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●「ミルコのひかり」
耳で「見る」楽しさが夢を紡ぐ
「音の魔術師」の実話を映画化

 その昔、見えない、聞こえない、話せない、の三重苦を負ったヘレン・ケラーの少女時代を描いた「奇跡の人」(62年)という傑作があった。両親が溺愛する中で無分別に生きていたが、一人の教師の手を借りて「文字」を発見し、人間性に目覚めるのだ。

 以来、障害者が偏見に苦しみ、周囲との葛藤に悩みながら成長していく映画が作られる機会が増えるようになった。公開中のイタリア映画「ミルコのひかり」は、その系統に入る作品の一つであろう。「音の魔術師」として知られる映画の音響編集者、ミルコ・メンカッチの少年時代の実話をもとにした物語だ。

 10歳のミルコ少年は不慮の事故で視力を失い、全寮制の盲学校に入学する。思いがけない逆境にいっときは失意の日々を送っていたが、偶然手にしたテープレコーダーによって、音による「視覚の世界」を発見する。

 事故前、父とよく映画を見に出かけたミルコは「目にみえなくとも映画にいけるよ。音楽や言葉でわかるんだ」と、盲学校のクラスメートたちとこっそり映画館に行き、かれらに耳で“見る”映画の楽しさを覚えさせ、夢を広げていく。

「雨の音」はシャワーで、窓のすき間に吹きこむ風は「木枯らし」に見立て、唇を震わせると「蜜蜂の羽音」といった具合いに。ミルコはテープレコーダーを駆使して、次々に人工的に季節の彩りを作り出してみせる。そのことによって、目が見えていた時には気づかなかった想像の世界を飛躍的に拡大させることができるのだった。

 時代は70年代、イタリアでは目の見えない子どもは一般の学校に入れず、未来は閉ざされていた。そんななかで、一人の若い教師が頑迷な校長(本人も盲目なので盲人を理解しているつもりで逆に狭い世界に閉じ込める教育ばかりしていた)に抵抗し、ミルコたちの手助けをする。そこから、盲目の人々が通常教育を受けることができる道が開けてくる。

 音によるイメージ豊かな学芸会のシーンには体が震えてくる。 生きることの再発見がそこに描かれている。(木下昌明)

クリスティア・ボルトーネ監督「ミルコのひかり」は東京の渋谷シネ・アミューズ他で上映中

*「サンデー毎日」07年9月23日号に修正・加筆

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●「白い馬の季節」
砂漠化するモンゴル高原の今を
夫婦二人三脚で描いた映画

 映画をみていると世の中の移り変わりがよく見えてくる。たとえば、2002年に作られた、中国・内モンゴル自治区の高原地帯を舞台にした「天上草原」。これに実生活でも夫婦の寧才と娜仁花が主役夫婦として登場している。

 漢民族の男がモンゴル遊牧民の夫婦に育てられる、その少年時代を回想した物語だ。時代は一昔も二昔も前、スクリーンいっぱいに緑で覆われた草原と青く輝く湖が映し出され、馬や羊の群れが大自然に溶け込み、遊牧生活は詩情豊かに繰り広げられていた。

 ところが、間もなく公開される「白い馬の季節」では、同じ高原地帯を舞台にしながら、打って変わった光景が映し出されている。

 トップシーンは、鉄条網が張られ、至る所に(消費文化の象徴ともいえる)ビニール袋の切れ端が風になびく砂漠化 した草原で雨ごいして歌い踊る一人の祈祷師を遠望する。

 これはどうしたことか?

 この映画でも「天上草原」の主役夫婦がそのまま夫婦役で主演する。寧才は監督・脚本、妻の娜仁花は製作を兼ねている。娜仁花は映画パンフレットのインタビューで、「天上草原」の撮影時に、映画とはうらはらに草原の生態破壊が進み、遊牧生活が様変わりした現実を目にしたからだ、と製作動機を語っている。

 本作では、次々に羊が餓死し、授業料が払えないので、子どもを学校にも行かせられず、ついには老いた白馬 を手放さざるを得ない過酷な状況がとらえられる。

 なぜこうなったのか?

 異常な気候変動とともに、移住してきた多くの漢民族が酒造工場やハイウエーをつくり、辺境にまで市場経済が及んだこと、政府が鉄条網を張り巡らし、土地所有の意識をもたない遊牧民を身動きできなくさせたことなど、苦闘する一家の日々のなかからその要因を浮かび上がらせている。

 これは遠い国の単なる「物語」ではない。(木下昌明)

「白い馬の季節」は東京・神田神保町の岩波ホールで10月6日から公開

*「サンデー毎日」07年10月7日号に修正・加筆


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