●映画「ロルナの祈り」
頭が望むのは金…でも体は? 愛という名の不可思議な正体

波乱に富んだドラマとはいえないが、ミステリアスで不思議な魅力をたたえた映画が
ある。ベルギーのジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌの「イゴールの約束」「ロ
ゼッタ」「息子のまなざし」「ある子供」がそれだ。大作とはほど遠いが、いずれもカ
ンヌ国際映画祭でパルムドールなど多くの賞をとっている。現代社会の片隅にあって、
個々人がいかに生きるか、苦悩し、葛藤する問題を深くえぐり出しているからだ
ろう。
カンヌで脚本賞をとった新作「ロルナの祈り」もそういう一本。若い娘ロルナはベル
ギーにやってきたアルバニア移民で、麻薬中毒のクローディと偽装結婚し、クリーニン
グ店で働いている。彼女には同郷の恋人がいて、一緒に店を持つのが夢だ。そのために
国籍売買のブローカーに協力している。ブローカーは、クローディを麻薬の過剰投与に
よって殺し、次に国籍をとったロルナをロシア人と“結婚”させて儲けようと企んでいる。お金のためと割り切っているロルナも、クローディが疎ましくてたまらない。
ところが彼のほうは、肉体関係はなくとも一緒に暮らしている彼女を何かと頼りにし
ていて、クスリを断とうと努力もする。それを知って、彼女は彼を殺さずに“離婚”で
きる方法を考え始める。
そんなある時、予期せぬことが起きる。クローディが突然、クスリを求めて飛び出そ
うとする。その前に、ロルナがすばやく全裸になって立ちふさがるのだ。これに観客はあぜんと
なろう。
人間の内奥にはさまざまの欲望や感情がひそんでいて、それに突き動かされて
、時に思いもよらぬ行動に突っ走ることがある。頭では右へ行こうとしているのに、体
は左へ動いてしまう、この衝動―そこからいっけん不可思議にみえる愛というものの正体も見えてくる。
ロルナを演じたアルタ・ドブロシがいい。満面に笑みを浮かべて走る一瞬が目に焼き
つく。(木下昌明・「サンデー毎日」2009年1月18日号)
*映画「ロルナの祈り」は1月31日から東京・恵比寿ガーデンシネマほか全国順次ロードショー
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Created on 2009-01-19 11:55:09 / Last modified on 2009-01-19 11:57:33 Copyright:
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