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NHKスペシャル「一億特攻への道」は凄い番組だった〜極秘文書が示したもの

長井 暁

 8月17日に放送されたNHKスペシャル「一億特攻への道〜隊員4000人の生と死〜」は凄い番組だった。担当したのはNHKエンタープライズの大島隆之ディレクター。15年間にわたって取材を積み重ねて来た大島ディレクターの執念が感じられる。

 特に驚かされるのは、特攻隊員がどのように選ばれたのかの謎に迫る新資料が登場する点である。それは55の航空隊が、国内で訓練する搭乗員に特攻を志願するかどうかの意向調査をして、海軍省に提出した極秘文書である。

 成績順に並んだ隊員リストの最上段には、志願の程度を表す「熱望」「望」が記され、人物評や搭乗員としての適正や技量についての上官のコメント、さらに詳細な家族構成までが記されていた。

 そしてこのリストを基に海軍省が実際に特攻隊員として選んだのは、成績の最上位者を除き、上位から中位までの搭乗員たちであった。そこにはある程度の技量は必要だが、最優秀な隊員を一回の特攻で死なせるのは勿体無いという、軍上層部の冷徹な判断が存在していたのである。隊員たちの志願の程度は選抜には関係なかったのだ。

 さらにこの番組は、特攻と当時の日本社会との関係も解き明かしている。軍やメディアのプロパガンダにより、「一億総特攻」の熱狂が国内の隅々にまで広まり、それが国民の戦意を保つことに役立っていたというのである。

 歴史学者の一ノ瀬俊也氏の以下のようなコメントには驚かされるが、「なるほど」と納得させられる。

「一億総特攻が昭和20年8月までの日本人に与えた影響というのは、特攻さえやっていれば何とかなるかも知れない。そう思わせて戦争に対する批判や反抗の声を抑え込んでいたこと。これに尽きると思います。特攻隊が出撃している限り日本は負けない。このまま頑張っていれば何とかなるんじゃないか。特攻隊というのは麻薬みたいな役割を果たしていたのではないかと思います。注射している限り戦意を高く保つことができる。もしかしたら何とかなるんじゃないかというふうに考えることができる。最後の最後までその希望にすがりついた。一億総特攻という言葉には、それを可能にする力があったのではないかと見ています」

*筆者は「元NHKチーフプロデューサー」。同氏のFBより転載紹介。


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