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投稿者:吉原 真次

イスラエルに自衛権などない!/民族浄化とアパルトヘイトの歴史

 「アクサ―の嵐」から4カ月、イスラエル軍の攻撃によりパレスチナ自治区ガザ地区(ガザ地区)では人道危機が一日ごとに深刻化し、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区(西岸地区)ではイスラエル軍の支配と弾圧により住民の不満が爆発寸前の状況にある。

 ガザ地区の死者は2万7000人、負傷者は5万8000人を超えた。全人口(約222万人)のうち190万人が避難民となり、特に130万人が集中する南部ラファではあちこちに仮設テントが立てられ、避難民は過密で不衛生な環境の下で水や食料を探し回る生活を強いられているが、イスラエル軍はそのラファをも攻撃し進軍しようとしている。医療機関も攻撃され、地区内36の病院のうち13が部分的に機能しているにすぎず、さらには搬入を許される食料や燃料、医薬品は微々たるもので、ラザリニUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)事務局長は住民が集団懲罰の対象となっていると指摘している。

 西岸地区ではイスラエル軍により326人が殺害され、5980人が拘束された。国境封鎖で20万人ものイスラエルへの出稼ぎ労働者が職を失い、各都市を結ぶ幹線道路には軍の検問所が設けられて住民は自由に行き来できなくなった。そして昨年10月末にイスラエルが自治政府に代わり徴収している関税(自治政府予算の65%に相当)の送金が停止され、治安部隊と公務員への給与支払いが滞り、西岸地区住民の不満はたまる一方だ。

 ロシアのブチャ虐殺を強く非難したマスコミと欧米諸国は、イスラエルの暴虐を「アクサ―の嵐」への報復、イスラエルの自衛権の発動としているが、これはかつて先住民を殺害、追放して奪った土地を開発したアメリカや南アフリカ等と同じ入植型植民地主義国家イスラエルが1948年の建国以来行ってきた民族浄化とアパルトヘイト(人種隔離政策)に他ならない。武力をはじめとする様々な方法でアラブ人(パレスチナ人)を殺害、追放してきたイスラエルに自衛権など存在しない!

 建国前のパレスチナには66万人のユダヤ人と約130万人のアラブ人が暮らしていたが、ユダヤ人はパレスチナ全土の5〜6%の土地を所有していたにすぎなかった。国連は1947年の「パレスチナ分割決議(分割決議)」でユダヤ人に57%の土地、アラブ人(パレスチナ人)に43%の土地を与えて2つの国を作らせる不公平な決定を下しパレスチナの混乱を招いたが、シオニスト(ユダヤ民族主義者)は「分割決議」さえも踏みにじり、第一次中東戦争で70万人ものパレスチナ人を追放、アラブ人が自主的に退去したとして土地を接収した。建国時のイスラエルの領土は「分割決議」を大きく上回る77%、さらに「分割決議」が定めたユダヤ人国家は50万人のユダヤ人と40万人のアラブ人が共に暮らすというもので明確な決議違反だが、アメリカは国連決議違反のイスラエルをいち早く承認、以後44回にわたり国連安保理で拒否権を使ってイスラエルを助けている。 1967年の第三次中東戦争でイスラエルは残った23%のパレスチナの土地、エジプトからガザを奪った。この時には30万人を超えるパレスチナ人が難民となっている。 イスラエルの民族浄化とはパレスチナ全土をユダヤ人のものとすることだ。パレスチナ人の殺害と追放はその一環で、アパルトヘイトは殺害・追放できなかったパレスチナ人を自治区に押し込めて生活向上の道を奪い、時間をかけて滅亡へと導くもので、これは今もアメリカでネイティブ・アメリカン(インディアン)が居留地に押し込められ、かつて南アメリカで人口の8割を占める黒人が黒人居住区での生活を強いられたのと同じだ。コロンブスがアメリカ大陸に到達した15世紀にアメリカには約800万人の先住民がいたと推定されるが、2010年時点のネイティブ・アメリカは300万人で40%以下に減少、また15世紀と比べて現在の世界総人口が約20倍になったのを考えれば2%以下に激減したと言っても過言ではない。

 ガザ地区ではイスラエル軍の人と土地を殺しつくす民族浄化が行われている。ガザ地区への攻撃当初、住民の被害は最小限にするとしたイスラエルが使ったのは標的を精密に狙う誘導弾でないことが昨年12月23日の米CNNの報道で明らかになった。米国情報長官室当局者3人によればイスラエルが使った空対地弾の40〜45%が無誘導弾で、世界一過密と言われるガザ地区では精密誘導弾でも周辺の住民を巻き添えにするが、無誘導弾は被害をさらに大きくする。実際に死者の7割が子供と女性なのだ。

 イスラエルは飢餓によるガザ住民の殺害も目論んでいる。昨年12月21日に世界食糧計画(WFP)等はガザ地区住民の6人に1人が壊滅的な飢餓状態にあるとの調査報告書を公表し、現状が続けば2月には4人に1人が壊滅的な飢餓状態に陥るとの見通しを示した。激しい戦闘が続く中で搬入される食料は不十分な上にほとんどが南部ラファ県等の一部に集中し、北部の住民は家畜の飼料を挽いて食べざるを得ない状況に追い込まれている。

 12月23日、パレスチナ自治政府のマリキ外相はイスラエルがガザに対して飢餓を戦争の手段として使っていると非難、1月15日にはグリフィス国連人事務次長(人権担当)がガザの状態は崩壊寸前との声明を発表したが、欧米諸国と日本等の16ヵ国はガザの人道支援を一手に担うUNRWAへの送金を停止した。UNRWAは「2月末までに活動を停止せざるを得ない可能性が高い」と発表、送金停止はガザ地区住民に「死ね」と言うのと同じで、拠出の継続を表明したノルウェーのアイデ外相は1月28日、「この深刻な人道状況で資金を削減することの影響の大きさを考えるべきだ。」とする声明を出している。

 1949年に設立されたUNRWAは西岸地区、ガザ地区の他にヨルダン、レバノン、シリアでパレスチナ難民の支援活動を行っている。2021年のUNRWA統計によるとパレスチナ難民は約638、8万人で世界最大の難民、特にパレスチナ自治区以外で生活する356、8万人は無国籍状態に置かれた上に様々な制約を課せられて苦しい生活を余儀なくされている。送金停止はガザ地区住民を餓死に追い込み、パレスチナ難民を更なる苦境に追いやることに直結する。送金停止により日本を見るパレスチナ人、アラブ社会の人々の目は一層厳しいものとなるに違いない。

 環境やインフラを破壊して人が住めない土地にすることも民族浄化だ。ハマス地下トンネルへの海水注入によって塩分濃度の高いガザの地下水が飲み水や農業用水に使えなくなれば、基幹産業が農業のガザは壊滅的な打撃を受け、また攻撃で建物の半分が損壊状態となったガザ地区での生活再建は困難を極めることになる。

 イスラエルはアパルトヘイトを行ってきた。西岸地区ではパレスチナ自治政府が警察権と行政権を持つA地区は17、2%にすぎず、行政権は自治政府が持つが警察権はイスラエルが持つB地区は21、8%、そしてA地区とB地区を細切れにし包囲する形でイスラエルが警察権と行政権を持つC地区が配置されている。またイスラエル軍の統制下にある西岸地区全域でのパレスチナ人の行動は大きく制限されている。これはネイティブ・アメリカンを居留地に追いやった歴代のアメリカ政府のやり方と同じだ。さらに一方的に不利な協定を強制しながら、アメリカ政府はその協定も破ってネイティブ・アメリカンを追い詰めてきた。イスラエルも同様で2000年時点で59%だったC地区を61%にまで拡大している。

 西岸地区とのフェアトレードを事業に発展させ、住民と仕事抜きの人間関係を築き上げた年輩の方に聞いた話によると西岸地区では違法な入植地の拡大と幹線道路建設が行われ、張り巡らされた分離壁や金網により農民は壁の反対側にある自分の畑に行くのにもイスラエル軍の許可を得なければならない。またイスラエル軍による夜間の農家への襲撃や家財道具の破壊、農道や農業用水路、NGO(非政府機関)事務所の破壊と農民殺害、オリーブの木の伐採が日常的に行われている。

 イスラエルは2005年にガザから一方的に撤退したが、それは入植活動に伴う経済的損失が大きかったからだ。撤退後にイスラエルは封鎖によりガザ地区を「天井のない監獄」にし、電気、水道、ガスの供給を制限、イスラエルが許可した物資のみ搬入を許した。発電所への燃料の供給が滞って停電が数日間も続き、一日の通電時間が数時間となり集中治療を受けている患者や新生児が命を落とすこともあった。さらにイスラエルが汚水処理に使う電力の供給を制限した為にガザ地区の衛生環境は悪化した。2012年に在パレスチナ国連国別チームが2020年にガザは人が住むに適さない場所になるという調査報告書を発表したが、「アクサ―の嵐」以前のガザ住民の生活環境悪化は深刻な状態にあったのだ。

 イスラエルからの物資だけでは生きていけない住民たちは、地下トンネルを掘って食料や生活物資を調達するが、イスラエルはトンネル対策として2009年にエジプトとの境界に地下20〜30メートルの鉄壁、2021年のガザ攻撃後は地中深く鉄の板を埋め込んで住民の糧道を絶った。武器は使わないがガザ地区住民の生命を危険にさらす封鎖は戦争行為に等しい。しかし欧米諸国は2006年にEU(欧州連合)が自治政府職員の給与に充てられていた援助を停止、2009年の鉄壁埋め込みにはアメリカとフランスが関与し「天井のない監獄」の強化を助けた。封鎖により絶望的な状態に置かれたガザ地区住民の生活を支えてきたのはハマスである。

 イスラエルの民族浄化とアパルトヘイトを助け、ガザ地区と西岸地区におけるパレスチナ人圧殺に手を貸す欧米諸国、そして欧米諸国が掲げる人道の本質こそ問われるべきだ。

 余談となるが、ネイティブ・アメリカンは文化と伝統を守り権利向上の闘いを続けている。パレスチナ人はイスラエル建国=ナクバ(大災厄)以来76年闘い続けているが、1607年に行われたイギリスからの入植をアメリカにおける入植型植民地主義の始まりとすれば、ネイティブ・アメリカンは4世紀以上にわたり闘っているのだ。寡聞にして古い例となるが、ネイティブ・アメリカンとアメリカンインディアン運動を支持し、抗議行動で逮捕されても考えを変えず、1973年にはハリウッド映画のネイティブ・アメリカンの描き方に抗議してアカデミー賞の受賞を拒否した名優マーロンブランドの様な心あるアメリカ人も少なからずいるに違いない。
          (2月7日)


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