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盧武鉉はなぜ非正規職を捨てたのか
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盧武鉉はなぜ非正規職を捨てたのか

労働界は退路を遮断… 今月25日のゼネストが切迫

パククォニル記者 kipark@digitalmal.com

尋常ではない。 11月の労働界ゼネストを前にして、今、息が詰まる緊張感が流れている。 10月10日の全国非正規労働者大会で二大労総の委員長は 憤怒に歯ぎしりして決死闘争を叫んだ。 すぐ次の日、キムデファン労働部長官は待っていたというかのように 真っ向から対立した。

「ゼネストは実定法違反だ。」

このままで進むと、労使政別途妥協どころか大破局は火を見るより明らかだ。 いつものような警告も無く、先制攻撃を飛ばしたのは政府だった。 ところがその「一発」が並たいていではなかった。 9月10日、労働部が発表したいわゆる「非正規保護法案」だ。

このパンドラの箱が開くと、人々の口がぽかんとあいてしまった。 派遣勤労の規制を事実上すべてなくし、 期間制勤労の毒素条項もぎっしり含まれていたためだ。 法案はあっという間に労働界をばっさりとひっくり返した。 二大労総は「言葉だけの非正規職『保護』法案であり、非正規職を日常化し 正規職労働者を非正規職化する意図」としてゼネストを宣言した。 妥協を語った人々の口は凍りついた。言うべきことはない。 法案の文句ひとつひとつが政府の意志を代弁していたためだ。

政権の負担が大きい法案、誰がなぜ押し通したのか

「非正規職の涙を拭う」と豪語した盧武鉉政府だった。 もちろん単なるリップサービスだったのかもしれない。 だが今回の法案は、度が過ぎているという評価が大勢だ。 労働界は「立場を離れて、常識的に理解できない」と語る。 果して何が起きたのか。

今回の政府の非正規法案は、おおよその内容を見ただけでも 労働界が命がけで反発するのは明らかだった。 それなのに政策立案者たちはそれを予想できなかったのか。 これほど極端な非正規法案が、今後、政権にとって重荷になるのも 明らかではないか。 事実、この部分こそ、今回の非正規法案をめぐるさまざまな論議の核心部分だ。 法案の背景に関して大きく2種類の見解が存在している。

まず「陰謀論」の視点。最近になって政権と財界の間に暗黙の カルテル形成を主張する政治圏のある人物は、 「与党の『386』の中心人物たちと財閥間の癒着」という疑惑を提起する。 彼によれば、労働部が独自でこのような「危険ないたずら」をしたのではなく、 背後に保守的な経済観を持つ与党の有力者が主導する 政策研究会があり、法案作成に影響力を行使したという。 彼は、この政策研究会が最近、財閥の研究所と頻繁な会見で 「コード」を合せているという点を根拠に挙げる。 彼は労使政委公益案が労働部案にきちんと反映されていないことも、 同じ文脈で解釈している。

このような主張は、初期の盧武鉉政府の(労働及び経済政策での)改革性を かなりの部分肯定するもので、時間とともに変質したと考える視点に近い。 民主労総のイスボン教宣室長もまた同様の主張を展開している。 イ室長は「こういうとんでもない法案が出たことについて、 とうてい合理的には説明できない」とし、 「証拠はないが、経済人総連や全経連などの財界のロビーがあったと 判断する」と述べた。しかしこういう見解を裏付ける 「物証」を探すのは難しい状況だ。

背信か?期待しすぎか?

2つ目は「盧武鉉政府が本来持っていた新自由主義的実体が 極端な形態で表れた」という立場。 不安定労働撤廃連帯のユンエリム事務局長は 「労働運動現場から見れば、DJ政府から盧武鉉政府まで 一貫する流れがあると考えるべきだ。改革を行おうとしても 財界の圧力でできないのだという説明は、ナイーブすぎる。 選挙という特殊な局面では多少親労働的に動いたとしても、 そのまま信じてはいけない」と語る。 つまり、今回の非正規職法案をめぐる事態の本質は、 「背信」ではなく「期待しすぎ」だというのだ。

韓国労働社会研究所のキムユソン所長は 「常識を大きくはずれた法案が出てきたので、 その背景に対していろいろ言われているのだろう」と指摘した後、 「政府の部処間の協議過程で、財政経済部や産資部などが かなり強く影響した結果ではないか」と説明する。 労使政委員会の政経研企画委員も同じ考えだ。 チョン企画委員は「政府部所間の会議で 財政経済部と産資部の発言権は強い」と前置きし、 「重要人物がいる部所を通じて財界の立場が強く反映されたと言える」と話した。

直接非正規職法案の作成にあたった労働部勤労基準局の立場はどうか。 勤労基準局の関係者は電話で「労働柔軟化は、政府の一貫した政策基調」 と説明する。この関係者は「原則として労使政委公益案が尊重され、 大きな枠組では一致している」と主張した。 「財界の核心要求案が貫徹されたのに、 労働界の主な要求は反映されていないという評価が多い」と尋ねると、 彼は「政府が中間的な政策を出せば、使用者と労働界、両方が反発する。 今回も同じだ」とし、政府案の中立性を強調した。 しかしヨルリンウリ党との党政調協議もきちんとなされず、 与党の議員さえ法案を見て驚いたという事実はどう説明するのだろうか。 これに対しても彼は「労働部の責任ではなく、 二大労総の代表が与党と面談した直後に党政調協議が行われなかったと理解する」 とヨルリンウリ党に責任を転嫁した。

「公益委案を完全にひっくり返した異例のケース」

今回の非正規法案で、最も打撃を受けたのは労働界だ。 しかしもうひとつ、悲しんでいる当事者がいる。まさに労使政委員会。 非正規法案を労働部が用意するまで、「バトン」は労使政委にあった。 労使政委は、数年前から非正規特委を設置し、関連法案についての 労使の主張を集めて公益委員案を作った。 2003年5月23日に発表された「非正規職勤労者対策公益委員(案)」である。

労使政委政経研企画委員は「本当に難しい過程だった」と述懐する。 労使政の三者の間を公益委員が調停しなければならないが、 まったく接点が見えなかったという。

「労使の意見を最大限反映しようとした。 例えば最も尖鋭な争点のひとつである派遣勤労の場合、 労働界は対象業種を一定数で指定する現行方式(ポジティブリスト)を主張したが、 財界は全業種に拡大して特定業種だけを禁止する方式(ネガティブリスト)を 主張した。苦肉の策から出たのが 『労使が参加する別途機構を作り許容業種を定める』という文句だった。 ところが今回の政府案を見ればわかるように、 この部分は結局財界が要求した通り決まった。」

では、労使両者間の意見をようやく仲裁した公益委員案が 一挙にひっくり返ったということだ。 労使政委が名分が大統領諮問機構なのに、このような重大な懸案で 政府が公益委員案を無視したことはちょっと理解できない。 わかってみれば理由は簡単だった。 公益委員案は何の履行義務もないからだ。 政経研企画委員は「たとえ強制事項ではなくても、 政府は公益委案を最大限尊重する必要があり、これまではそうだったと 理解している。しかし今度ばかりは非常に異例なケースだった。 これに対してキムデファン労働部長官は 『公益委案が金科玉条なのか』と語ったことがある」と明らかにした。

彼によれば、公益委員は派遣対象業種問題を解決するために 直接現場実態調査まで行ったという。 調査の結果、派遣業務が必要な業種は僅か4〜5業種に過ぎなかった。 現在の26業種よりはるかに少なかった。 今回の政府法案は、実態調査の結果とも完全に相反する案なのである。

非正規特委全委員長、「派遣法は労働部が財界に与えた贈り物」

公益委員案を直接作った当事者の意見が気になった。 それで労使政委非正規特委全委員長のユンソンチョン教授(光云大法科)に会った。 彼は今回の派遣法案が「労働部が経営界に与えた贈り物」だと語った。

ユン教授は「過去、勤労時間の問題が争点だった時は、 経営界も得ることがあった。しかし今回の場合、経営界は得ることがなく 現行通り行くのが最もよい状況だった」と語る。 では経営界は大きな贈り物の包をもらったのに、 労働界の「贈り物」は何だったのか。 ユン教授はこれについて「労働部としては差別是正項目が 労働界に対する贈り物だと判断することが出来る」と話す。 しかし労働部法案の発表直後、労働界は 「正規職も不利益が恐ろしくて差別是正要求ができないのに、 まして雇用不安に苦しむ非正規職がどうして要求するか。 現実とあまりにもかけ離れた机上の空論」だと非難した。

ユンソンチョン教授は、政府法案の実效性に対して懐疑的な立場だったが、 概して政府の善意を確信していた。

「労働界が盧武鉉政府に反発すれば、どの政府に期待をかけられるのか。 米国大統領選挙で誰が大統領になっても 対外政策が急激に変わらないのと同じように、現政権の中心的な勢力が進歩、 さらに左派として露骨に振る舞うことはできないだろう。 非正規職問題は深刻だが、正規職・大企業労組のパワーはまだ強大だ。 正規職労働市場の硬直性は世界最高水準だ。 しかし現政権労働政策が反労働的だと見られるだろうか? 現政権の深い意向を推し量れないのだろう…。」

労使政委関係者に会った結果、ひとつはっきりとわかったのは、 労働部も労使政委も労働の柔軟化という「大義」に忠実だという点だった。 派遣法の適用対象にも表れているように、 各論的な水準で政府案が突出しているのは明らかだ。 だが果して公益委員案が親労働的、いや中立的と呼べるかどうかは、大いに疑問だ。 つまり、公益委員案は政府案と深刻に衝突するのではなく、 単に新自由主義改革の速度を早めるのか、多少遅くするかの問題かもしれない。

政府案と公益委案、「死ぬか、あるいは悪いか」

実際、公益委員案をよくみると、たとえば期間制勤労では 差別禁止原則のような非正規職保護規定は、 現行制度より一歩進んだ側面があるのは事実だ。 だが保護規定は曖昧で空虚だ。 (「期間制勤労が労働市場内の重要な雇用形態という点を勘案するものの、 その乱用に対しては適切に規制」 「勤労条件に差別はしないが、合理的事由がある場合にはその限りではない」)

特に公益委案は現行の期間制勤労が「1年を上限」と明示的に制限しているが、 それを「一定期間」に変更した。財界が要求する3年延長への可能性を 残しているのだ。 これは、労働期間を制限し、合理的事由がある場合にのみ期間制雇用を許し、 非正規職拡散を防げという労働界の要求に全く反する。 また「一時的必要」だけで期間制雇用を認めるフランスや、 「客観的事由」を問題にするドイツともかけ離れている。

派遣法においても公益委案はネガティブリストを提案しなかったこと以外は 財界の要求をほとんどそのまま受け入れている。 現実に同じ業務の労働者を減らし派遣労働を続ける企業が多いのに それへの対策はせいぜい「検討を続ける」でしかない。

民主労働党の段炳浩議員室のカンムンデ補佐官は 「労使政委公益委員案は初めから労働者がすぐ受け入れられる法案ではなかった。 政府案よりはいいかもしれないが、 全体として非正規職に対する規制を一方的に解除する方向に立っている」 と指摘した。非正規労働センターのキムスンフィ所長はもっと直接的だ。 金所長は「労使政委といっても財政経済部などの 労働柔軟化を主張する他の部処と違う考え方をするわけではない。 同じ考えを持っていてもいわゆる「調節された柔軟化」が必要だという 声が出てくるだけ」だと説明した。彼はまた 「今回の非正規法案の発表は、労使政委はうわべだけの機構でしかない ということを確認させた。労働界に、やるならやってみろということだ。 強力な労働柔軟化が確実に政府の政策基調として位置づけられていることを示す 象徴的な事件だった」と断言した。

労働界の退路を遮断した政府、非常口はないのか

専門家たちは、今回の非正規法案が1996年の 整理解雇法案を凌駕する爆発力をもっていると評価する。 不安定労働撤廃連帯のユンエリム事務局長は 「国家労働政策の根幹が変わる事案で、労働者は生きるか死ぬかという 切迫した岐路に置かれることになった」と語る。ユン局長は 「1997年のゼネスト当時と今を比較してみると、争点は違うものの 整理解雇法案と非正規法案の両方とも、労働柔軟化を基調としている。 1997年に1段階が終わり、今は第2段階に突入しようとする瞬間だ」と説明した。

しかし、客観的な労働界の状況は1997年より悪い。 正規職労組に対する社会的世論も悪化の一路をたどり、 何より正規職労働者の参加と関心が低調だ。 もし労働部の非正規法案に公益委員案を忠実に反映していれば、 おそらく対話の余地はあっただろうし、これほど極端な状況には ならなかっただろう。しかし、政府は社会的合意よりも 財界への贈り物に情熱を注いだ。反対に労働界には「白旗降参」を要求した。 労働運動陣営では「政府が今回の機会に労働界を完全にやっつけることを 心に決めており、 そこには弱化した労働運動に対する強い優越感がある」と分析する。

民主労総のイスホ執行部は、発足当時から社会的交渉を強調してきた。 「盧武鉉政府にとって最高の労働界パートナー」とも評価された。 しかし、年頭から政府の相次ぐ職権仲裁と ストライキへの強硬対応が続き、雰囲気は急速に冷却した。 結局、8月31日、民主労総中央委員会は、 労使政代表者会議にふたたび参加するという 中央執行委の決定をひっくり返した。 今年の10月、労使政委への復帰が予想されていたイスホ体制は、 わずか数か月でゼネストを決意する「超剛性労組」になった。 事実、9月の初めまでは政府が民主労総の労使政委復帰を切実に願って、 何かの形で「柔軟ジェスチャー」があるかもしれないという期待もあった。 だが、もはや民主労総は労使政委に参加したくても参加できなくなった。 今回の非正規法案により、退路まで遮断されたのだ。

まだ国会の立法過程が残されており、ヨルリンウリ党の議員が 「法案の大幅修正」の意向を示しているが、 政府は既に「ルビコン川を渡ってしまったのではないか」というのが おおかたの評価だ。 盧武鉉政府は非正規職と社会的合意を同時に拒んだ最初の政府として 歴史に記録されるのだろうか。最後の選択は政府の役割だ。

2004年11月15日

原文

翻訳/文責:安田(ゆ)


Created byStaff. Created on 2004-11-21 17:01:47 / Last modified on 2005-09-05 08:16:20 Copyright: Default

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