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    第48回 2018年1月17日

鎮魂か商魂か、それが問題だ〜阪神淡路大震災から23年


 *1997年11月26日、小田実らのデモ(高円寺pundit'より)

 阪神淡路大震災から23年目の1月17日を迎えた。亡くなった人びとへの慰霊の日であり、当時のつらい記憶や悲しい思い出をあらたにする日でもある。

 震災三ヶ月後に神戸へ行ったが、被災地はなまなましかった。が、それから数年後一番被害が大きかったといわれる芦屋市に立ち寄ったが、液状化した跡地を明記したプレートがあるだけで、まったく被災の痕跡はあとかたもなかった。復興が早かったのは、福島のような原発事故による放射能被害がなかったからでもある。

 市街の復興は早かったが、生活や人の心の復興は取り残されたままであった。このとき、これは天災なんかではなく、人災だと立ち上がったのが西宮在住で自身も被災した作家の小田実である。小田は粘り強い市民運動で「被災者生活支援法」を超党派でまとめあげたのだった。(写真=小田実たちのデモ)

 この取り組みを揶揄し嘲笑したのが吉本隆明だったことも忘れてはなるまい。吉本はベトナム反戦の市民運動も中野孝次ら文学者が呼びかけた反核運動も、そして福島原発事故から高まった反原発運動も難癖をつけて非難し、「サル以下」などと罵声を浴びせ、そのつど運動に水を差す役割を果たしてきた。

 「労働者文学」最新号(82号)に秋沢陽吉は「吉本隆明は空っぽ、または吉本隆明的なもの」を書いている。そのなかで、「自己の生活実感に安住し他の苦しむ人が目に入らず、自分の利害だけしか考えられない利己主義者」と吉本の本質を突いている。秋沢さん自身が福島で被災し、また身近に多くの被災者・生活困難者を見聞きしてきただけに、その批判には非常なリアリティーと説得力がある。「知の巨人」などと大袈裟にマスコミや一部の信奉者が持ち上げてきたが、その宣伝の虚飾をはぎ取れば、ただの空疎な人間でしかないと秋沢さんは喝破している。

 これはつらいことだが、この震災時にレイプ事件が起こったことも、やはり記憶すべきことであろう。これは当時、被災者感情を慮って話題にすべきでないと新聞各社は自粛したが、唯一「ふぇみん婦人民主新聞」だけは女性の尊厳を守るために報じたように覚えている。もしこのときすぐ報道し、警戒を発していれば、あるいはその後の被害が減ったかもしれない。残念なことだが、どんな災害時にも「火事場泥棒」的な犯罪が起こることを、やはり自分を守るために心得ていたほうがよいだろう。

 災害はまた必ず流言や失言を生み出す。今日、まさか「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」などというデマが流されることはないだろう。しかし、今のようにヘイトクライムが野放し状態では北朝鮮バッシングがらみデマが起こりうるかもしれない。現にアラームなどによる心理的圧迫の利用はないのだろうか。失言については、東北大震災時における石原都知事の「天罰」発言や今村復興相の「東北でよかった」発言など、むしろ本音とも言うべき発言が飛び出した。

 阪神淡路の震災時でも、神戸市役所の役人が「幸か不幸か市街が全焼し」と発言し多くの市民の怒りを買った。これも都市開発事業の思惑が露呈したのではないかと批判された。当時、神戸は「神戸市株式会社」といわれるほど、商才・商魂にたけた市で、市民のなかからも市政の公共性への疑問や批判の声があがっていたのだ。 なお、この役人は自責からか悲劇的な最期をとげたが、石原や今村は何の反省もなくのさばり続けている。

 最近話題になった神戸市のニュースといえば、例の「世界一クリスマスツリー・プロジェクト」であろう。富山県氷見市の山中から樹齢150年のあすなろの大木を運んでくる様子が、NHKでも生中継された。私などはてっきりシーズンがすめば、六甲山あたりに植樹でもし直すのかと思っていたら、細工を施してバングル(ブレスレット)として商品化し、なんと3800円で売り出すというのである。さすがにこれは中止になったようだが、あのあすなろの大木はどうなったのだろう。

 この計画は賛否両論で、「復興と再生のシンボル」であるとか、また被災死した人びとへの鎮魂であるとか、どうせ倒木になって朽ちてしまうなら、何かのお役にたって欲しいなどという地元氷見市民の声もあった。これに対して、樹木の命をないがしろにする行為、商売目当てのイベントにすぎないという反対意見が続出し、このプロジェクト中止を求める意見に2万件も賛同が寄せられている。これらの世論に、企画に関わったコピーライター糸井重里の嘲笑的なコメントが炎上したが、その口吻はいかにも吉本ヨイショの旗振り役にぴったりのものだった。

 地元の詳しい事情を知らぬ者が軽々に発言すべきではないかもしれない。ただこれを真似て、クリスチャンでもない人間が年に一度のお祭り騒ぎのためにあちこちで木々を引っこ抜いてくるようなことが各市で流行らない事だけは祈りたい。被災者の鎮魂の裏には必ず商魂が潜んでいることも忘れてはなるまい。

〔追記〕本日1月17日付けの「しんぶん赤旗」に、神戸市が被災者に「借り上げ住宅退去」を強要している記事が出ています。「この非道 負けない」と住民の闘いが報道されています。応じないと提訴する神戸市の冷酷な行政。亡くなった人への鎮魂はあっても、 今生きている人への思いやりはないのだろうか。退去強要ストップの闘いをみんなで応援していきましょう。


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