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第21回・2012年7月2日掲載

フランスの新政権 「変化」はゆるやかに?


*大統領選勝利を祝う5月6日の夜、バスティーユ (c) Didier Fontan 2012 プラカードは「人間が第一」という左翼戦線のモットーが書かれている

 6月10日と17日に行われた総選挙の結果、フランスの新たな国民議会は左派が577議席中341を獲得し(59%)、オランド大統領を支持する社会党を軸とする政権交代が実現した。社会党と同盟政党だけで過半数の314議席を得たのは、ミッテラン大統領が初当選した1981年を上回る記録的勝利である。

 しかし、投票率は55,4%にしかいたらず、第五共和政の国民議会選挙で最低だった(1970年代の投票率は80%以上)。このことは、80%近くと高かった大統領選の投票率と対をなし、政策より指導者のパーソナリティが重視される「政治の人気投票化」を意味するため、議会民主主義にとって大問題である。フランスは1970年代まで民衆の政治意識がとても高かったが、消費社会の浸透と反比例的に、政治離れが進んだようだ。大統領の権限を強化したドゴール将軍原案による第五共和政(サルコジ前大統領の憲法「改革」によって、さらに権力集中)の欠点が、今回の選挙でも明確に示されたといえるだろう。折しも、第二次投票の翌日から始まった大学入学資格(バカロレア)試験の歴史・地理の小論文課題では、「第五共和政と政治機構」が出題され、受験した息子は今回の選挙の結果も例に引用したという。

 また、地域圏や欧州議会議員の選挙と異なり、国民議会選挙は比例制を全くとりいれない小選挙区制のため、少数派の政党には著しく不利となり、二大政党に議席が集中する。大統領選の第一次投票でメランション候補が11%以上を集めた左翼戦線(左の党と共産党など)では、総選挙の第二次投票に残れた候補者が少なく、10議席しかとれなかった(メランション含め左の党は全滅)。

 一方、ヨーロッパ・エコロジー・緑の党(EELV)は大統領選前に社会党と結んだ協定(脱原発政策などについて大きく譲歩したかわりに、社会党から選挙区をもらった)によって、第一次投票での得票率は5,46%で左翼戦線(6,91%)より少なかったにもかかわらず、17議席を獲得して初めて議員グループを構成することができた。しかし、過半数を得た社会党は緑の党や左翼戦線と同盟を結ばなくても立法できるのだから、脱原発をはじめ環境とエネルギー政策において、緑の党がどの程度の影響力をもてるか疑問である。おまけに、エロー内閣に入閣した緑の党のふたりはいずれも環境省の担当ではない。総選挙前のエロー第一次内閣の環境大臣は、ギュイアンヌ沖の石油採掘の件で環境保護的立場を強く主張したため、総選挙後の内閣改造で他の庁に左遷されてしまった。

 さて、2002年から10年間権力の座にあったUMP(大衆運動連合)は、中道右派を含めても229議席と大きく後退した。第一次投票で13,6%を得票した極右の国民戦線は、29の選挙区で保守、左派と三つどもえになり、最終的に2議席を獲得した(極右全体で3)。党首のマリンヌ・ル・ペンは接戦で敗れたが、創始者ル・ペンの孫娘マリオンが22歳の若さで南仏で当選した。国民戦線の目的は、従来の保守党との壁を崩し、その一部をとりこんだ極右翼政党として、ゆくゆくは政権に参加することにあると思われる。保守党は2007年までは、国民戦線を共和主義から逸脱した人種差別主義とファシズムに近いポピュリズムと位置づけ、選挙での協力関係を拒んでいた。しかし、サルコジ前大統領以下、保守党UMPの大臣・議員が国民戦線が提唱する反移民・反イスラムの言説を繰り返した結果、UMP内には「国民戦線と同じ価値観をもつ」とはばからずに言う議員や選挙民が増えた。総選挙の第二次投票ではしたがって、「国民戦線とも左派とも同盟しない」が党の方針となり(それまでは国民戦線を落選させるため、保守と左派の「共和主義同盟」が法則だった)、地区によっては国民戦線候補への投票をよびかけたUMP候補などもいた。サルコジが政治から退いた今、保守陣営では政策方針とリーダーシップの争いが始まり、一部からは右傾化への批判も出ている。選挙結果を見ると、国民戦線と同じ傾向のUMP右派候補の半数は落選したが、地域によって状況は異なる。いずれにせよ、前回も述べたように、従来の保守党と極右の境界線が崩れ、保守陣営が右傾化したのはたしかだろう。そして、国民戦線の主張する反移民・反イスラム主義、その根源にある人種差別感情に対する倫理のたがが外れ、排外主義による人々の意識の汚染が進んだことについて、前サルコジ政権の罪は大きい。

 今回の国民議会選挙では、それまでの政治地理分布(地域による支持傾向)がますます強まった。大統領選の結果とほぼ同じく、フランス東部(アルプス地方をのぞく)とイル・ド・フランス地方の外側の地域、南部と内陸部の一部は保守が優勢なのに対して、西部と中央・南部の西側半分は左派が優勢である。年齢による分布も大統領選のときと同様で、60歳以上を除くすべての年齢層の過半数が左派へ投票。職業別では退職者と職人・小売商・社長以外のすべての層、世帯所得では月収3000ユーロ(約30万円)未満の人々の過半数が左派に投票したとされる(Ipsos/Logica Business Consultingによる世論調査)。つまり、高齢で裕福なほど保守・右翼支持が多いわけだ。低所得の庶民や若い世代が目立って右傾化したのではなさそうなので、少しほっとした。しかし、若い層ほど棄権率が高いという現実はショッキングだ。60歳以上の投票率が73%であるのに対し、45歳以下では50%を割り、18〜24歳の棄権率は63%にもいたる(数字は世論調査の結果)。これには近年の政治状況だけでなくマスメディアの責任も大きい(政治のスペクタクル化)と感じるが、政治の「回復」は新政権にとって大きな課題である。学歴の低い若者たちの一部では国民戦線への賛同者が増えているという調査もあり、党首マリンヌ・ル・ペンが狙った国民戦線の「モダン化・若返り化」は着々と進行しているのだから。

 さて、エロー新政府の目立った特徴はなんといっても、大臣の数がフランスで初めて男女同数になったことだ。新国民議会における女性議員の割合も27%弱で、初めて20%を超えた。フランスでは、2000年のジョスパン内閣のときに男女同数制を促進する法律ができたにもかかわらず、国会への女性進出が遅れていた(これまで世界で69位、新議会になってようやく34位)。地域圏議会や欧州議会、市町村議会では近年、35%から5割近くに女性議員が増えたが、国民議会については男性の執着が強いのだ。以前から男女同数制を尊重してきた緑の党(完璧に男女同数)に次いで、社会党でもようやく女性議員の割合が増えた(37%)が、UMPは依然として圧倒的に男性優位である(14%)。

 「変化」をモットーに選出されたオランド大統領のもとで、社会党優位の新政権は何を、どの程度、真に変革できるだろうか? 国内の経済政策については、予測より低い成長率と多額の国庫赤字、増え続ける失業者という状況の中で、毎年7月1日に行われる最低賃金の値上げは2%にとどまり、労働組合や左派をがっかりさせた。教員、警察、司法の分野では増員が約束されているが、それ以外の官庁では予算と人員が削減される見通しだ。また、社会党の「タカ派」、ヴァルス内務大臣は、滞在許可証なしに長年フランスに住んで働く「サン・パピエ」の大量の合法化はしないと発言し、この件でも目立った「変化」は期待できなそうな雲行きだ(サン・パピエ問題については、オランドも候補者時代から大量合法化を否定してきたが)。一方、外国人学生に対する異常な規制強化の政令は撤廃された。

 大統領や大臣の給料を30%減らすとか、国営企業(国が過半数株主)の社長の給料をその企業の最低所得の20倍におさえるなどの決定は、サルコジ前大統領時代の「カネと権力の暴走」に歯止めをかける象徴的な措置といえる。富裕層への増税など、より「公正」な社会政策と税制改革は、これから議会での立法や労使会議などをとおして決められていく予定だ。象徴的にとどまらない貧富の差の是正が実施されることを期待したいが……。

 オランド大統領は選挙キャンペーンで、若者に向けた政策が優先事項だと強調した。政権交代によって教育についての価値観が変わったことは、大きく評価できるのではないかと思う。ペイヨン新教育大臣は教員の増加だけでなく、とりわけ初等教育の抜本的な改革を掲げている。学習リズムの改革(フランスではヴァカンスが長く週4日制が一般化したため、1日の授業時間がとても長く、子どものリズムに適しないとされる)には時間を要するだろうが、教員の削減と管理強化をはじめ、教育を企業のマネージメントのように考えるネオリベラル思想にもとづいた前政権の「改革」にストップがかかったことに、ほっとする。教員の実習制度が廃止されたり、習得が困難な生徒を教える専門教員(RASED)が減らされたりなど、近年は公教育の破壊が進んだと感じていたからだ。ペイヨン大臣は6月26日、今後の改革と教育方針について、教育省に属する全職員にあてた詳細な手紙を公開した。教員をはじめ教育現場の人々全員に敬意を表明し、すべての子どもがうまく学べるような学校をいっしょに再建しようと述べている。フランスでも若者層の二極化(学歴のない者は定職を得られず、貧困化につながる)が指摘されているが、「平等な教育の機会をもたらす学校」という公教育の理念が再び息づくことを願いたい。

2012.6.30 飛幡祐規(たかはたゆうき)


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