〔週刊 本の発見〕津田大介著『情報戦争を生き抜く―武器としてのメディアリテラシー』 | |
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「ポスト真実」の時代をさまよう私たち津田大介著『情報戦争を生き抜く―武器としてのメディアリテラシー』(朝日新書、2018年)評者:内藤洋子
地域選挙はともかく、国の行く末を決する大統領選や、議会の勢力を左右する総選挙において、SNSの情報発信力はあなどれない。2016年の米大統領選挙で、大量に流布したフェイクニュースが、トランプ候補に有利に働いたとされるケース、そして2020年の同選挙では、敗北したトランプ側が、盗まれた選挙だとして選挙結果を受け入れず、議会襲撃事件にまで発展したことはまだ記憶に新しい。米国だけでなく、フランスの大統領選(2017年)でも、ロシアが介入し、極右政党の党首ルペンを支援する情報戦を仕掛けた。英のブレグジットでも、離脱派がデマキャンペーンを拡散させたなど、政治的目的でフェイクニュースを利用する例は枚挙にいとまがない。ネットの世論操作を専門的に請け負う企業も数多いという。今や人々の情報の入手先が新聞・テレビでなく、SNSが主流となっている今日、政治的プロパガンダやフェイクニュース対策が大きな課題となっていることは間違いない。 ドイツでは、ヘイトスピーチやフェイクニュースの速やかな削除を促す「ネット執行法」(2017年)を制定した。違反した事業者には巨額の罰金を科す法だが、施行後、過剰削除ではとの批判や、違法かどうかの線引きの難しさで混乱も生じた。表現の自由か人権侵害か、その両者のバランスをどうとるかの難しさが浮き彫りになったようだ。 日本でのヘイトスピーチやヘイトデモ問題も広く報道され、国連からの勧告を受けて、「ヘイトスピーチ対策法」(2016年)が施行されたが、努力義務を定めたもので、いまだ実効性に乏しいようだ。 また、ヤフーニュースは、月間ページビュー(PV)が150億(2016年)の日本最大のニュース媒体であるが、そのコメント欄は、大量の嫌韓・嫌中など排斥意識の強いコメントにあふれる。これを放置するのは、アクセス数(広告売り上げ)目当てと見られてもやむを得ない、と筆者は厳しく批判する。 また、ツイッター(現X)も批判を受け、野放しだったヘイトツイートの規制を拡大する方針に踏み出し(2018年)、「コミュニティノート」の導入などを行った。しかし、今年1月、米メタ(旧フェイスブック)が、外部機関によるファクトチェックを、米国で廃止すると発表し、いま大きな波紋を広げている。 ネットの普及で、苦境にあえぐ新聞業界もデジタル化を加速し、新たな戦略を打ち出している。SNS上の「フィルターバブル」(=自分の考えに近い意見ばかり目にする)や、「エコーチェンバー」(=特定の意見や情報が増幅され影響力を持つ)などの弊害を防ぐ対策が各国で行われているが、著者は、その興味深い事例を三つ挙げている。一つは、ワシントンポストが導入した「カウンターポイント」。ウエブサイトのオピニオン記事に、自社の主張と対立する意見の記事を明示する新機能で、AIも活用。これにより、幅広い視点を提供することで、読者がより多くの情報に触れ、対話を促進できると説明。社会的分断を防ぐ狙いもあるという。二つ目は、英BBCが積極的に取り組んでいる「スロージャーナリズム」。議論が噴出している話題や、裏のとれていない話を掘り下げ、ファクトチェックを行って、検証記事を表示する。三つ目は、デンマークが発祥の「建設的ジャーナリズム」。現代のメディアが、ネガティブな事象に偏っていることで読者のニュース離れを引き起こしている。特に若い世代は、ポジティブなニュース、解決方法が示された建設的報道を見たいという欲求がある、との調査結果を受けたものだ。日本でも、「対決より解決」を謳う国民民主党が若年層で支持を伸ばしている理由も、こんなところにあるのかもしれぬ。 世界中でフェイクニュースの法規制を検討する国は増えている。しかし、誰が、どのようにフェイクニュースと判断し、対処するかが重要で、法規制は政府に批判的な言論を統制可能にする副作用も伴うことに、著者は注意を促す。フェイクニュースは、正しいニュースよりも数段速く拡散するという。客観的事実よりも感情的な訴えかけの方が世論形成に大きく影響する「ポスト真実」の時代状況にあって、民主主義を守り抜くために、私たちはメディアリテラシー(=情報を読み解く力)の精度を高めねばならないと思う。今後も変化を続けるソーシャルメディア環境を注視していきたい。 Created by staff01. Last modified on 2025-02-13 09:13:53 Copyright: Default |