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【解説】レイバーノーツ5月号は、高い離職率を抱える困難な職場でも組織化が可能であることを報じている。アマゾン、チェーンレストラン、大学の学生・院生労働者など不安定な労働者たちが職場での地道な運動と巧みな戦術によって組合組織化の成功を収めていることに注目したい。(レイバーネット国際部 山崎精一)*毎月1日前後に「レイバーノーツ」誌の最新記事を紹介します。
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離職率の高い職場でも組織化

 2023/5/22 ジェニー・ブラウン(レイバーノーツ副編集長)

*離職率が50%と高いコロンビア大学の寮生アドバイザーたちも95%の高率で組合認証を勝ち取った。

アマゾン労働組合が最初に組合授権カード〔組合を支持する労働者は授権カードに署名して組合に提出する。労働者数の3割を越える授権カードを提出すると全国労働関係局による組合認証選挙を申請することができる〕を提出したとき、「一旦取り下げて、再度提出しなければなりませんでした」と組織委員会のメンバーであるジャスティン・メディナは振り返る。「もう働いていない労働者が署名したカードが1,000人以上もあると、アマゾンが異議を申し立てたからです」。

ニューヨークのスタテン島にある8,000人規模の配送センターでは、離職率が非常に高く、授権カードを集めるのと、全員が退職するのと、どちらが先かの問題になっていたと、彼女は語る。アマゾンの年間離職率は150%である。「アマゾン社の生産性ノルマや料金システムは、常に労働強化を求めるように作られているので、仕事をし続けるのは難しいのです」と、現在もその配送センターで働いているメディナは言う。アマゾン労働組合のリーダー数人は解雇されている。

今ではケンタッキー州とカリフォルニア州にも組合員がいる独立労組のアマゾン労働組合はそれでも、十分に有効な授権カードを集め、2022年の組合認証選挙にも勝利することができた。「労働者の離職が激しければ激しいほど、組織化は難しくなる 」とメディナは言う。「それでも、組織化は可能ですが、明らかにより困難になります。」

そうした困難にもめげず、労働組合はアマゾン、チャータースクール〔 公設民営の学校〕、レストラン、そして大学院生労働者のように、離職率の高い職場を組織化するための戦略を生み出している。

構造化した高い離職率

アマゾンの離職率150%という数字は誤解を招きかねない。何年も在職する人もいれば、短期間で辞めてしまう人も多い。しかし、2016年に大学の食堂労働者が組合を組織したアイオワ州のグリネル大学では、働いている学部生は4年ごとに完全に入れ替わる。そこで、グリネル大学食堂労働者組合は最初に結んだ労働協約の中で、働き始める学生労働者に組合がオリエンテーションを行う権利を獲得した。組合は意図的に協約期間を2年と短くすることにより、前回の交渉の経過を誰かが知っているようにした、と組合員のアイザイア・ガットマンは言う。

ニューヨークのコロンビア大学の寮生アドバイザー〔コロンビア大学の寮に住んでいる学生のリーダーを務める学生で153人おり年13,000ドルの報酬を大学から得ている〕は、昨年労働組合を作ろうとしたときに、もっと厳しい離職問題に直面した。組織化の対象は2年生以上のみなので、毎年153人の対象者の半分近くが入れ替わってしまう。これに対処するため、普通の職場キャンペーンで求められるよりも早く、賃金と労働者の意見に関する全学的な要求署名を回覧して、組織化の取り組みを公表した。組織委員会のメンバーであるリーナ・ユメーンは、「新入りの寮生アドバイザーに働きかけるために、広い網を張る必要がありました」と話す。

コロンビア大学の寮生アドバイザーは学期が始まる前に60時間のトレーニングを受けるので、コロンビア大学寮生アドバイザー労組はその機会を利用して、新しい寮生アドバイザーに職場の問題について話し、100人に組織化のためのグループチャットに登録してもらった。5月に行われた組合認証投票では寮生アドバイザー労組は95%の得票率で勝利した。

仲間同士の文化

テッド・ミインが働くシカゴのアマゾン配送ステーションでは、離職率が高いにもかかわらず、労働者が飲料水や有給病休を獲得し、コロナ禍の中で労働安全ストライキを実施した。独立した労働者主導の組織であるアマゾニアンズ・ユナイテッドAmazonians United〔シカゴにある組織でアマゾン労働組合とは異なり、組合ではない〕は、2つの配送ステーションでのストライキを実施して、2ドルの昇給を勝ち取とり、シカゴのすべての配達ステーションに適用された。

会社が認める労働組合はないが、新規採用者は入ると直ぐにアマゾニアンズ・ユナイテッドのことを知る。仲間が休憩時間に話しかけ、退勤後に近くでのランチに誘ったりするからだ(シフトは午前1時から正午まで)。

新規採用者との会話では仲間同士の文化を強調し、「管理職が何をしているか、私たちをどう扱っているかに注意を向け、仲間同士が互いに気を配り、密告しないような文化を作ります。そういう文化は直ぐに根付きます。」休憩室を労働者専用にするよう要求署名を提出し、管理職がそこに座ることを禁止した。

その結果、この職場では、管理職への昇進を希望する従業員を見つけるのに苦労しているとミインは言う。昇進後に辞退して降格した労働者も二人いる。

アマゾニアンズ・ユナイテッドは、グループチャット、旅行、レストラン、公園、アイスクリームショップでの懇親会や職場近くの地域団体などを通じて結束力を高めている。また、労働学校で政治教育プログラムを実施し、年に一度、全体でバーベキューを開催している。

アマゾニアンズ・ユナイテッドは、熱心なオーガナイザーでも退職したり解雇されたりする可能性があることを認識し、退職しても組織に引き留めるために努力している。「私たちは、同じ階級としての意識を強め、共に活動し、共に築き上げ続けなければなりません」とミインは言う。アマゾンを辞めた後も、労働学校や懇親会に参加し続ける人もいる。刑務所でコロナ検査を実施する新しい仕事に就いたが、そこでの賃金未払に対してアマゾンでの経験を活かして闘い、勝った人もいる。

職場の外にある組合

ノースカロライナ州ダラムで発足した新しい組織南部サービス労働者組合も、同じ精神で動いている。その組織は、アイーシャ・フランシースのように、低賃金の仕事を頻繁に変える労働者のために作られている。彼女はファーストフードや小売業を経て、現在は介護施設で働いているが、ずっと南部サービス労働者組合のメンバーだった。

コロナ禍が発生したとき、彼女はダラムのバーガーチェーンで働いていた。フランシースは仲間とともに2020年10月に4日間の労働安全を求めるストライキを行い、彼女の店だけでなく、同じチェーンが経営する32の他の店でも感染対策基準と有給のワクチン接種を獲得した。1年後、労働安全対策が後退したので再度ストライキを行ったが、彼女ともう一を除いて従業員は入れ替わり、多くの高校生が含まれていた。

「自分たちがやったこと、ストライキをやって、店を閉鎖したことに、みんなびっくりしていました。」と、フランシースは言う。最初のストライキの時、自分もそうだったので、分かると言う。「それは全く新しい世界だったのです。」

アマゾニアンズ・ユナイテッドと同様に南部サービス労働者組合も多くの社交イベントや集まりを開催している。同労組は毎回2人の新しい人を連れてくるよう、組合員に求めている。また、南部サービス労働者組合の組合員は、誰も知らない店に入り、自己紹介をして、労働条件について会話をすることもある。

「私たちはこの業界を知っています。労働時間が足りない、お金がない、ハラスメントがあるなど、みんな同じような問題を抱えています。どこでも同じです」とフランシースは言う。

ストライキを支援する

シカゴのチャータースクールでは、年間の離職率が15%から30%にものぼる。チャータースクール教員組合の元会長であるクリス・ベーレンドは、「高い離職率は組織化を困難にはしたが、不可能にはなりませんでした」と述べた。重要なリーダーが辞めたので、組織委員会が一年掛かっても組織化活動を公言することができず、がっかりしたこともあったという。それでも、13の経営者のもとの35校を組織化することができ、2018年にはシカゴ教員組合の一部門となった。ベーレンドは現在、シカゴ教員組合のオーガナイザーである。

2018年、教員とその他の教育労働者は、アセロ社チェーンの15校でストライキを行い、米国で初のチャータースクールのストライキとなった。そのおかげで、組合について話するのが容易になった。

「新しい組合員がやってきて、『ここでストライキをするんだって、怖いね』と言うんです。」とベーレンドは言う。「でも、それが組合の力とは何かという会話を始めるきっかけになるんです」。

教員組合はまた、学校のマッピングをして新規採用者を探し、「代議員が新規採用者に会って話すようにする」と言う。(代議員は職場委員のこと)

組合運動の原点

「組合が目立ち、声が大きく、効果的で、参加型であればあるほど、新しい人々を取り込むのが容易になります」、と食品製造業、介護事業、ホテルなどで組織化した著名なオーガナイザーであるジーン・ブラスキンは語る。新規の組織化では、「強力で代表的で、活発な組織化委員会と目に見えるキャンペーンという組織化の基本的な前提を避けることはできません」と言う。「それがなければ、高い離職率には勝てません」。

ブラスキンは、オープンショップ州〔組合に入ることが必要とされない州のこと。労働権州の別の呼び方〕であるノースカロライナ州ターヒールにある5,000人の労働者が働くスミスフィールド社の豚肉加工工場の組織化に取り組んだ。会社は組織化に対して大規模な報復を行い、ラテン系移民労働者の多くが適切なビザを持っていないとして、従業員の3分の1を解雇したこともあった。その時には、組合は組織化委員会を完全に立て直さなければならなかったが、最終的に2008年の組合認証選挙で勝利できた。

一方、すでに組合があった近隣の養鶏場では、「組織率は30%で、労働協約は弱く、職場活動もありませんでした。」とブラスキンは指摘する。「その工場に行くと、組合なんかくそくらえ、と皆言っているので、誰も組合に入らないんです」。

スミスフィールド社では、組合は新入社員に一時間のオリエンテーションをする権利を獲得していた。「10人に対して1時間、いい研修をすれば、そのうちの8人は組合に加入する可能性があります」とブラスキンは言う。しかし、オリエンテーションに真剣に取り組む組合は少ない、と言う。

アイオワ州ダベンポートのUPS社の倉庫で働き、組合の職場委員を務めるジェン・ゴットは、新規採用者にはすぐに声をかけ、組合について伝えることが重要だと語る。「最初から参加するよう誘われたと感じられなかったら、途中からは入りません。」

アイオワ州はオープンショップ州なので、新規採用者は組合に加入する必要はないが、労働協約では、組合は新規採用者の連絡先を知ることができることになっている。また、毎月10分間、新規採用者と話をする時間が与えられている。

経営陣にこれを認めてさせるのは大変なことだ、とゴットは言うが、やらせるだけの価値がある。「私は28年間ここにいますが、1度は解雇されました。しかし、組合のおかげ今もいます。」と彼女は新人たちに語っている。

組合は離職率を下げる

労働者が共に闘い、組合が闘いにより成果を勝ち取っているという事実が労働者を職場に留め、働き続けることを可能にする。

ストライキの勝利は、職場で変化を起こせることを教えてくれる、と南部サービス労働者組合のフランシースは言う。「辞めて別の仕事に就いても、同じレベル、あるいはもっと高いレベルで同じ問題を経験するだけだ、ということをストライキは教えてくれます」。組織化することにより、低賃金の仕事を労働者が尊重される高賃金の仕事に変えるのが南部サービス労働者組合の目標だ、と彼女は言う。

強い組合が存在することで、労働者は管理職からいじめられることがなくなる。トラブルに巻き込まれた人がいれば、誰かがその人のために立ち上がり、そんなこと許したらダメだ、職場委員に相談しようと言う、とブラスキンは言う。「そういう支え合いと強い労働協約のおかげで、多くの人が退職せずにすむのです。」

そして、仲間との日々の連帯こそが高い離職率を阻むものだと、アマゾンの配送ステーションのミインは語る。「『この組織がなかったら、とっくに辞めていただろう。こんな組織があるところでは働いたことがない』と多くの仲間が言っています」。


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