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布川事件:諦めない2人に学び〜『ショージとタカオ』井手洋子監督

     林田英明

 茨城県で1967年に起きた強盗殺人・布川事件で再審無罪判決が出された桜井昌司さんと杉山卓男さんに密着したドキュメンタリー 映画『ショージとタカオ』(2010年)の上映が2月21日、北九州市八幡東区の東田シネマであり、監督の井手洋子さん(60/写真)が撮影の裏話も交えて2人の素顔を語った。

 96年の仮釈放から14年間、そばで撮り続けた井手さんは「(逮捕された当時の)20歳の青年の心のまま、体はおじさん」の2人が冤罪を訴え続け奮闘する姿に引きつけられたという。

 しかし、その間には曲折があった。映像の大部分は最初の取材から2年ほどのもの。再審の行方も不明で、フリーの映像ディレクターとして発表のメドも立たなかった。久しぶりに取材を再開すると、2人と気持ちのすれ違いを感じたという。井手さんは気を取り直して足しげく通い、「2人は決して諦めなかった。そのたくましい後ろ姿に学び、映画にすることができた」と振り返った。

 そのうえで述懐する。暴力的な取り調べではなく、2人は心理戦で2回、自白させられている。3畳ほどの狭い空間に取調官2人と1日10時間以上向き合う被疑者の圧迫感。井手さんは「警察署の中で取り調べを受ける環境は平常心を保てない」と語った。証拠隠しと代用監獄は冤罪の温床である。

 撮影していると、予期せぬ展開も起こる。桜井さんの妻がどういう暮らしをしているのかと1人の時に伺ったら、桜井さんが夜中に突然起き出してベランダから飛び降りようとしたことがあったと妻は打ち明けた。拘禁症状というものは、ふいに顔をのぞかせるものなのだ。映画のタイトルはカタカナで一見、軽い響きを持たせる。ポップな編集も施され、仮釈放後の“今浦島”の社会対応に微苦笑してしまい、2人の奪われたものの大きさをつい忘れてしまう。井手さんは「無罪になっても、警察も検察も謝罪していない」と語気を強めた。

 「2人が希望を失わなかったのは市民や弁護士の支援がついている安心感があったからではないか」と推察する井手さんは、映像の力を信じている。10年のキネマ旬報文化映画部門ベストテンの第1位に輝く。

 撮影中は家族の取材を断っていた杉山さんだが、妻子と一緒の写真がエンドロールに挟み込まれている。「息子が20歳になって酒を酌み交わしたら、俺はいつ死んでもいいんだ」が口癖だったという。しかし、杉山さんは昨秋亡くなり、父親似の息子との念願は果たせなかった。井手さんは、舞台あいさつを3人でできなくなった寂しさを見せながらも「映画の中での元気な姿が布川事件を世の中に知らせてくれるだろう」と悼んだ。

(2016年3月21日「小倉タイムス」1977号より転載)


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