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●映画「ただいま それぞれの居場所」
いやだけど…でもまあいいか 人生は介護によって完結する

 倍賞美津子の演じた「ユキエ」という映画にこんなシーンがあった。米国人と結婚したユキエが64歳でアルツハイマー病にかかり、次第に記憶力をなくしていく。あるとき見知らぬ若者が訪ねてきて、別れ際に彼女を抱きしめる。彼女は息子だとはっと気づき「この病気はお前たちとのスローグッドバイだと思っているの」といい聞かす。

 現実はこのようにきれいごととはいかないが、介護問題をドキュメントした大宮浩一監督の「ただいま それぞれの居場所」をみていて、ふと「スローグッドバイ(ゆっくりとしたさようなら)」というセリフが蘇った。が、同時に介護される老人や認知症の人々をみていて、自分もこういう存在になっていくのか、いやだなぁという気分になった。79歳の元校長は、精神が壊れかけていてもプライドが高いのか、介護スタッフにごねたり怒ったり。また、毎日「仕事にいく」と出かける?80歳の老人は、老女を妻とはわからず「おばさん元気でね」とあいさつする。

 介護保険制度が導入されて10年、さまざまな施設は誕生したが、保険の機械的な適用で画一的なサービスしかなされない矛盾も生じてきた。映画は、四つの施設や事業所を訪ね、そこに集う老人たちとスタッフの日常をとらえつつ、家族の思いも挿入して介護の現実に光をあてている。

 最近、高齢者が多くなったせいか「やさしい嘘と贈り物」や「春との旅」といった老人の生き死にを問う映画がふえてきたが、「ただいま」に出てくる施設は、スタッフが一筋縄ではいかない老人たちと苦闘しつつ大家族のように共生している。それをみていると暗い気分も失せてこれも人生なんだと受け入れられる気になってくる。それがいい。

脳障害で58歳のスポーツマンだった元企業戦士のシーンが印象的。彼はいつも無気力で無表情なのに娘が訪ねてくると思わず手を上げてにこっと笑うのだ。─そこに彼の生きる喜びをみてうれしくなった。(木下昌明/「サンデー毎日」2010年4月18日号)

*映画「ただいま それぞれの居場所」は4月17日から東京・ポレポレ東中野でロードショーほか全国順次上映。写真(C)大宮映像製作所

追記 : この映画は、介護する側から介護される側の問題に比重をおいて追究したドキュメンタリーだが、つい自分が介護する側よりされる側に近いものだから、この紹介批評も映画の主趣とズレているかもしれないので、ご了承ください。(木下)


Created bystaff01. Created on 2010-04-13 12:06:37 / Last modified on 2010-04-13 12:09:24 Copyright: Default

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