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JR尼崎事故判決/無罪で再びJRを免罪、しかし今後に一筋の光も

                 黒鉄好@安全問題健研究会
     *写真=今も生々しく事故の跡が残る現場
3月27日に傍聴した、JR福知山線脱線事故をめぐるJR西日本歴代3社長の判決について報告します。(以下、文中敬称略) ----------------------------------------------------------------------------

2005年に起きた福知山線脱線事故。神戸地検が不起訴とした歴代3社長(井手正敬、南谷昌二郎、垣内剛の3被告)について、神戸第1検察審査会が二度にわたる起訴相当議決を出し、2010年、3社長は強制起訴。以降、裁判所が指定した弁護士(以下、指定弁護士)が検察官役として通常の刑事裁判と同様の裁判が行われてきた。

1審、神戸地裁は13年9月、禁固3年の求刑に対し無罪判決。指定弁護士側が控訴し、14年12月の被告人質問で3社長側が改めて無罪を主張し結審。今日を迎えた。

朝、自宅前で取材を受けた遺族のひとり、藤崎光子さん(写真)は「1審判決はJRの主張を引き写しただけでひどいものだった。良い判決を勝ち取るため、公正判決を求める署名に取り組んできた。高裁では司法の良識に期待する」と述べた。また、午前中、改めて事故現場を訪れた藤崎さんは「ここに立つたびに『私はなぜこんなところで死ななければならなかったの』という娘の声が聞こえる」と語った。

判決言い渡しは大阪高裁201号法廷で午後2時から。これに先立ち、1時58分、民放テレビによる代表撮影が行われる。

午後2時。「被告人は前へ」。横田信之裁判長の声で、あらかじめ入廷していた3社長が被告人席に並んで立つ。

「これから業務上過失致死傷事件に関する判決を言い渡します。主文:本件各控訴を棄却する」。指定弁護士側の控訴を棄却。すなわち1審の無罪判決を維持する、との内容だ。

裁判長に促され、法廷右側の弁護側席に戻る3社長。判決理由の朗読が始まった。

傍聴席から見て、弁護側席右から2人目に井手。弁護士を挟み、4人目に南谷。弁護士を挟み、一番右の席に垣内。6人が並ぶ。井手は視線を上に向け、南谷はじっと目をつむり、裁判長から最も遠い席にいる垣内は基本的に裁判長のほうを見ながら、時折机に目を落とし、判決を聞く。傍聴者の反応が気になるのか、傍聴席に視線を向ける瞬間もあった。無罪判決を受けても厳しい表情のまま、3社長は何を思うのか。

一方、検察側席では、指定弁護士が落ち着かない表情をしている。隠しきれない判決への怒り、不満は傍聴席にまで伝わってくる。

判決は、3社長が有罪となるためには「一般的な大規模鉄道事業者の取締役の立場にある一般通常人と同様の情報収集義務に基づいて、因果関係に基づいた具体的な予見可能性が証明されることが必要」と有罪のハードルを極めて高く設定。「単なる事故の不安等では足りない」と指定弁護士の主張を退けた。「現場担当者からの報告を待たなければ社長らが情報収集できないような場合、(より多くの情報に接している)現場担当者の方が罪に問われやすくなりバランスを欠く」との指定弁護士側の主張に対しては「社長らが情報収集を適切に行えたとしても、結果回避ができたとは必ずしも言えない」という驚くべき論法でJRを免罪した。「どのみち事故は避けられなかったのだから無罪」という司法の居直りであり、無罪との結論はやはり初めから決まっていたと言わざるを得ない。

速度照査型ATSが設置されているカーブは危険だから安全対策を講じるべきだった、とする指定弁護士側の主張に対しては「ATS設置基準を満たしているからと言って直ちに危険とはいえない」、また普通鉄道構造規則での通常の基準(カーブ関係600m以上)に反する半径304mのカーブは違法とする指定弁護士側の主張に対しては「普通鉄道構造規則では、地形上等のためやむを得ない場合は半径160mのカーブまで認めている」「このようなカーブは全国至る所にある」とした。半径160mのカーブまで認められる「地形上等のためやむを得ない場合」とはどのような場合なのかの具体的基準も示さず、「同じような場所がどこにでもあるから違法ではない」とするのも司法の居直りだ。

全体として、判決は、福知山線脱線事故の原因について具体的に検証もせず、「一般論としては〜」「他にも同様の事例があるから〜」と言うだけのものだった。大阪高裁のこの論法を認めた場合、そもそもATS設置基準は何のためにあるのか。国土交通省令である普通鉄道構造規則は守る必要もないただの作文なのか。鉄道に関するすべての安全規制の体系が根底から崩れ去ることになる。聞けば聞くほど疑問ばかりが膨らんでいく。

1時間半に及んだ判決言い渡しの中で、小さいが今後に向け、収穫が2点だけあった。そのひとつは「JR西日本は我が国を代表する大規模鉄道事業者であり、安全対策では他の鉄道事業者をリードすべき」とした指定弁護士側の主張を認めたこと、もうひとつは「法人組織としてのJRの責任を問うのであれば(指定弁護士側の主張は)妥当する面がある」と裁判長が判決理由の最後にわざわざ判示したこと――である。

前者は、原発事故をめぐる裁判の中で、「通常の企業に要求される程度の安全対策は講じており、津波は予見できなかった」とする東電の主張を打ち砕く根拠になる(東電のような代表的企業は通常の企業の安全対策程度では責任を免れない、と主張する根拠を得たことになる)。

また後者は、遺族の一部が求めている組織罰法制(一例として、企業に対する罰金刑を規定した英国の「法人故殺法」がある)が整備されれば企業を有罪に問える、との司法の見解を示すものだ。通常、裁判官が、起訴事実となった罪(今回は業務上過失致死傷罪)以外の罪について、間接的にであれ言及するのは極めて異例である。1審・神戸地裁では、判決言い渡し後、閉廷前に裁判長が「このような事故で誰も罪に問われないのはおかしいという被害者の方の感情は理解できる」と発言したが、これは裁判長の不規則発言であり記録に残らなかった。

今回、判決文はまだ入手していないが、裁判長は明らかに判決理由の一部としてわざわざこの点を判示しており、判決文としてこの判示内容が記録されることは小さくない意味を持つ。1審での裁判長の発言よりさらに踏み込んで司法が組織罰法制の必要性に言及したものとも言える。企業経営者個人の罪しか問えない現行刑法に対する司法の問題意識が特定の一裁判官だけにとどまらず、司法内に広がり始めていることを示している。組織罰法制の整備に向けた運動展開が今後の課題であることがいっそう浮き彫りになったといえる。

「これだけ多くの犠牲者を出しながら、なぜ誰ひとり責任を問われないのか」という遺族・被害者の疑問に、司法は今回も答えなかった。だが、えん罪防止の観点から、刑法は拡大解釈が強く戒められる法律のひとつであり、適用条件には厳格さが要求される、との原則を司法が守ったこと自体は理解できる。問題はやはり、現行刑法が100年前の明治時代に作られた骨格をそのまま維持しており、責任と権限が分散した株式会社制度の下での企業犯罪という事態に全く対処できないことにある。100年に及ぶ立法不作為が現在の遺族の悲しみを招いているのである。

世界で最も企業が活動しやすい国を目指し、私たちの残業代まで取り上げようとする安倍政権が、企業の手を縛る組織罰法制に取り組む可能性はない。私たちが国民運動としての大きなうねりを作りだし、組織罰の法制化に乗り出していく必要があることを、今回の判決は改めて示した。

判決言い渡しは1時間半に及んだ。午後3時半、閉廷。

(報告・文責 黒鉄好)


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