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投稿者:吉原 真次

もう一つの年収の壁/富裕層にのみ有利な不公平税制

 所得税の支払いが発生する年収103万円、勤め先の規模により厚生年金、健康保険の支払いが発生する年収106万円をはじめとする年収の壁が、新聞等の各種マスコミで取り上げられる今日この頃だが、年収1億円を境にして所得税の負担率が低下する1億円の壁はあまり取り上げられていないように思えてならない。103万円の壁が設定されたのは1995年、その間に最低賃金は1、73倍に上がり、相次ぐ物価上昇により私たちの生活は苦しくなる一方で単身者の3割強が貯金のない生活に喘いでいる。1年間103万円で暮らせるはずもなく、政府が税金支払いの最低基準となる年収額を引き上げるのは当然のことだ。

 それと共に富裕層にのみ有利な税制の見直しが必要だ。平等を旨とする民主主義国家では、応能負担原則に従い年収の多い富裕層が多くの税金を払い、年収の低い人の税金は低く抑えられるべきだが、今の税制は大企業や富裕層に有利な不公平税制となっている。財務省作成の2024年申告納税者の所得税負担率によれば、年収200〜250万円の人の負担率は2、5%で、年収により負担率が上がって5000万円から1億までは27、1%となるが、年収1億円を境にして負担率が下がり2億円までは26、7%、5億円までは24、0%、10億円までは21、4%、20億円までは20、9%、50億までは20、0%、100億までは17、1%、100億円を超すと少し上がるがそれでも19、6%でしかない。これが1億円の壁だ。

 1億円の壁が生まれる理由は、貯金の利子や株式の配当、株式の売買等で得た金融所得に対する税率が累進性の所得税と異なり、一律で20、315%(0、315%は東日本大震災後の復興特別税)と低く、さらに分離課税にすると15、315%になることだ。先進国の株式譲渡所得にかかわる税負担率は、アメリカの33、5%、フランス・スウェーデンの30、0%、ドイツの26、4%と国際的に見て低く抑えられ、主要国で日本より低いのはイギリスの20、0%。2024年の合計所得1億円超(申告納税者の0,03%以下)の納税者の所得金額の内訳を見ると給与所得は19、3%にすぎず、上場株式等の譲渡所得が14、4%、非上場株式等の譲渡所得が27、4%、分離長期譲渡所得が21、3%、その他の所得が17、6%と所得税の最高税率45%が適用される給与所得は所得金額の2割以下でしかない。2022年に年収1億円以上の富裕層が収めた税金は総額約5,6兆円だが、45%の税率が課せられる給与所得からの分は約1、12兆円、残りの4,48兆円は最高税率の約半分か三分の一という低い税率を適用して徴収されたものだ。103万円の壁の引き上げで8兆円の国税・地方税の減収が予想されるが、4,48兆円に所得税の最高税率を課せば減収分を上回り、全てを15%の分離課税として試算すれば大きな税収が得られる。

 現行の所得税制の大きな問題点は、金融資産が多いほど有利な仕組みになっていることで、課税所得4000万円以上の給与所得の人には最高税率が課せられて1800万円の税金を払わなければならないが、同じ4000万円でも株式の譲渡所得で得た所得の税率は分離課税だと15%となり600万円の支払いですむ。汗水流して働いて得た金には大きな税金が課せられ、不労所得はその三分の一の税金を支払えばすむ。

 所得税制は富裕層に圧倒的に有利に捻じ曲げられてきた。年収が多ければ多いほど税率が上がる税制は、1983年までは19段階・75%の最高税率だったが、翌年に15段階・70%、87年に12段階・60%、88年には6段階・60%、89年には5段階・50%、さらに99年には4段階・37%と大きく引き下げられた。ようやく2007年に6段階・40%と引き上げられて現在は6段階・45%となっているが、それでも最高税率は30%も引き下げられたことになる。それに比べて最低税率は1984年には10%から10、5%に引き上げられ、10%に戻ったのは1995年、2007年に5%となったが、富裕層の六分の一の引き下げにすぎない。しかも、最低税率が適用される年収額は1999年の330万円から2007年に195万円、今は103万円と大きく引き下げられた。同様に住民税の最高税率も1987年までは18%だったが、翌年に16%、89年に15%、99年に13%、2007年に現行の10%に引き下げられた。住民税と合わせた最高税率も低下し、1983年までは年収8000万円を超えれば93%だったが、99年には50%と大きく低下し、今は55%だが富裕層が依然として大きな利益を得ていることに変わりはない。

 その他の税制も同様で、1989年に46兆円だった法人所得金額は2021年に2倍を超える99兆円となったが、法人税の税収は19兆円から14兆円と大きく低下している。全国商工団体連合会が発行している『全国商工新聞』(2023年7月24日付)に掲載された不公平税制を正す会共同代表の税理士・菅隆徳さんの報告によれば、法人税の大企業優遇税制を正して所得税並みの累進税率を導入し、所得税の富裕層優遇税制をなくして以前の累進税率にすると合計で51兆7689億円の財源が生まれ、23年予算の消費税の税収23兆3840億円がなくても十分な財源があることになる。その他に不公平税制については全国建設労働組合連合がパンフレットを出しているので、インターネットで不公平税制と入力し参照されることを読者諸兄にお勧めしたい。

 それにしても、力のある者は力のない者の為に、金のある者は金のない者の為に応分の負担をするべき人の道を外れ、今だけ、金だけ、自分だけの道を突き進んで恥じない富裕層と大企業に怒り禁じ得ない。ふと、初めて入った職場で公私ともに御世話になった組合の先輩が言ってくれた「お金は大切だが気をつけなければならない。灰皿と同じで貯まるほど(心が)汚くなる」という言葉を思い出した。マルクスは「資本家ほど救いようのない人間はいない。」と言ったそうだが、その通りだ‼(12月1日)

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