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LNJ Logo 米国労働運動 : 航空管制官労組(PATCO)ストの教訓とトランプの連邦労組破壊攻撃
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【解説】レイバー・ノーツ誌5月号は4月号に続いてトランプ政権による連邦公務員の団交権剥奪攻撃を取り上げている。この攻撃と1981年のレーガン大統領による航空管制官スト破りとを比較するジョセフ・A・マカーティンの見解を掲載している。著者はジョージタウン大学教授で、PATCOストライキの歴史的意義を解明した著作『Collision Course』を2013年に出版している。(レイバーネット国際部 山崎精一)*毎月1日前後に「レイバーノーツ」誌の最新記事を紹介します。
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PATCOストの教訓とトランプの連邦労組破壊攻撃

 2025年4月9日 ジョセフ・A・マカーティン


*「公共サービスを守れ」「政府効率化省DOGEを廃止しろ」のスローガンと全米自動車労組UAWのロゴ

 ドナルド・トランプが3月27日に出した大統領令は、70万人以上の連邦労働者の団体交渉権を剥奪するもので、米国史上最大の組合つぶし行為である。

 最も近い歴史的類似は、ロナルド・レーガン大統領による航空管制官労組PATCO潰しと組合認証取り消しである。12,000人の航空管制官が1981年8月3日に違法なストライキを開始し、レーガンの最後通告に反抗してストライキを継続し、連邦政府は総力を挙げて労働組合を破壊した。

 PATCOの指導者の多くが逮捕され、組合は破産して認証を取り消され、ストライキ参加者は永久に解雇され、連邦航空局への復帰が生涯禁止された。

 この公然たる敗北は、労働組合運動に壊滅的な打撃を与えた。1980年代当時は自動車工場ではすでに譲歩交渉が始まっており、スト破り産業が爆発的に成長していた。レーガンの行動により勇気づけられた民間部門の経営者は次々とストライキ破りを真似て、代替労働者を雇い、組合を完全に潰したり、痛みを伴う譲歩を組合に強要したりした。

 相次ぐストライキの敗北から流れた血の海によって、労働者と労働組合はその後何年にもわたって争議行為に消極的になった。大規模な労働争議の年平均件数は、1970年代の289件から1990年代には35件に減少した。組合がストライキによる力を失うにつれ、不平等が拡大し、自信に満ちた反組合主義が急拡大した。

 現在、労働組合員の50%が公共部門であり(1981年には35%だった)、公共労働者はすでに多くの州で攻撃を受けていることを考えると、トランプによる今回の組合潰しは全米の公共労働者にとってさらに破滅的なものになりかねない。公共部門の組合が壊滅すれば、民間部門の組合はより攻撃されやすくなる。

 しかし、絶望してはならない。PATCOの教訓は、この危機に対処する最善の方法を教えてくれている。

世論の支持

 まず、前提の違いを理解すべきである。航空管制官のストライキを打ったのは、1980年の大統領選挙でレーガンを支持したことによって他の労働組合から孤立していた小さな労働組合PATCOだった。

 ストライキ参加者は世論の支持を集める努力をせず、代わりに自分たちが信じていた代替え不可能性(航空管制官の訓練には何年もかかる)と団結力(80%が政府のストライキ禁止令に逆らう用意があった)に頼っていた。

 レーガンの支持率は約67%であったのに対し、トランプの支持率は現在約46%である。他の労働組合が譲歩的な交渉に取り組み、国民が2桁のインフレに直面していた時期に、PATCOは公的資金による賃上げを要求していた。

 また、航空管制官は目に見えない存在であり、多くの国民はストライキが起きるまでその存在すら知らなかった。

 今日の状況は根本的に異なっている。連邦政府労働者をスケープゴートにし、悪者にすることはできない。公益のために仕事を続け、何十年もの間、労使双方によって尊重されてきた団結権と団体交渉権を守ることを求めているのだ。

 苦しみの張本人であるイーロン・マスクは広く軽蔑されており(支持率は38%)、レーガンには超党派的な魅力があり労働者にとって手強い敵であったが、トランプにはその魅力がない。

 1981年の管制官とは対照的に、国民は国立公園管理官、退役軍人局の看護師、医学研究者、社会保障労働者が何をしているかを知っており、評価している。連邦政府の業務により直接利益を得ている多くの有権者に組合支持を訴えることが可能である。

労働組合は自らを救わねばならない

 しかし、状況はより有利になったとはいえ、トランプ大統領の決定の有害な影響は、戦わずして鈍化することも逆転することもないだろう。PATCOの物語は、労働者が今後4年間を生き延びるために守りの姿勢で身を固めるべきだと考える人への警告である。

 労働組合の力は1981年以来半減しており、今後10年間で同様の減少が続けば、労働組合運動はほとんど無意味になるだろう。裁判所も政治家も労働組合を救うことはできない。労働運動は闘争心を示すことによって自らを救わなければならない。

 1981年には、労働組合指導者はPATCOへの支援として、同情的なピケの実施、公式声明の発表、と9月19日のレイバーデーに史上最大の「連帯の日」デモを行っただけだった。

 労働組合は人気のある大統領に対する違法なストライキを支持して市民的不服従を組織することには後ろ向きだった。その判断をどう評価するかは別として、直面していた不利な状況を考えれば、その時点ではその判断は妥当に思える。

 PATCOの側に立つことを選ぶ労働組合が一つでもあれば、違った結果になったかもしれない。航空会社のパイロットは自らストライキを打つ必要はなかった。空が安全でないと判断すれば、飛行を拒否する権利を行使するだけでよかったのだ。残念ながら、PATCOはストライキに先立ち、パイロットとの連帯関係を築くことはなかった。それどころか、ほとんどのパイロットは、何千人もの同僚を一時解雇するきっかけとなった管制官のストライキを恨んでいた。

創造性が問われている

 今、このような連帯の欠如を繰り返すことは重大な過ちである。労働組合は労働者に反撃の手段を与える効果的な集団行動戦略を生み出さなければならない。

 その戦略はこれまでにないものである必要があるだろう。連邦政府労働者がこれまでのようなストライキを効果的に打つことは直ぐには難しいだろう。ましてや一部の人たちが呼び掛けているゼネストは困難である。連邦政府労働者がストライキを行えば、人員削減を何として強行しようとしているトランプ政権による解雇を呼び込むだけになるかも知れない。

 しかし、いろいろな市民的不服従の形が考案されれば、幅広い民衆の支持を得られるかもしれない。職場への出勤を要求したり、職場から追い出されるのに抵抗したり、別の場所で仕事を続けたりする形があるかも知れない。あるいは、権力を握る人々に闘いを挑む座り込みや実害を伴う抗議行動の形かもしれない。抗議者たちがテスラの販売店や議会区事務所で集団逮捕される危険を冒したり、連邦政府の敷地を占拠する「マスクヴィル」(注1)を始めたりしたらどうだろうか。

 どのような戦略が生まれるにせよ、それを考案するのは、選挙で選ばれた組合指導部だけでなく、すべての組合員の仕事でなければならない。「レイバー・ノーツ」の読者や活気ある連邦政府労組組合ネットワークFUN(注2)の参加者は、地域レベルでの戦略を実験的に練るのに適した立場にある。

 それがどのようなものであれ、行動戦略がなければならない。このままトランプの組合潰しを許せばその被害はPATCOの時とは比べ物にならないほど甚大なものとなる。そんなことを労働組合は許すことはできない。

(注1)解雇された連邦政府が議事堂周辺で4月20日から座り込みを始めているテント村。1930年代大恐慌の時に失業者たち全国で始めたテント村が当時のフーバー大統領に因んでフーバービルと呼ばれていた。

(注2)連邦政府にはいくつかの労働組合が分散しているが、FUNは組合横断的な活動家のネットワークで、2024年4月のレイバー・ノーツ大会で初めて会合が持たれた。


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