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原発を追及する芸人ジャーナリスト〜「おしどり」マコ&ケン

                    林田英明

 彼らは芸人という枠を飛び越えている。「おしどり」の2人だ。妻の「マコ」と夫の「ケン」。よしもとクリエイティブ・エージェンシーに所属し、横山ホットブラザーズを師匠とする。

 2人を目覚めさせたのは2011年3月11日の東京電力福島原発事故だった。次々と水素爆発を起こす福島第1原発なのに、19日から東京・品川でよしもとの子ども企画が組まれている。東電や国のあやふやな発表をうのみに、のんきに出演していていいのか。原発から200キロ余りしか離れていない。「何が起こっているのか知りたい」――その思いで取材していただけなのに、よしもとから“ダメ出し”されて驚く。「傷がつく」と。最初は、おしどりの芸人としての傷を心配しているのかと思ったところ、「よしもとに傷がつく」という意味と分かり、少しヘコむ。しかし、転んでもタダでは起きないところが芸人魂なのか、ケンの性格なのか、会社とのやりとりをICレコーダーで録音していた。以後、黙認となる。ここで、おしどりを辞めさせてしまうと、録音内容からよしもとが悪者となるからだ。おしどりとしても、芸人のタブーが無意味に広がる言論危機を避けたい。2人を使いたくても広告代理店の圧力や電力会社の身分照会が入ってつぶれたことを、テレビのディレクターや作家から直接聞いている。彼らが企画つぶしの共犯になりたくないとの思いは分かるし、「牙を抜かれ、こんなふぬけな番組になっているとは思わなかった」と怒っていたことに希望も感じながら、2人のエンジンは全開になっていく。

●荒れる東電ライブ会見

 東電のライブ記者会見を当初から食い入るように見ていた。要領の得ない答弁に記者から怒号が飛び交う。ノートに所属社、氏名、質問内容と時間を書き起こしていると、出だしの声だけでどこの誰か分かるようになった。それでいて最前列で手を挙げ続ける人を東電は意図的に無視するのが不思議だったし、珍しく当たると、鋭い質問をしているにもかかわらず記者から「おまえの質問は聞きたくないんだ。そんな質問、あとにしろ」とヤジが重なる。誰が誰をヤジっているか、会場の勢力図までやがて描けるようになった。写真週刊誌や『プレイボーイ』などの記者のほうがマスメディアより突っ込んで聞いていたな、とマコは思い出す。

 1次情報であるはずの記者会見でさえ事実が見えてこず、不公平であることに我慢がならなくなり、4月19日、初めて東京・千代田の会見場に入った。

 「どうしてこのことを誰も聞かないのか」と思っていた不安が頭をもたげる。マコは挙手し初めてマイクを握った。「夜中、建屋から定期的に白い煙が噴き上がっているのは爆発ですか?」。もしベントなら放射性物質を空中に放出していることになる。東電の答えは、言葉だけは丁寧だ。「いえ、あれは水蒸気でございます。燃料を冷やすために大量の水を入れているので定期的に燃料棒から水蒸気が噴き上がるのでございます」「放射性物質は?」「含まれてございます」。なぜ夜中に、と驚いてさらに聞くと「夜、昼問わず、放出してございます」。昼は明るいから見えなかっただけだった。量の計算を求めると3カ月後の7月にようやく回答があった。1〜3号機で1時間に10億ベクレル。「ちょっと待ってください。すると1日に240億ですか」と聞くと「10掛ける24でございます」と、また意味のない返答。4月時点はどうだったのか不安になって尋ねたら「4月4日から6日の間は1日に2900億ベクレル放出してございます」と返ってきた。問わない限り東電は不都合な事実を言わない。自分一人だけでは多勢に無勢。東電の回答を求める“援護”が記者から複数出ると、東電も重い腰を動かすようだ。マコはどんな形でもいいから事実を記者に報道してほしかった。一人だけでは「興味があるのは、おしどりさんだけなので調査の手が回らない」と東電からあしらわれてしまう。

 作業員の被曝がどれほどか心配になって尋ねたら、個人情報を盾に東電は回答しなかった。建屋に2時間入ったロボットの被曝状況は発表されていたが、東電は「ロボットは人間でないので公表できるのでございます」と漫才顔負けの回答にマコもあきれた。これが命を預かる会社の対応である。今でこそ何人が働き、平均被曝線量も公表しているが、平均ではなく一人一人の内実はどうなのか心配になる。

●政権交代後は情報後退

 12年末、民主党政権から自民党の安倍政権へ移ると情報は出てこなくなった。安倍晋三首相が福島原発の廃炉に向けて「国が一歩、前に出る」と発言して以後、東電の広瀬直己社長は「東電が公表する意味があると判断した情報だけ出す」と特定秘密保護法施行前に情報公開を後退させた。その後の高濃度汚染水の増加と漏えいや、K排水路から雨水とともに放射性物質が海洋に流れていた事実の発表が後手に回っていることもマコには納得がいかない。13年7月に始まった護岸エリアの地下水に含まれるストロンチウム90の測定値もそうだ。7カ月後に1リットル当たり500万ベクレルと発表した。法定基準は30ベクレルである。なぜ、すぐに発表しなかったのか。東電は「あまりにも測定値が高すぎましたので何か測定に誤りがあるのかと思い、何回も測定し直しましたが、やはり正しい値でした」と釈明し、その間にアルゼンチンで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)総会で安倍首相が汚染水漏れについて「状況はコントロールされている」とうそぶき、東京五輪招致の決め手の一つとなるプレゼンテーションを成功させている。時系列を押さえると、そこに何かの意図を感じるのだった。

 おしどりは、こんな質問をすると権力に「消される」のではないかと一時期思い、電車で線路に突き飛ばされないよう、ケンと向き合ってお互いの背中を確認しながら乗り込むホームでの様子を演じて笑いを取る。13年10月から3週間ほど尾行がついた。前月、安倍首相が福島原発廃炉のため全国から原発技術者、研究者を集めたヒアリングがあり、終了後に配られた紙に「コンタクトを避けるべき人物と団体名」が記され、菅直人氏や小沢一郎氏らと並んで「おしどりマコ&ケン」も入っていた。治安や安全保障に関わる情報を収集・分析する公安調査庁のOBに聞くと、「原発に関するニューカマーを懲らしめろ」という政策が取られているという。ここで言う「ニューカマー」は長期滞在の外国人や移民ではなく「新参者」を指すのだろう。イヤホンをつけた男が張りついて、おしどりへの接触者を写真に収めていく。威嚇である。東電にも、おしどりの身元を問い合わせたようだが、「よしもとの芸人」という以上のものは出なかった。

●作業員から情報メール

 記者には異動がある。年月がたつと、知識が十分ではない記者がマコに会見後、指南を仰ぐ逆転現象が起こっていく。素人だったはずのマコが「それは(原子力)規制庁汚染水処理対策委員会のホームページの中にありますよ」などと教えるようになる。マコの情報源は、そこだけではない。福島第1原発で働く作業員からリアルタイムで携帯にメールが入ってくる。配管の手違いから作業員10人が汚染水をかぶってしまった事故について東電は「10人とも防水のカッパを着ており、除染して敷地外に出ました」と問題なしを強調しても、現場から届くメールは「カッパが1着足りず、頭から汚染水をかぶった1人は皮膚についた放射性物質がなかなか落ちなくて、今もこすったりしている最中だよ」。そこで東電に問い直しても「カッパがないと作業につけない。間違いなく着ています」と否定する。再び作業員から「東京パワーテクノロジーの名前を出してごらん」と助言が届き、子会社のその名を出すと東電はさすがに確認を約束した。2日後、除染に5〜6時間かかったが低減させることができたと事実を認めた。現場の声はトップに届いていない。どこかで遮断されている。反応も遅い東電広報を信じ込んでいては事実をつかみとれない場面がしばしばあることを、おしどりは学んだ。

 作業員たちが警戒している話の紹介に移る。第1原発には120メートルの1、2号機排気塔があり、その66メートルの鋼材接合部分で亀裂や断裂が最低でも8カ所ある。倒壊の危険性を13年に指摘されても根元が毎時25シーベルトと極めて線量が高いため、手をつけられないでいる。東電は専用の監視員を置いているだけだ。定点観測して写真を撮っているはずだから、「安全」と言うならばその写真を公開せよと求められても応じない。「劣化は進行していないので公表する必要はありません」とし、だから原子力規制庁にも報告する必要はないとする。山本太郎参院議員が今年7月8日、東日本大震災復興及び原子力問題特別委員会で取り上げたところ、1月の撮影を6月になって原子力規制庁が確認していることが分かった。排気塔は地震の恐怖と海風の劣化にいつまで耐えられるのだろうか。

●ドイツ学生の熱い質疑

 14年3月、IPPNW(核戦争防止国際医師会議)がドイツで開く国際会議におしどりが招待された。最初は間違いかと思ったが、会議の資金を提供していたドイツ・ヘッセン州のプロテスタント教会の信徒が東電の記者会見をインターネットで見ており、ジャーナリストとして呼んだのだ。2人はフォト月刊誌『DAYS JAPAN』の編集委員でもあり、連載も持つ。

 直前にベラルーシであった国際会議で、いかにベラルーシが情報を統制しているかを理解した。領事部でのビザ申請は「観光」でなければ決して下りない。チェルノブイリ原発事故の影響に敏感である。医者5〜6人と同じ時期に同じ日程でベラルーシを訪れるおしどりに「真の目的を言え」と執拗に詰問してくる。職業も問われ、よしもとのホームページも見せて「芸人」と伝えると態度が変わって「観光」と認めてくれた。マコは「芸人で良かった」と安堵の表情を浮かべ会場の笑いを誘う。

 首都ミンスクでの国際会議も、参加予定者に場所と時間を示し合わせて集まって開いたもの。情報交換して放射線医学研究所を訪ね、子どものがんセンターなどを見て回る。研究所の副センター長は、事故後にがんなどの疾患が増えていると話すが、因果関係には触れようとしない。ふと見ると、メディア関係者と思っていた秘密警察の男が写真を撮っていることに気づいた。実は彼女はチェルノブイリチルドレンとして、ベラルーシの保養プログラムでドイツに年に2回、3週間暮らしていてドイツ語はペラペラ。なぜロシア語で話し、通訳を介していたのかがようやく分かった。こうした視察には秘密警察が入り、誰がどのような情報を話したかを監視されている。

 ドイツの招きだったから、会議後、ドイツの教会や中高大学などで原発事故の話をするよう求められた。学生にとっては押しつけられたプログラムではないかと心配し、また1回2時間を3校回るようなハードスケジュールに閉口したが、立ち見も出る盛況で、どこも熱心。質疑応答も1時間では終わらない。原発以外の質問も受け付けたところ、「NHKの会長は、あれで大丈夫なんですか」という手も挙がった。「政府が『右』と言っているものを、われわれが『左』と言うわけにはいかない」と発言する籾井勝人会長を彼らは知っている。さすがに、おしどりは驚いた。教会での質問もマニアックで原発事故にも詳しいものだった。研究者でもない、農家の人が「非常用電源装置は本当に津波で流れたとお思いですか」と聞いてくる。英語で出ている事故調査委員会の報告書を読んでいるのだ。学生に、どうしてそこまで興味があるのかを逆に聞いてみると「大人になった時、第三次世界大戦が起こらないように知識をつけようと思っているから、社会や政治に関心があり、他の国であってもエネルギーや原発の問題は重要なトピックです」と腕組みされながら返された。冗談でマコが「ひょっとして支持している政党を持っているんじゃないの」と問うと、中高の間ぐらいの年齢なのにそれぞれ具体的に挙げてくる。「日本ではその年齢で支持政党を口にできる学生はいない」と言うと「日本では選挙権を持ってから支持政党を考えるんですか。それでは遅くないですか」とカルチャーショックを受けてしまった。脱原発の意識と日本政府の姿勢が乖離している点についても厳しい声が出た。「日本の人たちは、ポスターやステッカーで原発がなくなり、社会が変わると思ってるんですか。なぜ力を振るわないんですか」。これにはマコも顔を上げられなかった。「世論は悪くない」と自己弁護している自分の逃げがあぶりだされたように感じたからだ。日本で選挙権を18歳に引き下げても、それに見合う政治意識は一朝一夕には育たない。大人が見せる必要がある。

●ローマ教皇からの返信

 原子力とエネルギー転換を考える宗教者会議が今年3月、ドイツで開かれた。こうした交流の経験を好機として生かせないかと頭をめぐらせたマコは、取材していた福島県飯舘村の被災者が天皇への直訴も考えていたことに気づく。ドイツへ行けばバチカンは近い。ローマ教皇フランシスコ1世に被災者の気持ちを届けたい。ドイツのプロテスタント教会にカトリック正義と平和協議会を紹介してもらい、バチカンを訪問する日本の司教団に被災者と自分の手紙を託した。するとどうだろう、教皇は1時間の謁見中、半分の時間をその手紙と福島原発事故に費やし、人間のおごりと現代文明のひずみの一例として原発を「バベルの塔」と指摘する新聞記事が出た。バチカンは国際原子力機関(IAEA)に加盟しており、原子力の平和利用を進めてきたから、その批判的な発言こそニュースだった。それだけでなく、2カ月後に、マコに返信まで届く。司教団から事前に「フランシスコ教皇は欧州ではなくアルゼンチンの出身で、バチカンを改革していこう、最も貧しい最下層の人間の声を聞こうとしているからマコさんの手紙はきっと読まれる」と伝えられていた。マコは「最も貧しい最下層の人間……」との表現にやや複雑な面持ちだったが、教皇からの返信は宝物となった。飯舘村の被災者への返信はマコの分と内容も異なり、中身に対応したものとなっていたことも大きな喜びだった。

 「原発事故でひどい世の中になったのではなくて、事故の前からひどい世の中だと気づいていなかった」とマコは自省する。皇室をお笑いネタにする漫才は以前からタブーだったが、なぜダメなのか考えなかった思考停止を悔やむ。ケンも「怒られないようにしていこう」と萎縮していた過去を振り返る。これでいいのだろうか。原発をネタにすると師匠らから「長いものには巻かれろ」「庶民は庶民の楽しみを追い求めて生きておけ」「君らみたいなんがいろいろ動いて頑張ったとしても1人では100年かかる」と諭された。納得しそうになって、しかしマコはひらめく。「私みたいのが100人いたら1年で済みますよね」。だから、軽い気持ちでいきたい。半径5メートルの状況を変えていく。意見の違いは当たり前。ケンカも悪いことではない。2人もよくケンカするが、仲がいいと自慢した。あきらめなければ夢はかなうと信じ、おしどりはこれからもしつこく生きていく。漫才という笑いを武器に。

*写真1=ローマ教皇からの返信を映しながら夢を語るマコ(右)とケン=北九州市小倉北区の男女共同参画センター・ムーブで2015年7月10日

*写真2=終演後もおどけたポーズを見せるおしどり


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