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●木下昌明のWEB版・映画批評NO.3『スーパーサイズ・ミー』(2005年1月20日掲載)

貧乏人ほど太る社会

木下 昌明

 わたしの働いている新聞社の地下にある飲食店街は、この十年余で様変わりした。ゆったりした和風の料理店や喫茶店が姿を消し、コンビニや外資系のマクドナルド(マック)、スターバックスなどの出店が目につくようになった。早朝出社の折、コンビニに寄ると、パンやおにぎり、即席めんを求める若い男女でごったがえしている。マック店で朝食をする者もいる。それは新聞社のリストラ・縮小化にともなって空いたフロアーに新規企業が入ってきたことと関係している。職場でも、若者がパンやおにぎりを食べながら終日パソコンに向かっている光景をよくみかける。かれらの多くは、わたしと同じ非正規雇用だ。安価なフード店の繁盛はこのような労働者の増加と比例している。ここにもグローバリゼーションの顕著なケースがみられよう。

 ファストフードの有害性とその社会現象化については、一般に『マクドナルド化する社会』(早稲田大学出版部)、『ファーストフードの秘密』(技術と人間)、『ファストフードが世界を食いつくす』(草思社)の出版で知られるようになった。しかし、それらはフード店の利用客とはあまり関係なく社会問題を考える人々が活用するために読まれている方が多かった。

 その点、こんど公開されるドキュメンタリーの『スーパーサイズ・ミー』の方は、いかにファストフードがよくないかを知識よりも先に実感として味あわせてくれよう。というのも、これは監督のモーガン・スパーロックという青年が自ら実験台になって有害かどうか証明しようとする試みで、一カ月一日三食を食べつづけて、体調の変化を記録し、その結果を世に問うたものだからである。きっかけは、若い女性が「自分たちの肥満はマックのバーガーが原因」と訴訟を起こし、それにマックのスポークスマンが「肥満との因果関係は全くない」と反論したテレビのニュースをみたからだ。

 そこでスパーロックは、どちらの言い分が正しいか検証しようと思いたち、三人の内科専門医に診断をうけ、健康体のおすみつきをもらって、管理栄養士や運動生理学の専門家にも協力をあおいで実験を開始する。

 だから当然、スパーロックが主人公となってマックに出かけてパクつくシーンの多いドキュメンタリーとなる。その点では少しもドラマチックじゃないが、これがけっこう面白い。笑わせる。初めは物めずらしさもあってはしゃぎながらほおばるのだが、二日めには量の多さに吐いてしまう。この映画の撮影のころ、マックでは、Lサイズより大きいスーパーサイズがウリになっていて、店員はいつも客にスーパーを勧めていた(のちにマック社は映画の影響をおそれて中止にする)。それでも三日がまんすれば抵抗なく食べられるようになり、落ち込んでいた気分も食べると高揚してつぎも食べたくなるという。これはマック中毒にかかった証拠である。原因は、カフェインやアヘンやモルヒネまで入っているからと専門家が説明する。

 やがて、かれの肉体は異常をきたしはじめる、目にみえる変化は肥満化するスピードにある。最初は八四・三キロだった体重がみるみる太って最終日には九五・三キロとなる。まさに〈自分を特大化しよう〉(スーパーサイズ・ミー)である。これによって、アメリカ人の六〇%が肥満というのは、ファストフードを中心にした食生活が原因とわかる。同時に、内臓が悪化してきて、医師は二十一日めに「もうやめなさい」と忠告する。二人の医師は、肝臓がアル中患者と同じ症状を呈していることに驚く。これらのシーンに、マック愛用の観客はゾーッとさせられよう。

 最近、『朝鮮日報』のウェブサイトに、韓国でも同じことを試みた青年が、医師から危険な状態だと二度の忠告をうけて、ついに二十四日めに断念したという記事がのっていた。

 ところで、この映画でわたしがショックをうけたのは、マック社がロナルドというピエロを使ったり、店内に子どもの遊び場を設けたりして、食生活と遊びを巧妙に結びつけ、幼児のころから食習慣を刷り込ませてファストフード文化をつくりだしていること──それによって肥満児の二〇%以上が肝臓障害を起こしているということだった。それに輪をかけるようにブッシュの教育改革が、勉強一筋の肥満児をどんどん生みだす環境づくりをしているという。

 このようにスパーロックは、食べる行為を撮りながらしだいにファストフード文化の異常な社会背景にもせまっていく。ここにわたしはもう一人のマイケル・ムーアの誕生をみる。

 昔は肥満が富める者のシンボリックなイメージだったが、いまやそれが貧しい者の病的なシンボルと化しつつあるのだ。この逆立ちした現象はグローバル社会の一つの特徴かもしれない。

(『技術と人間』2004年12月号所収・03-3260-9321/タイトルはレイバーネット日本編集部) 


Created byStaff. Created on 2005-09-04 20:40:23 / Last modified on 2005-09-04 20:48:21 Copyright: Default

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