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LNJ Logo フランス「ル・モンド」インタビュー記事〜 原子力産業の「苦役人夫」
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*ル・モンド紙にポール・ジョバン氏(レイバーネット会員・大学教員)のインタビュー記事が掲載されました。

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原子力産業の「苦役人夫」

東京、特派員 フィリップ・ポンス

(フランス ル・モンド紙* *3月23日)

福島の原子力発電所では、白い防護服と全面マスクに覆われ、放射能探知機を身
につけたひと握りの男たちが、自らの健康と生命を賭して、原発の大事故を阻も
うと努力を重ねている。この模範的な勇気を示す作業員の数は二〇〇人弱とのこ
とーー約五〇人の四つのグループに組まれた技術者と労働者が交替で作業にあた
り、消防夫と自衛隊(日本の軍隊)が彼らの援助をしている。

これら原子力産業の「苦役人夫」の境遇は、一般にはほとんど知られていない。
パリ・ディドロ大学の准教授、日本を専門とする社会学者ポール・ジョバン氏
は、とりわけ福島第一原発において、日本の原発労働者の状況を研究した。ル・
モンド紙の質問にポール・ジョバン氏が答えてくれた。

*Q:現在作業中のこの原子力産業の「苦役人夫」とは誰のことですか?東京電
力の従業員だけなのでしょうか?***

ジョバン:東電は今回、事故の際の志願者要員を動員したかどうか、明確にして
いません。おそらく、原子炉の停止中にメンテナンスの作業を行う臨時雇いや下
請け会社の従業員である熟練労働者・技術者を送ったのではないでしょうか。
1979
年に発刊された堀江邦夫のノンフィクション(記録文学)のタイトルに使われた
「原発ジプシー」と呼ばれる人々です。ふだん彼らは、定期検査のための原子炉
停止のローテーションにしたがって、日本のあちこちの原発を転々としていま
す。現在計測されている福島原発原子炉付近の高い放射線線量(
3月23日水曜には500
ミリシーベルトに達した)によって、作業員が近い将来、死に到ることは避けら
れません。緊急に外部からの増援人員を集めて、ひとりあたりの被爆線量を薄め
るということをしていない場合は……。ひとりあたりの被爆線量を少なくすれば、
健康への影響は数年先に延ばせるでしょう。

*Q:先週の土曜に厚生労働省は、作業員の放射線被曝線量限度を**250**ミリ
シーベルトにひきあげました。これはどんな結果を引き起こすのでしょうか?**
*

ジョバン:常時、(原発労働者の)法的な放射線被曝線量限度は5年間の平均で
年に20ミリシーベルト(5年間の合計が100ミリシーベルト)、あるいは2
年間の最大線量100
ミリシーベルトですが、これは既にとても高い線量です。しかし、この「緊急
の」被曝線量限度の引き上げ決定は、作業員たちの近い将来の死を合法化し、家
族に賠償金を払わずにすむようにするためだと解釈できます。というのも、被曝
線量の増加につれて癌にかかる危険性は上がるからです。
250
ミリシーベルトを被曝すると、癌の危険性、遺伝子の突然変異や生殖に関する危
険は非常に高くなります。現実には、原発の労働者はしばしば、安全基準の満た
されない状況で働いています。福島第一原発の近所に住み、原子炉製造企業(ゼ
ネラル・エレクトリック、日立など)のために働いた下請け小企業の社長は
2002
年、「異常なし」というスタンプを私に見せてくれました。彼の責任下にあった
労働者の健康手帳を偽るために、長年使っていたスタンプです。彼自身が癌にか
かり、東電から追い払われるまで……。

*Q:東電と福島の原発は特殊なのでしょうか?***

ジョバン:そうであるとも、ないとも言えます。福島第一は古い原発ですから、
原発産業固有の問題がより際立っています。福島第一で私が会った技術者ーー彼
の専門は、冷却装置における重要な要素であるポンプの検査でしたーーが説明し
てくれたのですが、原発は古くなればなるほど、とりわけ放射線が蓄積されるた
め、修理箇所が増えてきて、より多くの作業員、つまり労働力の増加が必要とさ
れます。この問題を解決するために、日本では
1970年代の末からすでに、つまりフランスより10
年早く、こうした作業すべてを下請け会社に任せました。下請けの労働者はいく
つかの修理について、リスクを覚悟でやむをえずとりやめるか、自らの健康を犠
牲にして修理をつづけるかを強いられます。

*Q:そうした労働編成は公衆衛生に何をもたらすのでしょうか?***

ジョバン:下請け業者の労働者を大量に使うことで、集団の被曝線量を薄めるこ
とができます。いわゆる「放射線管理」についていえば、それが防護しているの
はとりわけ原子力産業です。職業病としての認知をほとんど徹底的に拒絶するこ
とをはじめ、否認が精巧に編成されています。優れた医師たちによって資料を裏
付けられた白血病の例でさえ、そうなのです。職業病についての一般的な真実
は、原子力関係では絶頂点に達します。したがって、被害者の家族が主張しつづ
ける場合、東電その他の企業は認知システムの外で交渉しようとします。そうす
れば原子力産業のイメージに傷がつかないからです。

今年3月の初め、放射線影響協会は文科省に疫学調査の結果を報告しました。原
子力産業に勤めた210 000
人について、「低線量の被曝線量」の影響を確かめるのがねらいでした。まるで
偶然のように、白血病の一種について以外は、統計的に明白な影響は見られない
とのことでした。福島原発の惨事が始まって以来、同様の否認が働いていると思
います。しかし今回、それはリアルタイムで進行中であり、住民全部についてな
のです。まったく恐ろしいことです。

翻訳: 飛幡祐規


原文 : LE MONDE | 23 mars 2011 |

http://www.lemonde.fr/web/recherche_resultats/1,13-0,1-0,0.html?dans=dansarticle&num_page=1&booleen=et&ordre=pertinence&periode=30&sur=LEMONDE&query=Paul+Jobin&x=13&y=12

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