本文の先頭へ
LNJ Logo 太田昌国のコラム「サザンクロス」 : 政治家たちの在り方―ブラジル、ウルグアイ、日本
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item 0410ota
Status: published
View



 ●第17回 2018年4月10日(毎月10日・25日)

 政治家たちの在り方――ブラジル、ウルグアイ、日本

 2003年から2011年までブラジル大統領を務めたルイス・イグナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ(1945〜 )は、在任中の収賄・資金洗浄容疑で、今年1月の2審で禁錮12年1カ月の有罪判決を受けていた。今年10月の大統領選挙への再出馬を目指し、支持率の高さから返り咲きが有望視されていたルーラは、最高裁での確定判決まで身柄を拘束されない人身保護請求をしていたが、これが却下されたために、去る4月7日に収監された。

 労働者党(PT)出身のルーラは、新自由主義の枠内での経済政策を採用しつつも、理念的にはこれを批判し、貧困層のために国富を再分配する政策を推進した。だから、貧困層に固く支持されていた。逆に、富裕層、右翼保守勢力、ラテンアメリカでの影響力は従来に比して各段に衰えたとはいえそれらの背後にいる米国などは、南米の大国=ブラジルに左派政権が復活することを防ぐために、全力を挙げてきたことに疑いはない。無実を主張するルーラの側にも、おそらく「甘さ」があったのだろうが、今回のルーラ収監の背後に潜んでいるだろうブラジルにおける階級闘争の現実から目を逸らすまいとは思う。

 ブラジルから離れて一般的に考えても、広くは革新派の、狭くは左翼の政治家の場合にあっても、腐敗・堕落と無縁ではないという実態は、私たちのよく知るところだ。ひとは常に、思想の腐敗にも、経済的な腐敗にも、晒されて生きている。日本の場合には、大労働組合の幹部には革新政党の議員になる道が開かれてきたから、腹立たしくも悔しくも、そんな実例を多くの人びとが見聞きしてきたに違いない。

 そんなことを考えていると、ブラジルの隣国ウルグアイの大統領を2010年から15年まで務めたホセ・ムヒカ(1935〜 写真)の「特異性」が思われる。2年前の2016年、すでに大統領の座を下りていたムヒカが来日して、メディアでもある程度は取り上げられたから、ご記憶の方もおられよう。講演会では、若者を相手に「市場は万能ではない」「質素に生きれば自由でいられる」「もっと愛に時間をさけ」などと語った。驚くような斬新なことを言っているわけではない。日本の現在の政治家が決して口にしない、哲学的な受け止め方が可能な言葉に満ちていることは確かだ。私は、ムヒカの言動をどう捉えるかを語る機会に恵まれたので(『朝日新聞』2016年7月1日付け「オピニオン」欄)、ご関心のある方はお読みいただきたい。

 私は、若いころから、ムヒカが属していた都市ゲリラ「トゥパマロス」の活動に関心をもっていた。「義賊」的なふるまいが多く、社会分析と方針が的確なコミュニケも示唆的だった。ムヒカ自身も何度も投獄されるが、刑務所の向かいの民家から牢獄の床下をめがけてトンネルが掘られ、それを伝って政治犯が集団脱走するという事件も一度ならずあって、その作戦の見事さに驚きもした。軍事政権下で組織は厳しく弾圧されたが、やがて訪れる民主化の過程を生かして合法政党化し、釈放されたムヒカは、10年足らずの政治活動ののちに国会議員に当選した。釈放されて15年後には、ムヒカは大統領に選ばれた。元都市ゲリラの「過激派」が選挙で大統領に選ばれるという出来事に、ウルグアイ社会の「成熟度」の高さを思った。日本社会で一般的に信じられている尺度とは異なる基準を持っているからこその選択だったのだろう。

 ムヒカ来日時の取材に関しては、テレビは日テレ系が独占したから、ミヤネヤが相手をするという最悪の形となり、「世界一貧しい大統領」というキャッチフレーズで、面白おかしく「消費」されただけに終わった。でも、小さな新書ながら、ムヒカの思いをコンパクトにまとめた萩一晶『ホセ・ムヒカ 日本人に伝えたい本当のメッセージ』(朝日新聞出版、2016年)という本も生まれた。

 国会中継を見聞きしていると、この国で最悪の人間たちがわざわざ選挙で選ばれているのだと、絶望的な気持ちになる。異なる価値観をもつ社会が、同じ時代に、地球のどこかで息づいていることを知ることは大事なことだ。


Created by staff01. Last modified on 2018-04-10 12:49:41 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について