投稿者：吉原真次

イスラム圏で拡大するＢＤＳ運動

　ハマスそしてイスラム聖戦による越境攻撃「アクサ―の嵐」から1年が過ぎた。建国以来、民族浄化とアパルトヘイト（人種隔離政策）を行うイスラエルはパレスチナ自治区ガザ地区、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区で執拗なジェノサイド(民族大量虐殺)を行い、抵抗の枢軸の一角であるヒズボラの壊滅、内戦の勃発を目指してレバノンに侵攻したが、この暴挙は中東・東南アジアをはじめとするイスラム圏でＢＤＳ運動の拡大を引き起こした。

　パレスチナの権利を剝奪するイスラエルに加担する米欧企業の商品やサービスを買わず（Boycott=ボイコット）、企業への投資の引き上げ（Divestment）を求め、制裁を科す（Sanction）ことを世界中の市民と政府に求めるＢＤＳ運動は、2005年にパレスチナ市民社会の170を超えるＮＧＯ（非政府機関）が集まり、パレスチナＢＤＳ評議会を結成して展開されているが、不買運動の歴史は古く2000年のヨルダン川西岸地区の第二次インティファーダ（民衆蜂起）、03年の米軍のイラク侵攻、11年の「アラブの春」でも中東諸国ではムスリム(イスラム教徒)、非ムスリムの区別なく行われている。

　「アクサ―の嵐」以降のイスラエルの度重なる蛮行は不買運動に火をつけた。イスラエルに加担する欧米企業、ケンタッキー・フライドチキン（KFC）、コカ・コーラ、マクドナルドなどの米国企業やブランドに対する不買運動が広がり、特にイスラム圏ではイスラエルを支援し、つながりがあるとされる企業の売上高が急減するなど、業績への影響が拡大している。中東・北アフリカ地域等でKFCやクリスピー・クリームなどを展開するアメリカーナ・レストラント・インターナショナルは、2024年1～6月期の売上高が前年同期比で15％減、純利益も45％減と大幅な減収減益となり、イスラエル軍兵士に無料で食事を提供したとして批判を受けたマクドナルドの最高経営責任者は24年1月、不買運動により中東の一部や中東以外の業績にある程度の影響が出ていることを認め、４月に現地フランチャイズ企業から経営権を買い取り本社直営に切り替えると発表した。

　世界最大のムスリムを抱えるインドネシアでは、イスラム教聖職者会議「インドネシア・ウラマ評議会（ＭＵＩ）」が、2023年11月に①イスラエルの侵略に対抗するパレスチナの独立闘争を支持することは義務、②イスラエルによるパレスチナの侵略やイスラエルを支持する勢力を直接的または間接的に支援することはハラム（イスラム教徒にとって禁忌）とするファトワ（宗教見解）を出し、24年9月には人道的見地からイスラエル製品や関連商品のボイコット継続を訴えた。米スターバックスは23年第４四半期（10～12月）に赤字に転落、24年第２四半期（４～６月）まで四半期連続純損益を計上し、KFCをフランチャイズで展開する現地企業は２月にイスラエル政府や軍への援助はしないと説明した。

　ムスリムが多数派のマレーシアでは、ＢＤＳマレーシアがイスラエルに関係するとした欧米企業のリストを拡散して不買運動を呼びかけ、約600店舗を展開するKFCの運営会社は4月末に100店舗強の一時閉鎖を発表した。不買運動の対象には日本企業も含まれていることを忘れてはならない。2023年に伊藤忠商事の子会社で防衛装備品の供給等を担う伊藤忠アビエーションがイスラエルの軍事企業エルビット・システムズと協力関係を結び、日本政府が23年10月にハマス工作員への制裁を決めたことをきっかけとなり伊藤忠商事の子会社ファミリーマートに対する不買運動が呼びかけられた結果、24年2月にファミリーマート・マレーシアは、日本のファミリーマート本社から伊藤忠アビエーションがエルビット・システムズとの覚書を終了するとの報告を受けたとの声明を出し、その中でイスラエルに貢献や寄付をしたり協力関係を結んでいないことを強調した。

　人口の約９割がムスリムのバングラディシュでは、コカ・コーラの売り上げが約23％減少した。これに対しコカ・コーラはパレスチナにも工場があるとのＣＭを流したが、工場が国際法違反と批判されているイスラエルの入植地にあることが分かりイスラム圏の消費者から猛烈な反発を招いた。

　ＢＤＳ運動には直ちに状況を変える力はなく、短期に終わることもあるがイスラエルの蛮行が続く限りはイスラム圏だけでなく世界中の心ある人々により取り組まれ拡大していくし、米国の学生デモではイスラエル企業への投資引き上げが要求されている。私はファミリーマートではめったに物を買わないし、外国産の農産物を買う時は必ず原産地を確認しているが、これからはＢＤＳジャパンのホームページを良く読んでイスラエルに加担する企業の商品を買わないようにしよう。（10月23日）