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LNJ Logo 青函トンネルで特急から煙、乗客が地上に避難〜見えてきた今後の課題
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黒鉄好@安全問題研究会です。

4月3日、青函トンネル内で起きた列車発煙事故について、現時点での当研究会の見解をまとめました。ブログからの転載です。

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<参考記事>
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150404-00000104-mai-soci
<青函トンネル発煙>進入前に異臭 異常なく走行継続(毎日)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150404-00000031-mai-soci&pos=4
<青函トンネル発煙>地上脱出まで6時間弱 JR北海道(毎日)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150404-00010001-doshin-soci&pos=5
停車30分前から車内で異臭 海峡線は運行再開 青函トンネル特急発煙(北海道)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150404-04143310-webtoo-l02
青函トンネル旧海底駅の機能生きる 北海道新幹線来春開業、安全確保課題に(東奥日報)

一昨年11月の減速減便ダイヤ以降、なりを潜めていたJR北海道の安全トラブル。ついに青函トンネルで、開通以来初の事態となる海底トンネルからの乗客避難に発展した。当ブログにとっては「とうとう来たか」の思いはあるものの特に驚きはない。2011年には石勝線トンネル内での発煙という重大事故も起こしているJR北海道の状況から見て、いつかはあり得る事態だと思っていたし、今までこの事態に至らなかったのがむしろ幸運だったというべきだろう。

世界初の鉄道海底トンネル、その上23.3kmの海底部分を含む全長53.85kmのトンネルは、特急でも通過に40分程度かかる。2016年春の北海道新幹線開通に向け、貨物列車を中心とする在来線列車(1067mm軌間)と新幹線列車(1435mm軌間)の両方が通過できるよう、3線軌道化する工事を終え、現在は新幹線の運転試験が行われている。今年3月のダイヤ改正で、人気列車にもかかわらず寝台特急「トワイライトエクスプレス」が廃止、寝台特急「北斗星」が臨時列車格下げになったのも、在来線昼間列車のダイヤを維持し、保線時間を確保した上で新幹線の試験列車を運転する時間を捻出するための意味合いが大きいといえる。新幹線列車がフルスピードで通過した場合、猛烈な風圧で対向線路を走る貨物列車が脱線する可能性が高いため、新幹線開業後も当分の間、青函トンネル内は新幹線列車も在来線の速度での運転になるとみられている。

そのような中、青函トンネルの2つの海底旧駅・・・竜飛海底(青森側)、吉岡海底(北海道側)はもともと、このような緊急時における乗客の避難設備としてスタートした。2014年の駅廃止後は竜飛定点、吉岡定点と呼ばれ、保線作業や乗客救出のための拠点としての機能のみを残した。世界最長トンネルだけに、このような設備が必要なことは論を待たないが、その性格上、設置が必要ではあっても必要とされる事態が来ないことが最も望ましい設備であることにも異論はないだろう。

今回、「必要とされる事態が来ないことが最も望ましい設備」が必要とされる事故が初めて起きてしまった。乗客に死者を出さず、全員が地上脱出に成功したことは不幸中の幸いと言えるが、各種報道を見る限り、当ブログと安全問題研究会は、今後に向け改善すべき点として現時点で少なくとも2つのことを指摘しておかなければならない。

1つは、列車が1km程度、竜飛定点を通過してから停車したことである。このため、乗客は避難時に1km近く余計に歩かされることになった。健常者にとっては取るに足らない距離でも、高齢者、障がい者、子どもたちにとっては厳しい距離である。車掌が火花を確認する30分ほど前(すなわち青函トンネルに入った直後)から異臭が確認できたとの報道もあり、なぜ竜飛定点に列車を停車させなかったのか。

2つ目は、竜飛定点から地上まで、乗客全員をケーブルカーに乗せて避難させたことだ。特急列車の乗客は数百人、新幹線が通るようになれば、満員の場合、1列車当たり乗客は1000人近くに達することもある。定員20名のケーブルカーだけで全員を地上に出すのは、避難中の2次災害(避難者がケーブルカーにはねられるなど)を防ぐために大事を取った結果なのだと思われるが、大規模な火災ではそんな悠長な避難では間に合わない可能性もある。「竜飛定点」から地上に脱出するためのトンネルには、ケーブルカーの線路に並行して歩行者用通路が設けられており、健常者など体力に自信のある人には通路を歩いて地上に脱出してもらうことも今後のひとつの検討課題ではないだろうか。

私がなぜこのような事実を知っているのか説明しておきたい。実は、竜飛定点から地上に避難するためのケーブルカーは「営業運転」されている。津軽海峡線は、津軽半島・龍飛崎のほぼ真下を通っているが、その真上に当たる「道の駅みんまや」内に「青函トンネル記念館」(http://seikan-tunnel-museum.com/)なる施設がある。青函トンネルの概要について展示した観光客向け施設だが、竜飛定点からの避難用ケーブルカーはこの施設に通じており、入館料とケーブルカー料金セットで1300円(大人料金)を払えば誰でもケーブルカーに乗車できるのである(ただし、冬季(11月10日〜翌年4月25日)は青函トンネル記念館に至る国道が閉鎖されているため、記念館も閉鎖しており、乗車できない)。

私は、日本の鉄道全線乗車活動を兼ねた私的な旅行で2005年秋にここを訪れている。当時はまだ竜飛海底駅と呼ばれていた竜飛定点から地上に向かうケーブルカー車内で撮影した貴重な映像がある。興味のある方はご覧いただきたい。

https://www.youtube.com/watch?v=RQ03P5Td3a8

ケーブルカーの線路の右側に、階段状の通路があることが確認できる。線路とは手すりで区切られており、照明設備によってある程度の明るさも確保できている。全長も800mしかなく、健常者であれば「数時間もケーブルカーを待たさせるくらいなら、歩いてもいい」と思えるだけの設備となっている。

今回、大手メディアはここまで詳しく報じていないが、避難した乗客が「青函トンネル記念館」経由で地上に出たことは間違いない。ただし、記念館が国道閉鎖を理由に休館している時期の救出劇であったため、ここから乗客を運ぶのにも苦労したであろうことは容易に想像できる。

ところで、ケーブルカーのような機械設備は、日常からメンテナンスをし、時々動かしておかないと、いざというときに動かず使い物にならないことが多い。今回、ケーブルカーが非常用設備であるにもかかわらず、問題なく動いたのは、保線作業員用設備として、また「営業運転」用として日々、手入れをしながら動かしていたことが大きいと思う(そういうわけなので、「非常脱出用の設備を遊びで動かし、料金まで取るのはけしからん」などと非難するのはやめてほしいと思う)。

それにしても、ご紹介した「東奥日報」(青森県の地方紙)の記事中、曽根悟・工学院大特任教授(鉄道工学)のコメントが掲載されているが、「緊急停車した位置は旧竜飛海底駅から青森寄りに約1キロの場所で、乗客が歩いて駅まで避難できたことは不幸中の幸いだった」としていることには同意するものの、「なぜ竜飛定点に列車を停車させなかったのか」と問題点を指摘できないような「専門家」は要らない。福島原発事故や「STAP細胞問題」以降の科学界全般に言えることだが、日本の「学者」「専門家」の劣化は目を覆うばかりだ。

いよいよ来年、2016年には北海道新幹線が新函館まで開業する。今回、突然の海底からの避難劇で大変な経験をした人にとって、大変申し訳ない言い方になるが、海底トンネルからの乗客救出について、新幹線開業前に問題点の洗い出しができたことは不幸中の幸いだったのではないか。「必要とされる事態が来ないことが最も望ましい設備」が必要とされるような事故が新幹線開業後に再び起きることがないよう、関係者は今回の事故の教訓を今後に活かさなければならない。

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黒鉄 好 aichi200410@yahoo.co.jp

首都圏なかまユニオンサイト
http://www.syutoken-nakamaunion.com/hp/

安全問題研究会サイト
http://www.geocities.jp/aichi200410/

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