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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕『心の傷を癒すということ』
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毎木曜掲載・第207回(2021/6/3)

想像を超える事態にさらされた時

『心の傷を癒すということ』(安 克昌 著、角川ソフィア文庫、Kindle版450円)評者:大西赤人

 本書は、御縁のある臨床心理士の方から薦められ、読む機会を得た。1995年1月17日に起きた阪神・淡路大震災に際し、神戸市西市民病院精神神経科医長の職にあった著者の安は、発災直後から避難所などへ赴き、多くの協力者、ボランティアとともに被災者のカウンセリングや診療に取り組んだ。この大災害を言わば犂餡澂瓩箸靴董安は、それまで日本では軽視されがちだった「心のケア」の重要性を実践の場で改めて痛感する。そして、混乱のただ中にありつつ、震災直後の同年1月31日から翌96年1月20日まで31回にわたり、『産経新聞』に「被災地のカルテ」と題してリアルタイムに状況を綴った。「本書の第吃堯Ν局瑤蓮△修力∈椶鬚發箸冒缶姪に改稿・加筆したものである。第敬瑤録靴燭暴颪下ろした」(あとがき)単行本は1996年に作品社から刊行され、サントリー学芸賞を受賞する(残念ながら安は、その僅か四年後の2000年に39歳で早世してしまう)。

 家族や友人を喪った、住居や財産を失った、生活基盤を奪われた――そのような直接的・具体的な被害と併せて、人は眼には見えない形で心に傷を負う。今では耳目に馴染み、むしろ一般には安易に使われ過ぎる嫌いさえある「PTSD(Post-Traumatic Stress Disorder=心的外傷後ストレス障害)」という用語は、阪神・淡路大震災を契機として、一気にクローズ・アップされることとなった。

「【震災後】人々は心の傷つきを、不眠、緊張、不安、恐怖などの心身の変化として体験した。それは『異常な状況における正常な反応』である」「だが、災害直後の『正常な反応』がいったん落ちついたように見えても、心の傷が解消したと言い切ることはできないのである。目立った症状はなくても、ある種の狎犬づらさ瓩持続していることがあるからである」*写真=著者

 想像を超える事態にさらされた時、当然ながら人は精神的に(も)衝撃を受け、心が傷つき、その衝撃をどうにか和らげ受け止めるために様々な反応を呈する。しかし、それが過度に数週間後、数ヵ月後にも現われる場合、治療を要する病気としてのPTSDと診断される。被災者(被害者)は自らの心に受けた傷を認識し、見直し、受け止めることに必死になっているのだが、そんな時、些細な出来事をも「復興の芽生え」と強調し、「がんばれ、がんばれ」と彼らの背中を押すことは、本当の支援には結び付かない。安は、それを「高揚感」「『復興』という名の犧廚雖瓠廖屐撻泪好灰澆砲茲襦枷鏈劼班興という安易な猜語瓠廚覆匹筏している。

 安が亡くなって以降も、日本では多くの人々を巻き込む大きな災害が起きている。たしかに以前に較べれば「心のケア」は普及しているにせよ、それで総てが解決するはずもない。言うまでもなく2011年の東日本大震災、それに伴う福島第1原発事故は、既に十年が過ぎた今においても、なお多くの被災者に阪神・淡路大震災と同様の心の傷を残していることだろう。そして、昨年来の新型コロナウイルス感染症もまた、死者数こそ限られているとはいえ、むしろ一層広い範囲の人々の生活に深刻な影響を与えているとも考えられる。安による「大きな社会変動の際には、自分の内面に向き合う余裕がなくなるため自殺は減少するのだろう。だが、混乱を乗り越え生活が一段落し、先の見通しに直面したときに自殺は起こりやすい」との指摘は、現状にも通底する。

「被災者は援助を受けることで『得をした』とは思っていない。むしろ、必要なものを援助してもらわなくてはならないことは『屈辱』なのである。しかも、援助に対しては感謝すべきであるという暗黙の要請があるために、この屈辱感は公には表現することはできない」

 援助を受けることを「屈辱」と感じる必要などそもそもないであろうにせよ、被災者の「自立」を促す社会の論潮に示した著者の懸念は、四半世紀の後、災害の枠を超えた社会福祉全般において、首相が「自助」の最重要をことさらに唱える光景によって裏付けられている。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・志水博子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・根岸恵子、ほかです。


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