本文の先頭へ
関西生コン事件:Tansa報道 湯川委員長インタビュー他
Home 検索
投稿者 : 愛知連帯ユニオン

Tansa報道、今回は、湯川委員長インタビューのインタビューです。 勾留644日、それでも折れないリーダーの覚悟/「産業民主主義を日本に根付かせる」/ 関生支部委員長・湯川裕司さん<証言#2> | Tansa デモクラシータイムズも! 関西生コン事件 なぜ労組が狙われたのか【探査報道最前線】20250213 生コン産業の労働組合、「関生(かんなま)支部」組合員たちの証言。2回目は委員長の湯 川裕司さんだ。 湯川さんは近畿一円の関生支部の労組活動に関し、逮捕を繰り返されて644日間勾留され た。組合員の中で最長の勾留期間だ。警察と検察が組合トップの勾留で組織を壊滅させよ うとしたことがうかがえる。 だが、捜査権力の狙い通りに関生支部が潰されることはなかった。その強さの根源は何か。 リーダーの証言が明らかにしている。 年収300万円が当たり前の社会で 今回の大規模な弾圧は、産業別労働組合である関生支部に、権力側が仕掛けてきたという 認識を持っています。 政財界の権力者たちは、企業別労働組合のストライキだけが合法だという大きな錯覚をし ているんです。産別労組は日本では全く容認できない、と考えている。 しかし、それでは労働者は貧しくなるばかりです。実際、日本では派遣などの非正規雇用 が増え、年収300万円が当たり前になりました。 産別労組と企業別労組の何が違うか。 産別労組は、「同一労働同一賃金」で労働者全体の賃金を上げていくためにストライキや 経営側との団体交渉をします。個別の企業ではなく産業全体が潤うにはどうしたらいいか を考えます。 一方の企業別労組は、前提として企業間競争があります。ライバル企業に勝つためには、 コストを下げなければならないから、賃金を下げたり下請け業者を泣かせたりということ が起こるんです。そういうことが、あらゆる産業で横行しています。 僕は、労働者の賃金を企業間競争の材料にはさせないことが重要だと思っています。 セメント会社とゼネコンの狭間で 生コン業者は非常に弱い立場にあります。セメントを原料にして生コンを製造し、それを ゼネコンに納入するのですが、セメント会社もゼネコンも大企業です。セメント会社はセ メントを高く売り、ゼネコンは生コンを安く買おうとします。そうなると、大企業に挟ま れた生コン業者の利益は薄くなってしまいます。 そこで生コン業者は、価格競争で疲弊しないよう協同組合を作ってセメントの納入や生コ ンの販売にあたっています。関生支部は労組として経営側である協同組合と闘争する半面 、業界全体の利益となるよう協調して生コンの価格を上げる努力をしてきました。そのお かげで生コン業界全体が潤い、労働者の賃金も上がるという好循環を達成しました。 しかし、経営者たちが裏切ったんですよ。大阪広域協(大阪広域生コンクリート協同組合) をはじめ、協同組合の経営者たちは関生支部のストライキや団体交渉を「威力業務妨害」 や「恐喝」だと主張し、捜査機関とそのシナリオで結託しています。背景の一つには、生 コン業界が労使協調した場合、セメント会社とゼネコンの利益率は下がるので、権力側が 動いたという構図があると思います。 「うちのヘッドに謝ってください」と頼む刑事 今回の弾圧では2018年8月28日、滋賀県警に逮捕されたのが始まりでした。京都の自宅は 僕も母親も不在にしていたのですが、警察は母親に電話したんです。「家宅捜索するから 家に戻って来い」と。母親はその時、体調を崩していて姉のところで面倒をみてもらって いたんです。「体調が悪くて戻れないので本人に電話して」と警察に言ったんですが、警 察は何回も母親に電話する。僕には警察から連絡がない。 そこで母親が僕に電話してきました。自宅に駆けつけると、すでに滋賀県警の12、3人が いました。自宅から連行される時に「ご近所さんおる前で手錠かけるんか、もうええがな 」と言ったんですが、「いや、もう指名手配打ってるんで」と。警察が僕に直接電話して こなかったのに、自宅にすぐに戻らなかったことで逃亡という体をとられたんです。 とにかく権力側には、関生支部が労働組合だという意識が全くないんです。 滋賀県警は暴力団捜査を担当する「組織犯罪対策課」が出てきました。刑事は暴力団を脱 退させるかのように、関生支部を辞めさせようと圧力をかけてきました。「まだ若いし能 力もあるんやろうから、違う世界でやっていったらええやんけ」と言うわけです。僕が「 何を言うとんねん」と労働組合の理念を述べると、「そんなもん」という感じで相手にし ない。 滋賀県警に何回も逮捕される中で、ある時、刑事から「うちのヘッドにもう謝ってくださ い」と言われたこともありました。「実は湯川さん、もう1発やろうと思ってたんですよ。 犯人隠避か何かでね。うちのヘッドはしつこいので、もう謝ってください」と。ヘッド というのは、当時の組織犯罪対策課の羽田賢一課長のことでしょうね。 勾留を決める「勾留裁判官」も労働組合のことが分かっていませんでした。 滋賀で勾留されている時に、大津地裁の勾留裁判官に聞いたことがあるんです。「何回勾 留すんねん、労働組合法を分かってんの? 」と。 その裁判官はベテランでしたが、「労働組合法のことはよく分からない」ということでし た。しかも「自分も辛い」とわけの分からんことを言ったんです。上の立場の人から言わ れて勾留の決定を強いられているというよりは、習慣となっている勾留決定を変えられな いという感じでした。 事件のカラクリを知った上で取り調べをしているな、と感じた時もありました。 例えば、大津地検の齋藤一馬検事に「なんでいきなり逮捕なんや」と聞いたことがあるん です。僕らとしては正当な労組活動をしているわけですが、捜査当局として問題があると 考えているならば、まずは警察に呼び出して話を聞いて、それでもあかんという時に逮捕 するのが筋ちゃうか、と。なのにそういう手順を飛ばしていきなり逮捕するのは不自然で す。 齋藤検事の答えは「黙秘します」でした。これは自分たちの落ち度を分かっているからこ そ、下手なことは口走れないということではないでしょうか。 地獄絵図 僕は滋賀、京都、和歌山の留置場や拘置所で計644日勾留されたんですが、弁護士以外は 接見禁止でした。弁護士から関生支部の状況を聞いていました。 他の組合員たちも次々と逮捕されていく中で、黙秘を徹底して闘うということを貫けられ たらいいんですが、今回は警察・検察・経営者が一体となった弾圧です。警察と検察が関 生支部の脱退と釈放を引き換えにし、経営者側は脱退した人たちを自分の会社で雇う。そ れぞれが役割を持って、関生支部を切り崩してきた。みるみるうちに組合員が減っていっ た。結局、このままでは生活ができなくなるから権力に抗うことができず、安住の地を求 めたわけです。自分たちの権利を失ってでも、生活のためには、という状況が刻々と続い たんです。 組合を辞めるだけではなく、経営側の味方をして関生支部を批判してくる者まで出てきた 。もう地獄絵図のようになっていきました。 人間の見たくない性が見えました。苦楽を共にした仲間が、自分を正当化するために裏切 るんです。ありもしないことを言って仲間を売った。正直、のみ込めないですよ。裏切ら れたことで負った心の傷は、もう回復しないと思います。 何で戦争が絶対にあかんかと言うと、自分や家族が生き残るためには他人を蹴り落とすと いう性が出るまで、人間を追い込むからなんです。自分の家族が殺されて、そこにライフ ルがあったら相手を撃ちたい衝動に駆られてしまうでしょ。復讐心が宿り、人間って狂う んです。弾圧も同じなんです。 取り調べでは、「関生支部の組合員はどんどんやめとんで」とか「お前がおらんかったら 組合はどうにでもなる」というようなことを言われました。私をはじめ組合幹部が勾留さ れている間、関生支部で踏ん張っている仲間たちのことを思うと辛かった。僕らは何もで きない。勾留中は、狭い部屋に閉じ込められて壁を見ているしかない。 警察・検察のストーリーに合わせて供述してしまえば、釈放されるんですよ。関生支部が どんどん削られていく中で、妥協すれば釈放され、組織に戻って態勢を立て直すこともで きたかもしれない。 しかしそんなことをすると、自分がこれまで仲間とやってきたことを否定することになる んですよ。僕らが何をしたんや、と。刑法に抵触することは何一つないわけですよ。 まず自分を信じ、踏みとどまっている仲間を信じて、弁護士を信じる。これを維持して闘 うしかないんです。 「お父さんは何も悪いことはしていない」 一人暮らしをしている母親が心配です。僕は大津地裁の判決で懲役4年が出て控訴審。 2025年2月26日に京都地裁で判決が出る裁判では、検察から懲役10年を求刑されています 。信じられないことに、こんなでっち上げの事件でも刑務所に入らなあかん可能性がある んですよね。母親の死に目には会えないのかな、と。 私は連れ合いと息子2人の4人家族ですが、全部素直に話しています。「お父さんは逮捕さ れたけど、弾圧であって何も悪いことはしていない」と。ただ、服役する可能性があるの で「その時はちゃんと3人で頑張らなあかんで」と日頃から伝えています。 息子は高校2年生と中学1年生で、多感な時なんですよね。僕がいなくなったら、下の子な んかちょっとやんちゃなので大丈夫かなと。上の子もやっぱりいろいろ教えてあげたいこ とがあるんですよね、成人になるまでにね。 でもそういうことが、できないかもしれないのが、僕はものすごく残念なんです。息子2 人は僕とは血の繋がりがないんですが、自分のことを父親やと思って慕ってくれてるんで す。 僕としては、彼らが社会人になっていく時に、どのような社会情勢なのかということが重 要だと思っています。 まともに職に就けず、低所得者が増えています。食べていけないとなると、若者が犯罪に 引き込まれていく心配もあります。高齢者が多く若者が少ない中では、税金の負担が増し 、年金制度も破綻するでしょう。そういうことを考えると、ほんまにこれからの子がかわ いそうだな、と。もしかしたら戦争も起きるかもしれません。そういう情勢の中で、自分 が服役してしまったら息子たちにアドバイスもしてやれないのが、残念で仕方ありません。 産業民主主義を根付かせる 日本ってどの産業も民主化されていないんですよ。 企業別労組が主流で、正社員は助かるけれども非正規は助からないとか、労働者の中での 階級化が進んでいる。完全に分断されているんです。 日本の政治に力を持つ連合(日本労働組合総連合会)も、僕は企業別労組の集合体だという 認識しかないんですよね。例えばトヨタが赤字で期間工を1,000人切りましたというよう なニュースが出るでしょう。産別労組ならば争議して労働者の雇用を守らないと駄目なん です。連合自身は産別労組だというような表現をされるけども、私は産別ではないという 判断をしています。 この状況では、政治経済権力が暴走しても止めることができない。 関生支部の委員長としては、産別労組の火は消さない。日本で主流にしていく。そのため には、世界各国の産別労組に学ぶとともに、交流していきたいと思っています。 【取材者後記】畝本検事総長と湯川委員長の大きな違いとは/編集長 渡辺周 湯川委員長の信念には、一点の曇りもない。 だからこそ、息子たちに「お父さんは何も悪いことはしていない」「自分が服役してもお 母さんと3人で頑張らなあかんで」と言える。 一方でだからこそ、弾圧に耐えられず関生支部を去る仲間もいることに苦悩する。みんな が強いわけではない。平穏な暮らしを送りたい。そこは理解する。ただ、自分だけ助かろ うと関生支部に関する嘘を言う人までいた。苦楽を共にした仲間だけに、怒りが収まらな い。 しかし、残った仲間たちの結束は強い。苦悶しながらも、最終的には未来のための決断を していく湯川委員長のリーダーシップがあってこそだろう。 Tansaも見習うべきところがあると感じている。たとえ相手がどんなに大きくても、晴れ 晴れと闘う。仲間を信じる。「他人の痛みは我が痛み」を心の中心に据える。そういうと ころだ。 今回、Tansaは畝本直美・検事総長、鈴木馨祐・法務大臣、楠芳伸・警察庁長官、氏本厚 司・最高裁事務総長、石破茂・内閣総理大臣に質問状を出した。関生支部脱退を迫る取り 調べや、不要な勾留など「人質司法」の責任を問う内容だ。その中では、実例も検事の氏 名などを挙げて示している。 「個別の事件に関わることなので、お答えは差し控えます」という予想通りの回答が並ん だが、思わず笑ってしまった一文が最高検からの文面にあった。回答の前置きとして、こ う記していた。 「以下は、最高検察庁組織としての回答ですので、よろしくお願いいたします」 こちらは畝本検事総長宛てに質問状を出しているが、最高検は組織として検事総長を守る 必要がある。そういうことだろうか。 大組織の中で保身に汲々としている「権力者」より、信念を持って闘うリーダーの方が強 いと私は思う。今回の弾圧の責任者たちに聞きたい。 「あなたは、自分の家族や大切な人に自身がやっていることを誇れますか? 」 関西生コン事件 なぜ労組が狙われたのか【探査報道最前線】20250213 テーマを深堀する探査報道に特化した記者グループTansaがお届けします。出演は、中川 七海記者、渡辺周編集長。 「関西生コン」事件をご存じですか。過激で暴力的な労組が会社に対して加害をしたと思 いこんでいる方がいますが、実はそうではありません。暴力を振るったとして逮捕された り起訴された事件は一つもありません。会社のコピー用紙を6枚盗んだという窃盗、組合 員の子どもを保育園に入れるのに必要な就労証明書の交付を求めたという強要など一つず つはそれぞれ労働組合の活動として正当化され、違法性を阻却されるべき事件でした。そ れを、例えば、息子の大学受験の日の早朝に母親である組合員を自宅から連行したり、強 制捜査時に子どもに聞こえよがしに「子どもは児童養護施設に入れないとあかんな」と言 ったり、長期の勾留をしてその圧力を借りて組合から抜けるよう家族も巻き込んで説得強 要してきたのは、警察や検察の公安や組織対策担当のグループでした。 いま振り返れば、憲法28条で保障された労働三権を行使して、交渉やストライキや遵法パ トロールを行っていた「模範的な」組合に対する嫌がらせ、組合つぶしであったことが明 らかになってきました。そして、この一連の組合つぶしは、日本の政治の構造にも起因し ています。何十年も昔から日経連も政治に働きかけてきた「産業別組合つぶし」が、安倍 政権の登場によって、表に現れてきたように見えました。大阪、和歌山、滋賀など県境を 超えて連携する警察の公安組織と同じく検察庁が、組織的に種々の刑事事件を作り出し、 その無茶な言い分をチェックできないままに、裁判所が不当な身柄の拘束を容認してきた 結果、今の「関西生コン」事件が出来上がったのでした。いま注目される「人質司法」の 一例としてこれもまた深堀する価値はあります。

Created by staff01. Last modified on 2025-02-21 14:38:20 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について