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LNJ Logo 飛幡祐規 パリの窓から : 二つの世界観/フランスの年金改革反対運動
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 第58回・2020年2月2日掲載

二つの世界観〜フランスの年金改革反対運動


*「年金改革と公共サービスの破壊に対して一緒に闘おう」と垂幕に書いた教員たち

●歴史的な社会運動

 昨年の12月5日からフランスでは年金改革に反対する大規模な社会運動が始まった。初日のデモの動員は全国で150万人(警察発表80万人)、パリでもおそらく20万人以上。1995年の大スト・デモ(年金・社会保障改革反対)や2006年のCPE(若者雇用契約)反対の大運動に匹敵する。以後、毎週1〜複数のデモ(時には初日を上回る規模)が行われ、公共交通機関(国鉄、郊外急行、メトロ、バス、トラム)のストはクリスマス休暇中も続けられた。

 国鉄のストは第二次大戦後の最長記録(1月26日までの53日間)となったが、1か月を過ぎるとさすがにそれほどの給料を失うのはあまりにも痛いので、パリ交通公団と国鉄の運行は次第に平常に近づいた。しかし、製油所や港、電気など他の部門でも封鎖やアクションが行われ、それらのアクションやデモには消防士、看護師、教員、学生、黄色いベストなど、公共部門に限らずさまざまな職種と世代の市民が結集している。

 公共交通機関がほとんど動いていなかった12月中はデモに行くのも大変だったが、毎回、労働組合以外にも大勢の市民が集まった。通勤・通学はもとより私的な外出もすべて大苦労を要し、渋滞はひどくなり、パリでは自転車やキックスケーター利用者がぐっと増えた。そんな不便さにもかかわらず、ストの支持者(理解者)は過半数を保ち続け、世論調査で年金改革に反対する人は増えていった(過半数〜7割以上)。


*パリ交通公団 郊外急行RER B線の従業員たち

 この社会運動には年金改革にとどまらず、労働法改悪や失業保険制度改悪など、マクロン政権が次々と急ピッチで進めるフランスの社会福祉制度の破壊に対する、一般市民の大きな怒りと抗議が表されている。去る11月17日に1周年を迎えた「黄色いベスト」運動は、燃料費増税への反対から始まったが、超富裕層を優遇して低所得層・中間層を搾り取る不平等と、市民の声を無視する政権に対する大きな抗議運動に発展した。マクロン政権はそれらの要求にほとんど応えず、数十年来でもっとも激しい弾圧を加え続けているが、ロータリーから撤去されデモの人数は減っても「黄色いベスト」運動の主張は社会に浸透した。

 また、昨年3月から各地の緊急病棟でストが始まった。公共病院はここ10年来「合理化」の名目で進められた人員削減、経費削減によって、労働条件の悪化が甚だしい。緊急病棟に限らず、医療・介護部門のすべての職種では、人手とベッドが足りず患者に「人間らしい医療が行えない」と苦しむ人が増え、自殺者も出ている。しかし、統一アクションなどを行っても健康省と政府が抜本的な改善要求に応えない危機的な状況を告発して1月14日、全国の公共病院の部長クラスの医師1200人以上が管理・経営に関わる仕事から辞職した。彼らは、企業のマネージメントを適用した病院経営のせいで医療の質を保てなくなったと批判し、緊急な予算の増加(低所得従業員の給料引き上げを含む)を要求している。

 もう一つ象徴的な出来事は、11月8日に起きたリヨン大学の学生(22歳)による焼身自殺だ。彼は地域学生厚生センターの前でこの行為を行い、90%火傷で現在も生死不明で集中治療中である。奨学金を止められて絶望し、多くの学生が抱える経済的困難の問題を訴えるために焼身自殺を決めた彼が残した手紙には、マクロンとオランド・サルコジ前・元大統領、EUが未来の不安定をつくって彼を殺したと記されている。また、ル・ペンとメディアの論説委員たちに対しては、いたずらに恐怖を煽っていると告発した。マクロン政府の大臣と報道官はこの行為を「政治的ではない」とコメントしたが、1968年チェコの青年ヤン・パラフやヴェトナム戦争に抗議した僧侶の焼身自殺と同様、アナスの行為も明らかに政治的だ。

●さまざまな部門に広がる反対運動と連帯

 マクロンと政府はこの大規模な市民の抗議に全く耳を貸さず、クリスマス休暇まで運動を長びかさせて弱体化を待つ「腐らせ」戦略をとった。休暇で移動する人々がストに敵対的になることを狙ったわけだ(大臣たちは快適な休暇を外国などで過ごした)。しかし、ストへの支持や理解は減らず、交通部門以外でもアクションが続けられている。

 たとえばパリ・オペラ座。ルイ14世時代(17世紀末)から国は、オペラ座とコメディー・フランセーズ(国立劇場)のアーティストに早い年齢での退職と年金を保障した(オペラ座ダンサーの場合は42歳)。マクロンの年金改革は、国鉄をはじめ歴史的に早期退職権など有利な条件を持つ(獲得してきた)「特別な」独自の年金制度(約40)を廃止して、「平等な普遍制度をつくる」というプロパガンダを展開した。オペラ座の従業員は週末・深夜労働などきつい労働条件と、さらにダンサーは子ども時代から厳しい練習と努力、資質を要求される仕事である。彼らは独自の制度の維持を求め、改革に反対した。12月24日クリスマス・イヴの日、パリのオペラ・ガルニエ前では、28人のバレリーナがオーケストラの伴奏に合わせて「白鳥の湖」の一部を披露して、観衆を魅了し喝采を浴びた。前日に政府は、「年金改革は2022年1月1日以降に入団する人に対して適用する、それまでの人には現行の制度を維持」を提案していた。ダンサーたちは答えた。「改革の措置を適用するのは次の世代からにして、個人的に私たちは免れられるという提案を受けました。しかし、私たちは350年続いた鎖の輪の一つに過ぎないのです。この鎖は末長く未来に続いていかなくてはなりません。私たちは、後に続く者たちを犠牲にする世代になることはできません」。そして踊ったのだ。


*パリ・オペラ座の前で踊る弁護士と労働組合員や市民

 12月31日の大晦日にはバスティーユのオペラ座の前で、オーケストラが短い無料コンサートを提供した。さらに、年が明けてフィリップ首相がまやかしの「譲歩」(退職年齢を後退させる内容に変わりなし)の回答をした後の1月18日にも、オペラ・ガルニエの前で再度コンサートを行った。この時はオーケストラだけでなくオペラ座とコメディー・フランセーズのさまざまな職種の人たちが「舞台」を横切って聴衆に挨拶し、拍手を受けた。

 しかし、スト50日を超えてオペラ座は再開した(それまでの損失1500億ユーロ)。パリ交通公団のスト職員の中には、指導陣から脅されて自殺未遂をした者も出た(1月27日)。ストを行う人たちが窮乏して力尽きること狙い、解雇・免職で脅す政権と経営陣の非人間的な徹底抗戦の姿勢は十数年前から増大したが、マクロン政権はこれまでに増して苛酷だ。デモやアクションの際には、「黄色いベスト」運動に対してシステム化した治安部隊による過度の弾圧が、組合員や消防士、ジャーナリストやデモ参加の市民に対して頻繁にふるわれる。

 一方、独自の年金用金庫を持つ弁護士たちも、改革によって負担金が増え年金は減ることがわかり、またベルベ法務大臣が進める司法改革(各地の裁判所を中心都市に合併させるなど)に対しても反対が大きいため、すでに秋と12月にデモが行われ、2日間のストがあった。ところが政府は全く聞く耳を持たないため、1月6日から全国の弁護士会が長期ストに入った。一時的に司法の機能に大きな影響が出るが、年金改革が施行されると負担金を払えない弁護士が増え、「儲かる」依頼以外は引き受けられなくなる(あるいは弁護士をやめる)。つまり、富裕層以外の市民は司法制度の恩恵を受けられなくなるのだ。裁判所の合併も同様に、市民の司法へのアクセスがますます難しくなる反民主的な改悪だ。1月8日、カン市では法務大臣の年頭の挨拶の際に、大臣の前で法服を床に捨てて、彼らの怒りを表明した。以後もさまざまな抗議アクションが各地で行われ、「ベルべ(法相)、辞任!」が叫ばれている。

 公共ラジオ放送(ラジオ・フランス)では年金改革反対ストに先立つ11月25日からすでに、節約計画(大幅な人員削除含む)に反対して記録的な長期ストが続けられているが、1月8日、社長の挨拶の際にラジオ・フランスのコーラス団員は、ヴェルディのオペラ『ナブッコ』の有名なヘブライ人(奴隷)の合唱を歌った。「行け、わが思いよ、黄金の翼に乗って・・・」この象徴的な合唱(私たちは労働力としてだけの存在、つまり奴隷なのだ)は、リヨンのオペラ座の公演の前にも歌われた。

 また、中学、高校、大学教員と研究者の間にも反対運動は広がり、催しの際に(古い)教科書を捨てる行為も行われた。教員たちはブランケール教育大臣が強権的に進めるバカロレア(大学入試資格)改革(全国一律の試験ではなく地域差・学校差が増大する不平等なシステムに移行、準備不足による施行の困難)と、教員への圧力強化に対しても反対と抗議をしている。消防士や医療部門の従業員など、さまざまな職種の人々が職業を表すユニフォームや道具などを「捨てる」アクションがいくつも行われたが、これらは誇りを持って仕事をしている人々が「改革で職業が成り立たなくなり、社会に貢献できなくなる」怒りを象徴的に表したものだ。年金改革に先立つネオリベラル改革(シラク政権2002年以降に進行、しかしシラク・サルコジ・オランド政権よりマクロンはさらに露骨に急ピッチで進める)は、さまざまな部門で労働条件を悪化し、それぞれの仕事に意味・意義を消失させているのだ。

 こうして、さまざまな部門の人々があちこちで声を上げ、ときには結集し、かつてない社会運動の広がりのなかで連体感が生まれている(オペラ座の前で国鉄職員と弁護士、黄色いベストが一緒に踊るなど)。しかし、政権は無視を続け、デモを繰り返しても(夜の「松明デモ」も各地で登場した)効果がないため、別の形のアクションが多発している。反対市民の士気は旺盛で、マクロン政権に対する嫌悪感は「黄色いベスト」運動と同様に募る一方だが、2か月を迎える反対運動を保ち(交通機関のストは限界)、政権に対して抗議の声を聞かせるにはどうすればよいのか、新たな方法・戦略を市民は模索している。

●なぜ今、年金改革なのか?

 このようにネオリベラル改革に対する抗議や不満が広がっている中、従来の賦課方式から積立部分を増大するポイント制へ移行させるネオリベラルの年金改革をマクロン政権はなぜ強行しようとするのだろうか?というのも、フランスの年金制度は問題はもちろんあるが、他の諸国と比べて比較的うまく機能しているのだ。政府が喧伝する「赤字」は2025年にGDPの0,3%から0,7%と想定され(年金オリエンテーション会議、2019年報告)、公務員数の削減や失業者の増加で負担金を払う人口が減ったにもかかわらず(また、年金生活者数が増え続けるにもかかわらず)、賦課方式を崩す改革の必要はない。しかし、マクロンは年金改革を時間をかけて行うと大統領選キャンペーンで公約し、当選後の2017年9月に年金改革高等弁務官を任命した。弁務官のドルヴォワは2年近く労働組合や企業側などの意見を聴取し、昨年7月中旬に提案レポートを提出した。ところが、年金満額支給の必要年数(既に1973年生れまで3年毎に延長、2035年には43年に至る)をさらに引き上げて退職年齢を遅らせ、年金の減額が懸念されるこのレポートは直ちに、年金や社会保障機関で働いた人などで構成されるシンクタンク「社会保障研究所」から批判され、労働組合や左派野党も厳しく反発した。


*下水清掃員たち

 これに対して政府は昨年秋から、「特別制度を廃止して平等な普遍制度をつくる」というプロパガンダを展開した。「特別制度」とは主に国鉄職員をはじめ、週末・深夜労働など厳しい労働条件の部門が歴史的に勝ち取ってきた早期退職権など有利な年金制度を指す。例えば下水清掃作業員(公務員)は苦痛度が高い労働と認定されていて、10年早く退職(52歳から)できる。国立健康研究所などの調査によると、下水清掃作業員の平均寿命は一般より17歳少なく、60代初めまでに亡くなる人が多い。改革では「苦痛措置」を2年として62歳まで退職できなくなるから、「働いている間に死んじゃうよ」と下水清掃作業員たちは憤る。

 こうした公務員をまるで特権者のように喧伝して「平等な普遍制度」を強調しながら、政府は警察、軍隊、刑務官、パイロットなど、造反されたら困る職種や強力な組合に対しては従来の制度を直ちに約束した。前述したオペラ座ダンサーの例のように、改革は後の世代からにするとスト参加者の利己主義を煽り、賦課方式を支える世代間相互扶助の原則を壊そうという卑劣な思想が現れている。これに対し、「特別制度」を守ろうとする人々はオペラ座団員たちの声明のように、自分たちだけでなく、後の世代と公益のために闘っていると強調する。

 国民過半数の反対を無視して1月24日、年金改革案は閣議で決定された。同日、コンセイユ・デタ(国務院)はこの法案について法的に問題が多く、後に政令で決定できる部分が含まれた不誠実で出来の悪い法案であるという批判を発表した。そもそも、政府による説明は不明瞭で言及されない点が多く、また「女性に有利」、「最低1000ユーロ保証」などの謳い文句も偽りであることが指摘されていたが、ようやく公表された法案の文面から、それらの批判・懸念が正しかったことが明らかになった。1029ページに及ぶ具体例も、看護婦の報酬を現実よりずっと高額に設定するなど操作・改ざんがあり、市民と国会を馬鹿にしている。国民議会の特別委員会での討議のために修正案を作る期間は6日間足らずで、保守の議員(より高齢まで働かせる年金改革に以前から賛成)でさえ、「こんな不誠実なやりかたでは民主的な議論はできない」と怒ったほどだ。反対運動に積極的に加わり、独自の年金改革案(60歳で退職、必要年数を40年間に戻す)を持つ左派野党の「屈服しないフランス」は、19000以上の修正案を出して(他の会派含めて合計22159の修正案)2月3日からの国会の委員会討議に臨む(国民議会での討議は2月17日から。左派野党は内閣不信任案を提出する予定)。


*ブラック・ロックなどを摘発するATTAC

 マクロンの年金改革の大きな問題点はまず、年金に充てる額をGDPの14%までと定めたことだ。退職者数は今後増えることがわかっているのだから、ポイントの価値は下がらないといくら首相が保証しても、それは嘘だとわかる。現行の賦課方式でより多額の年金を保証するには、負担金を増やすことが必要だ。それには賃金を引き上げるーーとりわけ看護・介護の部門、清掃婦など低賃金の女性たちの給与を引き上げればよいと「屈服しないフランス」は提案する。あるいは、富裕税の廃止や脱税で急激に富を増大させた富裕層から税を取り立てればよいのだ。NGOオックスファムの2020年1月の報告によれば、全世界で貧富の差はさらに拡大したが、最も富の集中が進んだのがフランスであり、トップから14位までのフランスの大富豪の財産は一年間で34,8%も増大したという(マクロンの政策のおかげも大きいだろう)。

 そして年金法案の64条(最後)に記された「(民間の)年金ファンドを強化する」ことがまさに、マクロン政権の狙いだと改革反対派は指摘する。改革案では高額の給与を受ける者は月額1万ユーロ(約120万円)以上の収入について負担金の率が激減し、その分年金も減るため、民間の年金ファンドに預金することになる(昨年春すでに、マクロンは年金預金を免税にする法律を可決させた)。また、ポイントの価値が下がることを見越して、経済的に余裕がある者は年金ファンドに預金するだろう。つまり、大手の保険会社や資産運用企業、銀行を儲けさせるための改革なのだ。ちなみに、年金改革高等弁務官から昨年秋に年金担当大臣補佐になったドルヴォワは、この職務期間とその前の時期、保険企業従業員の教育機関や私立シンクタンク、金融関係機関などの役職(報酬があった場合も含む)を実に14も兼任しながら申告していなかったことが暴露され、世論の批判を浴びて辞任した。そこで、デモではマクロン政権と金融界との癒着を糾弾するプラカードや仮装が、ユーモアを武器に表現されている。例えば市民団体のATTACは、世界最大の資産運用企業ブラックロックや大手銀行・保険会社の名前をつけた黒い大カラスと共に行進する。そして、青い作業服を着たフェミニストたちが、「マクロンのせいで」という替え歌に合わせて踊るフラッシュモブを行い、最後は黒カラスをやっつける。マクロンはブラックロックのCEOラリー・フィンクとは、大統領官邸の閣議室(!)を国民に内緒で貸したほどの仲なのである(2017年10月)。


*世紀最大の破壊 マクロンのお面をつけて

●二つの世界観

 民間の年金ファンドへの個人的な預金・投資の奨励(EUの経済政策でもある)は、自分だけよければいいという私欲につき動かされた世界観である。そして何より、高齢者、病気や障害のある人、低所得者など弱者を社会全体で支えようという、これまでの福祉国家の理念を破壊する。というのも、現行の賦課方式の年金制度は第二次大戦中のレジスタンス運動組織「全国抵抗評議会」の綱領をもとに、戦後に確立された社会保障体制の一つなのだ。何世紀にもわたり、フランスの庶民にとって老年は貧窮を意味し、1970年になっても退職者の3人に1人は貧しかった。半世紀後、その割合は10人に1人以下に下がってEUで2番目に低い。

 19世紀後半以降、産業社会体制と労働者階級の形成と共に、経営者側と労働者運動、国家によるさまざまな年金制度が発達していくが、1910年の年金制度で65歳の退職(1912年から60歳から可能)が定められたとき、65歳まで生きられる人は人口の8%、労働者階級では稀だった。ミッテラン政権下の1982年に60歳が退職の法的年齢(満額支給の必要年数は37,5年)になるが、その後は労働人口に対して退職者数が増える変遷に伴い、退職の法的年齢は62歳に、必要年数も次第に延長される改革が行われた。しかし現実には、失業率の高いフランスでは高齢者どころか、50歳を過ぎると職を見つけるのは難しい。年金の支給人数を減らしても、失業保険や他の社会援助を必要とする人数が増えるわけだ。2016年、60歳以上の28%は職に就かず、年金受給者でもなかった。また、平均寿命が延びたからといって(フランスはとりわけ女性がEUで2位、男性はEUのほぼ平均値)、ここ15年で「障害なく生きられる平均寿命」は延びておらず、女性においては後退の傾向が出ているという。

 こうした高齢社会において、満額支給で退職できる年齢を改革案のように62歳から64歳やそれ以上に引き延ばし、自分で積立(預金)できない人々を排除するとは、なんと非人間的なヴィジョンだろうか。よく思うのだが、マネージメント思考の利益と採算ばかり言う人たちは、サポートしなければならない高齢者や病気・障害がある家族や友人を、身近で見たことがないのだろうか。そして、社会的弱者のケアに携わる人を一人も知らず、彼らと話したこともないのだろうか。

 戦後、この国では労働時間数が減ってもGDPと生産率はめざましく向上した。「フランスは労働時間が少ないから競争力が低い」というネオリベラル主義者の喧伝は虚偽なのだ。年金改革をめぐる社会運動では、「屈服しないフランス」が強調するように、人々がどんな社会を望むかの選択が闘われている。これまでとりわけ社会運動による成果が築いてきたフランスの福祉制度の擁護にとどまらず(それらは既にかなり破壊された)、若い世代と未来の世代、これからの人類にどんな社会と地球を残したいかという未来へ向けた闘いでもあるーー他者の暮らしや公益を踏みにじっても平気な我欲の世界観に対する、相互扶助によって社会を成り立たせようとする「みんな一緒に」の世界観。気候変動による危機に面して、相互扶助の社会にならなければ人間社会は滅びるだろう。気候変動からも自分だけは逃れようと避難先に投資するごく一部の富裕層は、人類の歴史では、相互扶助を行うグループだけが淘汰されずに生き残ったことを知らないらしい。

2020年2月1日 飛幡祐規(たかはたゆうき)


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