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走る労働、飛んで行く資本:技術変化の対応と課題

[ワーカーズ・イシュー(1)] 第4次産業革命的に!!! 労働しろ???

パク・チョンシク(延世大社会発展研究所専門研究院) 2018.10.03 11:12

[出処:キム・ヨンウク]

産業技術の発展と曖昧な雇用関係の拡散

2017年3月、イ・セドルとGoogleアルファ碁の囲碁対決を契機として 人工知能(AI)とディープラーニング、モノのインターネット(IoT)、3Dプリンティングなどの 新しいデジタル技術用語が押し寄せ始めた。 そして新技術による新しい社会の変化を「第4次産業革命」と呼んだ。 だが第4次産業革命は誇張だという批判が提起され、関心は初期より下がっている。 第4次産業革命ブームから1年以上過ぎた今、 技術発展をめぐる資本と労働の対応を静かに振り返る適切な時間だ。 ただ今までの技術発展は資本の一方的な独走であり、ずいぶん遅れたとも言えるが。

現在の技術の発展を第4次産業革命と呼ぼうが、あるいはデジタル転換と呼ぼうが、 社会はデジタル化された情報が蓄積される。 また蓄積された情報がインターネット基盤のオンライン世界と接合して増幅し、 社会の変化を招くものと予想される。 しかしこの技術の変化が引き起こす姿は日常生活だけでなく、労働力の売買と生産が行われる業務空間をめぐる風景もまた、以前との質的な変化を現わしている。 具体的には労働の内容については既存の作業組織や労働統制の変化だけでなく、 労働-資本間雇用関係における標準雇用関係(standard employment relationship)の変化、 つまり「フルタイム-終身雇用-高い企業福祉」を特徴とする正規雇用の弱化として現れている。 こうした変化は資本がデジタル技術の発展を基盤に 「官僚的統制」に対する自信の中で標準雇用関係の弱化を追求してきた。

その結果、今日の労働者の地位は「労働者(雇用契約)」になる事もあれば 「個人事業者(業務委託契約)」になることもある。 また労働-資本の関係が既存の1:1の関係だけでなく、1:多数の関係、 つまり階層的な中層雇用(hierarchical multiple employment)が広がり、 労働者の実質的な雇用主は多数になりうる。

このような点で既存の労働-資本関係も曖昧になり、 労働者と個人事業者の境界も曖昧になって、 曖昧な雇用関係(ambiguous employment)と不安定労働(precarious work)が世界的に拡散している。 これは単に雇用関係の曖昧性だけに終わらず、既存の労使関係そのものを揺るがすかもしれない。 例えば町でさまざまな飲食店と1件当たりの手数料で配達する労働者たちが労組を結成すれば、 誰とどのように団体交渉と交渉をするのか? 個人事業者としての配達員は、配達業者と勤務条件に対して団体交渉をするのだろうか? あるいは本当の社長である飲食店と団体交渉をするのだろうか?

技術陣堰と労働:不安定労働の全面化

では労働の変化のどこに焦点をおくべきか? ここには大きく2種類の立場がある。 この数年間、ILO(国際労働機構)やEU(ヨーロッパ連合)等が発行した雇用関連の報告書は 「労働の未来(The Future of Work)」を最大の話題として提起して、 デジタル技術の発展、プラットホームの登場のような社会の環境変化による労働の変化を主題として扱っている。 主に新技術による雇用の威嚇と減少に注目し、 標準的で正常な雇用の縮小によって現れる社会的な変化に焦点を合わせている。 しかし労働組合運動を強調する立場では、「労働の未来」ではなく 「労働者の未来」の方が重要だと強調する。 後者は技術変化が労働者と労働運動に及ぼす含意が重要ではあるが、 「労働の未来」の論理は現在、労働者が直面している技術的な威嚇を扇情的に誇張し、 十分な検討なしで生煮えな代案―代表的には基本所得を提示していると指摘する。 また、ILOでもEUが技術的な威嚇を実際に追求する勢力が誰なのかは見過ごしていると批判している。

では未来の労働または労働者はどんな状況に置かれると考えて、こうした論争をするのか? これに先立ち、1970年代以後の科学技術の発展と労働市場の変化が重複して展開する流れを理解する必要がある。 1970年代以後、新自由主義理念が西欧の先進国を主導して、 労働の面で安定雇用は解体され雇用不安が次第に広がり始めた。 一方、1970年代は初めて8ビットの個人用コンピュータ(PC)が登場し、 さまざまなパケット交換網がプロトコルを通して開発され、インターネットの概念が具体化され始めた。 その後の情報通信技術の急速な進歩は経営学の組織管理論と結びつき、 柔軟組織理論、柔軟生産モデルに広がり、徐々に不安定労働の類型が登場した。

ところで21世紀の始め、自由市場経済(LME)と調整市場経済(CME)が互いに異なる資本主義として発展しているという論争(いわゆるVoC論争)が展開された。 だが2008年のグローバル金融危機以後、少なくとも労働市場の観点からは 不安定労働の拡散が二つの経済制度のどちらにも普遍的に観察され、 もう資本主義市場経済の差は特に意味がなくなった。 つまり、今日の情報通信技術の発展と労働の柔軟化が世界的に一般化され、 不安定労働が未来の労働者の話題になり、労働研究の大勢になったといっても過言ではない。

早くから不安定労働を研究してきたカレバーグ(2009)の定義を引用すれば、 不安定労働は基本的に不確かであり、予測が難しく、不安定(unstable)で、脆弱で、危険な労働を示す。 またこのような不安定労働は、デジタル技術の発展と共に超国籍資本の影響力が世界的に深刻になっていることを意味する。 不安定労働の拡散はこの30年間、資本の権力を強化して、 既存の労使関係体系を揺るがして労働者たちを威嚇してきた。

不安定労働の拡散と新しい労働倫理? :ハッカーソンの事例

では今日のデジタル情報技術と不安定労働の拡散は、 個別の労働者にはどのような影響を及ぼしているのだろうか? 先立って1970年代までは正規職の「標準雇用」が次第に弱まってきた点を指摘した。 標準雇用概念の弱化は基本的に労働費用の削減と短期雇用の正当化のために資本が意図するところだ。 だが非標準的な非正規雇用に対しては、社会的に否定的な認識が広がっている。 したがって資本の立場では正規職雇用に対する選好を弱化させ、 不安定労働の拡大に応じる労働倫理を新しく創造する必要がある。

まだ合意した評価はないが、ハッカーソン(Hackathon)」を通じて、デジタル時代の新しい労働倫理を模索する資本の試みを読みだせる。 ハッカーソンはハッキング(hack)とマラソン(marathon)の合成語で、 IT業界や大学関連の学科内の多様な分野の構成員がチームで1日から1週間、 API(アプリケーションインターフェース)を構築する競演大会だ。 FaceBookの社内ハッカーソン競演で「いいね」機能が出てきたという点が伝えられ、 ハッカーソンは革新の事例として紹介されている。 最近、韓国でも第4次産業革命やデジタル経済と関連してハッカーソンが紹介されており、 実際に多くのIT企業でハッカーソン競演をしている。 だが何日間かの苦労にもかかわらず、 ハッカーソン競演の受賞者への報酬はそれほど大きくなく、 受賞したプロトタイプ(prototypes)を実際に企業で使う場合も非常にめずらしいという。

今年の初めにエメラルド出版社(Emerald Publishing)から労働社会学研究シリーズ31冊で出版された「Precarious Work(不安定勤務)(2018)」には、 ハッカーソンに対する興味深い論文が一本載っている。 共著者のヅーキンとパパダントナキス(Zukin &Papadantonakis)はハッカーソン競演の参加観察とインタビューから、 技術的才能がある若者たちに正式な雇用を提供せず、単に参加の機会を提供して、 また、仕事ではなく遊び、面白さという意味を付与して作業空間と労働時間を再調整するという点に注目した。 つまり、ハッカーソンは新しい社会組織の出現のための時空間を形成するために重要だ。

このように鋳造された新しい社会組織は、社会、政治、経済的統制の新しい類型を正当化する。 ハッカーソンの参加者は自発的かつ熱情的に不払労働(unpaid work)をするが、 これを自分の搾取であると同時に自分の投資だと感じる。 そして今日、IT産業に従事しようとする若者たちは 「Work is Play、Exhaustion is Effervescent、and Precarity is Opportunity(仕事は遊びで、[情熱を]燃やすのはさわやかなことで、不安定は機会だ)」という3つの警句をハッカーの下位文化として体得する。

デジタル時代における新しい労働の規律はまだ就職もしない技術分野の学生のこうした自発性に基づいて創造され、 IT企業と一般企業のハッカーソンの後援の下で次第に拡大する。 そしてこうした過程で、革新という名分により「新しい労働の時空間」を鋳造する。 ホブズボーム(E.Hobsbawm)が近代以後、(腕)時計の普及が工場の運営に必要な労働規律を身体化させた点を看破したとすれば、 ハッカーソン競演はデジタル時代、不安定労働時代に必要な労働規律を学生時代から身体化させているとしても過言ではない。

労使関係の変化と労働組合運動の対応

では今日のデジタル技術の発展と不安定労働の拡散、 そして資本の新しい労働倫理形成の試みに対抗し、 労働組合はどう対応しているか? 資本の主導で技術の変化と不安定労働が広がり、組合員数が減り、交渉力も弱まるほかはなくなる。 労働組合運動次元の対応がこの20数年間、なかったわけではない。 だがまだ「ラッダイト」水準で技術導入を阻止した事例を除けば、 技術の発展に積極的に対応した事例は国内外を問わずほとんど見つからない。 ところが労働運動の対応原則を提示して、実質的な介入戦略を実践する事例が登場している。

先にITや情報通信技術企業の労組が相当数を占める国際労働組合連盟(UNI)では 「未来の労働世界(the future world of work)」という労組傘下の特別委員会で、 情報技術の発展、人工知能活用、デジタル情報収集による労働者たちの権利侵害に対する対応原則を提案している。 データの収集と活用と関して業務に関連する労働者に対する最低の情報収集、透明性、労働者の情報公開請求権の保障、団体協約による制度化などの原則を提示している。 また、人工知能に関しては、今のところは宣言的な水準で、 人工知能(AI)の「倫理的活用」を強調しながら倫理的ブラックボックス(Ethical Black Box)を確保すべきだと提案する。

国際製造産別労組(IndustriALL)では「産業(industrial) 4.0」に対する既存の議論が経済的、技術中心的な接近に埋没したと批判し、 技術の変化と雇用の関係において「正しい転換(Just Transition)」が必要だという立場を提出している。 国際産別労組のこうした問題意識は事実、ドイツで先に進められた「労働4.0」の議論の影響を受けたと見られる。 ドイツでは新しい生産設備によって追撃する新興工業国の成長に対する危機感により、 自国内の製造業基盤のため「産業4.0」政策が推進されたが、 主にドイツの製造業の古い生産方式を革新するデジタル技術革新方案の摸索が主な内容だった。 そこにドイツ労働総同盟(DGB)は産業4.0に対する対応次元で、 労働4.0に対する緑書(2015年4月発表)と白書(2016年11月発表)を出し、 労使政代表と専門家などで構成された「政策協議ネットワーク」に積極的に参加し、 労働界の立場を貫徹させることを努力した。 ドイツ金属労組(IG Metall)では一歩踏み込んで2014年に労組内に 「労働の未来部署(Future of Work Department)」を新設し、 戦略の樹立と政策開発を専門に担当することにした。

韓国におけるデジタル情報技術や第4次産業革命と関連した労働組合次元の対応としては、 2017年7月、金属労組労働研究院で「デジタル時代労働の対応:第4次産業革命正しく見る」という報告書に言及することができる。 主に自動車産業を中心として未来の車に関して労働組合の対応の必要性を確認し、 ドイツの労働4.0内容を紹介している。

遅いと思った時が一番速い時だが

デジタル技術の導入と第4次産業革命が韓国労働市場にいかなる影響を及ぼし、 どのように展開するかは誰も確答することができない。 ただし韓国では、資本は利益追求の目的で技術開発のために果てしなく走っているが、 労働組合はその内容も知らないまま見つめている状況だ。 例えば病院でロボットを活用した医療装備の導入が医師や看護師の労働条件にどんな影響を及ぼすのか、 金融産業のフィンテックの導入が金融労働者の未来をどう左右するのか、 ただ漠然と推測しているだけだ。

現代社会においてデジタル技術の発展が既存の労働市場や労使関係にどんな影響を及ぼしており、 これに対して労働組合運動はどのように対応するべきだろうか? しかし、すでに資本は労働者と労働組合などには気を遣わずに利益競争に血眼になり、 疾走し続けている。

疾走する資本により、労働者、さらに労働者を含む就業者の賃金と労働条件は悪くなっている。 災害の危険と健康悪化の可能性は高まり、生活の質は悪くなっているという診断が世界のあちこちで相次いでいる。 だが韓国だけでなく、ヨーロッパの労働組合運動もまだきちんと対応することができずにいる。 1980年代以後の新自由主義の労働の柔軟化攻勢に対抗し、 既存の労組組合員の防御も難しい状況だった。 新しい技術的な変化の様相について現象を診断し、意味を把握し、代案を模索すること自体が容易ではないが、 わざわざ長期的な課題として先送りして無視し続けてきた側面もある。 だがもうこれ以上遅らせることはできない。[ワーカーズ47号]

原文(ワーカーズ/チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2018-10-05 02:03:43 / Last modified on 2018-10-09 20:27:56 Copyright: Default

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