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LNJ Logo 木下昌明の映画批評「おじいさんと草原の小学校」
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●映画「おじいさんと草原の小学校」
“土に埋まるまで学び続ける”84歳の小学生は元反乱の戦士

 英国映画「おじいさんと草原の小学校」は、84歳のおじいさんが周囲の反対を押し切って小学校に通いはじめるとても愉快な話─といえば、高齢化社会ここに極まれり、と思う人もいるかもしれないが、これは本当の話だ。

 映画の舞台はアフリカ・ケニアの田舎、荒涼とした土地にポツンと掘っ立て小屋のような小学校が建っている。そこへ、新政府による「すべての国民」の小学校無償化を告げるラジオを聞きつけて老人のマルゲがやってくる。

 若い女性校長のジェーンは「ここは子どもの学校だ」と追い返すが、マルゲはこりずに杖をつきつき何度もやってくる。その情熱に根負けした彼女はついに入学を許す。マルゲは幼い子と机を共にしてイロハを学びはじめる。その楽しそうな表情が実にいい。だが、父母たちばかりか学校調査官までが妨害、マスコミ騒動に巻き込まれてマルゲは学校に行けなくなり、ジェーンも異動させられる。

 時折、マルゲが若き日を回想するシーンも入る。そこから、彼がどんな半生を送ってきたのか、ケニアの歴史的背景がみえてくる。

 昔、タイトルは忘れたが、マウマウ団というケニア現地人が白人の農場主を襲う怖い映画をみた記憶がある。その時は邪悪な集団のイメージだったが、今度同じようなシーンを見て、実は英国からの自由と独立をめざす反乱とわかった。マルゲはその戦士の一人で、英国側についた部族に妻子を殺され、長年獄中生活を強いられていた─こうなると、愉快とばかりも言っていられなくなる。独立後も部族間の憎しみは続き、教育はゆがめられていく。

 ラスト近く、マルゲが首都ナイロビの教育省に乗り込み、半裸になって抗議するシーンは圧巻。実在したマルゲは「最高齢小学生」としてギネスブックに載った。

 老いて勉学を志した動機は、マルゲのもとに届いた一通の手紙だった。(木下昌明/「サンデー毎日」2011年7月10日号)

7月30日から東京・岩波ホールほか全国順次公開。(C)2009 British Broadcasting Corporation, UK Film Council and First Grader Productions Limited. All Rights Reserved. 配給・クロックワークス


Created by staff01. Last modified on 2011-07-26 11:32:36 Copyright: Default

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