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LNJ Logo 外国人労働者受け入れの法改正に関する日弁連の意見書
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出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律案
に対する意見書

2018年(平成30年)11月13日
日本弁護士連合会

政府は,本年6月15日,「経済財政運営と改革の基本方針2018」(以下「骨太の方針」という。)を閣議決定し,深刻な人手不足を背景に,「真に必要な分野に着目し,・・外国人材の受入れを拡大するため,新たな在留資格を創設する」ほか,「外国人が円滑に共生できるような社会の実現に向けて取り組む」こととした。これを受けて,11月2日,新たな在留資格として「特定技能1号」と「特定技能2号」を創設すること,新たに「出入国在留管理庁」を創設すること等を内容とする出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律案(以下「改正法案」という。)が閣議決定され,第197回国会に上程された。
改正法案は,外国人労働者の受入れが目的であることを正面から認め,制度構築
を行っているものであり,その方向性は正しいと考える。しかし,改正法案については以下の問題点があるので,当連合会は,次のとおり意見を述べる。

第1    技能実習制度との関係

技能実習制度は,名目上は日本の技術を国際的に移転させる国際貢献のための
制度であるとされているものの,実態は非熟練労働者の受入れのための制度とな
っており,技能実習という目的のために,原則として職場移転の自由が認められ
ず,不当な処遇や権利侵害を受けた労働者であっても帰国を避けるためにはこれ
を受忍するほかないという構造的問題を抱えている。このような技能実習制度は
直ちに廃止した上で,非熟練労働者の受入れを前提とした在留資格を創設し,外
国人を受け入れることについて,その是非,その範囲などを,外国人の人権にも
配慮した上で,国会などの場で十分に検討するべきである。改正法案は,非熟練
労働者を含む外国人労働者の新たな受入れ制度を創設するものであり,なおさら
技能実習制度は直ちに廃止されるべきである(その際,既に現実に在留している
技能実習生が不利益を被らないような措置を採るべきである。)。いわんや新たな在留資格の対象職種に合わせて,技能実習制度の対象職種を拡大するような運用はすべきでない。

第2    職場移転の自由の保障

前述のとおり技能実習制度では,原則として職場移転の自由が認められていな
い。
この点,改正法案では,入国・在留を認めた分野の中での転職を認めることと
されており,一定の評価に値する。ただし,職場移転の自由を実質的に確保し,
保障するためには,ハローワーク等が特定技能所属機関(以下「受入れ機関」と
いう。)としての条件を満たす同一分野の事業者のリストを公開し,転職相談を受けるなど,公的機関による転職支援を行うことが重要である。このことは,国内における悪質な紹介業者を排除するためにも必要である。

第3    送出し国におけるブローカーの排除

技能実習制度では,技能実習生がブローカーに多額の渡航前費用や保証金,違
約金等を支払わされることなどが横行していた。外国人の技能実習の適正な実施
及び技能実習生の保護に関する法律(以下「技能実習法」という。)により一定
の対応がなされたが,いまだ後を絶たない。このような問題を起こさないために
も,外国人労働者の募集と送出しを日本の出先機関(例えば,新たな独立行政法
人等)又は送出し国の公的機関に担わせるべきである。公的機関による斡旋が困
難な場合には,日本と送出し国の二国間協定により,高額の手数料や保証金を取
ったり違約金を定めたりする民間仲介業者を排除するよう合意するべきであり,
排除が不十分であるときは当該国からの受入れの停止も可能とすることを検討す
べきである。

第4    受け入れた外国人に対する適切な支援

新たな在留資格制度は,受入れ企業から費用を受領する登録支援機関が,外国
人材の適切な支援を行うこととしているが,同機関は登録制であり,一定の欠格
事由や一定の体制の不備等の登録拒否事由がない限り登録が可能となっている。
ところで,技能実習制度においては,「技能実習生の保護について重要な役割を
果たすもの」(技能実習法5条2項)とされている監理団体が実習実施機関を監
督・指導することとなっている。しかし,監理団体は,実習実施機関から費用を
受領して運営されているという構造的な問題もあって適切な監督・指導等を行え
ず,むしろ監理団体が技能実習生に対する人権侵害を放置する例もあった。この
点も技能実習法により一定の対応がなされたが,いまだ後を絶たない。新たな在
留資格制度における登録支援機関についても,同様な問題が生じないよう,その
担い手は公的機関や適切な人的物的資源を持つNGO等となるような制度とし
て,その厳格な運用を行うべきである。
支援の内容についても,「一号特定技能外国人支援計画」(改正法案2条の5第
6項)において,日本語教育や社会生活上の教育などについて基準を設けるべき
である。
支援の内容は,  職業生活上の支援」を含むものとされるが,職場における処遇
に関する相談や紛争処理を,受入れ機関が自ら行うことや,受入れ機関から費用
を受領して受託する登録支援機関が行うことは不適切であり,これらの支援は,
多言語による法律相談を,国,自治体等から委託を受けるなどして,弁護士会・
弁護士が行ったり,労働基準監督署などが行ったりすることが必要である。
このように,あらゆる支援を受入れ機関や登録支援機関に委ね丸投げするので
はなく,国や自治体,NGO,弁護士会,法テラス等が連携して,支援の内容に
応じて適切な仕組みを構築するべきである。

第5    家族の帯同

自由権規約23条,児童の権利条約9条は家族が共に暮らす権利を保障してい
る。また,ILO条約143号(未批准)13条は,移民労働者の家族の同居の
促進を定めている。さらに,ヨーロッパでは,欧州人権条約8条は家族生活の尊
重を規定している。アメリカの非熟練労働者受入れ制度(H−2A・H−2Bビ
ザ)は家族の帯同を認めている。これに対して,政府は,技能実習修了者が特定
技能  1  号で就労する場合,最長で10年という長期にわたり日本に滞在・就労することになるにもかかわらず,家族の帯同を認めないとしている。このような長期間の家族帯同禁止は,上記の国際条約の趣旨に沿わないものである。家族の帯同を認めないという方針は,家族と共に暮らすという人間の自然な在り方に反するものであり,看過できない。
よって,特定技能  1  号の場合でも,少なくとも一定期間以上滞在した者などに
ついては,家族の帯同を認めるべきである。

第6    在留基準の透明性・客観性

改正法案では,受入れの基準は,法務大臣がその案を作成して閣議決定した「基
本方針」と,法務大臣が,所管する関係行政機関の長,国家公安委員会その他の
大臣と共同して制定した「分野別運用方針」によって定められることとなってい
るが,特定技能1号の「相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務」,特定技能2号の「熟練した技能を要する業務」の認定などの具体的基準は示されていない。このような状況では,行政庁による恣意的な運用がなされるおそれがあるので,客観性・透明性のある基準を設けるべきである。

第7    雇用形態

改正法案に先立って政府が発表した政府基本方針(骨子案)は,雇用形態に関
して,原則として直接雇用であることとしながら,分野の特性に応じて派遣形態
も可能としている。しかし,派遣労働は低賃金・不安定雇用を固定化するもので
あり,専門職以外にはこれを認めるべきではない(当連合会の2010年(平成
22年)2月19日付け「労働者派遣法の今国会での抜本的改正を求める意見書」など)。専門職とはいえない,特定技能の在留資格の労働者についても,派遣形態は認めるべきではない。

第8    共生のための施策の位置付け

外国人労働者を正面から受け入れることとなる今こそ,外国にルーツを持つ
人々の権利を守り,差別を解消して社会での共生を実現する共生政策は国の責務
である。骨太の方針においても,  法務省が総合調整機能を持って・・・関係省庁,地方自治体等との連携を強化する。・・・外国人の受入れ環境の整備を通じ,・・・外国人が円滑に共生できるような社会の実現に向けて取り組んでいく」としていた。しかし,改正法案においては,外国にルーツを持つ人々と共生できる社会の実現という点は触れられていない。法律において共生政策の実施を国の責務として明確に位置付け,財政的な手当てをすることが必要である。
このような国や自治体の体制を整備するためには,共生政策のための基本法(仮
称「多文化共生法」)を制定することが喫緊の課題となる。
また,新たに設置する庁の任務として共生政策の実施,総合調整機能を明記す
るべきである。

第9    国際人権基準に適合した出入国在留管理行政の実現

骨太の方針を受けて本年7月24日に外国人の受入れ・共生に関する関係閣僚
会議に提示された「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(検討の方向
性)」では,「不法滞在者等への対策強化」などの新たな在留管理体制の構築が検討されている。これに対して,出入国に関係する退去強制手続について,人権上の要請に基づく改正は予定されていない。しかし,出入国管理における身体拘束制度は,収容の必要性や相当性に関する要件や期限を設けないものとなっており,国際的な基準に適合しているとは言えない(当連合会の2014年(平成26年)9月18日付け「出入国管理における身体拘束制度の改善のための意見書」)。現に,東日本入国管理センターでは,1年以上の被収容者が7割以上を占め,3年以上収容されている者も10名以上いる(2018年7月31日現在1)。また,在留特別許可の基準も,国際人権法上の要請を満たすことを明示していない(当連合会の2010年(平成22年)11月17日付け「在留特別許可のあり方への提言」)。
本改正案によって新たな在留資格で外国人を受け入れるに当たっては,国際人
権基準に適合した出入国管理行政を実現すべきである。

以上

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