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●ミヒャエル・ハネケ監督『愛、アムール』など
国際映画祭受賞作を一挙公開――3作品が描く「人生の奥深さ」

 カンヌなど国際映画祭の受賞作品3本が公開される。

 ミヒャエル・ハネケ監督の『愛、アムール』(公開中/写真)は、チラシに「人生はかくも長く素晴しい」とあるように、高齢の音楽家夫妻の愛の“到達点”を描く。演じるのは『男と女』のジャン=ルイ・トランティニャンと『二十四時間の情事』のエマニュエル・リヴァ。往年の大スターの変貌ぶりに、えっと驚かされる。人は誰しも年を取ると痛感する。パリの高級アパートで老いの日々を送る夫妻に、ささいな異変が起きて……。観客は老いの実相をまざまざと見ることになる。

 アンドレア・セグレ監督の『ある海辺の詩人』(東京・シネスイッチ銀座)は、ヴェニス近郊の漁師町が舞台。高潮で水に沈んだ街路を小舟でいくシーンなど、画面の絵画的な美しさが印象深い。町の居酒屋で働く中国人女性と旧ユーゴスラビア出身の老漁師の年の差を超えた淡くやるせない交流がいい。女性には、中国映画の奇才ジャ・ジャンクー映画のヒロインであるチャオ・タオが演じている。不自由な外国人労働者の組織にもメスを入れている。

 クリスティアン・ムンジウ監督の『汚れなき祈り』は、ルーマニアの修道院で実際に起きた事件を扱っている。監督は前作『4ヶ月、3週間と2日』で、独裁政権下の女子大生の禁断の中絶手術を描いた。映画は、その時代から解放されたはずなのに、なお閉鎖的な集団のなかでしか生きられない人々に焦点を当てている。

同じ孤児院で育った2人の若い女性が再会し、丘の修道院で暮らすようになる……。独裁時代は労働力として“産めよ増やせよ”の政策がとられたが、経済力が伴わず人々は飢え、子どもは捨てられた。マンホール生活をする子どもが大勢でた。映画はそんな負の遺産を背景に、主人公2人が「心に神」を求めて葛藤する姿をとらえている。心のよりどころを失った日本の若者にも通じて痛ましい。(『サンデー毎日』 2013年3月24日号)

*『汚れなき祈り』は、東京・ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次公開


Created bystaff01. Created on 2013-03-22 11:22:34 / Last modified on 2013-03-22 11:24:27 Copyright: Default

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