3月のパリのデモでは過激なグループが機動隊と衝突。カトリックの伝統主義派グループは、4月上旬の元老院(上院)での討議のあいだ「路上の祈り」を展開した。暴力的な行動に出たのはいくつかの極右団体で、反対派デモの主催者は非暴力を掲げている。しかし、一部の保守議員は国会やメディアなどで反対運動を煽る発言を重ね、これまで左翼の運動が用いてきたハプニング的なアクションが続発した。フランスはデモが頻繁に行われる国だが、ふだん路上に繰り出すのは左派の市民であり、見るからに保守・カトリック系のルックスの人々が「オランド(大統領)辞任!」とか「社会党独裁!」などとデモで叫ぶのは、前代未聞のことだ。ソーシャルメディアでの発言も、どんどんエスカレートした。

 このホモフォビア(同性愛に対する拒絶反応、同性愛者への敵意)の雰囲気のなかで、4月上旬にパリでホモセクシュアルのカップルが襲撃されるという事件が起きて、ホモセクシュアルのコミュニティだけでなく多くの市民にショックを与えた。4月12日に元老院で法案が可決された後、オランド大統領が国民議会での最終討議を予定より早める決定をしたのは、この異常なホモフォビアの噴出と反対派の熱狂状態(「反・(1968年)五月革命」を自称する人まで出た)を長引かせてはならないと考えたからだろう。国民議会での討議中にもゲイ・バーが襲撃され、社会党議員に死の宣告状が届くなど、異常な出来事がつづいた。法案は4月23日に可決されたが、保守党UMPは憲法審議会にこの法律が憲法違反だと訴えた。日頃は秩序を何よりも好む反対派の人々は、国会で可決された法律を「絶対に受け入れない」とデモをつづける意向だ。

 前回も書いたように世論調査では同性婚への賛成が過半数なのに、いったいなぜ反動勢力がこれほど表面化・過激化したのだろうか? 過激な極右グループが前面に出たアクションや、ホモセクシュアルへの身体的な襲撃はこの国で久しく見られなかったし、カトリック勢力が大量に路上に繰り出すような現象は1984年、ミッテラン社会党政権が私立校への国の援助を切ろうとしたとき以来なのである。

 おまけに、世論調査によれば、多くの市民にとって同性婚の是非はそれほど大きな争点ではない。失業者の増加や、あいつぐ工場閉鎖や大量解雇の告知など経済不振をあらわすニュースがつづくなか、大多数の関心事はもっぱら雇用と日々の生活難にある。オランド政権は経済の立て直しを掲げているが、この一年で効果の見られる政策・措置はとられなかった。前サルコジ政権とほとんど変わらない緊縮中心の政策に対して、左派の市民は大きな幻滅を感じている。それに加え、オランド政権を揺るがす大事件が起きた。緊縮政策を進める人物、カユザック予算大臣補佐が実はタックスへイヴンに口座をもち、脱税していたことが明るみに出たのだ(今回もまた、インターネット新聞「メディアパルト」がスクープした)。しかも彼は3か月以上無実を主張し、告訴されるまで辞職しなかったのである。「右も左も腐った政治家」という極右政党、国民戦線の言い分によりどころを与えてしまうような重大な過ちが発覚して、共和国の民主主義は大きく傷ついたといえる。

 さて、左翼的な経済政策がなんら展開されない状況において、左右の違いをあらわす唯一の政策として、そしてまた「成果」と呼べる政治の実績を残すために、オランド政権は同性婚法案を通すことにしたのだろう。一方、政権を失った保守陣営は、同性婚反対が保守のアイデンティティを強化し、社会党政府をぐらつかせる格好のテーマだとふんだようだ。

 同性カップルを法的に認める1999年のパックス(PACS連帯民事契約)法に強く反対した保守勢力は、政権をとった後にその法律の改善を行ったが、ホモフォビアが消えたわけではなかった。抑えられていたホモフォビアの噴出の裏には、5年間のサルコジ政権がもたらした保守陣営の右傾化と、それまで極右以外の政治家は口にしなかった差別発言の一般化という現象があるのではないだろうか。前サルコジ政権は「国民のアイデンティティ」を強調して移民(とその二世、三世のフランス人)を敵視し、大統領をはじめ一部の政府高官と議員は、極右の国民戦線と同じような反イスラム、反移民の言説を繰り返した。その結果、保守党UMPの政治路線はかぎりなく国民戦線に近づき、メディアに垂れ流される言説に影響された市民の恐怖感が増大し、移民に対してネガティヴな感情を抱く人が増えてしまった。

 同性婚をめぐる保守陣営の言動にも、似たような地滑りが起きた。「ホモフォビアでない」と非暴力を掲げていた反対派デモ(「みんなのためのデモ」と称し、男はブルー、女はピンクの旗を掲げる!旗に描かれているのはパパ、ママ、男の子、女の子のシルエットからなる「理想の家庭」)の女性リーダーは、「オランドが血を望むなら、くれてやる」と口を滑らせ、4月21日のデモでは彼女と一部の保守党議員が国民戦線の議員と並んで行進した。国民戦線党首のマリンヌ・ル・ペンはデモや討論への参加を避けているが、極右の過激団体と国民戦線のスタッフ、カトリックの伝統主義派などのあいだにつながりがあることを、いくつかのメディアが報じている。国民議会での最後の討議では深夜、保守党UMPの議員たちが法務大臣の協力者めがけて押し寄せるという前代未聞の出来事が起きて、一時休会となった。

 社会学者のエリック・ファサンは、国民戦線にならって保守陣営が自らの「価値観」とした国家(国民)を人種に結びつける考え方(反イスラムの言説は「文化」の違いを強調するが、その奥にはアラブや黒人に対する差別感情がある)は、家族を「血縁」に限定し、社会秩序を生物学や「自然」に重ね合わせる思想につながると指摘している。そうした思想からは、多様な出身地、文化、宗教、考え方、性的嗜好の人々が平等に自由と権利を享受し、共に生きる社会のビジョンは生まれない。奇妙なことに、同性婚反対派はさかんに「自分たちの意見に聞く耳をもたないオランド政権は民主的でない」と主張する。民主主義のレトリックは、国民戦線の常套手段である。

 それにしても、自分たちの権利が奪われるわけではないのに、同性カップルやその子どもたちに法的保護を与えることに対して、異常に感情的で過激な拒絶反応が出てくるのはなぜなのだろうか? それは彼らが、唯一正統だと信じる社会秩序(=血縁と男性優位にもとづく19世紀的一夫一婦制ブルジョワ家庭)に守られなくなったら、自らのアイデンティティが崩れてしまうと怖れるからではないだろうか。また、感情的で過激な言動は、この法律がセクシュアリティに関した内容を扱っていることと無関係ではないだろう。

 同性婚反対派のデモが行われた4月21日、ホモセクシュアルの権利擁護団体など市民団体や左派政党のよびかけで、バスティーユ広場ではホモフォビアに抗議する集会が行われた。そこで出会った40すぎの教師の女性に、なぜこれほど過激な反応が噴出したのかきいてみた。肉体と性を「悪」だと否定するカトリック教会の厳格なモラルは、多大なフラストレーションと罪悪感を生み出すからだ、と彼女は言った。地方のそうした家庭で育ったために、ホモセクシュアルの彼女は罪悪感にとても苦しんだという。同性婚反対運動が広まって以来、「ルフュージュ(避難所)」というホモフォビアに苦しむ青少年をサポートするNPOや、ホモフォビアのSOS電話サービスに援助を求める若者たちが増えた。「自由と人権の国であるはずのフランスに、不寛容で反動的な人がなぜこんなにたくさんいるのか?」と外国のメディアも驚き、幻滅している。新しい法律によってホモセクシュアルの社会的認知が進み、苦悩や差別が少なくなることを心から願いたい。そして、移民、外国人、ホモセクシュアルなどマイノリティの弱者を攻撃する不寛容なフランスをアイデンティティとする勢力に対して、市民の創造的な抵抗力が高まるのを望まずにはいられない。

2013年4月26日  飛幡祐規(たかはたゆうき)


  *マルボーロのタバコの箱のパロディー(4月21日のバスティーユ)・マルボーロのかわりに「みんなのためのデモManif pour tous」・その上のシルエットがパパ、ママ、男の子と女の子の理想の家庭(彼らのロゴ)・EU のタバコには「タバコは殺す」と書かれているが、ここには「ホモフォビアは殺す」

 *写真提供(4/23の3枚)=Christian Fonseca


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