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LNJ Logo 日本学術会議の法人化法案に反対し、任命拒否当事者が座り込み
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竪場勝司

 日本学術会議を法人化して政府の管理を強める法案の国会審議が大詰めを迎える中、2020年に任命拒否された当事者の学者らが6月4日、国会前で座り込みを行ない、法案の様々な問題点を指摘し、廃案を強く訴えた。

 法人化問題は、20年秋に菅義偉首相(当時)が会員候補として学術会議が推薦した研究者6人の任命を拒否したことに端を発する。会員は学術会議からの推薦通りに任命するという、長年続いてきた人事の慣行を覆す異例の事態で、国内外で批判の声が上がった。国会でも拒否の理由を説明するように、追及があったが、現在にいたるまで、政府は明確な拒否の理由を示していない。

 任命拒否の発覚直後、自民党内にプロジェクトチームが立ち上がり、焦点は「学術会議の在り方」問題にすり替わる様相を見せた。23年8月には内閣府が「日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会」を設置。同懇談会が24年12月に出した最終報告書を基に、法人化の法案をまとめた。

担当大臣が問題発言

 法案は現行の日本学術会議法を廃止して、新たに法律を作るもので、学術会議が現在の「国の特別の機関」から特殊法人に移行することを規定。首相が任命する「監事」や、「評価委員会」、「運営助言委員会」などを新たに設置する、学術会議の独立性・自律性を脅かす内容になっている。衆議院での審議の中で、坂井学・内閣府特命担当大臣は「(新法では)特定のイデオロギーや党派的主張を繰り返す会員は解任できる」と、問題のある答弁を行なった。法案は衆議院を通過し、参議院で審議に入っている。

 4日の座り込みは、日本学術会議「特殊法人化」法案に反対する学者・市民の会が主催して実施された。任命拒否を受けた6人のうち、加藤陽子さん(東京大学教授)と小澤隆一さん(東京慈恵会医科大学名誉教授)が参加。多くの市民を含め、全体で約350人が座り込み行動に加わった。

「学術会議はなくなってもいい」という覚悟で作られた法案

 まず加藤さんがスピーチし、「この法案は、内閣府の総合科学技術イノベーションを司る部署が中心になって、起草した法案だと思う。トップダウン型の総合科学技術イノベーション会議(CSTI)の人々に、日本学術会議をどのように直すかの案を訊いている。車の両輪である、片側の人たちに訊いているということだ。今度の学術会議法は、『どうぞなくなれ 学術会議法』というつもりで、彼らは作っている。『なくなるなら、なくなっていいよ』という覚悟で書いているのではないか」と指摘。

 CSTIが巨額の国の予算が投入されている組織であることを説明したうえで、「日本学術会議とCSTIは対立する問題。トップダウンとボトムアップが本来、合うことによって正しい科学技術政策が導かれるのだが、CSTIの方は、学術会議はなくなってもいいと思っている。面倒なボトムアップの文句を言う組織は、なくなってもいいと。(法案では)内閣総理大臣が最初の暫定的な会長を選ぶ。その会長が4つの外の監査機関のようなものを選んでいくことになれば、これはめちゃくちゃな科学者が集まることになるのではいか」と述べ、法案に大きな懸念を示した。*写真=スピーチする加藤陽子さん(中央)。右は小澤隆一さん

学術会議の設立の精神は憲法9条とセット

 続いてスピーチした小澤さんは「5年経っても、政府は任命拒否の理由を明かそうとしない。資料も出さない。これはどういうことかと考えると、菅さんたちは国会答弁をやっているが、私から言わせれば、『任命拒否は神のお告げでやったんです』という風にしか、聞こえてこない。任命拒否問題にせよ、学術会議問題にせよ、これは学術の世界だけの問題ではなく、民主主義の問題だ。民主主義の問題として、私はみなさんと一緒に法案反対の運動に取り組んでいる」と述べた。

 そして憲法学者の立場から「学術会議は憲法とともにつくられた。学術会議は平和のために研究をする、戦争のためにもう研究はしない、と決めたのは憲法9条とセットだ。そういう学術会議の活動を支えるのは思想・良心の自由と、表現の自由、学問の自由だ。憲法の下で私たちはこうして国会前で集会ができている。その恩恵を私は初めての座り込みで、市民のみなさんと共有したい。市民のみなさんと一緒に学術会議はあるべきだし、そういうものとして、私たちは現在の学術会議法を守る運動を進めているのだ」と訴えた。

 一緒に座り込みをした東大教授の隠岐さや香さんは、任命拒否当事者の芦名定道さん(キリスト教思想)からのメッセージを代読した。行動では市民や研究者、国会議員などが次々とスピーチに立って、法案の廃案を訴え、約90分の座り込みは参加者全員のシュプレヒコールで締めくくられた。

内閣府が署名の受け取りを拒否

 座り込み前日の6月3日には、日本学術会議「特殊法人化」法案に反対する学者・市民の会が緊急院内集会を開いた。この日に同会では全国から集まった4万筆を超える法案に反対する署名を内閣府に提出する予定だった。同会の関係者が内閣府まで出かけて、署名を手渡そうとしが、内閣府は「忙しい」を理由に、結局、受け取りを拒否した。この模様が集会で伝えられると、参加者たちからは「国民の声を聞こうとしないこの内閣府の態度が、法案の性格を象徴している」などと怒りの声が上がった。

 法案に対して、立憲民主党から政府の管理強化につながる規定を削除するなどした修正案が、6月3日の参議院内閣委員会に提出された。6月5日には同委員会で法案と修正案が同時に審議される予定だ。


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