|
〔週刊 本の発見〕『心の傷を癒すということ』 | |
|
Menu
|
想像を超える事態にさらされた時『心の傷を癒すということ』(安 克昌 著、角川ソフィア文庫、Kindle版450円)評者:大西赤人
家族や友人を喪った、住居や財産を失った、生活基盤を奪われた――そのような直接的・具体的な被害と併せて、人は眼には見えない形で心に傷を負う。今では耳目に馴染み、むしろ一般には安易に使われ過ぎる嫌いさえある「PTSD(Post-Traumatic Stress Disorder=心的外傷後ストレス障害)」という用語は、阪神・淡路大震災を契機として、一気にクローズ・アップされることとなった。 「【震災後】人々は心の傷つきを、不眠、緊張、不安、恐怖などの心身の変化として体験した。それは『異常な状況における正常な反応』である」「だが、災害直後の『正常な反応』がいったん落ちついたように見えても、心の傷が解消したと言い切ることはできないのである。目立った症状はなくても、ある種の�狎犬�づらさ�瓩�持続していることがあるからである」*写真=著者
安が亡くなって以降も、日本では多くの人々を巻き込む大きな災害が起きている。たしかに以前に較べれば「心のケア」は普及しているにせよ、それで総てが解決するはずもない。言うまでもなく2011年の東日本大震災、それに伴う福島第1原発事故は、既に十年が過ぎた今においても、なお多くの被災者に阪神・淡路大震災と同様の心の傷を残していることだろう。そして、昨年来の新型コロナウイルス感染症もまた、死者数こそ限られているとはいえ、むしろ一層広い範囲の人々の生活に深刻な影響を与えているとも考えられる。安による「大きな社会変動の際には、自分の内面に向き合う余裕がなくなるため自殺は減少するのだろう。だが、混乱を乗り越え生活が一段落し、先の見通しに直面したときに自殺は起こりやすい」との指摘は、現状にも通底する。 「被災者は援助を受けることで『得をした』とは思っていない。むしろ、必要なものを援助してもらわなくてはならないことは『屈辱』なのである。しかも、援助に対しては感謝すべきであるという暗黙の要請があるために、この屈辱感は公には表現することはできない」 援助を受けることを「屈辱」と感じる必要などそもそもないであろうにせよ、被災者の「自立」を促す社会の論潮に示した著者の懸念は、四半世紀の後、災害の枠を超えた社会福祉全般において、首相が「自助」の最重要をことさらに唱える光景によって裏付けられている。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・志水博子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・根岸恵子、ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2021-06-04 09:53:31 Copyright: Default | |