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第3回 相次ぐ「ヤミ専従」問題の背景にあるもの

 2008年の社会保険庁に引き続き、今度は農林水産省で労働組合(全農林労組)による「ヤミ専従」問題がまた明らかになった。3月に始まり、4月初旬まで積極的に報道されたこの問題に対するメディアの関心は現在、やや薄れているようにも見受けられる。この問題は敗戦直後からの官公労運動の歴史と密接に関わっているが、メディアによってセンセーショナルな報道が行われることはあっても、主権者であるはずの国民に正しい情報が与えられないまま、官公労とこれに反感を抱く勢力との間で国民不在の「空中戦」が続けられてきた。当コラムの筆者は、民間労組からは理解が難しいヤミ専従問題については、運動内部からの「総括」と意見表明が必要だと常々思っていた。

 農林水産省でのヤミ専従は、社会保険庁よりもずっと根が深く、大規模だという観測も一部にはあった。農水省でヤミ専従がはびこっているのは農政事務所(旧食糧事務所)がほとんどではないかと思われるが、農政事務所は「ムラ」意識が非常に強いところで、こうした悪しき体質を今も引きずっている。だからこそ事故米問題もここで起きたのである。

もとより、この攻撃を「国労攻撃と同じ敵の体系的、計画的攻撃」の一環と見て警戒しなければならないことはいうまでもない。昨年秋、事故米問題を契機にとりまとめられた農水省改革の工程表に「不適切な労使慣行の是正」という一項目が入れられているのを見たとき、「やはり来たか」と筆者は思った。国労、全逓、日教組、自治労を潰し、最後の総仕上げが全農林ということなのだろう。 ところで、全農林のヤミ専従問題は、3月15日の「読売新聞」が初めて報じたが、そのほぼ1ヶ月前の2月19日にはこんなニュースが報じられている。

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「森、青木氏ら会談で総選挙に危機感」(日刊スポーツ)
http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp3-20090219-462407.html

自民党の森喜朗元首相、青木幹雄前参院議員会長、山崎拓前副総裁らが18日夜、都内で会談した。出席者の中からは、麻生内閣の支持率低下などを踏まえ「麻生太郎首相では次期衆院選は戦えない」との意見も出たという。会談には、渡辺恒雄読売新聞グループ本社会長、氏家斉一郎日本テレビ取締役会議長も同席した。

 また山本一太参院議員ら若手議員が同日夜、都内で開いた会合でも「麻生首相では戦えない」との意見が続出。「総裁選を前倒しして選挙の顔を代えるべきだ」などの声が出た。(共同)

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自民党政権幹部と「ナベツネ」が同席して会談→それから1ヶ月も経たないうちに全農林のヤミ専従問題が「読売」から報道…。

これを単なる偶然と思うほど筆者はお人好しではない。この会談でどんなことが話し合われたのか不明なため、あくまで憶測に過ぎないが、24年前に中曽根首相、瀬島龍三氏、国鉄幹部の葛西敬之氏(いずれも当時)が密会を重ねていたときと全く同じ構図である。マスコミを抱き込み、官公労攻撃の最後の幕が上がったのだと推測する。

しかし、筆者の見るところ、当時の国鉄と現在の農水省には大きな違いがある。それは国鉄と異なり、農水省には第2組合がないという点だ。当局が全農林解体を仕掛けるとしても、今から第2組合を育成していたのではとても間に合わない。林野庁には日林労という旧同盟系の第2組合があるが、林野庁と林業系の一部独立行政法人にしか組織されておらず、また現業系の日林労と事務系・研究職中心の全農林では要求も待遇も違いすぎるので、日林労の他職域への食い込みは困難なように思われる。したがって、当局の攻撃は全逓、自治労、日教組で見られたように「組織は温存したまま、幹部を抱き込んで牙を抜く」というやり方で推移するだろう。農水省では、あらゆることが全農林との現場協議を経なければ進められないといわれており、この現場協議制の解体が当局のひとつの目標ではないだろうか。

◇ヤミ専従問題について思うこと

民間労組からは決して理解ができないヤミ専従問題の本質を考えていくと、以下の問題が浮かび上がってくる。

(1)権利を闘い取らず、馴れ合い運用でごまかした55年体制

ヤミ専従の根底にある問題のひとつとして、休職専従(公務員の仕事を休職して労働組合の専従となること。専従期間中、勤務先官公庁から給与は支給されない)が法律で原則5年まで(現在は特例で7年までに緩和)に制限されていることである。労働組合休職専従期間が7年に達した場合、該当者は休職専従をやめて職場復帰しないと公務員の身分を失い、離籍専従(いわゆるクビなし専従)となってしまう。官公労の多くがヤミ専従に手を染めたのは、有能な職員を専従が原因の首切りから守るためという大義名分があったのだ。

しかし、これは労働組合の力が強かった70年代までに、何年でも無限に休職専従ができるような権利を、きちんと権利として闘い取らず、自民党政権と馴れ合って運用でごまかしてきた労働組合側にも原因がある。「権利なのだからいいじゃないか」という考え方が現在でも官公労指導部の一部に存在するが、法令上の根拠がなくても運用で社会がうまく運営できればいいという時代は過去のものとなった。現在はあらゆる組織・個人が法令遵守を強く要求されるようになっており、かつては「通達行政」「行政指導」で社会を運営していた官僚に対しても、その活動上の根拠をきちんと法律に明記するという方向に社会の意識が変わってきている。

このような時代に、官公労だけがヤミ専従を続けるなら、国民から「不透明な特権を行使している」と見なされ、決してプラスにはならないし、それはまた、官公労と民間・非正規労働者の闘いを分断しようと狙っている支配層に格好の口実を与えることになる。こうした理由から、筆者は支配層ごときに言われるまでもなく運動内部からの声によってこの機会に一度、こうした慣行を総点検し、見直していくべきだと考える。 もっとも、75年のスト権ストが成功に終わっていれば、公務員にも民間労働者と同様、労働三法が適用されるようになっていたはずで、この問題は発生しなかったと考えられる。国労も全農林もスト権ストに参加しているが、このときの敗北も影を落としていることは間違いない。

(2)幹部の長期化と「お任せ民主主義」

もうひとつは末端の組合員側の問題で「誰かがやってくれるだろう」という意識だ。民間労組の場合、組合役員は出世コースになっており、一番の出世頭が生産性向上を訴えるために役員に就くという救いがたいケースもあるが、官公労の場合、組合役員には出世というおまけもないので、役員就任は単に仕事が増えるだけである(組合員からの相談への対応のような「世話役活動」をまじめに考える人ほど仕事が増える)。こうした事情から、次のなり手が見つからず、特定の人が長く役員にとどまり続けるという状況が出現する。 法律で休職専従が最大7年に制限され、スト権ストでも権利を奪還できなかった官公労だが、労働組合が全員を幹部として育成するつもりで労働者教育を行い、誰が幹部を務めても一定の運動水準が維持できるようにしておけば、幹部を容易に交代させることができ、休職専従に期間制限があったとしても問題はそれほど生じなかったはずである。ヤミ専従に手を染めてまでも、特定少数の幹部を守らなければならなかったのは、結局、全員の水準を底上げするような組合員教育をできなかった労働組合側にも原因を求めなければならないのである。

(3)結論

上記(1)(2)の問題は、無関係のようで、実は根底ではつながっていると私は考えている。一方の側には「大幹部様」が長期にわたって君臨し、もう一方には議案書を読んで、大会では拍手だけしておけばよいと考える「お任せ民主主義」的大衆が存在しているという点だ。他人が何とかしてくれると考えている受動的組合員は、労働組合を自分のものだなんて考えもしない。国鉄「改革」のとき国労が簡単に切り崩されていったのも、こういう構造があったからではないか――筆者は最近、そんなふうに考えるようになった。「偉大な指導者」と「無気力な大衆」が同時代の同組織の中に同居する、ある種のスターリニズムに大労組すべてが侵されている。

このような攻撃にあったとき、大切なことは、「労働組合は幹部のものでなく、組合員自身のものである」という意識を持つこと、仲間を信じ、幹部を敵に抱き込まれないようにすることではないだろうか。その2点さえ守れれば、どのような組織であっても守り抜くことができる。これこそ、20年来の国鉄闘争から筆者が学び取ってきた最も大きな宝物である。

黒鉄好(2009年4月30日)


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