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『小さき声のカノン』〜被ばく追い続ける鎌仲ひとみ監督

             林田英明
 ドキュメンタリー映画監督、鎌仲ひとみさん(56)の4年をかけた新作『小さき声のカノン―選択する人々』(119分)が完成、3月から全国で順次公開されている。

 映画は、福島県二本松市とベラルーシ共和国を交互に取り上げ、チェルノブイリ原発事故から四半世紀たっても消えない慢性病の現実を日本の未来と重ねていく。福島で家族と暮らす決断をした母たちは「ハハレンジャー」として子どもたちを被ばくさせないよう食べ物に気を使い、通学路を除染し、保養に自ら取り組む。カメラの前で、時には迷いながらも涙を拭いて生きる姿がカノン(輪唱)のように国境を超えて響き始める。

●重視すべき初期被ばく

 鎌仲さん(写真)は北九州市で開かれた試写会のトークで熱弁、その思いを語った。最も重視したのは初期被ばくだ。東京電力福島第1原発の事故時、国はSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)を有効に使わず、屋内退避の指示も遅れ、多くの市民を被ばくさせた。「あとあと一番悪さをするのはコレ」と鎌仲さんは指摘する。半減期8日のヨウ素131と甲状腺がんの関係性は、すでに福島の子どもたちの発症で現認されている。しかし専門家は「原発事故が原因とは考えにくい」として認めようとはしない。鎌仲さんは現地の声を拾い、映像に収めていく。そして、こう語る。「暮らしの中に放射能がしみている。ありとあらゆる所にあり、福島では心配の声を上げづらい。それは被ばくや汚染があることを認めることになるため、復興に邁進する空気を読み、差別されたくない心理が働いて葛藤に苦しんでいる」と思いやった。無用な被ばくを避け、命を守るにはどうしたらいいのか。本当は避難すべきだが、さまざまな事情でそれもできないなら、保養をしよう。一定期間、転地保養すれば体内の放射性セシウムはかなり排出される。放射性物質の含まれない食事とストレスのない生活が効果を発揮するようだ。ところが、福島では「保養」はタブーになっていると鎌仲さんは顔を曇らせる。「安全なのに、なぜ保養なのか」という理屈である。福島はこれから「観光立国」の先頭に立つのだから。

 一方、ベラルーシでは経済的に厳しくても未来をかけて国が積極的に保養に取り組んでいるという。鎌仲さんは一人でも病気になる子どもたちを減らしたい思いで保養を呼びかける。現在、事故から4年たち、保養がジリ貧傾向にある日本を憂う。「時間がたったからいいだろう、ではない。被ばくは積み重なるもの」とクギを刺した。小さな一歩でいい、保養の手伝いでも構わない、と鎌仲さんは思う。「ちょっとずつ、みんながやれば確実に変わる」と語り、映画を見て応援したくなる気持ちが芽生えることを希望していた。

●イラクの現実を原点に

 どうしてこんなに被ばくを追いかけ続けるのだろう。鎌仲さんの引けない感情はイラク戦争にある。NHKの番組取材で現地を訪ねると、国連による経済封鎖で医者も薬も乏しい中、小児がんや白血病で子どもたちが無残に死んでいく現実に出くわし、自分の無力を思い知らされた。ところが、劣化ウラン弾の影響を示唆する編集をNHKのプロデューサーに見せても「アメリカの言っていることと違う」、もっと科学的根拠を出せという。イラクの母親たちが、わが子が助からないことを自覚しながらカメラにその姿をさらしてくれたのは、日本人を通じて世界に知らせてほしいとの切なる願いだと鎌仲さんは理解した。「約束を守らねばいけない。放送できなければ伝わらない」。すったもんだの末、米国の言い分を入れることで放送されたが、大きな反響はなかった。それなら映画にしよう。核をめぐる3部作『ヒバクシャ〜世界の終わりに』『六ヶ所村ラプソディー』『ミツバチの羽音と地球の回転』はこうして生まれ、今回の『小さき声のカノン』につながっていく。

 「なんでこの子たちは死ななきゃならないのか」。そう言って鎌仲さんは涙ぐんだ。イラクの子どもたちの顔がよみがえるのだろう。あるいは「福島ですでに117人が小児甲状腺がん」という福島で漏れ聞く嘆きも重なっているのかもしれない。放射能安全神話を振りかざす国の姿勢は変わらず、鎌仲さんは「だまされたほうが生きやすい」と生活者の心情を述べる。だが、すぐに「放射能をなめるな」と姿勢を正し、ヒバクの時代に負けず子どもを守ることを会場の参加者と誓った。「小さき声」に、大きな希望を乗せて。 

※写真=3月3日、北九州市の東田シネマで開かれた試写会トークに駆けつけた鎌仲ひとみさん


Created by staff01. Last modified on 2015-04-02 12:32:03 Copyright: Default

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