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戦争のなかで生きぬくための「希望」〜映画『ラーゲリより愛を込めて』を観て

堀切さとみ

 東京・池袋の劇場は、若者も含め満席だった。二宮和也、北川景子、松坂桃李といった名役者 たちが出演しているからだろう。役者たちに感謝したい。素晴らしい反戦映画だった。ま ぎれもなく今年観た映画のナンバーワンだ。

 かくいう私自身、ソ連の捕虜収容所での出来事など、まったくといっていいほど知らな かった。敗戦後の混乱期。日本軍の蛮行の後始末として多くの日本人が捕虜となり、戦禍 を潜り抜けた者たちも、家族と生き別れになった。    シベリアで強制労働をしいられた日本の軍曹と一等兵たち。ソ連がひどいという描かれ 方ではなく、むしろ日本の軍隊のあり方がよくわかる。他国の捕虜になってもなお上官は 絶対であり、一等兵は名前で呼んでもらえない。そんな中、二宮が演じる山本幡男一等兵 は、名前で呼べと軍曹に要求し、「愛しのクレメンタイン」を歌って仲間達を鼓舞した。

 帰国できるかと思いきや、他愛のない理由で汽車から降ろされる。弄ばれ、先が見えな くなって脱走しようとする者もいる。ハーモニカの「ふるさと」が流れる中、ただ故郷に 帰りたいと願っていた福島の人々の心情を思った。

 どんな時代に生まれたかによって、比較的平穏に生きられる人生と、翻弄される人生が ある。戦争が始まってしまったら誰にも止められない。その中でやれることは、ただ生き 延びること、人を信じることだろう。生きるために歌を歌い、俳句を詠み、野球をし、犬 をかわいがる。裏切られても赦す。仲間を救うためにストライキをする。何があったかを 書き残す。書いたものが諜報として没収されるなら、脳裏に焼き付ける。そして語り伝え る。・・・生きぬくための希望は、こんなにもたくさん転がっているのだ。    同じく今年みた映画『プラン75』が、何度も頭をよぎった。たとえ戦争でなくても命が 軽んじられ、死ぬことが奨励される時代は、目の前まで来ている。過酷な極寒の強制労働 の中で、山本たちが見せてくれた希望を、私たちは今こそ掴み取らなくては。そう叫びた い気持ちになった。

 実話に基づいた映画で、劇中に出てくる山本一等兵の息子・山本顕一さんは、今も埼玉 県に住んでいる。数年前に私の映画を観に来てくださり、言葉をかわしたことがあった。 沢山の知るべきことを、私はどれだけ取りこぼしてきたのだろう。映画を観て、戦争は遠 い昔のことではなく、こんなにも身近なものだったのだと、痛感するばかりだ。


Created by staff01. Last modified on 2022-12-30 09:45:03 Copyright: Default

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