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毎木曜掲載・第55回(2018/5/3)

がんじがらめの資本主義からの脱出

●『0(ゼロ)円で生きる:小さくても豊かな経済の作り方』鶴見 済 著、新潮社、1300円/評者:大西赤人

 もう随分前のことで、雑誌名さえ忘れたけれど、一般的な何軒かの家にある家財道具(家族の持ち物)を何から何まで外に出して並べるというグラビア記事を見たことを覚えている。まあ、どの家も爐海鵑覆砲睚え込んでいるのか瓩抜驚欧気擦蕕譴觚景だったと記憶するが、インターネットで検索してみると、そういうテーマの写真集が出版されたこともあるし、最近もテレビで同趣旨の番組が放送されていたらしい。たとえば「断捨離」が一種のブームとも化しているとはいえ、モノを持ちたいという人間の欲求は、自らに照らしても根強い。

 生きて行くために必須な事物は限られているであろうけれども、一定の定住・定着した生活を送る中で、大半の人々は避けがたく――言わば過剰な――「所有(私有)」を旨とすることとなる。それは、人として原初的な欲求とも感じられるが、言うまでもなく現代においては、資本主義社会によって個人に「所有」が強いられている。しかもそれは単なる「所有」にとどまらず、「消費」によって更新されなければならない。即ち、小は携帯電話から大は車や住居に至るまで、ひとたび品物を手に入れてさえ、倏磴ご垢┃瓩箸いΕ汽ぅルが常に待ち構えている。藤原新也著『東京漂流』(1981年刊)で眼にした経済学者・林周二の「大衆の浪費を刺激する10の戦略」――元々の分類は、米国の社会学者ヴァンス・パッカードが『浪費をつくり出す人々』(1961年刊)で行なったもの――は、今でも忘れがたい。「捨てさせる」「無駄遣いさせる」「抱き合わせ商品にする」「予備を持たせる」「旧式にさせる」等々、それぞれの説明は略すが、今でも何ら変わらない、いや、むしろ一層強まっているかもしれない「所有」と「消費」の喚起である。

 1990年代、デビュー作『完全自殺マニュアル』で大きな話題を呼んだ鶴見済(写真)の近刊『0円で生きる』は、様々な「貰ったり、共有したり、ゴミを拾ったり、行政サービスを利用したり、自然界から採ってきたり、無料でできること」(まえがき)を紹介し、その活用法を説く。不要品放出市、クラウドファンディング、シェアハウス、ヒッチハイク、フリマ、あるいはゴミの拾い方、生活保護の受け方などの手順やコツ、メリットと注意点が簡潔に記されている本書は、「共有」や「贈与」の精神に基づく一種のハウツー本のようにも読める(全般に、「それほど」「ある程度」「それなり」というようなやや曖昧な形容がしばしば見られる点、いささか気になったが)。けれども、著者・鶴見の基本姿勢は、資本主義との対決である。

「資本主義は反撃を受けている。
 地球上にある物はもとよりすべてが共有物だった。人々はそれを分け合い、あげたりお返ししたりして暮らしてきた。その私有化を推し進めた最大の勢力は資本主義であり、ここ二世紀ほどはその全盛期だった。新しいものを次々と作り出し、それを持つことが豊かさだと宣伝することでお金を稼いできた。物が広く行きわたってしまった後は、新しい物に買い替えさせることでその利益を維持した」(まえがき)

 鶴見は、「今世界は新たな共有の時代を迎えている」とし、しかしその動きさえも新たな金儲けの手段として資本主義に呑み込まれかねないので、「この大事な流れを、もう一段階自分たちの手に取り戻す必要がある」とする。実際的な情報が記された合間に色変わりのページで組み込まれた贈与経済、私有、市《いち》、再分配などを説明する「レクチャー」が判りやすく、「食べ物を捨てるのは物質的に豊かな先進国の特権のように思えるが、実はそうではない。途上国でも、十分な設備がないことから流通・貯蔵の段階で膨大な食品が廃棄される」「世の中に出回っている雑誌の、実に五冊に二冊以上が、読まれずに捨てられていることになる」というような記述に、改めて驚かされる。ゴミ拾いを実践した「都心のゴミ観察レポート」も面白い。

 「資本主義とは、お金儲けを最優先する経済体制で、それが貧富の格差や環境破壊、過剰消費など様々な問題を生んでいる」「資本主義の社会で富が公平に分配されるはずがない」と明言する著者であれば、当然にも、資本主義に基づく肥大した「私有」に対峙する「共有」のありようとして、「共有財産社会を目指した」社会主義、共産主義が浮かび上がってくる。しかし、ここでの鶴見は、「結局共産主義社会を実現しようとする試みは、八〇年代末から九〇年代初頭の社会主義圏の崩壊によって挫折してしまった」「【ソ連では農業の強引な集団化、共有化に対して】特に富裕な農民の中からたくさんの抵抗する人々が表れ【原文ママ】、彼らを強制収容所に送るなどして弾圧した歴史もある。私有と共有をめぐる歴史を語るならば、このことを避けては通れない」などと一ページほどでサラリと通り過ぎている。「失敗」ではなく「挫折」としているあたりに、その心情が窺われるようでもある。

 「共有」や「贈与」を推進すると、「人間関係が明らかに濃くなることに気づく」とする鶴見は、それは厄介でもあるので無理にやる必要はなく、「ただでさえ人間関係が濃すぎる社会なのだから、自分が生きやすくなることを何よりも優先するべきだ」と述べる。その決心と工夫が、がんじがらめの資本主義から一人一人が脱出することへとつながって行くかもしれない。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・佐藤灯・金塚荒夫ほかです。


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